foe__

 

RGB-05

 

title3

 

                  

 

東京大学工学系研究科のアウトリーチ活動のひとつである「東大テクノサイエンスカフェ」。
今回は高校生限定企画として、「化学」「生命」「物理」の3分野・6研究室にご協力を頂き、
「最先端の化学・生命・物理の研究を体験してみよう!」と題して、各研究室でワークショップを開催いたしました。

その模様をレポートいたします。

 

当日の実験テーマ・研究内容


4年ぶりに対面での開催となった「第34回テクノサイエンスカフェ」。今回は高校生対象とした、化学・生命・物理の分野から6つの研究室に協力していただき、研究室ワークショップを企画しました。夏休み期間中の開催ということもあり、北海道から山口県まで、日本全国から「工学」に興味のある高校生が参加してくれました。

各研究室に分かれて実験を行う前に、まず参加者全体での合同オリエンテーションを行いました。オリエンテーションでは参加者に向けて、各研究室から今回行う実験内容を交えた「研究室紹介」をしていただきました。

6つの研究室は「東京大学大学院工学系研究科」の中にある研究室ですが、どこもオリジナリティ溢れる研究を行っています。参加する高校生たちに、各研究室の主分野となる最先端の化学や生命分野、物理の世界に深い興味を持ってもらうこと、それと同時に「工学」と一言でくくってしまうのはもったいないほど、工学系研究科にはたくさんの器(研究)があるということを知ってもらいたいとの思いから、このオリエンテーションを企画しました。

オリエンテーションを終えた後は、参加者は各研究室へ移動し、それぞれの研究・実験に参加しました。ここでも興味を深める時間を過ごせたのではないかと思います。

参加した高校生たちにとって、この「テクノサイエンスカフェ」での体験が具体的な進路選択のビジョンを描けるきっかけの一つになれば、こんなにうれしいことはありません。

今後も工学系の魅力を繰り返し伝えていける内容に発展させていければと思います。

  • 主催  東京大学大学院工学系研究科・メタバース工学部 
  • 後援  ボーイング 
  • 会期  2023年8月5日(土) 13:00~ 
  • 会場  工学部11号館HASEKO-KUMA HALLおよび各研究室 
  • 対象  高校生36名 
  • 参加費 無料

今回の研究内容・参加研究室の詳細はこちら

h-001-1
まずは参加者全員、工学部11号館にあるHASEKO-KUMA HALLに集合。合同オリエンテーションでは、各研究室から参加者に向けて、具体的に研究内容や、今回行う実験内容を紹介していただきました。
h-002

オリエンテーションの進行役および写真をご担当いただいた化学生命工学専攻 特任准教授 相川 光介 先生。

h-a01
「化学」をご担当いただいた加藤研究室。化学生命工学専攻助教 坂本 健 先生。
h-b01
「化学」をご担当いただいたフッ素有機化学研究室および分子界面工学研究室からは化学生命工学専攻 特任教授 川口 大輔 先生(フッ素有機化学研究室)。
h-c01
「生命」をご担当いただいた岡本研究室からは、化学生命工学専攻 助教 古畑 隆史 先生。
h-d01
「生命」をご担当いただいた神経細胞生物学研究室からは、化学生命工学専攻 准教授 平林 祐介 先生。壷井 將史 助教にも色々とご尽力いただきました。
h-e01
「物理」をご担当いただいた先端加工学研究室から、機械工学専攻 講師 伊藤 佑介 先生。
h-f01
「物理」をご担当いただいた中尾・長藤・趙・木崎研究室 機械工学専攻 講師 木崎 通 先生。

 A  光と相互作用する高分子機能素材をつくろう 

   加藤研究室      化学生命工学専攻 福島 和樹 准教授、坂本 健 助教、内田 淳也 助教

kagaku04

化学生命工学専攻 加藤 隆史 教授の研究室では、「光と相互作用する高分子機能素材をつくろう」というテーマでワークショップを行い、6名の高校生が参加しました。実験の前に、加藤 隆史 研究室の坂本 健 助教が今回の実験で用いる液晶に関する講義を行いました。高分子機能素材に関連する「液晶」の世界についての解説の講義を行いました。高校生にとって「液晶」は馴染みのない言葉だったと思いますが、テレビや携帯のディスプレイ、強い繊維やフィルムなど身の回りのさまざまなところで活躍しています。慣れないながらも、楽しみながら一生懸命に理解しようとする生徒たちの前向きな姿勢を感じました。

