若手研究者鼎談 ノーベル賞を狙え!

  1. 【量子光電子工学 加藤雄一郎 准教授】妻も理化学研究所の研究者。子育てを分担して、ともに充実した研究生活を送っている。
  2. 【触媒反応工学 西林仁昭 准教授】プログラム発足後すぐに着任。モットーは、「自分自身にしかできない仕事を!」
  3. 【地球水循環インフォマティクス 平林由希子 准教授】2011年冬に第1子を出産予定。東大は保育園も併設され、産休後ももちろん研究を継続。

「世界と戦う“スーパー若手准教授”たち」若手研究者を取り巻く環境が厳しいといわれる昨今、東京大学大学院工学系研究科が実施している「スーパー准教授任用プログラム」では、若手准教授がいきいきと研究をし、世界トップレベルの成果をあげている。ここでは3人の准教授に集まってもらい、このプログラムや研究の魅力を語ってもらった。


加藤雄一郎 准教授

東京大学大学院 工学系研究科 総合研究機構 戦略研究部門 量子光電子工学。29歳という東大では異例の若さで准教授に。カーボンナノチューブで電子や光子を量子力学的に制御する量子オプトエレクトロニクスを研究。

「自由で独立した研究環境。楽しくて仕方ありません!」

研究者として独立し、自らの研究に邁進

―― 今日は「スーパー准教授任用プログラム」に選ばれた3人の若手研究者にお集まりいただきました。西林先生は1期生とお聞きしています。

西林 そうですね。2011年で7年目になります。僕は化学生命工学の化学が専門で、次世代型窒素固定法を研究しています。100年以上前から用いられているハーバー・ボッシュ法というアンモニア合成法があるんですが、これは大量の化石燃料を消費するので、環境問題の面からも早急に新しい合成法を開発する必要がある。この開発にチャレンジしたくてプログラムに応募しました。加藤先生は2期生、平林先生は3期生ですね?

加藤 そうです、着任して5年目です。僕は学部を卒業してすぐにカリフォルニア大学に留学して、量子情報や量子計算を専門に学び、ポスドク時代はスタンフォード大学でカーボンナノチューブの研究をしていました。このプログラムならアメリカの同期とも競争できると思って、日本に帰国しました。

平林 私は3年目です。山梨大学の助手だったときに日本学術振興会の海外特別研究員として2年間ドイツに行き、帰国後応募しました。私は社会基盤学で地球規模の水循環を研究しており、あまり論文が多く出る分野ではありません。環境省や国土交通省の国土計画にかかわる委員会に反映されるような結果を出すことが多いんです。論文だけでなく、実務にもつながる成果を評価されて、採用されたのだと思います。

―― このプログラムでは、どのような研究環境が得られるのでしょうか?

西林 プログラムの最大の目的は、世界に通用する研究者を育てること。そのため、研究者として一番伸び盛りの若手の時期に、研究に集中できる環境を最大限に与える。授業や会議など大学の教育にかかわる仕事は、かなり免除されます。予算も、僕は年間1000万円を3年間支給されました。研究室の立ち上げ資金に使えます。特任助教も一人つきます。工学部全体でサポートしてもらえるのでありがたいですね。

平林 研究スペースも、一人あたり200m2を与えられるんですよ。実験設備も十分に整えられます。

加藤 一番の特徴は、独立して研究ができることだと思います。自分の研究室を持って、自由に研究テーマを決められる。日本の大学では、教授の下に准教授、助教がつくという講座制が一般的です。研究者として独立できている今の環境は、非常に得難いものです。僕の研究室では、測定装置も完成して学生も増えて、自分のアイデアをどんどん試せて、順調に成果も出つつあります。本当に楽しくて仕方ありません。

西林仁昭 准教授

東京大学大学院 工学系研究科 総合研究機構 戦略研究部門 触媒反応工学。ハーバー・ボッシュ法に替わる次世代型窒素固定法や新規触媒反応を研究。環境に優しく省エネにつながるグリーンケミストリーの方法論を開発。

