ものづくりの 神髄を知る。


創造性豊かな、未来の工学系リーダーへの第一歩

国際化に対応できる人材を育てるバイリンガルキャンパス推進センターには重要なミッションがある。それが工学知の高度化教育だ。その一環である創造的ものづくり/創造性工学プロジェクトでは、ものづくりを通して自主的に観察・実験の意義を理解し、企画・マネージメントの能力を育む活動を行っている。

「もっと小さくて軽いものを端においたほうがよくない?」学生たちが主翼のバランス取りに苦心していると、サポートに来ていた模型飛行機づくりの大先輩が声をかける。
「バランスを見るときは、やじろべえと同じ原理で主翼の端が下に向くように、機体を裏返しにするんだよ」

工学部13号館の工作室で進められる模型飛行機づくり。ターゲットは、全国の大学・高等専門学校などが集う全日本学生室内飛行ロボットコンテストだ。
模型とはいえ侮ってはいけない。コンテストは厳密な操縦技術によるミッション達成を要求され、東京大学の航空宇宙工学チームも過去一度しか優勝を果たせていない。高い精度が必要な機体づくりに関しても、「実際につくってみて、気づくこともあります」(航空宇宙工学専攻・新穂那奈さん)と、机上だけでは太刀打ちできないむずかしさがあるのだ。

ものづくり活動に学科、学年の枠なし

この飛行ロボットプロジェクトにかかわっている学生は、工学部・工学系研究科の共通科目である「創造的ものづくりプロジェクト」(学部)、「創造性工学プロジェクト」(大学院)の履修生たち。この科目はバイリンガルキャンパス推進センターが実施しているもので、設定されたサブプロジェクトのうち一つのテーマを選び、基礎講義のあと実際に企画、設計、製作、実験、改良、発表を行う講義構成。課題解決の想像力を養いながらプロジェクトを運営していくことによって、工学リーダーとしての力を身につけるのも目的の一つだ。特徴的なのは、学部と大学院がいっしょになり、学科の枠も取り払っての活動となること。

工学部では以前から教養学部向けの「全学自由研究・全学体験ゼミ」をものづくり実験教育のゼミとして実施しているが、本郷キャンパスでのプロジェクトは、その活動のコンセプトを引き継いだもの。バイリンガルキャンパス推進センター長の鈴木真二教授(航空宇宙工学)は、教養課程からものづくり教育を行う理由を次のように語る。

「高校での理系の勉強っていうのは物理とか化学とか、理学的なんです。技術というのは中学で少し経験するだけ。そこで駒場でのものづくりゼミは、工学部がどういうものをつくるための研究をしているかということを、学部の1〜2年生の間に体験してもらおうという趣旨で行っています。大変好評で年間数百人の受講がある。本郷での活動はその延長。続けてやりたいっていう学生が多いんです。教養から学部、大学院までの縦のつながりができて、しかも学科を越えて参加できるから横の連携もある。縦と横の交流ができる活動としても意義は大きい」

飛行ロボット製作の様子

全日本学生室内飛行ロボットコンテストには、飛行ロボットプロジェクトの履修生のうちの有志が参加する。機体は授業で製作したいろんなタイプのもののうち、有望だったコンセプトの2機を新たに製作。「翼の張力とかバランスとか基本的なことがわかっていないとちゃんと飛ばない。実際につくれて飛ばせるのは、いい機会だと思います」(航空宇宙工学専攻・新穂さん)。2011年10月に開催された第7回大会では残念ながら2機とも入賞を逃した。

ロボット製作

NHKロボコンで優勝。サークル活動と連携し教養課程から参加可

ロボットプロジェクトは、NHK大学ロボコンへの参加を目標にして活動する。2011年6月に行われた大会では東京大学チームが見事総合優勝。バンコクで行われた国際大会にも参加、ベスト8に入った。工学部の親睦団体の丁友会傘下のサークルであるRoboTechと連携して活動しており、教養課程から参加してロボット製作ができる。取材時は、新入生向けの大会であるF3RCに向けて、ものづくり実験工房(右記参照)でのロボットづくりが行われていた。