講義が終わると実験室に移動し、実験を開始しました。まず、ミクロな「液晶」の構造をみることができる偏光顕微鏡観察を行うために代表的な液晶分子の調製を行いました。分子サンプルの乾燥を行うにはエバポレーターという機器を用いますが、生徒たちは見慣れない機器に驚いている様子でした。サンプルの乾燥を待つ間に、「液晶」のもつ秩序構造に由来した構造色を示す高分子機能素材の作製を体験してもらいました。生徒たちは粘性の高い材料を混ぜるのに苦労していましたが、構造色が見えるとその鮮やかな色を楽しんでもらえたようです。

最後に、偏光顕微鏡を用いて液晶分子を観察してもらいました。温度によって、様々な美しい模様を示す液晶分子の挙動に驚いていました。今回のワークショップをきっかけに、工学や化学という学問分野に興味をもって、高校生の進路選択の助けになることができたなら幸いです。

(三上 喬弘:化学生命工学専攻 D1)

A-01
A-03
A-02
A-04
A-05

参加者のコメント

いつも学校では体験できない実験などを見ることができ、大変嬉しかったです。 
普段できないような本格的な実験を体験することが出来て新鮮だった。またこのような機会があったら是非やってみたいと思った。

 B  フッ素の力を体験してみよう

    フッ素有機化学研究室   化学生命工学専攻 川口 大輔 特任教授

    分子界面工学研究室      化学生命工学専攻 伊藤 喜光 准教授

kagaku04

化学生命工学科のフッ素有機化学、分子界面工学研究室の合同グループ(担当:川口 大輔 特任教授、伊藤 喜光 准教授)では「フッ素の力を体験してみよう」というテーマで実施しました。
参加した高校生たちは、フッ素系材料の性質や測定原理についての講義を受けた後、実際にフッ素系ポリマーの成膜と接触角の測定を行いました。そのあと、両研究室の見学を行い実験設備や測定機器の説明を受けました。

フッ素がどのような性質を持っているか、またその性質をどのように測定するかについて学び、フッ素系ポリマーの成膜と撥水・撥油性(どれだけ水や油を弾くか)の測定を実際に行いました。
フッ素系ポリマーを溶かした溶液を薄く伸ばし膜を作成しました。その後、作成したフッ素系ポリマーの膜と比較対象であるポリスチレン、ポリエチレンテレフタラート、シリコンウェハーの撥水・撥油性を測定しました。比較対象に比べて、フッ素系ポリマーは高い撥水・撥油性を持つことを数値で確かめることができました。最後にフッ素系ポリマー表面が撥水性・撥油性を示す要因について考察しました。なぜフッ素系ポリマーが撥水・撥油性を示すのかは未だに解明されていない部分もあり、その面白い性質に触れることで、化学の奥深さや大学での研究内容について理解を深める機会となったことでしょう。

研究室見学では、実験装置や測定機器を近くで見て回りました。大学の研究環境についてより明確なイメージを持ってもらえたのではないかと思います。

(赤松 美里:化学生命工学専攻 M1)

B001
B002
B005
B003
B004

参加者のコメント

高校では扱わないような実験器具を使って、実験出来たので楽しく、面白かった。実際に大学の研究室をみれたのは、貴重な体験でした。
普段は入ることができない研究室や実験を見学することができ、とても有意義な時間だった。大学について身近に知ることができとても楽しかった。

