プレスリリース

2021.04.19

太陽光駆動の皮膚貼り付け型光脈波センサの開発に成功~日常生活をケアする装着型ウェアラブルセンサ応用に期待~

1.発表者:
横田 知之(東京大学 大学院工学系研究科電気系工学専攻 准教授)
甚野 裕明 (研究当時:東京大学 大学院工学系研究科電気系工学専攻 特任研究員)
染谷 隆夫(東京大学 大学院工学系研究科電気系工学専攻 研究科長/教授)

2.発表のポイント:
ウルトラフレキシブルな有機太陽電池、有機EL(注1)素子、有機フォトディテクタ(注2)を集積化することで、自立駆動型の皮膚貼り付け光脈波センサの開発に成功した。
ウルトラフレキシブルな有機発光素子の電子注入層にドープされたポリエチレンイミン層を用いることで、大気中での駆動安定性を向上させることに成功した。
開発した自己駆動型の光脈波センサは皮膚に貼り付けて非侵襲的に脈波を長期的にモニタリングすることが可能であるため、遠隔医療や日常生活の医療ケアに向けた医療補助デバイスへの応用が期待される。

3.発表概要:
東京大学大学院工学系研究科の横田知之准教授、甚野裕明特任研究員、および染谷隆夫教授らの研究グループは、超薄型有機太陽電池で自立駆動する、柔軟な皮膚貼り付け型光脈波センサの開発に成功しました。このセンサは、有機EL素子、有機フォトディテクタ、有機太陽電池(用語3)の3つの異なるデバイスが集積化されており、太陽光による自己発電を用いて脈波信号を計測することに世界で初めて成功しました。さらに、有機EL素子の電子注入層にドープされたポリエチレンイミン層を導入することで、発光効率11.7 cd/Aを達成しながら、大気中において11時間以上連続駆動させた後においても、初期の70%以上の輝度を保つ高い大気駆動安定性を実現しています。今後、電力の消費や皮膚への長時間の装着による負荷を気にせずに、連続・非侵襲な生体情報測定が可能な常時装着型のウェアラブル医療センサなどへの応用が期待されます。
本研究成果は、2021年4月14日(英国夏時間)に英国科学誌「Nature Communications」のオンライン版で公開されました。

 4.発表内容:
柔軟な有機EL(有機発光ダイオード:OLED)は曲面ディスプレイ、折り畳み可能なスマートフォンなど、幅広く応用されています。近年では、ウェアラブルデバイスやヘルスケアに向けたウェアラブル光源応用も注目されており、例えば、光による脈拍センサや、血中酸素濃度を計るパルスオキシメーターなどが開発されています。特に、超薄型で柔軟な有機ELは、皮膚貼り付け型のウェアラブル光源として、常時装着・連続計測を行うデバイス応用に向けて注目されています。しかし、これまでの超薄型の有機EL素子は、十分な大気駆動安定性を持っていなかったため、皮膚貼り付け型の連続駆動可能な光脈波センサはこれまでにありませんでした。

共同研究グループは、大気安定な電子注入層と透明電極を組み合わせた逆型構造を用いることで、大気駆動安定な超薄型有機ELの開発を行いました。逆型構造を持つ有機ELは、酸化物や高分子材料を陰極として用いていることで、従来の順型構造と比較し、高い大気安定性を実現することが可能です。この大気安定な逆型構造を超薄型の有機ELに導入することで、大気駆動安定な超薄型有機ELを実現しました(図1)。開発された逆型構造有機ELは、超薄型基板上へ作製した際も11.7時間の連続駆動後において初期の70%の輝度を保持可能な、高い大気駆動安定性を持つことを確認しました。この値は、これまで実現されてきた超薄型有機ELの約3倍の値です。

次に、開発した超薄型有機ELを、超薄型の有機フォトディテクタ、有機太陽電池と集積化することで、太陽電池のエナジーハーベスト(注4)によって駆動する、「皮膚貼り付け型光脈波センサ」を作製しました(図2)。全ての素子が超薄型かつ柔軟であるため、作製された光脈波センサは、長時間の皮膚貼り付けにおいても装着感が少ない貼り付けが可能です。さらに、太陽光を用いて発電を行い自立駆動するため、外部の電源との接続・給電の必要がありません。実際に、人体の皮膚に貼り付けた際には、太陽電池の電力によって光脈波センサが駆動し、脈拍77 bpmの脈波計測に成功しました(図3)。
本研究で開発した光脈波センサは、装着感が少ない貼り付けができ、さらに太陽光によって、外部電源を必要としない自立駆動が可能です。そのため、常時装着・連続計測に向けたウェアラブル医療デバイスとして期待できます。例えば、日常生活における医療ケア、急激な体調悪化の対策など、従来の医療システムと相補的な医療ケアデバイスとしての応用が考えられます。
なお、本研究は理化学研究所(理研)開拓研究本部染谷薄膜素子研究室の福田憲二郎専任研究員、広島大学大学院 先進理工系科学科の尾坂格教授らとの共同研究で実施いたしました。本研究の成果は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)未来社会創造事業探索加速(本格研究ACCEL型)(JPMJMI17F1)の支援を得て進められました。

5.発表雑誌:
雑誌名:「Nature Communications」(4月14日、オンライン版)
論文タイトル:Self-powered ultraflexible photonic skin for continuous bio-signal detection via air-operationstable polymer light-emitting diodes
著者:Hiroaki Jinno, Tomoyuki Yokota, Mari Koizumi, Wakako Yukita, Masahiko Saito, Itaru Osaka, Kenjiro Fukuda, and Takao Someya
DOI:10.1038/s41467-021-22558-6

7. 用語解説:
(用語1)有機EL
有機化合物への通電によって発光する現象と、それを利用した素子。ディスプレイや照明への利用が進んでいる。

(用語2)有機フォトディテクタ
有機半導体を受光層として用いたフォトディテクタのこと。

(用語3)有機太陽電池
有機半導体を光電変換層として用いた太陽電池のこと。塗布プロセスによる大量生産が適用できると同時に、安価かつ軽量で柔らかいことから、次世代の太陽電池として注目を集めている。

(用語4)エナジーハーベスト
光、振動、熱などの環境中に存在し、使われずに捨てられているわずかなエネルギーを採取して、電力を得る技術を意味する。電池の購入や交換不要な無線センサ技術を実現するための、電力供給技術として注目されている。

8.添付資料:


図1 本研究で作製した超薄型の逆型構造有機ELの構造図(上)。実際に作製した超薄型の逆型構造有機ELは大気中においても明るい発光を示し(左下)、さらに従来の順型構造と比較しても高い大気駆動安定性を示した(右下)。


図2 太陽電池駆動の皮膚貼り付け型光脈波センサは薄く柔軟で、太陽光発電により外部電源を用いない連続駆動を実現する。


図3 超薄型デバイスは薄く柔軟で、皮膚のような複雑な表面にも貼り付けることが可能である(上)。超薄型の光脈波センサを超薄型有機太陽電池を用いて駆動させたところ、有機ELを光源として測定された脈波信号が計測された(下)。




プレスリリース本文:/shared/press/data/setnws_202104191426444006386686_371065.pdf

Nature Communications:https://www.nature.com/articles/s41467-021-22558-6

日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP608609_U1A410C2000000/

fabcross : https://engineer.fabcross.jp/archeive/210415_u-tokyo-ac.html