羽藤英二 准教授|都市工学科 学科データを見る

羽藤准教授のCHANGE THE WORLD|人の行動を予測して、未来の都市のあり方を考える

Profile
都市工学専攻 都市工学科
1967年、愛媛県生まれ。愛媛大学助教授、MIT客員研究員、UCサンタバーバラ客員教授を経て現職。交通工学研究会研究奨励賞、世界交通学会賞など数々の賞を受賞。各地の観光まちづくりや地域防災に関する研究を手がけている。「未来都市東京2050」として都市戦略を提示するなど、世界的に注目を集める都市工学研究者のひとり。

未来のまちづくり実現までの3STEP

  1. STEP1|人間の意思決定モデルを確立
  2. STEP2|多くの観測データによる高確度な検証
  3. STEP3|人が寄り添いながら生きられる都市空間を実現する

人間は移動≠オなければ生きられない

未来の都市生活をシミュレート。

羽藤英二准教授の研究室には、壁一面に大きなホワイトボードがあって、天井に近いところから足元まで、複雑な数理計算で埋め尽くされている。

「ここでやっていることを一口で説明するのはむずかしいですが、簡単に言えば、世界をデジタルにしていこうという試みです。人の行動を数式を書いて予測する、シミュレーションするための方法です。現代は、GPS機能付き携帯電話や、WEBネットワークなどの技術によって人の行動観測における時間と空間の分解能は飛躍的に高まりました。そうした観測データの検証を行うことで、高度な確率的意思決定モデルを構築することができるのです」

そう語りながらパソコン画面に羽藤准教授がモニターして見せたのは、ある地方都市の鳥瞰図だ。花火大会の日の人々の動きをシミュレートしたもので、時間を追いながら道路を自動車や人が移動している様が手にとるようにわかる。1ヵ所に固まっていた人の群れが、花火大会が終了するやいなや、クモの子を散らすように分散していく。
「そもそも人間は、葉緑体もなければカルビン回路もなく、光合成によって養分を得ることができません。そのために人間は、移動することで食物を手に入れ、生きるために必要な栄養を摂取してきました。移動なくして人間は生きられないようにつくられているんですよ。そのことに目を向けずに都市とその移動戦略を考えることはできません」
では多様化が進む現代において、社会のモビリティ(可動性、移動性)はどのように変化していくのだろうか?

多くの資料が積まれた羽藤先生の部屋。

めまぐるしい変化のなか、都市はどう変わるか?

19世紀、鉄道もなければ自動車もなかった時代、都市部でもまだ人々は牧歌的な暮らしをしていた。ところが、高速道路や高速鉄道といった交通ネットワークが整備されることで都市は外延化し、開かれていった。

「意外に思う人もいるかもしれませんが、横浜駅は1872年に開業した当初、現在、JR桜木町駅がある場所にありましたが、その後、1915年に現・横浜市営地下鉄高島町駅の場所に移転し、さらに1928年に再度移転して現在の位置に落ち着きました。その一方、1914年に開業した東京駅はおよそ100年間、ほとんど形を変えていませんが、新幹線を含むメガストラクチャーを同じアーキテクチャーのなかに組み込みつつ、生き延びてきました。このように、長い時間存在を変えず、かつ新しいものを組み込む可能性を受け入れるアーキテクチャーを私たちは提案していかなくてはなりません」
だが、情報化と高齢化が進み、生活圏がどんどん縮小していく21世紀では、未来の都市のあり方を予測するのはますますむずかしくなってくるのではないだろうか。

「これからのまちづくりを考える上で、社会の高齢化と人口減少は、見逃せない要素でしょう。2050年の日本は、60歳以上の世帯主が3倍にふくれあがり、現在8164万人いるといわれている労働者人口は、約4割減の4930万人になると予測されています。人口規模でいえば、東京は昭和22年と同じ規模の街になるはずで、生活のなかの移動スケールは縮退し、非中心化が進むことになります」
そのような変化のなか、2050年の都市は、どのような形態になると予測されるのか。
「こればかりは、どんなに精度の高い観測データがあっても、確度の高い数理計算を行っても、予測するのはむずかしいでしょう。そこで発想を大胆に変えて、未来の都市のあるべき姿を逆説的に検証してみるといった作業が必要です」

災害に強く、人をも強くする都市の姿

羽藤准教授はこの秋、世界建築家会議に参加したのをきっかけに、2050年の渋谷の街をシミュレートする機会を得た。
「マグニチュード8クラスの外房型と大正型の連動型大地震が起こったと仮定して、その後いかにして渋谷という街が復興すべきかを考えてみたわけです。渋谷という街の大きな特徴は、開放的でありながらもローカルな人のつながりが生きているということ。外側には早い交通による環状道路が走っていて、外部との流通やコミュニケーションをつないでいますが、内側の環状道路は自転車や徒歩などの遅い交通≠ェ走るのみで、かつての日本に存在したムラ的なつながりを維持します。コミュニティ内での移動手段は、一家に1台のパーソナルカーではなくて、複数のユーザーが1台の車をシェアするようなモビリティ・クラウドの形をとります」

