低酸素環境においてRNAの骨格がメチル化される! ―立体選択的なRNAの修飾がリボソームを活性化する―

2025/12/12

発表のポイント

大腸菌のリボソームRNA(rRNA)において、嫌気(低酸素)環境特異的に、“RNA骨格”にメチル化修飾が導入されることを発見し、またその分子メカニズムを解明しました。
この修飾はリボソームの構造と活性を微調整し、低酸素下における翻訳効率を高め、生育を促進する“環境応答型スイッチ”として働いていることが示唆されました。
本研究は、RNA修飾が細胞の生育環境を感知して、タンパク質合成を調節する、これまでに知られていなかったしくみを明らかにするものです。また、無細胞タンパク質合成や合成生物学において有用な技術基盤となる可能性があります。

 

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概要図:新規rRNA修飾が嫌気環境特異的に大腸菌の生育を促進する 

 

概要

東京大学大学院工学系研究科の石黒 健介 特任助教、鈴木 勉 教授らの研究グループは、大腸菌リボソーム(注1)のペプチド転移反応活性中心(PTC)(注2)に、嫌気環境で特異的に導入される新たなRNAメチル化修飾を発見し、その生合成機構と嫌気環境への適応に果たす生理学的役割を明らかにしました。

リボソームはタンパク質合成(翻訳)を担う巨大複合体で、リボソームRNA(rRNA)とタンパク質から構成されます。従来、リボソームは一定の組成と構造を持つと考えられてきましたが、近年、環境に応じてリボソームの構成要素の組成が変化し翻訳を最適化する「Specializedリボソーム」という概念が注目されています。研究グループは、通性嫌気性菌(注3)である大腸菌が嫌気環境に適応する際、rRNA修飾を介したリボソームの機能変化が生じる可能性に着目しました。

嫌気条件で培養した大腸菌のrRNAをRNA質量分析法(注4)で解析したところ、PTCの2501位に存在する5-ヒドロキシシチジン(ho5C2501)の修飾率が上昇するとともに、2449位および2498位に新たなメチル化修飾が導入されることが分かりました。NMR解析(注5)により、これらの修飾はRNAの糖リン酸骨格に立体選択的にメチル基が導入される報告前例のない化学構造を持つことが明らかとなり、それぞれのメチル化修飾を5′(S)-メチルジヒドロウリジン(D5Sm2449)、2′-O-5′(S)-ジメチルシチジン(Cm5Sm2498)と命名しました。

また、生化学的解析およびクライオ電子顕微鏡(注6)による構造解析により、これら3種類の修飾がPTCを安定化し、リボソームのタンパク質合成活性を向上させることが示されました。さらに、これら3種の修飾は嫌気環境下での生育維持に必須であることも明らかになりました。これらの成果は、rRNA修飾によりリボソームの多様性が確保され、多様な外部環境への適応が可能になることを示す重要な知見です。さらに、これら三つのrRNA修飾の導入によってリボソームの翻訳活性が約2倍に向上することから、生命工学分野における応用も期待されます。

 

発表内容

〈研究の背景〉

全ての生物において、DNAに記録された遺伝情報はmRNAへ転写され、さらにタンパク質へ翻訳されることで生命活動が維持されています。遺伝子発現は常に一定ではなく、生育温度、栄養条件、酸素濃度など多様な環境変化に適応する必要があります。そのため、転写や翻訳には複雑な制御機構が備わっており、外部環境に応じて細胞内のタンパク質量が適切に調整されています。

RNAは転写後に多様な化学修飾が酵素によって付与され、さまざまな機能を獲得することが知られています。これまでに約150種類のRNA修飾が見つかっていますが、そのうち真核生物、アーキア(古細菌)、バクテリアの生物三界に共通して保存されている修飾はわずか16%に過ぎず、大部分は各生物界で独自に獲得されたものです。これは、RNA修飾の獲得が生物進化の多様性と密接に関係していることを示唆しています。生物は、生育環境の変化やストレスに適応しながら進化してきましたが、多様なRNA修飾は、そのような環境変化への適応の過程で獲得されたと考えられます。

