プレスリリース

INGOTプロジェクト −革新的な次世代核酸医薬開発の大型プロジェクトがスタート−

 

要旨

東京理科大学(総代表研究機関及び総代表研究者 薬学部生命創薬科学科 和田猛教授)は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)と、「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(RNA標的創薬技術開発)」の「研究開発課題名:革新的次世代核酸医薬」に関わる研究開発委託契約を締結しました。本研究開発課題において東京理科大学を総代表として、東京医科歯科大学、千葉工業大学の3つの代表研究機関に東京大学を加えた4つの研究機関と複数の企業が連携し、3つの研究課題をそれぞれ分担する複合型の大型研究プロジェクトとなっています。
本プロジェクトでは、従来の核酸医薬よりも優れた生体内安定性と有効性を示し、かつ副作用が低減された新規の核酸化学構造を有する革新的次世代核酸医薬の製造・精製・分析技術を総合的に開発し、その産業化を確立することにより高性能で安全な医薬品を患者さんに届けることを目指します。
そして、本プロジェクトを、本研究開発課題名「革新的次世代核酸医薬」の英語名「Innovative Next Generation of Oligonucleotide Therapeutics」の頭文字をとり、「INGOTプロジェクト」と呼称しています。

 

【INGOTプロジェクトの背景と体制】
核酸医薬1)は、疾病に関連するDNA、RNAおよびタンパク質を標的とし、従来の医薬品では治療できなかった疾病にも有効な治療薬を生み出せることから、近年世界的に開発が進められています。核酸医薬は、作用機序が明確で副作用も少ないという特徴がありますが、生体内での安定性やデリバリー技術の確立、コストの高騰など解決すべき課題も多く残されています。
INGOTプロジェクトを行うにあたり、和田猛教授(東京理科大学 薬学部 生命創薬科学科)を総代表研究者として、横田隆徳教授(東京医科歯科大学 大学院 医歯学総合研究科)、坂本泰一教授(千葉工業大学 先進工学部 生命科学科)、鈴木健夫講師(東京大学 大学院工学系研究科 化学生命工学専攻)のアカデミアグループと、一般財団法人バイオインダストリー協会に加え、6つの関連企業を含めた全11機関の産学連携による共同研究連合体を形成し、産業化の実現性の高い研究実施体制を構築している点が本プロジェクトの大きな特徴となっています。

 

【INGOTプロジェクトの研究概要と研究分担】
INGOTプロジェクトでは、従来の核酸医薬よりも高活性、低毒性な新規の核酸化学構造を有する「革新的次世代核酸医薬」の製造・精製・分析技術を総合的に開発します。
和田猛教授と横田隆徳教授は、従来アンチセンス核酸(ASO)2)として用いられてきたホスホロチオエート(PS)核酸3)に代わる、リン原子にホウ素原子が結合した新しい構造を有するボラノホスフェート(PB)核酸の開発に取り組みます。PS核酸やPB核酸などのリン原子修飾核酸は、通常多くの立体異性体の混合物として化学合成されますが、立体異性体によって医薬としての有効性や安全性が異なることがわかっています。そこで本プロジェクトでは、横田隆徳教授のグループが、リン原子の立体化学(キラリティ)が最適に制御されたPB-ASOの開発を行います。さらに、PB-ASOの実用化に向けた大量合成法や安全性評価方法の確立を目指します。
また、INGOTプロジェクトでは、既存の核酸医薬の製造法に関しても抜本的な見直しを行います。従来のDNA、RNA製造法は、モノマーユニットの合成ステップ数が多く、コスト高騰の要因となっています。和田猛教授のグループでは、核酸合成の概念を覆す、ヌクレオシドから1工程で得られるモノマーを用いる画期的なDNA合成法を既に開発しており、本プロジェクトではこの方法のプロセス化学の最適化を行い、工業的製造法の確立を目指します。さらに、医薬として実用化されているモルフォリノ核酸4)(PMO)に関しても、製造効率の改善を可能とする新規合成技術の開発と、既存のPMOの高性能化を目指した新たなリン原子修飾PMO誘導体およびリン原子のキラリティが制御されたPMO誘導体の開発を行います。
坂本泰一教授、鈴木健夫講師のグループでは、上記の新規製造技術の評価及び合成した新規モノマーやオリゴマーの高度な分離・分析を可能とする革新的分析技術を開発します。特に、キラリティ制御核酸の分離・分析法を確立し、精密質量分析とNMRを駆使して構造決定法や純度検定法、立体化学の最適化手法の開発を行います。


 

【INGOTプロジェクトにおける新たな試み】
INGOTプロジェクトでは、各機関の研究者が共同で研究を行う環境を整備するために、東京理科大学の野田キャンパス内に“開かれた先端的な研究環境(Opened Advanced Laboratory)”を目指した「集中研」(仮称)を設置する計画であることが大きな特徴となっています。「集中研」ではそれぞれの研究課題を、各専門分野のエキスパートである研究者が、最先端機器や実験環境を共有することで、効率的な研究活動を行い、早期の研究開発及び事業の実現を目指します。
また、事業代表研究機関である東京理科大学では、本研究成果が高い評価を得られるように、産学連携及び技術移転活動を目的とし運営・活動を行っている研究戦略・産学連携センターによる研究支援活動を行っています。

 

【今後の展望】
本プロジェクトで革新的次世代核酸医薬が創製されれば、核酸医薬の毒性の軽減と飛躍的な活性の向上が期待できます。また、革新的製造・分析技術が開発されることにより、核酸医薬の生産コストの削減、安全性や品質管理の改善が可能となり、核酸医薬の産業化に大きく貢献することが期待されます。

 

関連リンク
令和3年度 「次世代治療・診断実現のための創薬基盤技術開発事業(RNA標的創薬技術開発)」の採択課題について
・リンク先:https://www.amed.go.jp/koubo/11/01/1101C_00004.html

 

用語
 1.核酸医薬:化学合成されたDNAやRNA誘導体からなる医薬
 2.アンチセンス核酸:生体内のRNAに結合してタンパク質の合成などを制御する核酸医薬
 3.ホスホロチオエート(PS)核酸:リン原子に硫黄原子が結合した人工核酸
 4.モルフォリノ核酸:炭素、酸素、窒素からなる6員環構造を基本骨格とする人工核酸

 


プレスリリース本文:PDFファイル

東京理科大学:https://www.tus.ac.jp/today/archive/20211022_3312.html

千葉工業大学:https://www.it-chiba.ac.jp/topics/pr20211025/