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工学部/工学系研究科 プレスリリース

セラミックス焼結のメカニズムを原子レベルで解明 ~粒界構造制御による新しい材料設計指針へ~

 

1.発表者
幾原 雄一(東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 教授)
柴田 直哉(東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 教授)
栃木 栄太(東京大学 生産技術研究所 准教授)
馮   斌(東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 特任准教授)
魏  家科(東京大学 大学院工学系研究科 附属総合研究機構 客員研究員)

 

2.発表のポイント
原子分解能の最先端走査透過型電子顕微鏡(STEM)(注1)と電子ビーム照射(注2)を組み合わせ、セラミックスの焼結(注3)のメカニズムを原子レベルで明らかにした。
焼結は粒界移動(注4)を伴うが、粒界移動のメカニズムが、粒界の種類(特殊粒界と一般粒界)によって全く異なることをはじめて実証した。
本発見により、焼結メカニズムや高温・応力下での変形挙動のメカニズムが明らかになり、最適合成条件、劣化挙動や寿命の予測、など材料設計に有用な指針獲得が期待できる。

3.発表概要
東京大学大学院工学系研究科附属総合研究機構の幾原雄一教授、柴田直哉教授、馮斌特任准教授、魏家科客員研究員および東京大学生産技術研究所の栃木栄太准教授のグループは、原子分解能を有する最先端の走査透過型電子顕微鏡(STEM)を用い、電子ビーム照射により、粒界移動を促進し、粒界が近傍の原子空孔(原子の穴)を吸収しながらダイナミックに移動する様子を原子レベルではじめて明らかにしました。α-Al2O3(アルミナ)に代表されるセラミックスは、一般に焼結により作製されますが、焼結の過程で結晶粒子が接合することで粒界が形成され、この粒界が移動することで粒径が大きくなります(粒成長)。セラミックスの粒径や粒界構造は材料強度や機能特性と密接に関係していますが、これまで一部の粒界(結晶方位の揃った特殊粒界)を除いて、どのような素過程で粒界が移動するのかが分かっていませんでした。本研究では、電子ビーム照射とSTEMを組み合わせた新手法により、粒界がエネルギーの高くなった結晶粒子の方向へ移動する現象を用い、一般粒界(方位の揃っていない粒界)の粒界移動過程を原子レベルで直接観察することに成功しました。この粒界移動の過程では、粒界が周囲の空孔(原子の穴)を吸収しながら移動するメカニズムを初めて明らかにしました。このメカニズムは、これまでに特殊粒界の場合に報告されてきたような、粒界構造多面体の逐次変化によるメカニズムとは異なることも判明しました。今回、一般粒界の粒界移動の原子レベルでのメカニズムが解明されたことにより、粒界を制御した高性能セラミックス材料の創成が期待できます。
本研究成果は、3月18日(英国時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版に掲載されました。
本研究の一部は、日本学術振興会の特別推進研究「原子・イオンダイナミックスの超高分解能直接観察に基づく新材料創成」(研究課題番号17H06094)および文部科学省の構造材料元素戦略拠点事業の助成を受けて実施されました。

 

4.発表内容
<研究の背景と経緯>
粒界移動現象はセラミックスの焼結において重要な課題であり、材料微細組織の形成を支配するのみならず、機械特性などの諸特性とも直接関連していることがしばしば報告されています。例えばセラミックスは、一般に粉(結晶粒子)を焼き固めて作製します。これを焼結と言いますが、焼結した粒子間には必ず粒界が存在し、これがセラミックスの機械的特性や機能特性と密接に関係しています。したがって、セラミックスの特性を向上させるには粒界構造の制御が必要であり、その鍵は焼結過程中に粒界がどのように移動して粒界構造を形成するかにあります。さらに粒界移動は材料の巨視的機械特性や耐放射線特性の微視的根源とも知られています。これまでの40年に余る研究で、粒界の原子構造自体は電子顕微鏡法により解明されてきましたが、粒界の動的な挙動、すなわち、焼結時や高温荷重下で粒界がどのように移動するのか、一部の特殊な粒界(方位の揃った粒界)を除いて、その原子論的メカニズムは不明のままでした。これは、原子分解能での電子顕微鏡観察の機械的安定性が問題であり、高温下、あるいは、負荷過重下での粒界移動を原子レベルで観察することが不可能でした。しかし、一般粒界の移動を原子レベルで明らかにし、粒界の原子構造を制御することが可能になれば、材料の機械特性の向上のみならず、最適な焼結条件(温度、荷重、雰囲気など)を見出すことが可能になります。その条件を見出せれば、焼結体においても粒界構造を制御でき、優れた特性を有したセラミックス材料の創出が期待できます。

 

