ゴミ箱行きのタンパク質に付箋を付ける ―タンパク質分解のための「間接的ユビキチン化」―

2026/01/29

発表のポイント
◆ 特定のタンパク質を選んで分解するための方法として「間接的ユビキチン化」を考案し、そのための分子を創出しました。
◆ ユビキチン化酵素を使わずに特定のタンパク質を間接的にユビキチン化して、ノックダウンへ導きます。
◆ 有害なタンパク質を除去することができるので、タンパク質分解を必要とする疾患における新たな薬剤になります。

 

fig1いらないタンパク質をゴミ箱に捨てる方法

 

概要

東京大学大学院工学系研究科の岡本 晃充 教授と、同大学医科学研究所タンパク質代謝制御分野の佐伯 泰 教授らによる研究グループは、間接的ユビキチン化法を開発しました。

本研究では、ユビキチン鎖(注1)とタンパク質結合ユニットをひとつにした分子を用いて、目的タンパク質を間接的にユビキチン化(注2)することで化学的なタンパク質分解を誘導する手法を、世界で初めて観測しました。細胞がもともと持っているタンパク質分解システムで分解することが難しかったタンパク質を、研究グループが開発した分子を使って狙い撃ちにすることによって、タンパク質分解システムへ送り込み、そのタンパク質の数を減らすことができます(図1)。本研究成果は、先行研究と比較してユビキチン化酵素非依存性の点で新規性があり、今後タンパク質分解を利用する新たな創薬設計に役立つことが期待されます。
本研究成果は2026年1月29日付で、英国科学雑誌「Communications Chemistry」オンライン版で公開されました。

 

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図1:タンパク質を間接的にユビキチン化する

 

発表内容

狙ったタンパク質のみを分解誘導することができるタンパク質分解法は、がんや神経変性疾患などの疾患の原因タンパク質を細胞から除去できる創薬技術です。従来法では標的にできなかったタンパク質を狙い撃ちにできるため、医療を革新する画期的な創薬コンセプトとして脚光を浴びています。これまでのタンパク質分解分子研究では、内在性ユビキチン化酵素E3リガーゼ(注3)を利用した多くのPROTAC(プロタック、タンパク質分解誘導キメラ分子、注4)が用いられていますが、600種類を超えるE3リガーゼのうち数種類のE3リガーゼしか使えないことやE3リガーゼが簡単に変異して薬剤耐性を獲得するという問題点が挙げられていました。


この度、本研究チームは、目的タンパク質を直接ユビキチン化するのではなく、ユビキチン鎖とタンパク質結合ユニットをひとつにした分子を用いて「目的タンパク質を間接的にユビキチン化し、分解へと導く」という化学的手法を、世界で初めて観測しました。タンパク質結合ユニット(ペプチドや核酸分子)とユビキチン(鎖)から構成されるキメラ分子は、非共有結合的相互作用を介して標的タンパク質(Bcl-2やNF-κB p50)を間接的にユビキチン化し、それらのプロテアソーム分解(注5)をもたらしました(図2)。また、ここで用いられたユビキチン鎖は、ユビキチンのC末端の配列を一部変更することによって内在性脱ユビキチン化酵素(注6)による分解を回避するという特徴を持っており、タンパク質分解効率の向上に寄与しています。間接的ユビキチン化は、標的タンパク質分解のための分子ツールボックスに追加されるユビキチンベースのタンパク質分解修飾因子を非共有結合的に固定する設計プラットフォームを提供します。


約3年にわたる研究の成果で、間接的ユビキチン化分子を合成し、E3リガーゼ非依存的なタンパク質分解を確認しました。これは従来の創薬手法では薬の標的とすることができなかった「創薬不可能」なタンパク質に対しても薬剤設計を可能にし、がん、関節リウマチ、炎症性腸疾患、多発性硬化症などの炎症性疾患や自己免疫疾患を対象にした新たな創薬研究の発展に寄与することが期待されます。

 

fig3

図2:間接的にユビキチン化されたアンドラッガブルタンパク質NF-κB

 

 

発表者・研究者等情報
東京大学
 大学院工学系研究科
   岡本 晃充 教授
   古畑 隆史 助教


 医科学研究所 基礎医科学部門 タンパク質代謝制御分野
   佐伯 泰 教授

論文情報
雑誌名:Communications Chemistry
題 名:Indirect Ubiquitination Independent of Endogenous Ubiquitination Machinery for Targeted Protein Degradation
著者名:T. Furuhata, K. Yoshida, R. Fujita, J. Miyamoto, C. Moriyama, T. Masuda-Ozawa, H. Tsuchiya, Y. Saeki and A. Okamoto

DOI:10.1038/s42004-026-01895-x
URLhttps://www.nature.com/articles/s42004-026-01895-x

研究助成
本研究は、日本学術振興会(JSPS)科研費「新学術領域研究(ケモテクノロジーが拓くユビキチンニューフロンティア)(課題番号:18H05504)」、「学術変革領域研究(A)(化学構造リプログラミングによる統合的物質合成科学の創成)(課題番号:24H02214)」、「基盤研究(A)(課題番号:23H00317)」、「若手研究(課題番号:24K17779)」、科学技術振興機構(JST)「ACT-X(課題番号:JPMJAX232G)」の支援により実施されました。

用語解説

(注1)ユビキチン鎖:ユビキチンは76個のアミノ酸から形作られるタンパク質であり、これが繰り返し連結して鎖状分子(ユビキチン鎖)ができあがる。ユビキチン連結箇所(K48、K63など)や鎖の分岐構造に応じて、ユビキチン化(注2)されたタンパク質の送り先が変わる。

(注2)ユビキチン化:タンパク質にユビキチンが結合すること。ユビキチン化されたタンパク質は、そのユビキチン鎖の構造に応じて、プロテアソーム分解(注5)やオートファジーなどの種々のタンパク質分解へ誘導される。

(注3)E3リガーゼ:ユビキチンが結合したE2ユビキチン結合酵素を呼び寄せて、E2から基質へのユビキチンの転移を助ける、もしくは直接的に触媒するタンパク質である(図3)

 

fig4

図3: E3リガーゼを用いるPROTAC法。

 

(注4)PROTAC:細胞内の不要なタンパク質を、細胞の本来の分解システムを使って選択的に分解・除去するためのタンパク質分解誘導キメラ分子(図3)。標的タンパク質に結合する部分と、分解を促すE3リガーゼ(注3)に結合する部分がリンカーで繋がった二機能性分子で、これを用いて標的タンパク質とE3リガーゼを近づけて標的タンパク質をユビキチン化する。

(注5)プロテアソーム分解:プロテアソームは、ユビキチン化されたタンパク質を迅速かつ選択的にアミノ酸レベルまで分解して細胞内から除去する巨大な酵素複合体であり、いわゆるタンパク質のシュレッダーである。プロテアソームによるタンパク質分解は、細胞の恒常性維持やさまざまな生命活動を制御する重要なプロセスである。この分解は、細胞の品質管理、シグナル伝達、遺伝子発現調節などに不可欠で、機能不全はがんや神経変性疾患などと関連する。

(注6)脱ユビキチン化酵素:ユビキチン鎖を切断する酵素。タンパク質からユビキチンを外すことによってタンパク質分解を阻害する。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Communications Chemistry:https://www.nature.com/articles/s42004-026-01895-x