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工学部/工学系研究科 プレスリリース

腎臓病の診断に応用できる新たな尿検査法を開発

 

1.発表者

滝澤 慶一(東京大学医学部附属病院 小児科 助教)

植田 幸嗣(がん研究会 がんプレシジョン医療研究センター がんオーダーメイド医療開発プロジェクト プロジェクトリーダー)

一木 隆範(東京大学大学院工学系研究科 マテリアル工学専攻 ナノバイオデバイス研究室 教授)

張田  豊(東京大学医学部附属病院 小児科/東京大学大学院医学系研究科 生殖・発達・加齢医学専攻 小児科学 准教授)

 

2.発表のポイント

◆小児腎臓病患者の尿中に存在する細胞外小胞という小さな構造物を解析することにより、慢性的な腎機能の低下と関連する変化を発見しました。

◆この変化を利用した尿検査法のプロトタイプを作成したところ、腎臓の機能の低下を早期に検出することが可能であることが明らかとなりました。

◆尿中の細胞外小胞を尿検査に応用することは、これまで見逃されていた腎臓の変化を非侵襲的に捉えることにつながり、腎臓病の診断に貢献すると考えられます。

 

3.発表概要

東京大学医学部附属病院の張田豊准教授、同院の滝澤慶一助教、がん研究会がんプレシジョン医療研究センターの植田幸嗣プロジェクトリーダー、東京大学大学院工学系研究科の一木隆範教授らの研究グループは、小児腎臓病患者の尿を用いて、腎機能低下を早期に捉える新たなバイオマーカーを明らかにしました。

腎臓病の検診や診療においては、古くから尿検査が用いられてきました。しかし既存の尿検査項目では早期発見が困難な疾患も多く存在することが課題とされてきました。本研究グループは、さまざまな臓器や細胞から放出される細胞外小胞(注1)の中でも、尿の中にみられる「尿中細胞外小胞(urinary Extracellular VesiclesuEVs)」に着目し、粒子の形状や蛋白質の発現パターンなどを調べました。その結果、uEVsの特徴を解析することにより尿から腎機能の低下を検出できることが示唆されました。この結果を応用し、uEVsをバイオマーカーとする尿検査法を試行したところ、小児の腎機能低下の診断に有益な方法であることが明らかとなりました。uEVsを用いる検査では、腎組織の変化を非侵襲的に直接捉えることが可能となるため、この検査方法を確立することは、早い段階の治療開始が望まれる小児の腎臓病に対する早期診断、予後の改善につながるものと期待されます。

本研究成果は、日本時間2022年11月9日Cell Press発行の米国科学誌「iScience」のオンライン版に掲載されました。

 

4.発表内容

研究の背景・先行研究における問題点

腎臓病の早期発見を目的として、尿を用いた腎臓検診が幅広い年代で行われています。しかし、既存の尿検査では異常を捉えることが困難な疾患が存在します。例えば小児や若年成人の慢性腎臓病(注2)および末期腎不全の最多原因である先天性腎尿路異常(注3)は、血尿や蛋白尿などでは検出が困難です。またそれらの疾患では、尿を濃縮することが難しく薄い尿(希釈尿)となることも、通常の尿検査により異常を捉えることを困難にしています。一方、血液検査で腎機能を評価することも広く行われていますが、採血が必要であり、さらに血液検査では腎組織の早期の変化をとらえづらい病態も多く存在します。

 

研究内容

血液や尿などの体液中には、さまざまな臓器や細胞から細胞外小胞という細胞膜で包まれた小さな構造物が放出されています。本研究グループは、尿の希釈の影響を受けづらく、また腎臓組織自体の変化を反映すると考えられる「尿中細胞外小胞(urinary Extracellular VesiclesuEVs)」に着目しました。

慢性腎臓病の原因はさまざまですが、原因によらず機能するネフロン(腎単位;注4)が減少を続けると不可逆的な腎機能不全に至ります。そこでその変化をuEVsを用いて捉えることができないか検討しました。

その結果、まず健常児のuEVsはネフロンのさまざまな種類の細胞から分泌されていることがわかりました。次に小児の慢性腎臓病患者と健常児のuEVsについて、物理的な特徴と蛋白質の発現(プロテオーム;注5)を比較しました。粒子の特徴としては、腎機能が低下した患者ではuEVsの大きさが変化することがわかりました。そして、先天的に腎臓のネフロン数が減少している低形成腎という疾患の患者で、蛋白質の発現パターンに特徴的な変化があることを見出しました。さらに、この発現パターンの変化を利用すると、さまざまな腎疾患の患者において、腎機能低下をきたしている症例を検出することができました。すなわち、uEVsの特徴を解析することで、尿のみを用いて腎機能の低下を検出できる可能性が示唆されました。

