2014年度(平成26年度)工学部 Best Teaching Award
工学部では講義FD(Faculty Development)の一環として、卓越した指導力で教育効果の高い授業を実践した者、教育方法の工夫又は改善に取り組み顕著な教育効果を実践した者を対象に、各学科からの推薦に基づき、Best Teaching Awardにふさわしいと認められる教員及び講義科目の審査を行ってきました。工学部表彰委員会の審査において、工学部学生による全科目の「工学部共通授業評価アンケート」の評点に基づいた講義水準評価結果を下敷きに、過去3年間の評点経年変化による講義方法の具体的な改善効果や、シラバスの内容などについても議論を重ねた結果、以下の表に示す教員と講義科目について、東京大学工学部Best Teaching Awardを授与することを決定しました。
工学部では教育水準向上に向けて、講義FDの継続的な取り組みを進めていくことにしています。(工学系研究科 企画委員会)
2014年度(平成26年度)受賞者 職名は受賞当時のもの
社会基盤学科 石田 哲也 教授 基礎プロジェクトⅡ
石田哲也教授は、従来のオーソドックスなコンクリート工学実験と、会社経営シミュレーションおよびロールプレイング型演習を組み合わせた新しい講義を2005 年より立ち上げ、マネジメント能力とエンジニアリングセンスの両者に関する高い教育効果を上げている。社会基盤学科では受動的座学系科目に重きをおいたカリキュラム体系から、能動的演習科目系科目の拡充へと舵を切ってから10 年弱が経過するが、候補者の担当する「基礎プロジェクトII 」はその先鞭をつけたものである。社会基盤整備に関わる設計・積算・契約・施工・竣工検査というー連のプロセスを講義の中で経験し、コンクリート工学に関わる知識、入札システムの機能、さらに会社の経営や組織のマネジメントについて、受講生自らが主体的に学ぶ優れた教育プログラムであり、石田哲也教授はBest Teaching Awardの受賞に相応しい教員である。
建築学科 藤田 香織 准教授 建築構法特論(他)
藤田香織准教授が主担当である「建築構法特論」は、わが国の木造建築について古代から現在の構造設計の基本的な考え方に至るまでの変遷を構造・構法といった建築技術的観点から論じたものであり、2 、 3 年次に学んだ建築構造や日本建築史などの知識の復習と統合化を意図している。講義では毎回関連する最新の実験結果や実験中の動画、関連のビデオなどを用いて理解の促進を図っている。成績は毎回講義後に課す簡単なレポート、学期の中間で課す模型製作、および学期末のレポートにより総合的に採点している。中でも中間で課している模型は、木材(パルサ棒)で接合部(継手仕口)を製作するというものであり、毎年独創性の高い製作物が提出され、学生の学習効果は高く、優れた教育効果が認められる。
都市工学科 小熊 久美子 講師 環境水質化学
小熊久美子講師は、「環境水質化学」を担当し、授業評価アンケート結果においては、授業の準備・計画、授業における熱意、講義技術などの項目において高い評価を得ており、当該分野の知識や能力の向上に結び付く講義を継続している。具体的な工夫として、講義の最後に小テストを実施し、直後に解答を投影して解説することで、学生自身が自己採点し自分が何を理解していなかったかその場で把握できるようにしている。また、講義だけではなく、教育的な視点から学部生へ生活態度や行動に対する指導にも貢献しており、Best Teaching Awardの受賞に相応しい教員である。
機械工学科 杵淵 郁也 講師 創造設計演習
杵淵郁也講師は、担当する「創造設計演習」において、学生が自身で設計・試作した翼型を性能評価する流体力学演習を構築した。与えられた幾何学的条件(レギュレーション)の下、流体力学の知識とコンピュータシミュレーションの結果を用いて、揚力によって流れに逆らって移動する物体形状を学生自ら考案させ、実際にその翼型物体を試作し、回流水槽中での移動速度を競わせた。学生は、この演習を通して、流体力学に関する知識の補強、シミュレーションの体験、自分で設計したものの評価など、講義だけでは理解が不十分になりがちな機械工学に関する総合的な力を身につけることができる。本演習は内容的にも大変優れ、学生の興味を引き出して教育的効果も高く、杵淵郁也講師はBest Teaching Awardの受賞に相応しい教員である。
