プレスリリース

2021.04.30

硬さが大きく異なる材料の界面では結合が弱いほうが熱はよく伝わる~高熱伝導複合材の革新と放熱技術への活用に期待~

1.発表者: 
許        斌(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 特任研究員)
胡      世謙(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 特任研究員)
Shih-Wei Hung (Department of Materials Science and Engineering, City University of Hong Kong, Post-Doc.)
邵        成(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 特任研究員)
Harsh Chandra(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 修士課程2年生)
Fu-Rong  Chen (Department of Materials Science and Engineering, City University of Hong Kong, Professor)
児玉    高志(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 特任准教授)
塩見  淳一郎(東京大学 大学院工学系研究科機械工学専攻 教授)

2.発表のポイント: 
◆電子デバイスの放熱に用いられる高熱伝導複合材は、軟らかい母材と高熱伝導率の硬いフィラー材から構成されますが、母材とフィラー材の界面の結合が強いほうが、熱伝導性がよくなると考えられてきました。
◆軟らかい銅と硬いダイヤモンドの界面の結合強度を変えて熱伝導度を評価することで、強い共有結合の場合よりも、弱いファンデルワールス結合の場合のほうが、熱伝導度が高くなることを見出しました。
◆界面の熱伝導性をよくするために「界面の結合を弱くする」という、従来とは180度違う設計指針により高熱伝導複合材料を革新し、高速通信や電気自動車などで重要となるパワーエレクトロニクスの放熱技術に活用されることが期待されます。

3.発表概要: 
東京大学大学院工学系研究科の塩見淳一郎教授、許斌特任研究員、胡世謙特任研究員らの研究グループは、軟らかい銅と硬いダイヤモンドの界面を自己組織化単分子膜(注1)で結合し(図1)、硬さの大きく異なる2つの材料の界面においては、結合が強い場合よりも、弱い結合の場合のほうが、熱伝導度が高くなるという非直感的な現象を明らかにしました。
軟らかい母材と高熱伝導率の硬いフィラー材から構成される複合材料は、高い熱伝導率と実装性を合わせ持つことで、パワーエレクトロニクスの放熱に使われています。しかし、フィラーと母材の界面に熱抵抗が生じるため、フィラーの高い熱伝導率が活用しきれていないのが現状です。界面の熱伝導を向上するには、界面の結合を強くすることが直感的であり、そのようなアプローチが従来からとられてきました。
本研究グループは、ダイヤモンド基板表面に自己組織化単分子膜を成膜し、その上に銅を蒸着する実験系において、分子の末端官能基を変えることによって界面の結合強度を変化させながら、熱伝導を系統的に評価しました。その結果、弱いファンデルワールス力で結合した界面のほうが、強い共有結合で結合した界面よりも、高い熱伝導を示すことを発見しました。さらに、他の材料の基板を用いた実験や分子動力学シミュレーションによる解析を行うことで、その機構も明らかにしました。2つの材料の硬さが大きく異なる場合は、結晶格子の振動数が大きく異なるため、結合の弱さよりも、格子振動が伝わりにくいことが熱抵抗の主要因となります。そこでの自己組織化単分子膜の役割は2つの材料の振動を「橋渡し」することですが、その際、界面の結合が弱いほうが自己組織化単分子膜の格子の振動数が2つの材料の中間的な値となり、橋渡しをしやすくなることがわかりました。
軟らかい母材と硬いフィラーから成る高熱伝導複合材を開発する際に、界面の結合をあえて弱くしたほうが複合材の熱伝導率が高くなるという、従来とは大きく異なる設計指針が、高熱伝導複合材料の性能向上に寄与することが期待されます。熱伝導材料による放熱は、データセンターや電気自動車などの要であるパワーエレクトロニクスの性能や安定性に直結する重要課題であり、これらに活かされることが期待されます。
本研究成果は、2021年4月23日(米国東部夏時間)に米国科学誌「Science Advances」のオンライン速報版で公開されました。

4.発表内容: 
<研究の背景と経緯>
高速通信や電気自動車などで使われるパワーエレクトロニクスの集積化によって高密度化するジュール熱の放熱には、高熱伝導材料の性能向上が必須です。放熱材料には、熱伝導と実装性の観点から、軟らかい母材と高熱伝導率の硬いフィラー材から構成される複合材料が用いられることが多いですが、特に、デバイスに接して伝熱面積広げるヒートスプレッダーなどには金属よりも熱伝導率の高いフィラーが必要とされます。しかし、フィラーと母材の界面に熱抵抗が発生するため、フィラーの高い熱伝導率を活かしきれていないのが現状です。界面の熱伝導度(熱抵抗の逆数)を向上するには、界面の結合力を上げることが直感的であり、そのようなアプローチが従来からとられてきましたが、界面の熱の輸送が格子振動の伝達あるいはフォノンの透過であることを考えると、結合以外の決定因子を見出し、新たな設計性に繋げることが重要です。

