プレスリリース

2021.06.25

燃料電池の電極反応場と三次元微細構造を同時観察~固体酸化物形燃料電池の電極反応解明と最適設計に向けて~

【要点】
・酸素同位体ラベリングと集束イオンビーム走査電子顕微鏡により実現
・ミクロスケールの多孔質電極における反応分布と微構造の関係が明らかに
・数値計算との直接比較や最適な電極構造設計に繋がる技術として期待

【概要】
東京工業大学 工学院 システム制御系の長澤剛助教、東京農工大学 大学院工学研究院 先端機械システム部門の志村敬彬特任助教(研究当時)、東京大学 生産技術研究所の鹿園直毅教授、東京工業大学 工学院 機械系の花村克悟教授は共同で、次世代の高効率発電デバイスとして期待される固体酸化物形燃料電池(SOFC、用語1)の電極における反応場と三次元微細構造を同時に観察する技術を開発した。
SOFCの本格的な普及に向けて、発電温度の低温化や性能の長寿命化を達成する必要があり、そのためには電極の性能および安定性の向上が不可欠となる。SOFCの電極は一般に複数の材料から成る多孔質構造(用語2)を有し、この構造が電極内部の反応分布や発電性能に大きな影響をおよぼす。しかし、電極構造と内部の反応分布の関係を直接調べた例はこれまで報告されていなかった。
今回、同グループは酸素同位体ラベリング(用語3)と集束イオンビーム走査電子顕微鏡(FIB-SEM、用語4)による観察を組み合わせ、電極内部の反応分布と三次元微細構造を同時に観察する技術を開発した。これにより電極の詳細なネットワーク構造と反応分布を直接比較することが可能となり、今後、数値計算との比較によるシミュレーションモデルの高精度化や、最適な電極構造設計への指針獲得に繋がっていくものと期待される。
研究成果は米国電気化学会の国際学術誌「Journal of The Electrochemical Society」オンライン版6月9日付に掲載された。

●研究の背景
800℃程度の高温で作動するSOFCは、最高65%程度の高い発電効率や水素のみならず様々な炭化水素燃料を直接利用できる利点を有し、近年、実用化や普及に向けた研究開発が活発に行われている。SOFCの本格的な普及に向けて、発電温度の低温化によるコストダウンや性能の長寿命化を達成する必要があり、そのためには電極の性能および安定性の向上が不可欠となる。
SOFCの電極は一般に複数の材料から成るミクロスケールの多孔質構造を有し、その微構造が電極内部の反応分布や発電性能に大きな影響をおよぼすため、これらの関係を明らかにすることは電極構造の最適化や性能向上を目指すうえで非常に重要である。しかしながら電極構造と内部の反応分布の関係を実験的に直接検証した例はこれまで報告されておらず、数値計算による検証のみに留まっていた。

●研究成果
本研究では同位体ラベリングと反応のクエンチ(用語5)によるSOFC電極反応場の可視化技術(同位体クエンチ法(用語6))(参考文献1)と、FIB-SEMを用いた電極三次元微構造観察(参考文献2)を組み合わせた観察を実施した。図1に本研究の流れを示す。
はじめに600~800℃の運転温度にて酸素同位体18O2(用語7)を空気極(用語8)へと供給して発電試験を行い、その後ヘリウムガス噴流によってセルを室温へと約1秒にて急冷(クエンチ)することにより、反応場から入り込んだ18Oの動きを凍結する。次にFIB-SEMを用い、イオンビームによるミリング(用語9)とSEM撮影を繰り返すことで三次元微細構造を得る。この際、途中で一度サンプルを取り出し、中間断面内における18O濃度分布を空間分解能50 nmの二次イオン質量分析計(SIMS、用語10)にて取得する。その後、再びFIB-SEMによって残りの構造を取得することで、二次元的な同位体分布とその観察面上下の三次元微構造を得ることができる。
図2は今回得られたLSM/YSZ空気極(用語11)における結果であり、再構築された三次元微細構造、中間断面内の18O濃度分布、および同断面における電極微細構造が示されている。中間断面の構造において、連結LSMは各LSM粒子のうち三次元微細構造の上面までLSMのネットワークがつながっているものを、孤立LSMは上面まで繋がらず、途中で途切れて孤立しているものを示している。このうち、電極内部で電極上部からの電子輸送経路が確保されている連結LSMのみが、構造上反応場として機能し得る場所となる。
18O濃度分布より、全体としてLSM内部への18Oの入り込みは電解質に近い領域でのみ観察されるが、これは電解質に近い領域ほど電気化学反応が活発に進行していることを表している。一方、断面微構造において黄色い丸で示されている