機械情報工学科 國吉 康夫 教授 ロボットインテリジェンス
國吉康夫教授は、「ロボットインテリジェンス」を担当し、学生アンケートにおいて、担当教員による講義技術、講義内容への興味や学習意欲の高まり、当該分野に関する知識や能力の習得、に関して高いポイントを獲得している。また、ロボット知能の本質について、生物進化から説き起こし、推論等の高次機能までを独自の新たな体系で論じている。具体例を用いて重要項目を分かりやすく説明し、学習や推論等の重要な技術内容を講義とプログラミング演習課題により、しっかりと身につけさせている。講義資料のWeb 配布、重要な導出過程の板書による丁寧な説明、適時学生に問いかける双方向性等、講義作法もしっかりしており、優れた教育効果が認められる。
航空宇宙工学科 今村 太郎 准教授 航空機力学第一
今村太郎准教授は、学部2 年生(冬学期)を主対象とした講義「航空機力学第一」を担当している。本講義では、航空学入門として、飛行の原理、空気力学、原動機について解説した後に、航空機設計に必要な航空機の性能推算法について学習する。講義では、車や電車のような日常的な乗り物ではない飛行機をより身近に感じるために、毎回講義の最初のスライドで飛行機に関する写真を映し、その飛行機の開発経緯や性能等について説明している。また講義の際には、図表や写真を多く取り入れた講義資料を配布し、重要なテクニカル・タームや性能推算のための数式などを埋め込む形で完成させることにより、板書の負担を軽減し、教員の話に注目できるように工夫しており、優れた教育効果が認められる。
精密工学科 保坂 寛 教授 機械力学Ⅰ
保坂寛教授は、「機械力学Ⅰ」を担当し、過去3年間の精密工学科の講義のうち学生アンケートの評価が最も高く、優れた講義を続けている。機械力学Ⅰは、精密工学における基本的な科目であるため履修者が多く、学科全体への貢献も大きい。本授業の優れる点は、1)講義、演習、試験を細かく繰り返すことで、緊張感を保っている、2) 演習の解答や授業のポイントを学生に説明させるなど、双方向授業を行っている、3) スケジュールと教材が完備している、4) 授業に関係のあるトピックスを入れて、好奇心を喚起している、5) 大学院入試の過去聞を解かせ、学生に自信を持たせている、などであり、保坂教授はBest Teaching Awardの受賞に相応しい教員である。
電子情報工学科 田浦 健次朗 准教授 オペレーティングシステム(他)
田浦健次朗准教授は、電子情報工学科に講師として着任以降、情報、プログラミング関係の教育内容および環境の刷新と充実に取り組み、多大な貢献を果たしている。特に実験・演習の課題への貢献が顕著であり、「オペレーティングシステム」では、 Cプログラミング・デジタル信号処理・ネットワークプログラミングに関して、3年夏学期に実践的な教育を行い、さらに3年冬学期にプログラミング言語処理系を構築するという骨太の課題を実施することで、学科における情報教育の根幹を担ってきた。また、駒場の学生を対象とした全学自由研究ゼミナールにおいては、物理シミュレーションを題材に、情報技術の魅力を伝えることに尽力してきた。合計約400 ページを超えるほどの実験・演習等のオリジナルの教材を自ら執筆してきたことは特筆に値する。 また、ホームページにて、担当する講義も含めて、シラパスをはるかに超えた講義情報、教材を積極的に公開しており、履修前後に大いに役立っている。さらに、これらの実験・演習を可能にするための環境整備として、学生にノートPC を貸し出すことを提案し、機材確保からソフトウェアの更新、故障対応などの管理運営を一手に引き受け、学科全体の教育インフラとして極めて効果的に運用されており、田浦准教授はBest Teaching Awardの受賞に相応しい教員である。
