プレスリリース

<ソフトウェア無線ボード活用の5Gミリ波基地局開発> ―ソフトウェア無線技術を用いたローカル5Gミリ波基地局を開発し、市販5G端末との通信を実現―

作成者: Public Relations Office|May 22, 2025 5:00:00 AM

発表のポイント

◆SDR+ミリ波モジュールでローカル5Gミリ波対応基地局を実現しました。
◆市販のローカル5Gミリ波対応端末との通信を高速なスループット特性で実現しました。
◆小型、低価格のローカル5Gミリ波基地局の実現が期待され、ミリ波を利用しやすい環境への貢献が期待されます。

本実験における通信評価環境(イメージ)

 

概要

国立大学法人東京大学大学院工学系研究科(所在地:東京都文京区、研究科長 加藤 泰浩、同研究科中尾研究室教授 中尾 彰宏、以下「東京大学」)、株式会社村田製作所(本社:京都府長岡京市、代表取締役社長 中島 規巨、以下「村田製作所」)は両者間の共同研究契約に基づき、2025522日、ソフトウェア無線技術(注1)、以下「SDR」とミリ波通信モジュール(注2)を組み合わせたローカル5Gミリ波基地局(図1)を開発し、市販のローカル5Gミリ波対応端末との通信に成功しました。本システムの評価では、バンドn257 (帯域幅100MHz)を用いて下り(ダウンリンク)で300Mbps、上り(アップリンク)で70Mbpsのスループット性能を確認しました。また、ミリ波通信で必須とされるビームフォーミング機能(注3)を用いたビーム角度変更時の評価においても、実用に耐えうるスループット性能を確認しました。今後は動的にビーム角度を制御するソフトウェアを導入し、小型で安価なミリ波対応基地局の実現を目指します。

 

図1:SDRとミリ波モジュールを組み合わせた5Gミリ波基地局

 

発表内容

5Gミリ波通信は2020年からサービス開始されていますが、実際の通信での使用率は0.2%と低い状況にとどまっています(注4)。普及が進まない原因としては、基地局の設置数が十分でなく使用可能エリアが狭いこと、ミリ波に対応した5G端末がまだ少ないことが挙げられます。

ミリ波は電波が届きにくい特性を持つため、基地局が十分に設置されていない現状では、対応端末が普及していたとしても実際の利用が拡大しない状況にあります。また、従来の5Gミリ波対応基地局は大型かつ高価であり、多数を配置するにはコスト面での課題がありました。

東京大学中尾研究室では、これまでSDRを活用した小型ローカル5G基地局を開発していましたが、対応周波数帯はSub6に限定され、ミリ波には未対応でした。一方、村田製作所はミリ波帯に対応した通信モジュールを開発していたものの、基地局としての性能評価は行われて居ませんでした。そこで両者は共同研究契約を締結し、ミリ波基地局の実現に向けた共同評価を推進しています。(図2

 

〈今回の成果〉

SDRとミリ波モジュールを組み合わせたローカル5Gミリ波基地局を実現

バンドn257100MHz帯域幅)を用いた評価で、下り(ダウンリンク)300Mbps、上り(アップリンク)70Mbpsの良好なスループット性能を確認しました。今回使用したSDR100MHz帯域幅まで対応可能ですが、将来的に400MHz帯域幅に対応した機器を用いれば、5Gミリ波の最大帯域幅400MHzのチャンネルで、下り1.2Gbpsという高スループットの実現が期待できます。

 

図2:東京都立産業技術研究センターの電波暗室内(8.6m×4.3m)で実通信評価をしたときの状況

 

・市販のローカル5Gミリ波対応端末(UE)との接続を確認

複数のローカル5Gミリ波対応UESamsung Galaxy S22、京セラK5G-C-100ANETGEAR MR6550で確認)とミリ波接続を検証し、いずれの端末でも良好なスループット性能が得られることを確認しました。

 

・ビームフォーミング機能を活用した実証評価

ミリ波通信に不可欠なビームフォーミング技術を用い、水平方向・垂直方向に実際にビームを調整し、主要な通信指標データ(RSRPSINRRSRQCQIMCSBLER、スループット)を取得しました。(図3

 

図3:水平方向、垂直方向にビーム角度を振ったときの通信指標データの変化(ヒートマップ表示)

 

・水平方向・垂直方向のビーム切り替え評価 

ビームフォーミング評価の結果、±20度以内のビーム角度変更ではビーム境界でも約100Mbps以上のスループットを維持することが確認できました。この結果から、ビーム制御の頻度を少なくした簡易的なビーム切り替え設定でも実用的に利用可能であることを確認しました。

 

TDDTime Division Duplex時分割複信)動作の実証

ビームフォーミング評価では2台のミリ波モジュールを用いましたが、1台のミリ波モジュールによるTDD動作でも良好な性能を確認しました。TDD評価では、バンドn257100MHz帯域幅)で下り270Mbps、上り 30Mbpsのスループット性能を確認しています。

 

〈今後の予定〉

これまでの評価において、ミリ波通信および静的なビーム調整による評価は実施しましたが、今後、基地局と端末間の動的なビーム角度制御を開発予定です。また、本研究における評価で得られたビームフォーミング設定の知見を基地局側の制御ソフトウェアに統合し、動的なビーム角度制御を可能とした実用的なローカル5Gミリ波基地局の実現を目指します。これにより、小型で安価なローカル5Gミリ波対応基地局の普及が期待されます。

 

発表者・研究者等情報

東京大学 大学院工学系研究科

 中尾 彰宏 教授

 

株式会社村田製作所 技術・事業開発本部

谷口 弘

 

研究助成
本研究は、村田製作所との共同研究契約に基づき実施されました。

また、電波暗室での実験は、東京都立産業技術研究センター サービスロボット用電波暗室にて行われました。

 

用語解説

(注1)ソフトウェア無線技術:無線通信システムの機能をハードウェアは変更せずに、ソフトウェアを使用して柔軟にカスタマイズ可能な技術。

 

(注2)ミリ波通信モジュール:概ね24GHzを超える周波数で通信機能を持たせる小型の電子部品。

(注3)ビームフォーミング機能:信号の位相を制御することで信号のビーム方向を変える技術。

(注4)総務省、5Gビジネスデザインワーキンググループ(第3回)配布資料を参照。

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル