割澤伸一 准教授|機械工学科 学科データを見る

割澤准教授のCHANGE THE WORLD|ナノメカニクスでユビキタスな社会へと前進!

Profile
機械工学専攻 機械工学科 工学博士
東京大学在学中は産業機械工学を学び、卒業後は工作機械技術や人工関節のナノ仕上げ加工、生産文化研究に携わるという異色の経歴を持つ。2000年には大学院工学系研究科産業機械工学専攻講師に。’05年、石原直教授に声をかけられ、ナノメカニクスの世界を本格的に研究することを決意。石原教授とともに現研究室を開設。

ユビキタスな社会実現までの3STEP

  1. STEP1|ナノレベルの振動子センサをつくる
  2. STEP2|ナノ振動子センサの生活環境での実用化
  3. STEP3|ハードウエアに縛られないユビキタスな社会

世界のあらゆる変化を捉える小さなセンサの実力

電子線描画装置の構成部品。

「例えば、あなたがいつものように友だちと携帯電話で会話しているとしましょう。話を終えて電話を切ると、画面に今日の健康状態が表示されています。少しアルコールが残っているとか、風邪のひき始めかもしれないとか、持病がある場合は血液検査でわかるような数値が1週間分グラフ化されたりする。もしインフルエンザに感染していたら、すぐに病院に行くように警告音が鳴るかもしれない。携帯電話に呼気を感知するナノレベルのセンシングデバイスを埋め込むことができたら、そんなことも可能になるかもしれないんです。20年後、30年後の夢ですけれど」

割澤伸一准教授は、未来を描きながら楽しそうに話しはじめた。2005年、石原直教授とともにスタートした「ナノメカニクス研究室」。研究テーマは、センシングデバイスとして使えるメカニカル振動子をナノレベルでつくり出すこと=B振動子≠ニは、耳慣れない言葉だが……。

「振動子とは、自励的あるいは強制的に振動するもので、この振動特性の変化により、極微小な質量や距離、角度などを正確にはかることができます。センシングデバイスとして実用化されている振動子は既にたくさんあります。例えば、スマートフォンを少し傾けるだけで、画面が横になったり縦になったりしますね。あれは、スマートフォンに内蔵された小さな振動子が角度をはかるセンサの役割を果たしているからです。クオーツ時計が時を正確に刻むのも、一定の周期で振動する水晶振動子が組み込まれているから。こうしたセンサをさらにナノレベルでつくろう、そのための超微細加工技術を完成させようというのが、私たちの研究です」

ナノレベルにすることで広がる新たな可能性

10億分の1メートルというナノの世界。その小さな世界で振動子をつくることができたら、電子や光、磁気といった微小な物理量が測定できるようになるという。さらに、原子・分子、遺伝子などまで測定できるとなると、話は機械工学を超え、物理・化学・生物学などあらゆる領域へと広がっていく。

「光の粒が飛来する様子を捉え、その粒一つひとつをはかることができたら、物理学者の間でも大きなニュースとなるでしょう。さらに、光のエネルギーを正確に測定し制御できれば、通信装置やコンピュータにも画期的な技術革新が起こり、超低消費電力コンピュータなども実現する可能性が高い。超微細加工技術がどの分野に活かせるのかは、まだ未知数ではありますが、逆に言えばそれだけ新しい、挑戦しがいのある研究なんです。6年前に石原直教授から研究室立ち上げのお話をいただいたとき、僕はこれからの機械工学を支える新しい技術はこれだ!≠ニ直感しました。ですから、チャレンジ精神のある学生に、ぜひ来ていただきたいですね。研究自体は、根気のいる地道な作業ですけれど……」
実験室には、電子顕微鏡やイオンビーム加工装置をはじめ、東大にしかないという特殊な装置も並ぶ。こうした装置を駆使して超微細加工した振動子をつくり、電子顕微鏡を覗いて振動子の出来具合を確認したり振動特性をはかるのが、日々の研究生活だ。

「構造寸法が小さいと、熱や静電気などさまざまな力の影響をうけやすいので、正確にはかる≠ニいうこと自体がとてもむずかしいんです。でもその分、期待通りに振動子センサが働いて、期待した振動特性を確認できたときは、みんなとても喜んでいます」
実験を続けるなかで、材料や構造によってはナノレベルになると新たな物性が現れることもわかってきた。
「この新たな物性を利用すれば、材料・設計・製造などあらゆるものづくりの工程で革新的な変化が起こるかもしれないし、逆に何も変わらないかもしれない。将来のものづくりにどう活かせるかはわからないですが、さまざまな材料や構造について実験を繰り返し、新たな物性が発現するか、するとしたらどのようなものか、正確に捉えて研究成果を発表していくこと。それが、僕らの使命だと思っています」

人にやさしい<ビキタスな社会を目指して

20年後、30年後に、ナノレベルのセンシングデバイスが、生活空間のあちこちに埋め込まれた世界を想像してみる。果たしてそれは、どんな暮らしになるのだろうか?

