量子フィードバック制御のトポロジカルな分類に成功 ―擾乱から保護された量子制御の設計に向けて―

2026/03/06

発表のポイント

量子系に対して測定とフィードバックを繰り返し行う量子フィードバック制御について、対称性に基づくトポロジカルな分類に成功した。
広いクラスの量子フィードバック制御の対称性が10種類に限定されることを証明し、どのような場合にその制約を外せるかも明らかにした。
本成果は、トポロジカルに保護された量子制御を設計する指針を与え、擾乱(じょうらん)やノイズに対して頑健な量子技術の開拓につながることが期待される。

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量子フィードバック制御の概念図:青い丸や矢印は位置やスピンなどの粒子の状態、緑の点線は情報の流れ、赤い線はフィードバックを表す。誤差はあるが擾乱が最小である量子測定と、その測定結果を用いたフィードバックを繰り返す状況において、対称性が10種類に限定されることを証明した。

 

概要

東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の聞 駿軒 大学院生、ゴン ゾンピン 准教授、沙川 貴大 教授らによる研究グループは、広いクラスの量子フィードバック制御において、トポロジカルな分類を決定する対称性が10種類に限られることを証明しました。この結果は、実験的に実現できる量子フィードバック制御の対称性とトポロジー(注1)に対して、強い制約を課すものです。さらに、どのような状況下でその制約を外すことができるかについても、具体的なプロトコルを構築することで明らかにしました。本研究成果は、量子フィードバック制御のトポロジーに基づく設計指針を定め、擾乱やノイズに対して頑健なトポロジカルな量子技術の開拓につながることが期待されます。

本研究は、202635日(米国東部時間)に科学雑誌「Physical Review Letters」に掲載されました。

 

発表内容

【研究背景】

量子系を測定し、その結果に応じて系を操作することで状態を制御する量子フィードバック制御は、量子状態の安定化やノイズの抑制、フィードバック冷却など幅広い量子技術の基盤となる手法です。近年、量子フィードバック制御に、不純物や擾乱に左右されない安定した物理を説明する上で重要なトポロジーの概念を導入する試みがなされています。トポロジーによる量子系の分類は対称性によって決定されるため、量子系がどのような条件下でどのような対称性を満たすかは重要な問いです。しかし、量子フィードバック制御というダイナミカルな状況において、対称性とトポロジーに基づく分類がなされていたのは理想的な射影測定(注2)を用いた場合に限られていました。これは、誤差を含む場合や複数の測定とフィードバックを組み合わせる場合といった、実験などにおける実際の動作環境に近い状況について、既存の理論が対応できていなかったことを意味しています。したがって、より一般の状況での分類は重要な未解決問題でした。

 

【研究内容】

本研究では、誤差を含む「最小擾乱測定(bare measurement)」(注3)と呼ばれる種類の測定を複数回行い、それに応じたフィードバック制御を繰り返す状況において、その対称性が10種類に限定されることを証明しました。最小擾乱測定は、射影測定よりも一般的であるだけでなく、概念的にも量子測定の基礎をなすものです。本研究によって、そのような測定を繰り返してフィードバックを行う広範な状況において、対称性に基づくトポロジカルな分類が可能になりました。さらに本研究では、10種類以外の対称性については、最小擾乱ではない一般の測定を用いることで実現できることを示しました。

 

【研究の意義】

量子フィードバック制御は量子技術の根幹をなす手法の一つであるとともに、マクスウェルのデーモン(注4)のように情報を利用したエネルギーの抽出などにも用いられます。本成果は、実験的に実現できる量子フィードバック制御がどのような対称性とトポロジーを持つことができるかについて強い制約があることを示したもので、量子制御の設計指針に大きな示唆を与えると考えられます。とくに、擾乱やノイズに対して影響を受けにくい量子技術の開拓につながることが期待されます。

 

発表者・研究者等情報

東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻

 聞 駿軒 修士課程

 ゴン ゾンピン 准教授

 沙川 貴大 教授

  兼:同研究科附属量子相エレクトロニクス研究センター 教授

 

論文情報

雑誌名:Physical Review Letters

題 名:Symmetry and Topology of Successive Quantum Feedback Control

著者名:Junxuan Wen, Zongping Gong, Takahiro Sagawa

DOI10.1103/48k3-tb1j

URLhttps://doi.org/10.1103/48k3-tb1j

 

研究助成

本研究は、科学技術振興機構(JST)「戦略的創造研究推進事業ERATO(課題番号:JPMJER2302)」の支援により実施されました。

 

用語解説

(注1)トポロジー

図形に対する連続的な変形に対して変化しない性質。物理学の観点からは、物理系の設定を連続的に変形しても変化しない物理的な性質に対応する。不純物や擾乱に左右されない安定した物理系を実現するうえで重要な概念である。

 

(注2)射影測定

誤差がなく擾乱が最小であるような、理想的な量子測定。量子状態を表すベクトルが測定によって「射影」されることからこう呼ばれる。一方で、現実の実験における量子測定を記述するには適さない場合も多い。

 

(注3)最小擾乱測定(bare measurement

ある誤差を許す量子測定の中で、測定に対する擾乱が最小となるような測定のクラス。測定過程を記述する演算子が正値演算子であることによって特徴づけられる。すべての測定は最小擾乱測定とユニタリ変換に分解することができるため、量子測定の基礎となる概念である。

 

(注4)マクスウェルのデーモン

もともとは19世紀に物理学者のマクスウェルが提起した、系を観測しフィードバックする「デーモン」が熱力学第二法則を破っているように見えるという思考実験。近年の研究により、熱力学に情報量の概念を取り入れることで、デーモンの働きを矛盾なく説明できることがわかっている。量子系の場合は、デーモンの働きは量子フィードバック制御の一種とみなすことができる。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Physical Review Letters:https://doi.org/10.1103/48k3-tb1j