第1回 Special Lecture 開催報告
2022年10月25日

Special Lecture


 

    テックアンバサダー向けのワークショップを、教職員、在学生、リスキリング講座受講者の皆さんが参加・視聴できるSpecial Lectureシリーズとして拡張しました。第1回は丸井株式会社 取締役執行役員の小島 玲子 様から「ウェルビーイング経営」とは何か?についてご講演いただきました。

 

 

講演内容


 

丸井株式会社 取締役執行役員 CWO(Chief Well-being Officer) 小島 玲子 

講演タイトル「ウェルビーイング経営」とは何か? ~企業のD&Iの取り組みから考える~

 

 私は働く人を支える医師になりたいという思いから複数の企業で20年ほど産業医をしており、2021年から丸井グループの取締役チーフ・ウェルビーイング・オフィサーをしています。ウェルビーイング(良く在ること)は、本日のテーマであるD&I(ダイバーシティ&インクルージョン)を包括するキーワードです。

 

 ウェルビーイングという言葉は、もともと「健康」の定義でもあります。1948年発効のWHO憲章で「健康とは病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも精神的にも社会的にも全てが満たされた状態にあること」と定義され、英語原文でウェルビーイングと表記されています。だから医師がチーフ・ウェルビーイング・オフィサーとなっています。そして、企業活動を通じて誰もが良く在ることができる社会を目指す経営のことを、ウェルビーイング経営と言います。

 

 丸井グループは、日本で最初にクレジットカードを作った会社です。まだ日本が貧しかった戦前の時代に、富裕層だけでなく誰もが欲しいものが手に入る信販や月賦や分割払いという仕組みを初めて作りました。「信用は私たちがお客様に与えるもの(与信)ではなく、お客さまと共に創るもの」という創業者の言葉があり、「共に創る(共創)」が丸井グループの根本にある価値観です。

 

 これまで多数の商品やアプリなどのサービスをお客さまと一緒に創り出してきました。社員1人1人が「やらされ感」で仕事をしていては、事業を通じて「共創」の価値観を社会に実現することはできませんね。そこで2007年に企業理念を明文化しました。「お客様のお役に立つために進化し続ける」「人の成長=企業の成長」です。そして10年以上かけて、徹底的に社員と経営層が対話し、自ら考え行動する、手挙げの文化を促進してきました。働き方も改革しており、たとえば一般的な会社の月の平均残業時間は大体30~40時間ですが、丸井グループは、月の平均残業時間は3~4時間です。

 

 本日はD&Iの一丁目一番地と言われる、性別にとらわれず活躍できる組織づくりの取組みをご紹介します。丸井グループは女性社員の割合が約4割ですが、2013年の取り組み開始時には、職級別でみると管理職の女性比率は7%と低い状況でした。

 

 そこで4つの取り組みに注力しました。1つめは管理職向けのアンコンシャバイアスプログラムです。アンコンシャスバイアスとは自分自身は気づいてないものの見方の偏りのことです。放っておくと働きにくい人が出てきたり、職場のコミュニケーション不全を生んでしまいます。特に管理職が自分のアンコンシャスバイアスに気づいて、例えば「育児中の女性は出張に行けない」と勝手に思うのではなく本人に「今度こういう仕事があるけどどうですか」と聞いてみる、というように管理職の行動変容に活かしています。

 

 2つめは、結婚や出産など人生の転機を迎える年代である28歳前後の女性を対象にしたキャリアデザインプログラムです。仕事をしているから家庭での時間を諦めるということではなく、どういう人生を歩みたいのか。女性役員や先輩社員とのディスカッションを通して、今後自分が送りたい人生のあり方について立ち止まって考え対話するワークショップです。

 

 3つめは、リーダー研修です。女性の管理職志向が低い背景に何があるかを深堀りしてみると、「管理職は強くないといけない」「好きなことができれば、昇進なんてしなくてもいい」「やる気はあるけれど自信を持てない」「大変そう」といった思いがあることがわかりました。実際の女性管理職がどう思っているのか、リーダーになることで初めて見えてくる世界の面白さといったパネルトークや対話、本音トークをするワークショップです。当初は女性のみが対象でしたが、今は男女とも対象にしています。

 

 4つ目は特に力を入れている、男性の育休取得の促進です。部下から「子供が生まれました」という報告があったとき、上司からおめでとうの声掛けの後に必ず「育児休暇はいつ取る?」と聞くというシンプルなルールを徹底しました。今は男性も育休を取るのが当たり前になっており、男性の育休取得率は4年連続100%を達成しています。

 

 4つの施策を通して、性別にとらわれず活躍したほうがよいという考え方に「本当にそう思う」という人が99%、そのことを理解している人は62%に高まりました。女性の上位職指向は30%近く上がりました。では女性管理職比率はどうなったかと言うと、7%が14%に上がったのですが、実はまだ目標15%に届いていません。そこで次に解消すべきボトルネックは、社会に根深く存在する性別役割分担意識(性別を理由として役割を固定的に分ける考え方)だと考えています。

 

 性別を理由にした押し付けに悩む人や、本来の力を発揮できない人。そのことでウェルビーイングではない、生き生きと働けない、暮らせない人がいるのであれば、変えていきたい。属性ではなくその人自身の良いところをちゃんと見る。固定観念や属性に対する偏見から解放された個人1人1人が認め合う、ウェルビーイングな社会を皆さんと一緒に作っていきたいと思います。丸井グループは企業としてそこに本気で取り組んでいます。

 

 すべての人が幸せを感じられる、インクルーシブで豊かな社会を共に創る。今日の話が、みなさんがウェルビーイングとD&Iについて考えるきっかけになれば嬉しいです。

 

 

開催報告


 

    テックアンバサダー全体会合は今回からスペシャルレクチャーというシリーズとなり、学内の学生さん、教職員の皆様、メタバース工学部のリスキリング講座受講者の皆様も、オンラインで参加できるようにしました。第1回は丸井株式会社 取締役執行役員の小島 玲子 様にご講演いただきました。

 現地参加18名、オンライン参加64名でした。少人数ながら、講師の小島様からの誘いかけるような問いかけ、参加者の熱心な質問、と、濃密な時間となりました。質疑応答が盛況で、当初予定していたグループディスカッションは省略し、全体討議を終了時間ぎりぎりまで実施しました。

 

1-1
講演会の様子

 

 講演内容の要旨は下記の通りですが、現地でのディスカッション、後日のアンケートにおいても、個々のwell-beingが企業の健全な経営尚且つ企業として成長していく上でも大切な要素だという事がわかった、理想論にとどまらず、企業として実績を上げていることが素晴らしい、もっと具体的な事例を聞きたかった、企業の側からの意識改革(男性の育休促進のために「上司から“おめでとう、育休はいつとるの?”と声をかける」)によって女性のキャリアや男性の育休取得がこれほどまでに広がるものなのかと驚いた、等々いろいろな意見が寄せられました。

 近年の流れで多くの企業がESGやサステナビリティに取り組んでいるその背景と、着実に変化を起こしていくうえでの細やかな施策・工夫が印象に残りました。

 文責:研究科長特別補佐 熊田亜紀子

 

 

 

 

お問合せ


メタバース工学部事務局

〒113-8656 東京都文京区本郷7-3-1

お問合せフォーム