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若手研究者紹介:山下 真一准教授

 

 

 

 

【経歴】
2008年 東京大学大学院工学系研究科システム量子工学専攻博士課程修了 博士(工学)
2008年 日本原子力研究開発機構先端基礎研究センター 博士研究員
2011年 同機構 量子ビーム応用研究部門(現、量子科学技術研究開発機構量子ビーム応用研究部門) 博士研究員
2012年 東京大学工学系研究科原子力専攻 特任助教
2013年 同専攻 助教
2017年 同専攻 准教授(兼担 原子力国際専攻)

【研究について】
“怖い”という印象を放射線に対して持つ方も少なくありません。放射線の生体影響、放射線が目に見えないこと、あるいは放射線の性質がすべて明らかになっているわけではないこと、などが原因と考えられます。しかし、人間が死に至る場合でさえ放射線から与えられるエネルギーは非常に小さく、仮にすべて温度上昇に使われたとして換算すると0.01℃にも満たないほどです。生体を含むあらゆる物質に対して放射線はエネルギーを瞬間的かつ局所的に高密度で付与することが分かっています。このため僅かなエネルギーでも大きな影響が表れることがあります。放射線が物質にもたらす“変化”の“局所性”は時間とともに薄れていくため、放射線によって引き起こされる現象の初期ダイナミクスの解明が放射線の特徴を紐解く上で重要になってきます。

原子力分野における問題の多くは放射線抜きには考えられません。“放射線環境下でのハロゲン化物イオンの化学形” (塩化物イオン(Cl)と臭化物イオン(Br)は海水成分、ヨウ化物イオン(I)は核分裂生成物として生成)、“水素発生への沸騰の影響”、“金属酸化物微粒子との界面での水の放射線分解”、等に取り組んできています。がん治療(医療)や材料創成(産業)においては放射線が欠かせないツールとなっています。“微量添加薬剤による放射線防護/増感の初期過程”、“放射線によるDNA損傷”、“がん治療用重粒子線による水分解”、“ポリマーゲル線量計開発の基礎研究”、等に取り組んできています。

いずれにしても、放射線の短所を最小限に抑え長所を最大限に活かすために、放射線がもたらす現象の詳細を理解しておく必要があります。ピコ秒(10−12 秒=1兆分の1秒)からマイクロ秒(10−6 秒=100万分の1秒)までの間に起こる速い物理化学的現象から後続の化学反応、さらにはもう少し遅い生化学との境界までを対象とし、放射線が物質中にもたらす“変化”の初期ダイナミクスの解明に取り組んでいます。

具体的にはパルスラジオリシス法と呼ばれる手法で高速現象を観測したり、放射線によって生じた試料の変化(最終生成物)を照射後に化学分析したりしています。パルスラジオリシス法とは数ピコ秒から数ナノ秒(10−9 秒=10億分の1秒)という短いパルスの放射線を試料に瞬間的に照射し、ラジカル(不対電子を含む化学種)などの活性種が生成される様子やその後の反応挙動を時間分解の紫外可視吸光分光法で直接観察しています。

 

 

 【今後の抱負】
最近では電子線加速器に同期させた時間分解で共鳴ラマン分光法を行えるよう装置改良を始めています。紫外可視吸光分光法も有用なツールですが、ラマン分光では化学種の振動に対応したシャープなピークが観測できるため、さらに詳細な情報が得られると期待しています。また、紫外可視域の光が透過しないような試料、例えば微粒子の分散した溶液や懸濁液なども測定対象とできる可能性があります。このため、“界面での放射線効果”という新たな領域の研究にもチャレンジできると考えています。界面での放射線効果は未開拓で挑戦しがいのある領域です。

また、放射線はランダムにエネルギーを付与することができ、様々なラジカル(不対電子を含む化学種)を発生させられます。ラジカルは放射線分解以外でも光分解、燃焼、熱分解、触媒反応、表面反応などで発生します。放射線をラジカルの特性を研究するツールとして捉えることで、放射線そのものは無関係な分野にも貢献できるよう何ができるか追究していきたいです。

 

参考URL
上坂・山下研究室:http://www.tokai.t.u-tokyo.ac.jp/kiki/
Press Release:https://www.t.u-tokyo.ac.jp/foe/press/setnws_201901111341152449630589.html