発表のポイント
◆ さまざまな気候変動リスクの中で、生鮮食品供給リスク、特に食品腐敗や食中毒病原菌由来のリスクについては、これまで検討が不十分であったことを確認しました。高温化による健康影響のさまざまな経路
概要
東京大学大学院工学系研究科のロン イン准教授と吉田 好邦教授、未来ビジョン研究センターの梶川 裕矢教授らは、高温が食品供給チェーンと健康リスクに及ぼす不均一かつ広範囲な影響を明らかにしました。気候変動による極端な温度変化は今後、食品の腐敗を加速し、食中毒リスクを増大させる可能性があります。
本研究では、食品安全管理データを用いたコールドチェーン（注1）技術の重要性に着目し、生鮮食品供給が有する脆弱性と冷蔵物流における問題に焦点を当て、高温化による健康リスクへの影響を詳細に議論しました。この研究成果は、気候変動下における安全で健康的な食品供給の強化、特に、低所得層や高齢者などの脆弱な集団の健康リスク軽減に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は、2024年10月23日（英国夏時間）に英国科学誌「Nature Climate Change」に掲載されました。
発表内容
これまでの研究では、夏季の高温による農産品の生育不良や、生鮮食品の供給不足に与える影響が議論されてきましたが、ロジスティックスに焦点をあてた研究は多くありませんでした。しかし、食品供給の管理やモニタリング、特にコールドチェーンが適切に維持されない場合、食品の鮮度が保たれず、消費者に届くまでの間に食品が腐敗するリスクが高まることが懸念されます。このこれまで見過ごされてきた食品供給・健康リスクは、とりわけ低所得層や高齢者、小さな子供などの社会的に脆弱な集団の健康リスクに対して特に大きな影響があります。
本研究では、気候変動による極端な高温が食品供給に与える影響をより深く理解するため、異常高温時における食品の腐敗率や病原体の繁殖リスクが、どのように食品供給システム全体に影響を及ぼすかを論じました。特に気候弱者とされる集団に及ぼす不均一な影響がさらに明らかになり、冷蔵物流プロセスのモニタリングや管理などの総合的な食品安全対策の強化が不可欠であることを提唱しました（図1）。
また、経済的に厳しい状況に置かれている人々や、年齢や健康状態によって免疫力が低下している高齢者などに対して、異常高温による食中毒や健康リスクの増大を軽減するための対策が必要となることを提起しました。本研究は、今後の社会における食品供給システムの改善や、政策立案、新たな技術開発や社会実装に役立つことが期待されます。
図1：極端な高温が食品システムと食生活の健康に与える影響、および適応策
発表者・研究者等情報
東京大学
大学院工学系研究科
ロン イン 准教授
吉田 好邦 教授
未来ビジョン研究センター
梶川 裕矢 教授
論文情報
雑誌名：Nature Climate Change
題 名：Extreme heat disproportionately exacerbates health issues by threatening fresh food supply
著者名：Yin Long*, Yoshikuni Yoshida, Yuya Kajikawa
DOI：10.1038/s41558-024-02172-2
URL：https://www.nature.com/articles/s41558-024-02172-2
研究助成
本研究は、科研費基盤研究（B）「気候変動に対応した環境と健康を両立する持続可能な食生活の提案」（課題番号：JP24K03146）、科研費基盤研究（C）「家庭の世帯属性と人口動態を考慮した2050年カーボンニュートラル実現の道筋」（課題番号：JP23K11542）の支援により実施されました。
用語解説
（注1）コールドチェーン：
コールドチェーンとは、食品や医薬品などの温度管理が必要な製品を、製造から消費者に届くまでの間、一定の低温で保つための物流システムを指します。これにより、品質保持や安全性の確保が可能となり、特に鮮度が求められる生鮮食品やワクチンなどの輸送において重要な役割を果たします。
プレスリリース本文：PDFファイル
Nature Climate Change：https://www.nature.com/articles/s41558-024-02172-2