工学部広報室のTA Ttime! が「工学部長賞」を受賞した学生たちにインタビュー。
今回は、情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻、情報システム工学研究室に所属の修士1年生、井上 信多郎さんを取材させていただきました。「まだ見ぬロボットを開発する」というロマンあふれる研究内容について沢山伺うことができました。最後には高校生へのメッセージもいただいたので是非ご覧ください!
――よろしくおねがいします。まずは、機械情報工学科を選んだ理由を教えてください。
シンプルにロボットが好きだからです。僕は、中学から大学までロボコン(ロボットコンテスト)に取り組んできて、ロボットを作って動かすことに心から惹かれてきた人間です。ロボットはハードとソフトの二つに大きく分けられ、ハードが機械、ソフトが情報とするならば、「機械情報工学科」とはまさしくロボットを学べる学科だと思い、この学科を選びました。
――ロボットへの情熱から今の進路を選択されたのですね。それでは、研究内容について教えてください。
『まだこの世にないロボット』を作る研究です。環境に接続できるワイヤ駆動ロボットというものを作っています。これは周囲の木やビルなどの環境にワイヤで接続し、その張力を利用して移動できるロボットです。具体的には『CubiX』という立方体型のロボットで、最大8本のワイヤを巻き取ることができます。ワイヤの先にはドローンがついており、例えば木の枝に向かって飛んで行ってワイヤを巻き付け、CubiXが引っ張ると環境に接続される仕組みです。
↑ドローンを使ってワイヤで木に接続した『CubiX』。ワイヤを巻き取ることで、空間を自在に移動できる。
――『環境に接続できる、ワイヤ駆動ロボット』、初めてお聞きしました!CubiXは、具体的にどのような使い方が期待できるのでしょうか?
1本のワイヤを真上に接続すれば、上下に動くエレベーターのような動きが可能で、複数のワイヤを張ることで空間を自由に動けます。さらに、CubiXの下に道具を付けることで、様々な役割を持たせることができるんです。例えば、テーブルや台車を装着すれば物を運ぶことができますし、4脚ロボットを組み合わせるとその脚を『腕』として利用し、物体の操作が可能になるんです。
――ロボット同士を組み合わせることもできるとは考えたこともありませんでした!
多くのロボットは特定の用途のために設計されています。例えば、工場で使われるロボットアームやレストランの配膳ロボットなどです。しかし、僕が目指すロボットは用途に合わせて能力を変えられるロボットです。いろんな能力を得て、どんどん自分の能力を変えながらいろんなタスクができるロボットになることを願って作っています。
――後から能力を変えられることで、まだ見ぬ活用方法が広がりそうですね!
改めて、工学部長賞を受賞された研究内容を教えてください。
先ほど説明したCubiXの内容に加え、「自主プロジェクト演習」という授業で作った新海 誠監督の映画『すずめの戸締まり』に登場するキャラクターを再現したロボットの内容も含まれています。映画に椅子のキャラクターが登場するのですが、4本足の椅子だったものが物語の中で1脚欠けてしまい、3本足の不安定な構造を持つ身体として動きます。最初はあんまりうまく動けなかったのが、どんどん歩いて、走れるようになって……と成長する様子をロボットとして再現しました。このロボットには3本足の椅子の構造を採用し、歩行方法は強化学習を活用してシミュレーションを繰り返すことで習得させました。シミュレーション内で何千、何万回もランダムに動かし、うまく歩行できた場合に報酬を与える仕組みです。こうしてロボットに不安定な身体でも歩き方や転んでも起き上がる動作を学ばせ、成長する姿を表現しました。
――成長する姿を表現するというのは、映画やキャラクターに対する愛も伝わってきます!ここまで深く開発できる授業があるのですね。自主プロジェクト演習について教えてください。
機械情報工学科は3年生の午後の授業がほとんど演習になっていて、最後の演習が自主プロジェクト演習です。学生一人一人が自分の好きなものを何か作ってみるという演習で、本当に何を作るか、から始まって、実際に作るところまで全て一人で考えて、自分で手を動かすという演習です。座学に比べると受け身でなく能動的で、自分がやりたいことをやる。そのやりたいことを実現するために、また勉強しなきゃいけないこともたくさん出てきて、本当に面白いし、自分のためにもなる演習です。その演習の中で、『すずめの戸締まり』の椅子のロボットを制作しました。
↑井上さんが「自主プロジェクト演習」で完成させた、愛らしい三本足のロボット!
――授業以外に、課外活動はされていましたか?
大学1年生から3年生までロボコンサークルRoboTechに参加し、3年生でNHK学生ロボコンに挑戦しました。「機械屋」というチームがロボット本体を作り、「回路屋」というチームがそれに回路を乗せて電装して、最後に「制御屋」が動かすのですが、その制御屋でずっと活動していました。タイヤがそれぞれステアリングできる特殊な車両の動きを制御するため、制御工学を勉強したり、その運動を解析する物理を勉強したり、それを実際にロボットに組み込むためにプログラミングを勉強したりと、いろんなことを経験、勉強して今も研究に活きているかなと思っています。
――ロボット作りはいつから始められたのでしょうか?
幼少期はあんまり得意なことがなくて、水泳やピアノを始めても、うまくできなくて結局すぐにやめてしまっていました。中学で部活の時間が凄く増えると知り、運動は苦手で、吹奏楽部や美術部もできないから、入れる部活がないな、と思っていました。地元の学校の中で自分が入れる部活はあるだろうかと探すと、奈良教育大学附属中学校という学校に「科学部」というロボットをやっている部活があって、これならもしかしたら自分でもできるかもしれないなと思いました。そこで、附属中学に進学し、その科学部でロボコンに出会いました。
――今の研究生活の楽しさを教えてください。
新しいロボットを作って動かすという研究の性質上、『自分がいなかったらこのロボットがない』と思えるとすごくやりがいがあります。実際に実験でロボットが壊れることもあり、大変なことはもちろんありますが、総じて見ると、自分がいなかったら生まれなかったロボットをこの世に創造できているという部分は、とてもやりがいがある研究だと思っています。
――最後に、後輩へのメッセージをお願いします!
大層なことは言えませんが、シンプルに自分のやりたいこと、好きなことをやっていってもらいたいです。結局何をするにしても、面白くないことや何か大変なこと、辛いことっていうのは絶対にあると思います。そこでもし自分の好きなことだったら、ギリギリ乗り越えていけると思うので、自分の好きなことや、やりたいことベースで頑張ってもらいたいと思います。
※このインタビューは工学部広報室TA Ttime!のメンバーによって企画編集されました。