プレスリリース

電子の粒子性と波動性の新たな狭間~粒子性を持つ絶縁体状態と波動性を持つ金属状態の間をゆっくりと行き来する電子の発見~

 

東京理科大学理学部第一部 伊藤哲明准教授、京都大学人間・環境学研究科 前川覚教授(当時)、理化学研究所 加藤礼三主任研究員、東京大学工学系研究科 鹿野田一司教授らをはじめとする研究グループは、有機物質中の電子が、波動性を有した金属状態と粒子性を有した絶縁体状態の間でゆっくりと揺らぐ現象を発見しました。本研究成果は米国科学誌Science Advances誌に811日付けで掲載されます。

電子の粒子性と波動性が移り変わるモット境界は、水と水蒸気の移り変わりと同 様に、十分低温では「相転移」という性質を持ち、不連続な変化があると考えられ てきました。本研究グループは、結晶格子に乱れが導入された2次元モット絶縁体有機物 質 EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2という物質に圧力をかけモット境界にいたらせ、絶対温度 2Kという低温まで温度を変えながら、核磁気共鳴実験によりそのときの 電子状態を観測しました。その結果、この物質のモット境界においては、従来の常識に反して、粒子性を持つモット絶縁体状態と波動性を持つ金属状態の間を電子がゆっ くりと行き来している現象を発見しました。すなわち、圧力温度相図上で、従来の相転 移描像ではなく、新たな電子相(粒子性と波動性の間をゆっくり揺らぐ電子グリフィス相 と呼ぶべき新奇相)が実現していることを見出したこととなります。このようなモ ット境界は今まで観測されたことはなく、基礎学理上・応用上重要な立ち位置を占めるモ ット境界描像の新たな理解を与えるものです。

 

 

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Science Advances:http://advances.sciencemag.org/content/3/8/e1601594.full