 C  体を守る分子の働きをスナップショットで捉えてみよう

    岡本研究室   化学生命工学専攻 古畑 隆史 助教

seimei04

我々岡本研究室では生命を題材として、「体を守る分子の働きをスナップショットで捉えてみよう」というタイトルで参加しました。
岡本研究室では、近年タンパク質分解が医薬品業界で次世代の創薬技術として大きな注目を集めていることから、タンパク質を分解する原理について着目し、タンパク質分解において重要とされるユビキチンおよび、タンパク質分解経路を決定づけるシャトル因子と呼ばれるタンパク質を用いたタンパク質-タンパク質相互作用に関する実験および評価を、実際に高校生に行ってもらいました。高校の授業では普段使わないような実験器具や装置を使うことが多かったため、苦戦しながらも楽しんで実験を行っていることが伝わってきました。

最後に、岡本研究室の古畑助教授がタンパク質基礎化学やタンパク質分解に関する講義を行いました。

今回のイベントは高校生たちにとって、化学と生命の両方の素晴らしさを知る貴重な経験となり、今後のモチベーションにつながる大きな機会になったと思います。

(宇野 大輝:化学生命工学専攻 D1)

C-001
C-002
C-003
C-004
C-005

参加者のコメント

まず、実際の研究室に入ってピペットをはじめとする様々な機器に触れ、自分の手で実験に参加することが出来たということが新鮮でとても良い経験ができたと思います。機器の扱いも難しいなと感じたのが強く印象に残っています。残念ながら実験が長引いてしまって結果をみることはできませんでしたが、それも実際の研究につきものだというふうにも捉えられたので本当に実際の研究室での体験ができたと思います。担当の先生以外の講義の説明を聞いて、もっと自分が勉強したい分野も広がりましたし、もちろん担当の先生とお話しさせていただいて、一つの分野を極めることの面白さを感じることができました。 
実際に使用されている研究室で、本物の研究者のするようなことさせていただけてとても楽しかったです。先生方もとても親切にしてくださって居心地の良い研究室でした。また是非機会があったら期待です。

 D  神経ネットワークの刺激を体験してみよう

    神経細胞生物学研究室   化学生命工学専攻 平林 祐介 准教授 壷井 將史 助教

seimei04

神経細胞生物学研究室では、カルシウムセンサーおよびグルタミン酸センサーを導入した神経細胞内での刺激応答を観察してもらいました。高速撮影可能な蛍光顕微鏡を活用し、神経細胞がガラスプレート上で形成する複雑な神経回路や、電気刺激・化学刺激に対する神経細胞の異なる応答の様子をリアルタイムで観察しました。神経活動の素早い伝播や、教科書に描かれているものとは全く異なった細胞内小器官の形態に、参加者も驚いているようでした。
さらに、免疫染色したマウスの脳切片を、共焦点顕微鏡を用いて観察しました。この観察により、神経細胞の軸索が脳の片側から束状にまとまり、脳梁を通って反対側へ伸展している様子を捉えることができました。

ガラスプレート上での神経細胞回路形成と実際のマウス脳内での軸索伸長という今回の二つの観察が、生命現象や生物学に対して興味をさらに深めていただくきっかけとなればと思います。

(石山 智香:化学生命工学専攻 M1)

D-001
D-002
D-003
D-004
D-005

参加者のコメント

  聞いた事のない単語が沢山出てきたり、ニューロンの役割や脳の構造を理解できたので、とても楽しかった。 
  自身の知識のなさを痛感するとともに、神経の興味深さ、面白さ、と言ったことを体験することができた。また、学生の方々や教授自身の話から学ぶことも多く、とても有意義な時間を過ごせた。

 E  光の速さを体験してみよう

    先端加工学研究室   機械工学専攻 伊藤 佑介 講師

butsuri04

機械工学専攻の伊藤 佑介 講師による「光の速さを体験してみよう」では、高校1年生から3年生の6名が参加してくれました。
参加者はまず専用の白衣と靴を着用してクリーンルームに入り、自己紹介をしました。その後の講義では、伊藤先生に実験に使うフェムト秒レーザがどんなものであるか、やポンププローブ法という超高速イメージング手法の説明をしてもらいました。みなさん興味深そうに聞いており、レーザ加工やフェムト秒間で光が進む距離といった非日常的な話題に対して疑問をぶつけてくれました。

