物質は温度や圧力に応じて固体・液体・気体の3つの状態に変化します。このうち、液体と気体の間には相転移が起きる必要はなく、連続的に移り変わることが可能です。磁性体中の電子がもつ微小な磁石であるスピンの向きに関しても、このような3状態を考えることができます。固体は例えばスピンの向きがそろった強磁性状態に対応し、気体はそれらがランダムな常磁性状態に対応します。一方、液体については、極低温まで固体にならず液体のままであるヘリウムから類推した「量子スピン液体」という概念が提案されていますが、その存在や性質は長年の謎とされてきました。
東京工業大学大学院理工学研究科物性物理学専攻の那須譲治(なす じょうじ)助教(研究実施当時 東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻)、東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の宇田川将文(うだがわ まさふみ)助教、求幸年(もとめ ゆきとし)准教授らは、キタエフ模型と呼ばれる理論モデルに対する大規模数値シミュレーションにより、量子スピン液体と常磁性状態の間には常に相転移が存在し、両者は連続的に移り変わることができないことを見出しました。これは従来の相転移理論で説明できない新しい気体—液体転移で、トポロジカルな性質の変化と見なせることを明らかにしました。
この発見は、相転移の不在をもって量子スピン液体を示唆している最近の実験研究の全面的な見直しを促すものです。また、トポロジカルな性質を情報処理に利用する量子情報の分野にも大きなインパクトを与えると期待されます。
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