RNA修飾は翻訳において重要な役割を担っています。特にrRNA修飾はリボソームの生合成や機能の調節に関与することが知られています。近年、生育環境や内的外的ストレスに応じてリボソームの組成が変化し、翻訳の最適化を行うという「Specializedリボソーム」という概念が注目されています。rRNA修飾もまた「Specializedリボソーム」において重要な構成要素であると考えられていますが、その研究は発展途上です。本研究では大腸菌の嫌気環境への適応におけるrRNA修飾の寄与を明らかにすることを目指し研究を進めました。

 

〈研究の内容〉

石黒 健介 特任助教らはまず、RNA質量分析法を用いて、大腸菌において嫌気環境で特異的に増加するrRNA修飾を探索しました。その結果、PTCに位置するho5C2501の修飾率が顕著に上昇するとともに、2449位と2498位に好気環境では見られない新規メチル化修飾が導入されることを発見しました(図1A)。さらに、大量に培養した大腸菌からこのメチル化された修飾ヌクレオシドを単離精製し、NMR解析を行うことで、メチル基がリボースの5′位の炭素にS配置(注7)で導入される全く新しい修飾であることを突き止め、これらのメチル化修飾を5′(S)-メチルジヒドロウリジン(D5Sm2449)と2′-O-5′(S)-ジメチルシチジン(Cm5Sm2498)とそれぞれ命名しました(概要図)。さらに、これらのメチル化修飾を導入する酵素を逆遺伝学的(注8)に探索したところ、機能未知なメチル化酵素ygiQを発見し、RlmX(rRNA large subunit methyltransferase hypoXia)と改名しました。興味深いことにRlmXはコバラミン依存性ラジカルSAM酵素(注9)に分類され、通常のメチル化修飾酵素とは異なる特殊な反応機構でメチル化修飾を導入することが予想されました(図1B)。そこで、東京大学大学院工学系研究科の緑川 果琳 大学院生(研究当時)は、産業技術総合研究所の鴫 直樹 研究グループ長と共同でメチル化修飾の試験管内再構成実験を行い、嫌気環境下においてRlmXはコバラミン(ビタミンB12)と鉄硫黄クラスター依存的にrRNAにメチル化修飾を導入することが分かりました。

 

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1:嫌気環境特異的な新規メチル化修飾とその生合成機構

(A) RNA質量分析法による嫌気環境特異的な三つの修飾(ho5C2501, D5Sm2449, Cm5Sm2498)の同定。

(B) RlmXによる嫌気環境特異的なメチル化修飾(D5Sm2449, Cm5Sm2498)の生合成機構。

 

続いてこれら三つの嫌気環境特異的なrRNA修飾の生理学的意義を解明するため、rlmXおよびho5C2501の修飾を担う酵素の遺伝子rlhAの両方を欠損させた二重欠損株(ΔrlmXrlhA)の生育を好気環境および嫌気環境で調べました。その結果、野生型の大腸菌株と比較して、嫌気環境下でのみ二重欠損株の生育が顕著に抑制されることが分かりました(図2A)。この結果は、嫌気環境への適応にこれらの修飾が必要であることを示しています。また、それぞれの株から単離したリボソームの翻訳活性を測定したところ、野生型のリボソームと比較して二重欠損株のリボソームでは翻訳活性の顕著な低下が確認されました(図2B)。そこで、エストニアのTartu大学のJaanus Remme名誉教授らと共同で、ペプチド転移反応を調べたところ、二重欠損株のリボソームは反応効率が顕著に低下しました(図2C)。このことは、これら三つの嫌気環境特異的な修飾がPTCの活性を高め、嫌気環境におけるリボソームの翻訳活性を向上させていることを示しています。

 

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2:嫌気環境特異的な新規メチル化修飾の生理学的意義

(A)野生株(WT)と修飾酵素を欠損させた株(ΔrlmX, ΔrlhAおよびΔrlmXrlhA)の生育比較。倍加時間とは大腸菌が2倍の細胞数になるまでにかかる時間。