「僕の次世代アンモニア合成法を世界中に広めたい!」

世界最先端の研究者に認められる喜び

―― みなさんが研究者の道を選ばれた理由も、おうかがいしたいのですが。

平林 やっぱり研究がおもしろいからですよね。加藤先生がおっしゃったように、独立した研究者って一番楽しい仕事じゃないかなと思います。

加藤 実は僕は、博士号を取ったあと就職してもいいかなと思っていたんですよ。アメリカでは博士号取得者は、通常の2〜3倍の給料で就職できますので。でも大学で研究するうちに、すごく楽しくなって、これを仕事にしたいなと自然に思うようになりましたね。

西林 僕は京大出身ですが、そこの先生の影響が強いんですよ。すごくいい先生で、学生に何でも自由に研究させてくれて。「科学、特に化学は、学生でもいい結果を出せば、ノーベル賞を取った偉い学者と対等に議論できるんだよ」って励ましてくれて。これってまさに研究者の醍醐味ですよね。他の世界では絶対味わえない。それで研究者になりたいと思いました。

平林 ああ、私も同じ経験があります。学生時代に、論文を読んでその研究者を雲の上の存在のように思っていたら、指導教員の先生が、「数年以内にこういう先生とは必ずどこかで会えますよ」と声をかけてくださって。確かにそのとおりなんですよね。世界の最先端をいく研究者たちと、研究会や学会などで普通に会えます。自分もそういうところで彼らに認められるような研究成果を出せたら、心からうれしいですし、すばらしい充実感を得られますね。

平林由希子 准教授

東京大学大学院 工学系研究科 総合研究機構 戦略研究部門 地球水循環インフォマティクス。気象学・気候学・水文学など自然科学的な側面から地球規模の水循環を研究し、その知見を広める情報社会基盤の開発に取り組んでいる。

「挑戦が、最先端の研究成果につながります!」

本気でノーベル賞を目指せる環境がある

―― みなさんそれぞれ世界の第一線の研究者と渡り合っておられますね?

平林 ええ、すごいですね、西林先生が(笑)。

加藤 『Nature Chemistry』とかに、ばんばん論文を出されていてすごいですね。

平林 このプログラムは、「ノーベル賞プログラム」と陰で呼ばれていますね。東大からあまりノーベル賞が出ていないので、それを取るためにつくったと。それで私、今のうちに西林先生のサインをいただいておこうかと……(笑)。

西林 確かに化学では日本人受賞者も多くて、ノーベル賞はすごく現実的な目標ですよね。ずっと先のことだとは思いますが、もちろん僕も目指していきたいです。最初にハーバー・ボッシュ法に替わるアンモニア合成法の話をしましたが、僕の新しい合成法が世界中で使われるようになればいいなと思います。このプログラムのおかげで、研究も軌道に乗り、その取っ掛かりを見つけつつあるかなと思います。比較的短期間でいい結果が出せました。先日、学会があったんですが、ノーベル賞を受賞した先生が僕のところに来てくれて、その成果について「Congratulation!」と言ってくれました。それはとても感激しましたね。

平林 このプログラムでは、自分が本当にやりたいことにトライできますよね。ちょっと無茶なことでも誰にもとがめられない。私はもともと川の流量をテーマにしていたんですが、今は氷河と地下水の研究を始めました。これは未知の研究で、観測がむずかしくデータもないんです。でも、自分でも氷河に行くようになったり、新しい展開もあってワクワクしています。こういう挑戦が、世界的な最先端の研究成果につながると思います。

加藤 僕も量子情報や量子計算の研究をカーボンナノチューブを使ってやっていますが、これはまったく新しい分野です。電子や光の粒を制御する技術を開発していて、これによって、大容量の情報を安全かつ瞬時に移動できる量子情報通信という新しい通信技術が可能になるかもしれません。

西林 僕も、お二人のサインをいただきたいです(笑)

―― 最後に工学を志す学生さんたちにメッセージをお願いします。

西林 東大工学部には、ノーベル賞を目指せる研究環境があります。実力があって努力すれば、誰でもその環境を得られる。本気でノーベル賞を取りたいと思っている気概のある学生さんにたくさん来てほしい。僕は、そういう方たちといっしょに研究したいですね。


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