<研究の内容>
今回、東京大学の幾原教授の研究グループはアルミナセラミックスの一般粒界を対象に粒界移動の原子レベルの観察に取り組みました。図1にセラミックスの焼結と粒界原子構造の模式図を示します。セラミックスはミクロンオーダーの小さな結晶粒子(粉)を焼き固めて作製(焼結)しますが、粒子が成長しながら(粒成長)他粒子と合体し(a,b)、その境界には粒界が形成されます。図1(c)に粒界を拡大した原子構造を示しますが、粒界では原子が多面体の構造を形成していることが分かります。一般粒界では粒界を挟む二つの結晶粒の方位が任意のため、この多面体の体積は特殊粒界(方位の揃った粒界)に比較して通常大きいです。焼結メカニズムを解明するためには、焼結中にこのような一般粒界がどのようにして移動するかを観察する必要がありますが、通常の方法では原子レベルの動的挙動を安定に観察することが困難でした。そこで同グループは、原子分解能走査透過電子顕微鏡法と電子ビーム照射法を高度に組み合わせ、粒界移動を原子レベルで観察することに成功しました。図2にその模式図を示します。粒界を形成する片方の結晶粒子に電子ビームを照射するとその結晶粒子のエネルギーが上昇し、粒界は電子ビームを照射した粒子の方向へ移動します。この方法では、試料の一部にのみ電子ビームを照射するため、粒界移動のような原子レベルでの動的な現象も非常に安定に観察することが可能となります。図3は今回の実験で得られた30秒ごとの粒界の移動を示す原子分解能電子顕微鏡像です。電子顕微鏡写真中の白い点はアルミニウム原子に相当しますが、粒界移動の様子が原子レベルで観察できることが分かります。図4に粒界移動の原子レベルでの模式図を示します。上段は特殊粒界の場合を示していますが、粒界の構造多面体がその形状を変化させながら左から右へと移動し、最終的には元の構造に戻ることがわかります。下段は今回発見の一般粒界の場合を示していますが、粒界の構造多面体の形状は変化せず、空孔(原子の穴)を吸収しながら左から右へと移動し、最終的にはその空孔に再度原子が入ることによって元の構造に戻ることがわかります。

 

<社会的意義・今後の展望>
本研究は、これまでブラックボックスであった一般粒界の移動過程を実験的に解明し、材料科学領域において極めて重要な基礎知見を与える結果となります。今回の発見により、一般粒界は移動中に原子空孔を吸収しつつ進展することが判明しました。この現象は、これまで観察されていた特殊粒界の移動メカニズムとは全く異なることも明らかになりました。これらの知見を有効に活用し、目的とする粒界が形成されるプロセス条件を選択することは、優れた特性を有する次世代セラミックス材料の設計および創出につながると期待されます。さらに、このような新たな「粒界構造制御」といった視点からのボトムアップ式材料設計を行うことで、他の多様な材料系への応用も期待できます。

 

5.発表雑誌
雑誌名:「Nature Communications」 (オンライン版:3月18日)
論文タイトル:Direct imaging of the disconnection climb mediated point defects absorption by a grain boundary
著者:Jiake Wei, Bin Feng, Eita Tochigi, Naoya Shibata, Yuichi Ikuhara
DOI番号:10.1038/s41467-022-29162-2

 

6.用語解説
注1:走査透過型電子顕微鏡法(STEM: Scanning Transmission Electron Microscopy)
0.1 nm以下に細く絞った電子線を試料上で走査し、試料により散乱、もしくは試料を透過した電子線の強度分布を解析し、試料中の原子配列を直接観察する手法。今世紀に入り収差補正技術が開発され、現在の空間分解能は0.04 nmにまで達している。
注2:電子ビーム
電子顕微鏡の電子銃から発生する電子線のことで、数nm以下に細く絞ることができる。任意の位置に照射し、照射された領域のエネルギーを上げることが可能となる。
注3:焼結
セラミックスを作製する際の最も基本的なプロセス。一般にセラミックスは、ミクロンサイズ以下の粉を固めて形をつくり、さらに高温で焼き固めることによって強度の高い構造体にする。このような方法を焼結と呼ぶが、いわゆる“焼き物”の作製方法にも類似している。
注4:粒界移動
粒界とは、多結晶体において結晶粒同士の境界に形成される面上の格子欠陥。多結晶体は原子が規則正しく並んでいる結晶粒とそのつなぎ目にあたる粒界から構成される。粒界を挟んだ両側の結晶粒は結晶方位が異なっている。また、粒界は結晶粒内とは異なる原子構造を形成している。高温下、負荷応力下でこの粒界は移動するが、これを粒界移動と呼ぶ。

 

.添付資料:

fig1図1 セラミックスの焼結と粒界原子構造の模式図
セラミックスはミクロンオーダーの小さな粒子を加熱(焼結)することで作製される。焼結の際には粒子同士が接合するとともに粒子が成長し(aからbへ)、その境界には原子の多面体で構成されている粒界が形成される(構造多面体)(図c)。

 

fig2図2 電子ビーム照射による粒界移動
本研究手法の模式図。青色粒と赤色粒の間に粒界が存在している場合、青色粒に電子ビームを照射すると、照射された粒子のエネルギーがあがるので、その方向に粒界が移動する。粒界移動の方向は照射領域を制御することで制御できる。

 

fig3図3 粒界移動過程の原子構造
本実験で得られた30秒ごとの粒界の移動を観察した原子分解能電子顕微鏡像。黄色枠は電子線照射領域である。電子顕微鏡写真中の白い点はアルミニウム原子に相当し、黄色枠のある粒の方向に粒界が移動する様子が観察された。

 

fig4図4 原子スケールでの粒界移動過程
(上段)特殊粒界の場合、粒界の構造多面体がその形状を変化させながら左から右へと移動し、元の構造に戻る。(下段)一般粒界の場合、粒界の構造多面体の形状は変化せず、空孔(原子の穴)を吸収しながら左から右へと移動し、空孔に原子が再度はいり元の構造に戻る。

 


プレスリリース本文:PDFファイル

Nature Communications:https://www.nature.com/articles/s41467-022-29162-2