谷川智洋 講師|機械情報工学科 学科データを見る

谷川講師のCHANGE THE WORLD|ヴァーチャルリアリティでタイムマシンを実現する

Profile
知能機械情報学専攻 機械情報工学科博士(工学)
1974年東京都生まれ。'97年、東京大学工学部卒。2002年3月、東京大学大学院工学系研究科博士課程修了後、独立行政法人通信・放送機構および情報通信研究機構研究員を経て、'05年より東京大学先端科学技術研究センターへ。'06年8月より現職。映画監督・石井岳龍氏とコラボレーションし、松尾芭蕉の世界を視覚化した作品制作などにも携わる。

タイムマシン実現までの3STEP

  1. STEP1|ヴァーチャルリアリティで五感も体感できるようにする
  2. STEP2|大量の過去の記録を取り込み、精度の高いVR空間をつくる
  3. STEP3|過去の記録で構築された世界を体全体で体感する

視覚だけではなく、五感全部で体験するVR世界を目指す

情報集積で過去への旅を可能に。

タイムマシンをつくっている? その言葉に、思わず胸が躍った。機械情報工学科システム工学研究室(廣瀬・谷川研究室)の谷川智洋講師が取り組んでいるのはまさに夢の世界だ。

キーワードは超臨場感=B
数年ほど前から、3D技術の進歩により、映像コンテンツを立体的に見ることが日常生活に溶け込んできた。だが、谷川講師はそれよりももっと広い範囲で、あたかも自分が別世界にいるような空間をつくり出そうとしている。いわゆるヴァーチャルリアリティ(VR)の実現だ。

「これまでのVRは専用のメガネに写し出される映像を見ることで仮想空間を体験するものが主流でした。その後、よりリアルさを追求するために直感的な動きにもすぐ対応できるような研究も進められてきましたが、この研究室ではさらに踏み込んで、味覚、聴覚、触覚、嗅覚なども同時に体験できるシステムを開発しています」
VRにおいて人間の行動のリアリティを追求するには、五感すべてを取り入れる必要がある。そうした考えから、五感情報のセンシングや再現デバイスの開発など数々のプロジェクトを立ち上げている。

研究をはじめたきっかけは、学生時代に廣瀬通孝教授と出会ったこと。まわりの研究室の多くがヒューマノイドロボットを使って人間を知る′、究を行うなか、廣瀬教授が行っていた、生身の人間の体験を通して人を知る′、究内容に魅力を感じた。
「人間がどういうふうに世界を体験し、
またどんなときに喜怒哀楽の感情が湧くのかを分析している研究内容に惹かれ、以来、ずっとこの研究室にいます」

工作室にはたくさんの電子部品がある。

タイムマシンを応用しどこでもドア≠つくる

では、これらの研究が、どうやってタイムマシンへとつながっていくのだろうか?
「それはVRをさらに発展させることで見えてきます。VRの研究の一環として、ライフログと呼ばれる個人の日常生活の行動を記録した膨大なデータをVRで可視化させる取り組みを行っています。このデータが蓄積されていくことによって、自分が行きたい時間や空間を自由に体感することができる。これを私たちはヴァーチャル・タイムマシン(VTM)と呼んでいます」

記録の積み重ねであるから、VTMで体験できるのは基本的に過去の世界。すでに実際の取り組みとして、閉館した鉄道博物館をVTMで再現させた実績もある。
「これまで写真や映像でしか見られなかった当時の館内の様子を、まるでその空間にいるかのような感覚で体験できる。蒸気機関車が走っていたころの風景写真や音を再構成すれば、乗車気分も楽しめます」
二次元の資料を三次元で見せられるようになれば情報伝達の幅も一気に広がっていくはず、と谷川講師は言う。

ほかにも、ライフログを世界中の人々が共有できるようになれば、タイムマシン以外にもこんな使い方が……。
「データを常にアップロードしていくことで、リアルタイムでコミュニケーションが取れるようにもなります。つまり相手がいる場所に瞬時に行くこともできるということ。これは、電話やメールとは違うフェイス・トゥ・フェイスでのやり取りという意味でも革新的ですよね」
そう、この研究室では、タイムマシンだけではなく、どこでもドア≠ワでつくり出そうとしているのだ。

技能継承からアートまで可能性は無限に広がる

「VRで人間が体験できることはもっと増えていき、また、社会に還元できる要素も多い」と谷川講師は力強く語る。そのひとつが伝統技能の保存≠セ。
「伝統技能は形として保存するのが困難でマニュアルもないため継承がむずかしい。そこで、VRを使って擬似体験できるシステムを構築しようと考えています」

職人の技には長年にわたって培ってきた勘などもあり、たとえ映像で残してもそれをトレースするのは不可能だ。しかし動きをデータで残し、それを別の人間の体を借りて再現させることはできる。さらに、熟練した職人技と若い人間の体をうまく組み合わせることができれば、伝統技術のさらなる向上も期待できる。