(B)それぞれの株から単離したリボソームの翻訳活性を無細胞翻訳系で比較した。

(C)それぞれの株から単離したリボソームのペプチド転移反応効率を、ピューロマイシンを用いた反応系で比較した。有意差はそれぞれ**p<0.005, *p<0.02。

 

さらに石黒特任助教は、理化学研究所の白水 美香子 チームディレクター、伊藤 拓宏 チームディレクター、東北大学の横山 武司 助教らと共同で、これらの嫌気環境特異的な修飾がリボソームの構造に与える影響をクライオ電子顕微鏡で解析しました。その結果、ho5C2501の水酸基が周辺の残基との間で水素結合ネットワークを形成し、PTCの構造安定化に寄与していることが分かりました(図3A)。一方、D5Sm2449とCm5Sm2498のメチル基は周囲の残基の隙間に入り込むことにより、疎水性相互作用(注10)やファン・デル・ワールス相互作用(注11)によってPTCの柔軟性を制限し、構造を安定化することが示唆されました(図3B、C)。これらの構造解析の結果から、本研究で発見した三つの修飾がPTCの構造を安定化することでリボソームの翻訳活性を向上させていると考えられます。

 

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3:嫌気環境特異的な新規メチル化修飾と周囲の残基との相互作用

(A)ho5C2501の水酸基はG2447のリボースと水素結合を形成する。

(B)D5Sm2449のメチル基はGm2251のリボースと疎水的相互作用を形成する。

(C)Cm5Sm2498のメチル基はU569付近にある間隙を埋め、PTCの柔軟性を制限する。

 

〈今後の展望〉

本研究はRNA骨格への修飾を初めて報告するとともに、rRNA修飾を介したリボソームの多様性が外部環境へ適応可能なことを示す重要な成果です。また、RlmXとRlhAは大腸菌のみならず幅広い細菌や一部の古細菌でも保存されていることから、この嫌気環境適応機構は進化において広く保存されている可能性があります。これら三つの修飾がリボソームの翻訳活性を単に向上させるだけではなく、配列特異的にタンパク質合成を微調整して翻訳プロファイルを変化させている可能性も考えられます。さらに、三つの修飾の導入によりリボソームの翻訳活性が2倍近く向上することから、生命工学分野においてより効率的な無細胞翻訳系の構築への応用も期待されます。

 

発表者・研究者等情報

東京大学大学院工学系研究科

 鈴木 勉 教授

 石黒 健介 特任助教

 

産業技術総合研究所 細胞分子工学研究部門

 鴫 直樹 研究グループ長

 

理化学研究所 生命機能科学研究センター

 白水 美香子 チームリーダー(現:生命医科学研究センター チームディレクター)

 伊藤 拓宏 チームリーダー(現:生命医科学研究センター チームディレクター)

 

東北大学大学院生命科学研究科 東北大学未来型医療創成センター(INGEM)

 横山 武司 助教

 

論文情報

雑誌名:Molecular Cell

題 名:Hypoxia-induced ribosomal RNA modifications in the peptidyl-transferase center contribute to anaerobic growth of bacteria

著者名:Kensuke Ishiguro, Karin Midorikawa, Naoki Shigi, Satoshi Kimura, Aivar Liiv, Takeshi Yokoyama, Takuhiro Ito, Mikako Shirouzu, Jaanus Remme, Kenjyo Miyauchi, and Tsutomu Suzuki*

* Corresponding author

DOI10.1016/j.molcel.2025.11.018

URLhttps://doi.org/10.1016/j.molcel.2025.11.018


研究助成

本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業の基盤研究(S)「RNA エピジェネティックスと高次生命現象」(代表:鈴木勉、JP26220205)、基盤研究(S)「RNA 修飾の変動と生命現象」(代表:鈴木勉、JP18H05272)、新学術領域研究 研究領域提案型「ncRNAのケミカルタクソノミ」(代表:鈴木勉、JP26113003)、基盤研究(B)「tRNA硫黄修飾塩基の生合成・分解系の多様性とその分子基盤」(代表:鴫直樹、JP21H02436)、特別研究員奨励費「リボソーマルRNA修飾を介した環境応答的な翻訳制御機構の解明」(代表:石黒健介、JP20J00947)、および科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業ERATO「鈴木RNA修飾生命機能プロジェクト」(研究総括:鈴木勉、JPMJER2002)などの支援を受けて実施されました。