また、こうしたまちづくりを可能にする新しい法制度についても同時に考えなくてはならない。都市工学は、土木・建築、文化・芸術、情報科学、法学といった、あらゆる分野を必要とする学問なのだ。
「私自身、3月11日の大震災後、陸前高田市の復興計画に携わることになり、都市デザインというものに何ができるのか、あらためて深く考えさせられています。都市は、人と人をつなぐ器です。戦後の都市計画は都市を強くしたけれど、未曾有の大震災に際して傷ついた人を勇気づけ、ケアし包摂していくことが本当にできているだろうか。東北地方の都市を幾度となく歩きまわりながら、復興まちづくりについてずっと考え続けています」


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羽藤准教授の研究 Keyword 4|未来に求められる都市デザイン

  1. Keyword 1|理論を導き検証する、その繰り返しが重要
    抽象度の高い数理計算を行って理論を導き、膨大な観測データと合わせてそれを検証。その繰り返しによって、精度の高いシミュレーションを実現する。普遍的な人と都市との関係性を見つめる作業に終わりはない。
  2. Keyword 2|人間は「移動」を余儀なくされた生き物
    人間は、「移動」なくして生きられない生命体。生命の危機に瀕してなお人は助け合い、生きぬくための多くの移動が発生する。都市における大規模イベントや災害時の人の集散にそのことが顕著に顕れている。
  3. Keyword 3|復興した街はどんな姿をしているか
    2050年、被災から復興を遂げる渋谷の街を想定した模型。渋谷駅周辺は豪雨による池ができ、そのほとりには大きな慰霊塔がつくられる。人は受けた傷を忘れることはできない。悼む空間が必要なのだ。
  4. Keyword 4|陸前高田の復興計画
    羽藤准教授は、陸前高田市の復興計画に携わり、頻繁に被災地を訪ねている。約4000人の住民中、約1000人の命を失った市街地を目の当たりにして無力感に苛まれたと言うが、その足が止まることはない。

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研究学生インタビュー

羽藤研究室|原 祐輔さん|東京大学大学院 工学系研究科 都市工学専攻

研究の様子

この時代に都市工学を学ぶ責任をひしひしと感じています

もともと都市工学に興味があったわけではないという原さん。しかし現在は、この分野の研究をもっともっと突きつめていきたいのだそう。

原さんが都市工学に興味を持ったきっかけは?
7年前、駒場の教養課程で都市をテーマにした授業を受けたときのことです。それまでの僕にとって、都市というのはあまりに身近すぎて、それについて考えたこともありませんでした。ところが、土木・建築や流通、人とのコミュニケーションなど、あらゆる角度から研究することができることを知って興味をひかれたんです。羽藤先生に出会ったのは、学部の4年生のときだったんですが、先生の温かい人柄に魅力を感じて、一緒に勉強したいと思うようになりました。羽藤先生は普段はとてもフランクな方なんですが、研究のこととなると熱が入って、とにかく情熱的に話をしてくれます。
羽藤研究室で学ぶことの醍醐味は?
最初のころは、一人ひとりの人間の意思決定というミクロな視点から都市全体を設計していくというダイナミックな発想に驚かされました。GPS機能付き携帯電話の位置情報システムなど、最新技術を駆使して集積するデータを用いられるという点でも、自分がこの時代に生まれた幸運を感じます。一方、3月11日の大震災はとてもショッキングなできごとでしたが、研究にむかうモチベーションはますます高まりました。先日も他の学部の友だちとの雑談で「都市工学の役割は、これからもっと大きくなるだろうね」と言われました。今の時代に都市工学を学ぶ責任を強く感じています。
原さん自身の今後の進路は?
都市工学は研究領域が多岐にわたるだけに、さまざまな進路の可能性を考えることができます。国や自治体に所属してまちづくりに携わりたいと思う人もいるでしょうし、鉄道会社やディベロッパー系不動産会社、それから自動車メーカーなどに進んで学んだことを活かしたいと思う人もいるでしょう。また、IT関連の知識を活かして都市の情報インフラにかかわる仕事に就く人もいます。僕自身は、このまま研究者の道に進み、さらに努力を重ねていきたいと思っています。

都市工学科|「都市」について深く考えることは、この「社会」について広く考えること。都市の「スペシャリスト」から社会の「ジェネラリスト」まで、幅広い人材を育成する。

都市問題と環境問題の深層には、国際関係の中での日本社会の経済産業構造、社会政治構造が通底している。
現象の表層に惑わされることなく、問題の全体的機構を認識、把握し、問題に対処しうる有効な工学的技術や実践的方策を展開することが都市工学に課せられた命題である。都市工学の魅力は、人間と科学技術、そしてそれらの活動の場としての地球や都市との関係を活かし、よりよい社会を目指すところにある。
このような視点から、都市工学科では、工学技術に基盤を置きながら法学、経済学、社会学、歴史学、心理学、美学、哲学など社会科学・人文科学と密接な関係を保ちつつ専門教育・研究を実施している。

3年生の時間割例[夏学期]

修士課程終了後の進路


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