そこでこれらの結果を応用して、uEVs中の特徴的な変化のうち、複数の分子の発現量を簡易的に測定するシステム(尿検査法プロトタイプ)を作成しました。実際にこの方法で検査したところ、小児における腎機能低下の診断に有用であることがわかりました(図1)。uEVsを用いた検査法は、従来の尿検査や血液検査に加え、腎組織の変化を直接捉えることができる新しい検査方法として期待されます。

 

社会的意義・今後の予定

本研究から、uEVsの変化が既存の検査法では検出できなかった腎臓の変化を捉えることができること、またウイルスの抗体検査などでも用いられている簡便なELISA(注6)という方法への応用が可能であることが明らかになりました。

小児と成人では慢性腎臓病の原因も大きく異なります。小児では先天的要因の影響をより大きく受けますが、早期に治療を開始することにより末期腎不全に進行する速度を遅延させる効果があることが知られています。今後、uEVsを用いた方法を検査法として確立することにより、腎臓病の早期診断、予後の改善につながるものと考えられます。

さらにこの手法は、後天的なさまざまな疾患による腎組織変化を捉える方法の開発にもつながると期待されます。

 

<研究支援>

本研究は、国立研究開発法人日本医療研究開発機構(AMED)の橋渡し研究戦略的推進プログラム シーズA「腎機能障害を検出する新規尿検査プロトタイプの開発(代表:張田豊、課題番号:JP20lm0203003JP21lm0203003、支援拠点:東京大学拠点)」、橋渡し研究プログラム「腎機能障害を検出する新規尿検査法の開発と応用(代表:張田豊、課題番号:JP22ym0126063、支援拠点:東京大学拠点)」をはじめ、日本学術振興会(JSPS)の科研費「多層的プロテオーム解析による小児先天性腎疾患尿中バイオマーカー開発(代表:張田豊、課題番号:JP16K15523)」、「尿中細胞外小胞の物理的特性に着目した小児腎疾患の病態解析(代表:滝澤慶一、課題番号:JP22K20847)」、東京大学GAPファンド「腎機能障害を検出する新規尿検査法プロトタイプの開発(代表:張田豊)」の支援により実施されました。

 

5.発表雑誌

雑誌名:iScience」(オンライン版:119日)

論文タイトル:Urinary extracellular vesicles signature for diagnosis of kidney disease

著者:Keiichi Takizawa, Koji Ueda, Masahiro Sekiguchi, Eiji Nakano, Tatsuya Nishimura, Yuko Kajiho, Shoichiro Kanda, Kenichiro Miura, Motoshi Hattori, Junya Hashimoto, Yuko Hamasaki, Masataka Hisano, Tae Omori, Takayuki Okamoto, Hirotsugu Kitayama, Naoya Fujita, Hiromi Kuramochi, Takanori Ichiki, Akira Oka, Yutaka Harita*

DOI番号: 10.1016/j.isci.2022.105416

 

6.用語解説

(注1 細胞外小胞

細胞から分泌される脂質二重膜構造を有する構造物です。大きさ(直径40nm~数μm)、電荷などさまざまな特徴をもつ小胞があります。小胞にはそれらが由来する細胞に発現しているさまざまな蛋白質や核酸が含まれています。

(注2 慢性腎臓病

慢性に経過する腎臓病であり、具体的には腎臓の障害もしくは腎機能低下が3か月以上持続する状態を指します。

(注3 先天性腎尿路異常

腎臓、尿の通り道である尿管、膀胱、尿道をまとめて腎尿路とよび、それらに先天的な形の異常がある場合を示します。小児期の慢性腎臓病の原因として最も頻度が高い疾患です。

(注4 ネフロン

糸球体で血液から原尿がつくられ、それが尿細管という管を通ることで最終的な尿が作られます。ネフロンはこの尿の通り道の構造単位であり、糸球体とよばれる毛細血管のかたまりとそれを包む部分(ボウマン嚢)、そして尿細管からなります。一つの腎臓にはネフロンが約100万個あります。

(注5 プロテオーム

生体に発現する全ての蛋白質一式を表します。

(注6 ELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)

溶液中に含まれる目的の蛋白質を抗原抗体反応により捕捉するとともに、酵素反応を利用して検出・定量する方法です。本研究ではELISAを用いてuEVsのバイオマーカーの定量化が可能であることを確認しました。

 

7.添付資料

 

fig

 

プレスリリース本文:PDFファイル

iScience:https://www.cell.com/iscience/fulltext/S2589-0042(22)01688-1