プレスリリース

原子層超伝導の磁性分子による精密制御に成功 ~分子内の「隠れた自由度」が鍵~

 

1.国立研究開発法人物質・材料研究機構 若手国際研究センターの吉澤俊介ICYS研究員および国際ナノアーキテクトニクス研究拠点の内橋隆グループリーダーらのグループと、国立大学法人東京大学大学院工学系研究科の南谷英美講師、大学共同利用機関法人自然科学研究機構分子科学研究所の横山利彦教授、国立大学法人千葉大学大学院工学研究院の坂本一之教授らからなる研究チームは、磁性をもつ有機分子をつかって原子スケールの厚さしかない超伝導体の転移温度を精密に制御することに成功し、さらにその新しいメカニズムを解明しました。

2.近年、グラフェンを初めとする原子層物質1が盛んに研究されており、特に電気抵抗ゼロの超伝導状態になる原子層物質は、非常に高い転移温度を示すものが発見されるなど、大きな注目を集めています。このような原子層の超伝導物質は表面界面からの電荷のドーピング2によってその特性の制御が可能であるという、バルク物質にはない有利な特徴を持っています。しかし、このドーピングが起こるメカニズムを微視的なレベルで解明することはこれまで困難でした。

3.今回、研究チームは有機分子をつかって原子層超伝導体の転移温度を精密に制御することに初めて成功しました。この有機分子は原子層超伝導体の上に極めて秩序性の高い単分子膜を形成し、理想的なヘテロ構造3をつくります。これにより、原子層物質へのドーピングのメカニズムを詳細に調べることが可能になりました。解析の結果、ここで用いた有機分子は中心の金属原子部分に磁性の起源となるスピン4を保っていることがわかりました。さらに超伝導転移温度の変化は、有機分子によってもたらされる電荷とスピンの競合によって支配されることを見いだしました。特に、分子内の「隠れた自由度」である電子軌道5の向きが、スピンを通じて決定的な働きをすることを発見しました。

4.今後は本成果で得られた知見を利用して、超伝導転移温度の大幅な上昇など、超伝導の高特性化を目指していきます。これにより、超伝導材料の適応範囲を広げ、環境・エネルギー問題の解決と社会の持続的な発展に貢献していきます。

5.本研究は 、文部科学省世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)、科学研究費助成事業 基盤研究(A)「半導体表面超構造における超伝導発現と制御」(代表者:内橋隆)、若手研究(B)「表面合金原子層におけるラシュバ超伝導体の探索」(代表者:吉澤俊介)、文部科学省ナノテクノロジープラットフォーム事業などの一環として行われました。

6.本研究成果は、米国化学会発行のNano Letters誌に平成29年3月30日に掲載されました。

 

 

 

プレスリリース本文:PDFファイル

NANO LETTERS:http://pubs.acs.org/doi/full/10.1021/acs.nanolett.6b05010