ものづくりでわかる基本原理と工学の道

本郷でのプロジェクトテーマは多彩だ。前述の「飛行ロボットプロジェクト」をはじめ、全日本学生フォーミュラカー大会出場を目指す「フォーミュラプロジェクト」、そのEV版として電動フォーミュラレーシングカーを企画・設計・製作する「フォーミュラEVプロジェクト」、NHK大学ロボコンの参加を目指す「ロボット競技プロジェクト」などは工作系のプロジェクト。さらには創造的な体験ができる活動や国際体験もものづくり≠ニとらえ、WEBでの英語教育システムのコンテンツ作成や各種インターンシップ活動、国際ラリー参戦などのユニークな活動も含まれる。

「『工学理解促進プロジェクト』というものがあって、これは学生が小学校に出向いて、大学でやっていることを講義するというものです。コミュニケーション能力の育成につながるだけでなく、何も知らない子どもに説明するわけだから、自分がやっていることへの根本的な理解がないと伝わらないということがわかってきます」

工作系のプロジェクトに関しても、単にものをつくるだけでなくコンテストなどに出場することで、つくったものが現場でどのように使えるか、深い理解と実践的な体験を得ることができる。しかも、学科横断、学年縦断のプロジェクトでチームワークの大切さも知る。まさに工学の本道を学べるこのプロジェクト、2011年度冬学期には15もの活動がスタートしている。

「ものづくり実験工房」専用の工房を備え本郷での活動をサポート

鈴木真二教授(写真)がセンター長を務めるバイリンガルキャンパス推進センターでは「ものづくり実験工房」の運営も行っている。本郷キャンパス西片門脇に2007年に開所されたこの工房は、工学部がものづくりの重要性をさらにアピールするために整備したもので、工房内部には各種工作機械が並び、周囲に気をつかうことなくものづくりに勤しめる環境となっている。

  • エアバス社と連携 グローバル企業との連携で、国際活動を体験するプロジェクトのひとつ「国際航空ビジネス入門プロジェクト」はエアバス社と連携して国際的なビジネスモデルを構築するゼミ。
  • 国際インターンシッププロジェクト 国際研修の成果で単位認定・成績評価を行う「国際インターンシッププロジェクト」。単位がつかなかったインターンシップ活動も「創造的ものづくり/創造性工学プロジェクト」で正式科目に。
  • 国際コミュニケーションM-Skypeプロジェクト 「創造的ものづくり/創造性工学プロジェクト」には情報系のサブプロジェクトもある。「国際コミュニケーションM-Skypeプロジェクト」は、MITの現役学生とSkypeを通して討論・交流を行う。

【Check it !!】『工学教程』の編纂 - 時代を超えた工学教育へ。 -

水野哲孝教授
工学教育基盤強化推進センター長の水野哲孝教授。「『工学教程』は博士課程教育の基盤形成に必要な工学知を徹底的に教育するための指針でもあります」と語る。

東京大学で教育すべき工学とはいかにあるべきか? 前身である工科大学が開学して125年が経過した今、改めて工学部・工学系研究科では自問自答し、大きなプロジェクトに着手している。その一つが『工学教程』の編纂だ。

本学の工学は、海外から先端技術を導入し、基礎基盤工学を理解すること。そしてその技術を支える人材を育成することから始まった。だが、今では世界の工学研究教育機関の頂点の一つに立つまでになった。

しかし同時に社会や産業の姿は変化し、工学という学問も変貌した。現代工学は基礎基盤分野と、システムを取り扱う総合工学とも呼べる分野から構成され、経済、医学や社会とも連携し、巨大で複雑になってしまった。そこで工学教育の使命として推進されるのが、『工学教程』の編纂というわけだ。プロジェクトの中心にいるのは、2011年4月に開設された工学教育基盤強化推進センターの水野哲孝センター長だ。

水野センター長が説明する。

「『工学教程』では時代に左右されない工学の基礎知識を体系化します。学生が習得すべき内容を明記し、学生自身が学ぶべき全体像の見通しがきくようにします。また工学部・工学系研究科のスタンダードとして、教員が学生を指導すべき内容も具体的に示します」

現在、数学編と物理編の編纂が進んでいるが、2020年までに工学の大学院教育の7割、学部教育の3〜5割を英語化する教育計画がある。それに呼応して、『工学教程』も国際標準語としての英語による刊行となる。学内や国内に留まることなく、本学が教授する「工学知」を広く世界に発信していくことも狙っている。


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