図1 SOFC空気極の反応場と三次元構造の同時観察手法


図2 SOFC空気極の酸素同位体分布と断面連結構造の比較

孤立LSMは反応場としては機能しないと考えられるが、18O濃度分布においてもこれらの粒子には18O拡散が見られない。この結果より、本手法はサブミクロンスケールの電極における18O濃度分布と微構造の関係を捉えるのに十分な空間分解能を有することが分かる。また、連結相であっても場所によって18O濃度に差があり、特に断面微構造において1~5で示されるLSM粒子は連結相であるにも関わらず、明確な18Oの入り込みが見られない。このことから連結相内であっても局所的に大きな反応量の分布が存在することが示唆される。これは局所的な反応サイトおよびイオン・電子輸送経路の分布などに起因すると考えられ、今後さらなる詳細な構造解析やシミュレーションとの比較により検討を進める必要がある。

●今後の展開
今回開発した手法により、SOFC多孔質空気極の詳細な微構造と実反応場を直接比較・議論することが可能となる。様々な材料や構造、運転条件に対して本手法を適用することにより、電極構造と反応分布、および電極性能の関係が解明され、最適な電極構造設計への指針獲得に繋がっていくことが期待される。
また、今回取得した電極実構造を用いた同位体拡散を含む電気化学シミュレーション(用語12)を実施することにより、数値計算と実験の18O濃度分布を直接比較することができる。これにより数値計算モデルやそこに含まれる未知パラメータの検証・同定が可能となり、電極内部の各反応現象の理解や電気化学シミュレーションの高精度化に繋がることも期待される。

【参考文献】
(1) Nagasawa and Hanamura, Microstructure-scaled active sites imaging of a solid oxide fuel cell composite cathode, J. Power Sources 367, 57-62 (2017)
(2) Shimura et al., Evaluation of nickel-yttria stabilized zirconia anode degradation during discharge operation and redox cycles operation by electrochemical calculation, J. Power Sources 330, 149-155 (2016)

【用語説明】
(1) 固体酸化物形燃料電池(SOFC):主にジルコニアやセリアなどの酸化物イオン伝導性セラミックスと、触媒活性を有する金属、酸化物から構成される燃料電池であり、600~1000℃の高温にて動作する。
(2) 多孔質構造:細かい多くの穴を有する構造。SOFCの電極は通常、直径1µm程度の粒子からなる多孔質構造を有する。
(3) 酸素同位体ラベリング:酸化物材料などの内部における酸素の動きを調べるために、通常の酸素16Oの代わりに酸素同位体18Oを材料へ導入する試験。
(4) 集束イオンビーム走査電子顕微鏡(FIB-SEM):イオンビームによるサンプル加工機能を備えたSEM。イオンビームによるミリングとSEM撮影を繰り返して連続断面像を取得することにより、試料の三次元構造を取得することが出来る。
(5) クエンチ:高温における化学反応の温度を急激に下げることにより反応を凍結すること。
(6) 同位体クエンチ法:同位体を燃料電池などのデバイスに供給し、クエンチした後に同位体分布を調べることにより、デバイス内部における化学種の動きを追跡する手法。
(7) 酸素同位体18O2:自然界に存在する酸素の大部分を占める16Oよりも質量数が大きい18Oから成る酸素分子。自然界における18Oが全酸素に占める割合は約0.2%である。
(8) 空気極:燃料電池の電極のうち、空気(酸素)が供給される側の電極。酸素と電子から酸化物イオンが生成する反応が進行する。これに対し、燃料が供給される側の電極を燃料極と呼ぶ。
(9) ミリング:材料をイオンビームなどにより削ること。
(10) 二次イオン質量分析計(SIMS):高真空下にて材料に一次イオンを照射し、飛び出してきた二次イオンの質量を計測することにより、材料内部の深さや面方向の化学種分布を計測する装置。同位体の分布も取得できる。
(11)LSM/YSZ空気極:電子伝導性酸化物のLSM(ランタンストロンチウムマンガナイト)と酸化物イオン伝導体YSZ(イットリア安定化ジルコニア)の混合物から成る、一般的なSOFC空気極材料の一種。
(12)電気化学シミュレーション:電極おけるイオン・電子・気体などの輸送方程式と電気化学反応を連成し、数値的に解くシミュレーション。電極内部における電流や化学種の詳細な分布を調べることが出来る。

【論文情報】
掲載誌:Journal of The Electrochemical Society
論文タイトル:Distribution of Reaction Sites in SOFC Cathode through Oxygen Isotope Labeling with Three-dimensional Microstructural Analysis
著者:Tsuyoshi Nagasawa*, Takaaki Shimura*, Naoki Shikazono, Katsunori Hanamura
*Both authors equally contributed to this work.
DOI:10.1149/1945-7111/ac075f

プレスリリース本文:/shared/press/data/setnws_202106251334066078244428_756080.pdf

Journal of The Electrochemical Society:https://iopscience.iop.org/article/10.1149/1945-7111/ac075f