そのままの流れで、フェムト秒レーザと特殊な結晶を用いた光の波長変換の実験へ。通常は目に見えない赤外の光が目に見える光に変化する様子を観察しました。その後、同じレーザをサファイアに当てることで白色光発生を行いました。休憩をはさんで、先ほどとは別のフェムト秒レーザを用いた超高速イメージングの実験へ。まず撮影用のレーザの通り道にあるミラーを動かしてカメラにうまく映るような調整をしました。タイミング同期システムを使ってフェムト秒レーザ加工の様子を撮影しました。自動ステージを動かすことで光の遅延時間を制御し、加工が光の速さで進展していく様子を見ることができました。実験の傍ら、器具の使い方だけでなく実験結果の背景にある理論といった踏み込んだところまで聞いてくれる参加者もいました。

積極的に質問をしてくれる高校生が多く、終始楽しい雰囲気で進めることができました。議論が盛り上がって想定していた内容をすべて実施することはできませんでしたが、非常に楽しんでもらえたと思います。

(福井 智大:機械工学専攻 M1)

このイベントでは、波長変換、白色光発生、プラズマ生成といった実験を通じて、光に関する理解を深めました。またポンププローブ法の実験で、参加した高校生たちは自らミラーやステージを操作して光材料の中で進む過程と速さを実感しました。このような実験を通じて、光が物質内でどのように振る舞うのか、そしてその速さについての洞察を得られたと思います。参加者たちは興味津々で大学での勉学や研究についても、いろいろ質問してくれました。今回のイベントを通して、参加者たちは実際の実験を通じて光の性質を体験し、理論だけでは得難い知識を得られたと思います。

(鄭 勤如:機械工学専攻 D1)

E-0001
E-002
E-003
E-004
E-005

参加者のコメント

  緑の光のエネルギーが赤の光のエネルギーに移り変わるということが面白かった。初めてのことが多く緊張しながらも、伊藤先生やTAの方たちにさまざまななことを教えていただけるいい機会だった。工学について今まで知識がなかったが、試行錯誤しながらの実験をしながら、技術としての応用を求めていく過程が面白いと思えた。  
  実験について、フェムト秒オーダで時間分解する技術について不思議だったが、それは光を利用しての距離差時間差をコントロールする工夫であったことを学び、感動した。親切な先生とTAのおかげで現象理解を深められた。研究室の雰囲気やTAの研究について聞いて工学を実感できたように思う。

 F  マザーマシンによる超精密加工を体験しよう

   中尾・長藤・趙・木崎研究室   機械工学専攻 木崎 通 講師

butsuri04

中尾・長藤・趙・木崎研究室では、木崎 通 講師による「マザーマシンによる超精密加工を体験しよう」というテーマで開催しました。参加した高校生たちは、研究室がいつも使っている作業室で「旋盤加工」と「振動解析」についての講義や実験を行いました。

前半では、旋盤加工の工程について説明を受けたのち、実際に旋盤加工を自分たちで行った後、マシニングセンタ(OKK製)を使ったネームプレートの精密加工を体験しました。

後半の振動解析体験では、振動可視化実験(EMA)を行いました。振動を可視化するために行うハンマリング(自らハンマーで振動を与えて、その様子を可視化する)体験では、ハンマリングを上手に行うことが意外に難しく、エラーを出しながらも、実験を行う楽しさと地道な作業の積み重ねを行う大切さを理解してもらえたかと思います。また、この実験で可視化することの意味や重要性も実感できる機会となったのではないでしょうか。

参加した高校生からも活発な意見や疑問を投げかけてもらったりすることもあり、研究室にとっても楽しく有意義な時間を過ごすことができました。

F-005
F-003
F-004
F-001
F-002

参加者のコメント

  実際に自分の目で見て体験することが出来て良かったです。理解も問題点の想像もとてもしやすかったです。また直接超精密加工に関する色々なお話を聞くことができとてもためになりました。 
  実際に大学生と話すことができて、勉強になったし、雰囲気もわかって良かった。