「また、『デジタルパブリックアートプロジェクト』ではVRとエンターテインメントの融合も実験的に行っています。VRには大掛かりな装置が必要なイメージがありますが、『出発の星座』というアートでは羽田空港の天井に3000個のLEDを星座の形に配置することで、誰でも気軽に体験できるVRの世界をつくり出しました」
照明があるだけだった天井にほんのちょっとの情報的なアイテムをプラスすることで、その場所が魅力的な空間へと変化する。こうした仕掛けの根底には工学が持つ使命≠ェ宿っていると谷川講師は言う。

「VRは人の生活や暮らしを豊かにする技術。物理的に限られたスペースだったり、限りある資源など、社会にはさまざまな制約がありますが、その幅を広げる力がVRにはあります。また、過去を体感することで未来を創造するきっかけが生まれることもあるんです。仮想の世界の話だけに、可能性について語れば際限がないですね」


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谷川講師の研究 Keyword 4|職人芸からアートまで。無限に広がるVRの世界

  1. Keyword 1|技能をデータ化して再現する「きりかね」
    細かい腕の動きや力の入れ加減など、本来であればその人でなければわからない動作をデータ化し、VRの技術で体感させることで疑似体験することができる「きりかね」。職人感覚を含めた技能全体を継承させることが目的。
  2. Keyword 2|羽田空港で実証展示。VRを応用した芸術
    飛行機が飛んでいくシーンを大きなスクリーンで映す『出発の星座』。飛行機の出発時間にリンクして、LEDが飛行機が飛んでいく方向に光るようになっている。LEDの配置は羽田空港が完成した日の夜空の星の位置と同じ。
  3. Keyword 3|VRの世界の中では味も簡単に変化する!?
    同じクッキーを口にしても、視覚から入る情報などを操作することで、実際とは違った味に感じることも。「本来、人間の味覚というものはとてもあいまいなもの。この研究はそれを逆手にとったものです」と谷川講師。
  4. Keyword 4|閉館した博物館をVTMの技術で再現
    「ヴァーチャルタイムマシン」を活用して、かつてあった鉄道博物館の館内の様子を再現したもの。写真右側に写っている、現実世界にある電車の背景とタブレット内に写る電車の背景が異なるのがわかる。

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研究学生インタビュー

廣瀬・谷川研究室|木村健太郎さん|東京大学大学院 情報理工学系研究科 知能機械情報学専攻 博士課程2年

研究の様子

みんなが刺激し合う研究室で音の可視化に取り組む

デジタルパブリックアートプロジェクトに興味を持ち、この研究室を選んだ木村さん。「演習の授業で廣瀬教授の講義が一番おもしろかった」のも、決め手のひとつになったそうだ。

切望していた研究室に入ってみての印象は?
ものすごく自分に合ってました!ここは、学生一人ひとりがフリーランスのような感じで、自分の好きなタイミングで研究に取り組めるんです。それに、お互いがいい意味で刺激をし合っているし、先生も研究以外の部分で僕たちと気さくに接してくれる。本当に心地いいですね。
機械情報工学科を選んだのは、やはりものづくりが好きだったから?
はい。ただロボットをつくったりというのではなく、どちらかというとプログラミングも大好きだったんです。そんなとき、アルバイトを通じてインダストリアルデザインにも興味を持ち、その流れでデジタルアートにもおもしろさを感じるようになりました。
現在はどのような研究を?
大まかに言えば音≠フ研究です。一般的に、スピーカーというのは空間全体に響いて聞こえますけど、僕が使っているものは、スピーカーを向けた方向にしか聞こえないという特殊なものなんです。ビームのような状態を想像してもらうとわかると思うのですが、正面からちょっと外れるだけで聞こえなくなってしまう。その特性を利用して、音を視覚化させる方法を考えています。
それはどのような方法で?
例えば、出る音が異なるスピーカーと音に反応するさまざまな色のLEDをいろんな場所に置くんです。すると、光っているLEDの色によって、どこでどんな音が鳴っているかがわかるようになる。そうした、人と音のインタラクションを行っていきたいなと思っています。
こうした研究はどんな学生に向いていると思う
工学のおもしろさというのは、単にものをつくってそれで満足するのではなく、誰かの喜ぶ顔を見ることだと思うんです。この研究室では自由な発想で実験に取り組めるので、同じ気持ちを持った方に来てもらえたらうれしいですね。

機械情報工学科|「人を知り、ロボットを創る。ロボットを作り、人間に近づく」情報に形を与え、モノに命を吹き込み、未来を創出する人を育てる学科である。

人間、機械、情報を結ぶ理論とシステムを創造するためには、グローバルな視点と緻密な思考が必要だ。
機械情報工学科では、情報学だけではなく、人を知り、デザインし、形あるものを創造する機械工学も学ぶ。カリキュラムには、モノを作り上げるための基盤的な知識や機械と情報の融合のための講義に加え、知能ロボット、ヒューマン・インタフェース、医療・福祉、神経と脳、などの人を知る講義も充実、新しい道を追求する内容となっている。もちろん、設計や製作に必要な知識や経験を習得するための演習も多く、実世界に立脚した確固たる知識と経験を持つ人材を養成する。

3年生の時間割例[夏学期]

修士課程終了後の進路


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