発表のポイント
◆ 全国約150万人のスマートフォンアプリ利用者の歩数データを用いて、日本における歩数の地域間格差と社会経済的格差を分析しました。
◆ 951市区町村の平均歩数は最大7,750歩/日、最小4,026歩/日と2倍近く(3,724歩/日)の差があり、「歩きやすさ」の地域環境指標(ウォーカビリティ)が高い市区町村ほど平均歩数が多く、地域内の歩数格差も小さい傾向が示されました。世界最大規模のデータによる分析で、初めて市区町村レベルの格差が明らかになりました。
◆ 教育歴・就業状況・世帯収入による歩数格差の現れ方は、地域の歩きやすさによって異なり、身体活動の促進には地域環境と個人の社会経済的背景の双方に着目した対策が重要と考えられます。本研究で作成した市区町村単位のデータは自治体等で活用できるよう公開します。

市区町村の歩数平均値の分布(n=951市区町村、計1,503,745人)
概要
東京大学大学院医学系研究科の鎌田真光准教授らによる研究グループは、全国約150万人のスマートフォン利用者の歩数データを用いて、日本における歩数の地域間格差と社会経済的格差を明らかにしました。
本研究では、スマートフォンアプリ「トリマ」(ジオテクノロジーズ株式会社)から得られた匿名化された歩数データを用い、全国規模の市区町村における歩数分布を記述しました。さらに、地域の歩きやすさ(ウォーカビリティ)を示す地域環境指標と、個人の社会経済的要因(教育歴、就業状況、世帯収入)を組み合わせ、地域環境と個人要因による格差の実態を明らかにしました。その結果、解析対象の951市区町村の平均歩数には、最大3,724歩/日の差があり、歩きやすい環境の市区町村ほど平均歩数が多い傾向にあることが示されました(図1)。また、社会経済的要因による歩数格差の大きさやパターンは、地域の歩きやすさによって異なっていました。本研究成果は、自治体における身体活動促進や健康づくり・スポーツ政策を推進するうえで基礎資料となることが期待されます。
この研究成果は、国際医学誌であるThe Lancet Regional Health - Western Pacificに掲載されました。

図1:市区町村の歩数平均値地図とウォーカビリティとの関連
分析対象は951市区町村(沖縄県は本州上部に移動させ表示)。
市区町村単位のウォーカビリティ指標(注1):郵便番号単位で算出されたウォーカビリティ指標の市区町村単位の平均値を用いた。
発表内容
からだを動かすことは健康の維持増進にとって重要であり、世界保健機関(WHO)を含む多くの専門機関や国が推奨しています。これまで、国や地域によって身体活動量(注2)に差があることは報告されてきましたが、その多くは質問紙などの自己申告データに基づいており、思い出しによる回答誤差などの課題がありました。また、地域の健康施策を担う基礎自治体単位で、計測機器等による客観的な測定手法に基づき、身体活動量の全国的な地域分布を明らかにした研究はありませんでした。さらに、教育歴、就業状況、収入などの社会経済的要因による身体活動格差が、地域の歩きやすさによってどのように異なるかについても、全国規模の知見は不足していました。この度、本研究チームは、スマートフォンアプリ「トリマ」の2023年の1年間分の匿名化データを用いて、日本全国における市区町村間および社会経済的要因による歩数格差を明らかにしました。
解析対象は、20〜64歳のスマートフォン利用者1,542,536人、合計261,731,501人日分の歩数データを用いました。市区町村レベルの分析では、100人以上の利用者がいる951市区町村を対象としました。
その結果、951市区町村の平均歩数は4,026歩/日から7,750歩/日まで分布しており、自治体間で最大3,724歩/日の差がみられ、最も多い自治体と最も少ない自治体の間には約2倍の開きがありました。平均歩数が多い市区町村ほどウォーカビリティが高く、歩数分布の格差を示すジニ係数(注3)は低い傾向が見られました。また、個人レベルの分析では、歩数格差の大きさやパターンは社会経済的要因と地域の歩きやすさによって異なっていました。教育歴および等価世帯収入(注4)による歩数差は地域の歩きやすさによって異なり、最も歩きやすい地域と最も歩きにくい地域との間で最大762歩/日の差が見られました。就業状況では、就業者と非就業者の歩数差は、最も歩きやすい地域で最大1,514歩/日でした。
これらの結果は、日本の市区町村間で大きな歩数格差があり、歩きやすい地域環境の整備が身体活動の促進に重要である一方、環境整備だけではすべての人の身体活動を一様に促進できるとは限らない可能性を示しています。今後は、自治体における健康、スポーツ、交通、都市計画など多分野の協働により、地域環境と個人の社会経済的背景等の双方を考慮した取り組みが求められます。
なお、本研究で作成した市区町村単位のデータは自治体等で活用できるよう、論文と合わせて統計情報及びインタラクティブ・マップとして公開されました(図2、URL情報下部)。