電気電子工学科 杉山 正和 准教授 電子基礎物理
杉山正和准教授は、電気電子工学科および電子情報工学科の大多数の学生が受講する「電子基礎物理」において、デバイス系の学生のみならずエネルギ一系や情報系の学生にとっても興味の持てる基礎素養としての量子力学入門を展開している。量子力学に伴う数学的な複雑さを極力排除しつつも基礎方程式に基づく体系的な解説を行っており、とくに波動性と粒子性の接点、トンネル現象、孤立量子井戸から結合量子井戸を経てバンド理論への導入を行うなど、光・電子デパイスの動作を理解するための基礎としての量子力学を、豊富な実例を交えて解説している。また、LED や太陽電池を用いた実演により量子力学を学生が実感できるよう心掛けている。このような取り組みの結果、とくにデバイス系に進んだ学生からは、標記講義が量子力学の実学的側面に興味を持つ良い契機になったという感想が多数出るなど、優れた教育効果が認められる。
物理工学科 川﨑 雅司 教授 現代物質構造論
川﨑雅司教授は、物質の構造と物性・機能を紐づける学理として、「現代物質構造論」の講義を担当している。学生からの評価が特に高く、講義開始以降3年にわたり、本学科でトップレベルの評価である。本講義では、物理を専門とする本学科学生に化学・電子工学・材料科学の学問体系の概観や最低限の知識と考え方と植え付けるため、特段の準備と工夫を凝らしている。物理の専門家として異分野出身の人材と協業することの重要性とリーダーシップの取り方、またそのための考え方を、発光ダイオード・半導体レーザ・メモリー・ディスプレー・蓄電池など身近な具体デバイスの動作原理を理解する基礎学理(構造化学、化学熱力学、半導体デバイス物理、電気化学、プロセス工学、等)を通して、独自のストーリーを構築して教示している。また、活発な産学連携活動やベンチヤー起業の経験を持ち、物質科学の各分野と基礎から応用に渡る広く深い経験と実績を背景に、リーディング大学院MERIT のコーディネーターを担当している。以上、高い授業評価と学科の教育への献身的貢献から、川﨑教授はBest Teaching Awardの受賞に相応しい教員である。
計数工学科 寒野 善博 准教授 最適化手法
寒野善博准教授は、「最適化手法」を担当し、極めてよく準備・計画された授業を行って高い教育効果をあげ、計数工学科の講義で学生の最も高い評価を得ている。具体的な講義の特色として、簡単な例を各自で練習する機会の用意、アルゴリズムの挙動をMatlabで可視化して直観的に理解できるように解説、実世界での応用についてスライドを使ってイメージをもてるように解説、モデル化法や適切な解法の選択など最適化の使い方にも重点をおいた解説などが挙げられる。また、2013年度は「工学教程・最適化と変分法」の試用版を受講生に配布し、講義中は図などによる直観的な理解に重点を置いて、数学的な厳密さと直観的な理解のバランスをとった。ホームページで授業に連携した資料やプログラムを公開するなどの工夫、補助資料の半分ほどはadvanced topics (=厳密さが気になる学生や、より進んだ内容に興味を持つ学生向けの資料)とする、などの工夫も行っており、優れた教育効果が認められる。
マテリアル工学科 松野 泰也 准教授 マテリアル環境学、環境・基盤マテリアル工学
単独 松野泰也准教授は,「マテリアル環境学」,「環境・基盤マテリアル工学」を担当し,工学部授業評価アンケートでいずれも高い評価を受けている.また,マテリアル工学科が実施する講義科目について過去3年分の工学部授業評価アンケートを集計した結果,教育効果などを図る指標において,松野泰也准教授が最も高かった.また,教養学部で開講している総合科目「モデリングと未来予測入門」も本教員の卓越したアイディアに基づく講義であり, PC を用いた演習科目として人気があり,受講制限をかけるほど履修希望者が多い。これらは,本教員が優れた教育能力を有していることを示しており,Best Teaching Awardの受賞に相応しい教員である.