<研究の内容>
東京大学大学院工学系研究科の塩見淳一郎教授、許斌特任研究員、胡世謙特任研究員らの研究グループは、ダイヤモンド基板表面に自己組織化単分子膜を成膜し、その上に銅を蒸着する実験系において、自己組織化単分子膜の分子の末端官能基を変えることによって界面の結合強度を変化させながら、時間領域サーモリフレクタス法(注2)により界面の熱伝導度を系統的に計測しました。その結果、弱いファンデルワールス力で結合した界面のほうが、強い共有結合で結合した界面よりも、高い熱伝導度を示すことを発見しました。一方、基板をシリコンなどのダイヤモンドよりは軟らかい材料に変えると、その傾向は消失し、結合が強いほうの熱伝導度が大きくなることも確認しました。このメカニズムを明らかにするべく、分子動力学シミュレーション(注3)を用いて界面近傍のフォノン(注4)の状態や透過の解析を行いました。界面の熱伝導度に影響を与えうる因子としては、結合の強度のほかに、界面を挟む2つの材料のフォノンの周波数帯域の重なりの度合いがあります。これは音響インピーダンスの差が異なる材料の界面で音が伝わりにくくなるように、フォノンの周波数帯域の重なりが小さいと界面でフォノンが透過しにくくなるということです。解析の結果、銅とダイヤモンドの場合は、後者のフォノン周波数帯域の影響が結合の影響よりも大きくなることがわかりました。その場合、自己組織化単分子膜は界面における周波数帯域の重なりを実効的に増大させることでフォノンを透過しやすくしており、その際、界面の結合が弱いほうが、自己組織化単分子膜のフォノンの周波数帯域が銅とダイヤモンドの中間的な値となり、重なりがより大きくなることが、熱伝導度が向上する理由です。

<今後の展開>
銅と硬いダイヤモンドのように、軟らかい母材と硬いフィラーから成る高熱伝導複合材を開発する際に、界面の結合をあえて弱くしたほうが複合材の熱伝導率が高くなるという、従来とは大きく異なる設計指針が、高熱伝導複合材料の性能向上に寄与することが期待されます。これによるヒートスプレッダーなどの放熱部材の革新は、高速通信や電気自動車のインバータなどのパワーエレクトロニクスの動作性能や安定性の向上につながり、さらにデバイス実装の自由度の拡大などの波及効果も期待できます。また、学術的には、本研究で得られた界面熱輸送に関する知見は、さまざまな固体界面での熱伝導の制御性を考える上での1つの指針になると思われます。

5.発表雑誌: 
雑誌名:「Science Advances」
論文タイトル:Weaker bonding can give larger thermal conductance at highly mismatched interfaces
著者:Bin Xu, Shiqian Hu, Shih-Wei Hung, Cheng Shao, Harsh Chandra, Fu-Rong Chen, Takashi Kodama, Junichiro Shiomi*

6.用語解説
注1)自己組織化単分子膜
固体表面へ物理または化学吸着した有機分子が分子間の相互作用によって自発的に集合し、配向の揃った単分子層の極薄膜。
注2)時間領域サーモリフレクタス法
フェムト秒パルスレーザーを用いたポンプ・プローブ法。ポンプ光で試料表面を過渡的に加熱し、反射率の温度依存性(サーモリフレクタンス)を利用してプローブ光で物体表面温度を測定することで、ナノスケールの熱伝導を計測する手法。
注3)分子動力学シミュレーション
原子や分子の運動方程式を解くことで、原子や分子の位置や速度を追跡するシミュレーション手法。固体材料では原子、分子、あるいは結晶格子の振動を解析する。
注4)フォノン
結晶中における格子振動の量子(準粒子)。その格子振動の周波数がフォノン周波数。

7.添付資料


図1 自己組織化単分子膜で結合した固体界面。




プレスリリース入力:/shared/press/data/setnws_202104301122311986957072_228852.pdf

Science Advances:https://advances.sciencemag.org/content/7/17/eabf8197

日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP609103_R20C21A4000000/