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2018.07.13

【若手研究者紹介:002】機械工学専攻専攻 泉・波田野研究室 波田野明日可講師 

 

 

経歴
2007年東京大学工学部機械工学科卒業後、東京大学大学院新領域創成科学研究科、久田・杉浦研究室で修士・博士の学位を取得。同研究室で1年間のポスドクを経た後2013年より東京大学工学系研究科機械工学専攻、酒井・泉研究室で助教を務め、2018年3月より同専攻講師。

<研究について>
心筋細胞の微細構造を考慮した電気・生理・力学連成シミュレーション
心臓による血液拍出は個々の心筋細胞の収縮により起こります。心筋細胞の内部は周期性・規則性を持った構造をしています。病気の細胞からは規則性に乱れが見られることから、その形態の変化と収縮機能には関連が見られますが、そのメカニズムは明らかではありません。心筋細胞の収縮は大きな変形、細胞膜で生じる電気的現象、イオン・タンパク質の生理的現象が複雑に相互作用する力学・電気・生理連成現象です。私はこの細胞内における機能と反応の局在、物質供給と興奮収縮連関、更に力学的収縮現象を連成した解析を実現することで、細胞内の微細構造が心筋細胞の収縮に及ぼす影響を評価し、医学的知見を得ることを目指しています。対象は心筋細胞ですが、連成現象のシミュレーションは機械工学の知識に基づいたものです。
心筋細胞の電気・生理・力学連成解析は有限要素法を用いてモデル化しました。細胞内の周期性・対称性を利用して計算量を低減し、膜から細胞中央に向かい筋原線維3本、1筋節分の領域のメッシュを作成しました(図1)このメッシュ上で電気・生理現象に関する7つの物質(カルシウムイオン、ATP、ADP、リン酸、クレアチン、クレアチンリン酸、酸素)の反応拡散方程式を解いています。反応項は各細胞内小器官の取り込み・生成や消費に相当します。拡散項により細胞質を通した物質のやり取りを表現することができます。
細胞内のカルシウムイオンは、収縮を引き起こすシグナルとして興奮時には細胞膜や小器官から細胞質に流れ込み、濃度は平均で約10倍に増加し、空間勾配も大きいことが知られています。開発した心筋細胞モデルはカルシウムイオンの平均的変化、また空間分布も実験を再現する結果が得られました。 [Link論文1]
細胞内小器官の欠損や分布の意味についての検討を行った例を紹介します。横行小管(T管)と呼ばれる細胞内小器官は、細胞膜が細胞内に陥没した構造であり、膜で生じた興奮を細胞内に瞬時に伝える役割を担っていると考えられます。T管の欠損は病態細胞に見られますが、実際の細胞でT管の有無のみが異なる実験を行うことは難しいため、当モデルでのシミュレーションで検討を行いました。図2は正常なモデルとT管欠損モデルでのカルシウムイオン濃度の変化と変形を示しています。正常モデルでは細胞の中央まで同時にカルシウムイオン濃度が上昇していますが、T管欠損モデルでは外側の膜からカルシウムイオンの高い領域が徐々に伝わるため、収縮に遅れが見られる様子が再現されました [Link論文2]。この他にもミトコンドリアと筋小胞体の位置関係や[Link論文3]、ミトコンドリアの細胞膜からの距離が持つ意味などについて検討を行いました[Link論文4]


(図1)



(図2)

  
参照URL:
研究室 http://www.fml.t.u-tokyo.ac.jp/
[Link論文1] http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0006349511012392
[Link論文2] http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0021929011007044
[Link論文3] http://www.cell.com/biophysj/abstract/S0006-3495(12)05113-2
[Link論文4] http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S000634951500449X

<今後の抱負>
現状、モデルの形状は幾何的で、とてもナマモノをシミュレーションしているように見えません。"UNrealistic"との批判を受けることが多くあります。実際の形状は複雑で、ランダムさの中に規則性もあり、それをどのようにシミュレーションに取り込んで"realistic"なモデルに進化させるかは今後の大きな課題と考えています。
また、よりミクロな現象のモデルと繋いでいくことも今後の目標です。タンパクの分子動力学計算などと繋いだマルチスケール解析により、よりブラックボックスのないシミュレーションで心筋細胞のメカニズム解明に貢献したいと考えています。
また本研究とは別に生体内の流れの研究にも挑戦しています。機械工学科の研究者として力学解析を医療の分野に活かして行けるように今後も頑張っていきたいと思います。