図2:インタラクティブ・マップのイメージ図
市区町村単位の統計表及びインタラクティブ・マップ:https://doi.org/10.82337/1000011
本研究は、東京大学とジオテクノロジーズ株式会社の共同研究契約(2023年4月~、研究代表担当教員:東京大学大学院工学系研究科 樋野公宏教授)に基づき実施され、東京大学大学院工学系研究科倫理委員会の承認のもと実施されました。
発表者・研究者等情報
東京大学
大学院医学系研究科
公共健康医学専攻 健康教育・社会学分野
鎌田 真光 准教授
社会医学専攻 健康教育・社会学分野
荒井 一光 大学院生(博士課程)/特任研究員
大学院工学系研究科 都市工学専攻
樋野 公宏 教授
空間情報科学研究センター
吉田 崇紘 准教授
大学院情報学環・学際情報学府
山田 育穂 教授
学会情報
雑誌名:The Lancet Regional Health - Western Pacific
題 名:Cross-level regional and socioeconomic inequalities in step counts: a descriptive epidemiological investigation of 1.5 million Japanese smartphone users
著者名:Arai K, Kamada M, Yoshida T, Yamada I, Ding D, Hino K
DOI:10.1016/j.lanwpc.2026.101901
URL:https://doi.org/10.1016/j.lanwpc.2026.101901
研究助成
本研究は、科研費・基盤研究A「身体活動促進に向けた市民共創と環境介入アプローチの大規模実証研究(課題番号:JP25H01094)」、JST 次世代研究者挑戦的研究プログラム(課題番号:JPMJSP2108)の支援により実施されました。
用語解説
(注1)ウォーカビリティ指標:
地域の「歩きやすさ」や「徒歩での生活しやすさ」を示す指標。人口密度、生活関連施設の種類数、道路接続性から構成される「全国郵便番号界ウォーカビリティ指標」を用いました。
(注2)身体活動:
からだを動かすことの総称。運動だけでなく、通勤・通学、買い物、家事、仕事中の移動など、日常生活の中でからだを動かす活動も含みます。歩数は、その活動の量を示す「身体活動量」の代表的な指標の一つであり、分かりやすさや測定のしやすさから、社会的・学術的に広く用いられています。
(注3)ジニ係数:
分布の格差の大きさを示す指標。0に近いほど格差が小さく、1に近いほど格差が大きいことを意味します。なお、ジニ係数は平均値と数学的に相関しますが、今回の得られた歩数の平均値とジニ係数の相関係数(-0.79)は、シミュレーションにより得られた相関係数(-0.40)より大きいものでした。
(注4)等価世帯収入:
世帯全体の収入を世帯人数で調整した指標。本研究では、年間世帯収入を世帯人数の平方根で割って算出しました。
プレスリリース本文:PDFファイル
Nature Physics:https://doi.org/10.1016/j.lanwpc.2026.101901
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