応用化学科 藤田 誠 教授 有機化学Ⅱ(A)
藤田誠教授は,「有機化学Ⅱ(A)」を担当し,過去数年間にわたり学生から最も評価の高い講義を実施している.通常,板書や教科書の内容を読んだだけでは理解しにくい有機化学の内容を,補助プリントなどを使って視覚的に分かりやすく表現することで,学生がより良く理解できるように努めてきた.また、身振り手振りを含めて,ゆっくりと穏やかな口調で講義を行う姿勢も学生から絶大な支持を得ており,藤田誠教授は,Best Teaching Awardの受賞に相応しい教員である.
化学システム工学科 平尾 雅彦 教授 プロセスシステム工学Ⅱ
平尾雅彦教授は,「プロセスシステム工学Ⅱ」を担当し,化学プロセスの設計を例として設計対象をモデル化し,計算機でシミュレーションを行い,最適化する手法の習得,それを通した問題解決までの考え方の習得を目指している.平尾教授は非常勤講師としての担当を含め20 年以上当該科目を担当し,常に履修者から高い評価を得てきた.講義は,日本語で行われるが,すべて英文で記述された演習課題を読み取り,学生からの自発的質疑によって問題を理解するために使われる.プログラミングと分析はすべて宿題となり,翌週の講義前日夕方までにレポートとして提出させ,当日のうちに採点して翌日の講義で一人一人にコメントしながら返却している.レポートは英語で記述することを推奨しており,例年半数程度の学生が英語で作成し,英語の記述についても指導している.演習課題は,反応器単体,分離器との結合,プロセス全体というように,要素からシステムに発展するように工夫して構成されており,実践的課題による実習によって,プロセス設計に必要な知識を習得させている.平尾教授の講義とレポートによるインタラクティブな教育手法は独自であり,かつ履修学生の満足度が最も高い科目となっており,Best Teaching Award に相応しい。
化学生命工学科 吉尾 正史 准教授 有機化学Ⅱ(B)
化学生命工学科では有機化学と生命工学の融合による「新物質・新機能の創造」を目指して教育,研究を進めている.吉尾正史准教授は,学部生の有機化学分野の教育,特に基礎から応用に繋がり,有機化学の系統的な理解に極めて重要な「有機化学Ⅱ」の講義を3 年間にわたって担当してきた.講義で学んだ知識を理解させ身につけさせるために,基礎から応用にわたる系統的に精選された演習問題を宿題に課し,学生に自身で考えさせるなど,卓越した指導力で講義を実践してきた.これは,工学部授業評価アンケートで,「この授業は,あなたにとって将来役に立つと思いましたか?」という評価項目において極めて高い評価を受講学生から得ていることからも明らかである.このように,吉尾准教授は「有機化学Ⅱ」 の授業において、卓越した指導力で教育効果の高い授業を実践しており,工学部Best Teaching Award に相応しい.
システム創成学科 上坂 充 教授 原子炉ビーム実習
上坂充教授は,システム創成学科3 年生の実習科目として長年実施されてきた「原子炉ビーム実習」を担当している.東海キャンパス(原子力専攻)にて大型原子力実験施設を使って,比例計数管の作成とX線・β 線の測定実験,線形加速器(ライナック)極短電子パルス計測とパルスラジオリシス実験,イオンビーム照射による原子炉材料の照射損傷実験を行わせ,放射線の発生と計測と利用の基礎を学ばせている.演習に先行して「放射線と環境」の講義により実験演習テキストの配布・予習を行わせ,その後RI センターでの実習の履修をもって法規による放射線作業従事者認定を行う形で進められている.装置の運転・データ取得時に様々な課題に対する考察をさせると共に,東海地区原子力関係の大型施設の見学も実施し,指導法を工夫している.これらにより,履修学生の評価も極めて高く,優れた教育効果が認められる.