プレスリリース

2021.07.01

生産システムにおける熟練者の知識抽出を可能とするラーニングファクトリの導入

1.発表者
太田   順(東京大学 大学院工学系研究科附属人工物工学研究センター 教授)
梅田   靖(東京大学 大学院工学系研究科附属人工物工学研究センター 教授)
白藤 翔平(東京大学 大学院工学系研究科附属人工物工学研究センター 助教)

2.発表のポイント:
◆生産システムの稼働率を向上させる熟練者の知識を体系化する手法を確立する場として、理想的な生産ラインを模したラーニングファクトリを導入しました。
◆過去の知見や名工のアドバイスを元に、様々な不具合を意図的に起こすことができます。これにより、効率的な知識抽出手法の検証が可能となります。
◆ラーニングファクトリで確立した手法を、実際の生産システムにおいて検証し、稼働率を向上させることが期待されます。

3.発表概要
製造業を取り巻く環境変化のスピードは年々上がっており、製造業が対面する課題はより複雑に、多様になっています。それに対応して生産システムが複雑になるほど、稼働率を高めることは困難になります。経験と知識をもとに、稼働率の向上させる熟練者の知識構造を明らかにすることは、人材育成およびさらなる競争力のある生産システムの構築のために重要です。東京大学大学院工学系研究科人工物工学研究センターの太田教授、梅田教授、白藤助教らの研究グループは、熟練者の知識を体系化する手法を確立する場として、理想的な生産ラインを模したラーニングファクトリ(LF)を導入しました。このLFでは、過去の知見や日本の名工からのアドバイスを元に、様々な不具合を意図的に起こすことができ、手法を効率的に検証できます。このような機能を有するLFは、世界的にも類を見ません。現在、このLFを用いて、熟練者の知識抽出手法を検討するほか、取得したデータを活用して、生産システムの設計・管理を演習形式で学ぶ講義を行っています。LFを通して熟練者の知識の体系化の手法を確立し、最終的には実際の生産システムにおける手法の検証、稼働率向上の実現を目指します。
本成果は2021年7月1日(木)に第11回Learning Factoryに関する国際会議で発表されました(オーストリア・グラーツ、オンライン開催)。