「ひょっとしたら、空中にいきなり画面が映し出されるという映画の中の出来事が、現実になるかもしれません。これはさすがに突飛な夢物語ですけど、ハードウエアに縛られないユビキタスな社会に近づくのは、間違いないでしょう。冒頭の携帯電話の話のように、いつでもどこでもメディカルチェックができ、本当に必要なときにだけ病院に行けばすむようになれば、お年寄りや妊婦さん、持病のある人は、助かりますよね。大病院でやたら待って診察してもらう必要もない。……やっぱりどうしても、医療の話に偏ってしまいますね。実はこの研究室に入る前、人工関節を磨きあげるウォータージェットの研究をしていたんです。関節リウマチや変形関節症の治療方法のひとつに人工関節があるのですが、約20年で摩耗してしまうので、再手術が必要になってしまう。そこで、30年以上の使用に耐えられる人工関節を目指し、ウォータージェットや紫外線レーザーなどによるナノ仕上げ加工技術を研究していました。そんなこともあって、忙しい人たちにとってより便利≠ニいうのももちろんですが、人に優しい°Z術の開発につながる研究をしたいという想いが、いつもどこかにあるんです」

そう言って覗き込んだ電子顕微鏡の先には、未来の光がはっきりと見えているようだ。


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割澤准教授の研究 Keyword 4|眼には見えない世界で、色々実験中!

  1. Keyword 1|10億分の1の世界
    ナノとは分子や原子を扱うときによく用いられる単位で、10のマイナス9乗(10億分の1)メートルの世界を表している。研究室では、ナノスケールでセンシングデバイスとして使える振動子の作製・検証。写真は集束イオンビーム加工装置内部。
  2. Keyword 2|ナノの世界の動きが見える!
    下記に登場する芦葉さんが、集束イオンビーム(FIB・イオンを電界で加速したビームを細く絞ったもの)を応用して作製した、共振特性測定用の音叉型ナノ振動子。写真は振動子が激しく動いている様子を撮影したもの。
  3. Keyword 3|三次元ナノ構造をつくる?
    三次元加工技術でつくられたピラミッドは、縦横高さいずれも約3ミクロン。ピラミッドの表面には直径35ナノメートルほどの微細な穴が無数にあいている。こんなふうに、ナノレベルでさまざまな形のものづくりを行っている。
  4. Keyword 4|表面張力だって逆手にとって
    本来、ナノの世界では嫌われる表面張力。溶剤などを使うと振動子同士がくっついてしまうのだが、それを逆手にとってわざときれいにくっつけ、左右に引っ張られる力を利用することで振動特性を向上させるといった実験も行っている。

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研究学生インタビュー

石原・割澤研究室|芦葉 裕樹さん|東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 博士課程2年

研究の様子

ナノの世界の小さな変化に大きな喜びを見つけて

現在、石原・割澤研究室でナノメカニクスの研究に取り組んでいる芦葉さん。大学4年からこの研究室に入り、以来、海外の学会にも数多く出席し、高い評価を収めてきた。そんな彼が感じる機械工学の魅力とは?

研究をしていて、おもしろいなと感じる瞬間はどんなとき?
ナノテクノロジーと機械工学を融合させた新しい分野というところに、魅力を感じました。実際に実験をしてみると、もう驚きの連続で。どんどんのめり込んでいきました。ナノの世界、つまりチリや自分の手の脂がとんでもないゴミの山に見えてしまうような小さな世界で、自分でつくりあげた振動子が狙い通りに動く姿を確認できたときは、本当に興奮しました。肉眼では何も起きていないように見えるのに、センサに応用できるかもしれないナノレベルの振動子を自分がつくり、しかもその動きを確かめている。ふと冷静に考えると、いや、すごいぞ≠チて(笑)。
芦葉さんは海外での学会にも積極的に参加されているとか。
僕にかぎらずこの研究室では常に、研究生本人が学会発表を行っています。最初のころは緊張しましたが、少しずつ慣れてきました。自分が研究成果を世界中の教授や研究者に直接発表できるというのは、刺激的な経験です。内容に興味を持ってくださった方と直接お話ししたり、意見交換できたりするのも、とても楽しい。海外のほうが研究が進んでいる分野だから≠ニ、積極的に貴重な海外発表の場を与えてくれる研究室の方針には感謝しています。
では、今後の目標は?
できれば研究職に就きたいと考えています。今後研究を進めていくうちに、材料や構造によっては、全く新しい物体が現れるかもしれない。そうした夢があるところに、やりがいを感じています。このままナノメカニクスの分野をより深く掘り下げてみるのもおもしろそうですし、さらにほかの世界も見てみたい気もします。いずれにせよ、機械工学は研究内容が社会に貢献していく分野ですので、その点ではどの道に進んでもきっと後悔はしないだろうなと思っています。

機械工学科|「デザイン・エネルギー・ダイナミクス」 社会のための科学技術 〜実学の知・新価値の創造〜

機械工学は、設計・生産技術全般、つまりものづくりの土台を支えている学問といえる。
1874年に創設された東大機械工学科では、材料力学、熱工学、流体力学、機械力学という4つの基礎力学を中心に、ナノテクノロジーや生体工学、環境工学、医療工学などを融合して、産業システム全体への貢献を追求してきた。ロボット、車、燃料電池、医療機器……と、扱うテーマは非常に幅広い。ものづくりの基礎を徹底的に学び、ぜひその自由な発想で「社会のための科学技術(Science for society)」を実現してほしい。

3年生の時間割例[夏学期]

修士課程終了後の進路


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