 

用語解説

(注1)リボソーム

リボソームはリボソームRNA(rRNA)とタンパク質(r-protein)から成る複合体でタンパク質合成の場である。大小二つのサブユニットから成り、大サブユニットはペプチジル転移反応を触媒し、小サブユニットはmRNAとtRNA間の対合を監視することでタンパク質合成の精度を保つ重要な役割を持つ。

 

(注2)ペプチド転移反応活性中心(PTC)

ペプチド転移反応活性中心はリボソーム大サブユニットにおいてペプチジル転移反応を触媒する部位である。rRNAによって構成され、ペプチジルtRNAが持つペプチド鎖をアミノアシルtRNAが持つアミノ酸に結合させる。この結果、ペプチド鎖が伸長する。

 

(注3)通性嫌気性菌

酸素の有無に関わらず生育が可能な細菌で、大腸菌の他にもブドウ球菌などさまざまな細菌が該当する。好気環境では好気的な呼吸を行うが、嫌気環境では発酵によりエネルギー産生を行うことで両方の環境に適応している。

 

(注4)RNA 質量分析法

質量分析によりRNA分子を解析する手法。さまざまな核酸分解酵素を用いてRNAをヌクレオシド、あるいは短い断片に分解し、液体クロマトグラフィーで分離しつつ質量分析を行う。得られた質量電荷比(m/z)から精密な分子量が分かり、修飾構造の決定や修飾率の計測を行うことができる。

 

(注5)NMR解析

核磁気共鳴解析。分子を構成する原子の核スピンが高磁場中で示す共鳴現象を利用して、化学構造や立体配置、分子間相互作用などを解析する分析手法。水素や炭素などの特定の原子核に高磁場中でラジオ波を照射すると、周囲の環境に応じて特徴的な化学シフトとして現れるため、質量分析法では得ることの難しい分子の詳細な化学構造を高い精度で解析することができる。

 

(注6)クライオ電子顕微鏡

生体分子の試料に低温下(約-200℃)で電子線を照射し、その構造を観察できる電子顕微鏡。試料を水溶液中で瞬間凍結することで、生体内に近い環境で目的分子の構造解析を行うことができる。

 

(注7)S配置

立体化学におけるRSは、不斉炭素に結合した四つの置換基の空間配置を示す国際的な表記。CIP順位則で置換基に優先順位をつけ、最も低い置換基を奥にした状態で 1 → 2 → 3 の順にたどったとき、時計回りならR(Rectus)、反時計回りならS(Sinister)と決定する。

 

(注8)逆遺伝学

遺伝子の配列を先に特定し、その遺伝子を破壊・改変して生じる表現型から役割を解析する手法。ここでは、候補遺伝子を一つずつ破壊して、メチル化修飾が消失する遺伝子を特定した。

 

(注9)コバラミン依存性ラジカルSAM酵素

ラジカルSAM酵素は、鉄硫黄クラスターを用いてS-アデノシルメチオニン(SAM)を分解して高反応性のラジカルを生成する酵素群を指す。このラジカルを利用することでC-C結合形成など生体内では通常難しい反応を触媒し、さまざまな代謝、生合成経路を支えている。これらの中にはコバラミン(ビタミンB12)を補因子として用いる酵素群が存在し、特に難反応性のメチル化反応に関与することが知られている。

 

(注10)疎水性相互作用

水溶液中に存在する疎水性分子が水を避けて互いに引き合うことで、溶媒との接触面を少なくし安定化する作用。

 

(注11)ファン・デル・ワールス相互作用

分子同士の相互作用のうち、双極子同士の間に生じる引力性の力。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

Molecular Cell:https://doi.org/10.1016/j.molcel.2025.11.018