4.発表内容
製造業を取り巻く地球環境・社会環境・市場環境の変化のスピードは年々上がっており、それに伴い、製造業が対面する課題はより複雑に、そしてより多様になっています。そのため、生産システムの構築の際には、多くのパラメータを考慮することが求められます。しかしながら、良い生産システムを構築したとしても、その稼働率が高くなくては、競争力には成り得ません。稼働率の向上のためには、生産システムに関する情報を元に、適切な個所を継続的に改良することが必要です。熟練者は、これを経験と知識をもとに、試行錯誤的に行っています。こうした熟練者の稼働率向上の知識構造を明らかにすることは、人材育成のため、そしてさらなる競争力のある生産システムの設計と運用のために重要です。
実際に現場で稼働している生産システムは、相互に同一のものが存在せず、たとえ現場で作業者や操業のデータを取得できたとしても、その再現性は高くありません。そのため、こうしたデータから、熟練者の知識構造を一般的な意味で獲得することは困難です。そこで本研究グループは、熟練者の知識を体系化する手法を確立する場として、理想的な生産ラインを模したラーニングファクトリ(LF)を導入しました。このLFには、過去の教育プログラムや実験から得られた知見、日本の名工からのアドバイスを元に、様々な不具合を意図的に起こす機能が組み込まれています。実際の生産工場では一度ないし稀にしか観察できない現象であっても意図的に再現することができ、効率的に手法の検証を行うことが可能です。このような機能を有する生産システムのLFは、世界的にも類を見ません。また、LF実機に加えて、LFのシステム的な複製である、デジタルツイン(注1)を作成しました。デジタル上で蓄積された稼働・品質情報から、設備で発生しているロスの確認や原因の検証が可能になります。実機とサイバー設備が連動して動くデジタルツインを構築することで、発生頻度が少ない不具合もデジタルデータで何度も見直せるようになり、原因特定および対策導入時間の短縮が可能となります。また、複雑化する生産システムの状態を把握するためには、IoT(注2・Internet of Things)データの取得が不可欠です。そのため、被組立物のコンベア上での移動時間や、ロボットアームが作業をおこなった時間などの動作情報、つまり、システムの構成要素のサイクルタイム、マシンタイムなどをIoTデータとして取得できる機能も追加しました。これにより、速度ロスや干渉ロスなどの見えにくいロス情報のデータを分析し、可視化、シミュレーションによる検証を行うことが可能となります。
現在、このLFを用いて、デジタルトリプレット(注3・作業者がシステムと作用するプロセスや、作業者の知識構造を取り込むことで、デジタルツインを発展させた考え方)を用いた熟練者の知識抽出手法を、実験にもとづいて検討しています。実験は、質疑応答の形式で、LFの改善活動をおこなってもらい、その過程を記録するという形で行っており、実際の生産システムに携わる技術者を対象として実施しています。これと同時にLFのモデルをシステムモデリング言語を用いて記述し、実験内でおこなわれた改善活動と照らし合わせることで、解析を行っています。加えて、LFで取得したデータを活用して、情報化技術等を用いた生産システム設計、管理手法を演習形式で実践的に学習する講義「人工物の創出のための理解Ⅱ」を行いました。受講者はIoTデータを元に生産システムの問題を発見し、その改善の検討を行い、シミュレーションを用いて改善の検証を行いました。
今後は、LFのデジタルトリプレットを構築し、熟練者の知識構造に基づく改善を実現します。そして、LFを通して確立された熟練者の知識の体系化の手法を実際の生産システムへと適用して手法を検証するとともに、生産システムの稼働率向上の実現を目指します。
本研究開発の成果の一部は、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の研究開発プロジェクト「次世代人工知能・ロボットの中核となるインテグレート技術開発」の委託事業である「AI技術をプラットフォームとする競争力ある次世代生産システムの設計・運用基盤の構築」、および、JSPS科研費「ディジタルトリプレット構想に基づく次世代生産システムのためのエンジニアリング支援(19H02037)」の結果得られたものです。

5.発表雑誌:
雑誌名:SSRN, Elsevier (6月2日版)
論文タイトル: Developing a Digital Twin Learning Factory of Automated Assembly Based on ‘digital Triplet’ Concept
著者: Umeda, Yasushi and Goto, Junpei and Hongo, Yuki and Shirafuji, Shouhei and Yamakawa, Hiroshi and Kim, Dongsik and Ota, Jun and Matsuzawa, Hiroki and Sukekawa, Takuji and Kojima, Fumio and Saito, Masahiro
DOI番号:10.2139/ssrn.3859019

6.用語解説
注1 デジタルツイン:
製造業におけるオートメーション化を目指すIndustrie 4.0の柱のひとつです。サイバー世界に、物理世界と1対1に対応したモデルを構築します。
注2 IoT(Internet of Things、モノのインターネット):
インターネットを介して他の機器やシステムとデータを共有することを目的とした、センサやソフトウェア等が組み込まれた物理的な物体(モノ)のネットワークを指します。
注3 デジタルトリプレット:
デジタルツインの延長線上の概念で、物理世界、サイバー世界に加えて、人間の知的活動世界から構成されます。技術者のデータ収集、情報分析、意思決定、計画の実行といったサイクルをプロセス知識とし、これを収集・アーカイブ化することで、知識の再利用を目指します。

7.添付資料


図1 導入されたラーニングファクトリ


図2 ラーニングファクトリのデジタルツイン構成


プレスリリース本文:/shared/press/data/setnws_202107011034266922351762_753148.pdf

SSRN, Elsevier:https://papers.ssrn.com/sol3/papers.cfm?abstract_id=3859019