和田一実 教授|マテリアル工学科 学科データを見る

和田教授のCHANGE THE WORLD|シリコンフォトニクスでスパコン並みのノートPCを実現する

Profile
マテリアル工学専攻
マテリアル工学科 工学博士
NTT研究所勤務を経て、1998年よりマサチューセッツ工科大学にてシリコンフォトニクスの第一人者として研究に携わる。2004年より現職。研究するうえで大切にしているのは「創造力は知識より重要である」というアインシュタインの言葉。コンピュータの進化によって今後は「人間の創造性が何よりも大事になります」と語る。

スパコン並みの性能を備えたノートPC実現までの3STEP

  1. STEP1|シリコンチップに光を入れる
  2. STEP2|光コンピュータを開発する
  3. STEP3|手頃な価格で誰もが光コンピュータを入手できるようになる

電子回路のシリコンチップに光の速さを足すと

シリコンウエハー

「2011年の6月、日本のスーパーコンピュータ『京』が世界最速を記録したことを知っていますか? みなさんはスパコンに触れる機会はないかもしれませんが、情報処理の世界は日々進歩しています。今の開発速度でコンピュータの改良が進めば、16年後の2027年にはみなさんが使っているノートブックパソコンが『京』の性能に追いつくと考えられています」

しかし今の技術ではそれを実現することはできない。なぜなら、今のコンピュータに使われているトランジスタの動作速度には限界があることが明らかになっているからだ。そこで必要になってくるのが、和田一実教授が1998年からマサチューセッツ工科大学(MIT)で研究を進めてきた「シリコンフォトニクス」の技術である。
「シリコンフォトニクスとは、これまで電子回路だけだったシリコンチップに光回路を取り入れる技術です。光通信が電気通信より驚異的なスピードで発展してきたように、光の高速性を利用すればコンピュータの処理速度も驚くほど上がるのではないかという考えが研究の出発点でした。2001年に、同じ半導体でもゲルマニウムの特性を活かすことでシリコンと光の相性の悪さをブレイクスルーし、世界的にも研究が盛り上がっているのです」

すでに米国アップル社ではシリコンフォトニクスを使ったサンダーボルトという高速インターフェイスが産業展開されている。そして、和田教授が帰国後に始めたのは、さらに先を行くシリコンフォトニクスの研究だった。
「より多くの光を使って今より1000倍の情報量を扱えるシリコンフォトニクスがつくれないかということを考えています。その研究が順調に進めば、16年後、みなさんは本当にスパコン並みのパソコンを使えるようになるでしょう」

(上)教授とのミーティングは英語で。
(下)光と電子素子の集積回路の第1号
(2001年製作)。

シリコンフォトニクスの医療への応用も視野に

電子の代わりに光を使うコンピュータが実現し、量産化され、誰もがスパコン並みの性能を備えたコンピュータを手にできる未来。そのとき、私たちの生活にはどんな変化が訪れるのだろうか?

「例えば扱える情報量が増えることで、これまでできなかった3Dの映像が手軽に見られたり、3D映像によって海外にいる人と目の前にいるかのような気分で話せるようになるかもしれません。しかし、そのコンピュータを使うことで社会や生活にどんな変化が起きるのか、正直言うと、私にもまだわからないことが多いのです」

ここで和田教授は興味深い例をあげてくれた。
「もしかしたら、コンピュータがいつでもどこでも人間と会話しながら即座に情報を提供してくれるようになるかもしれません。そうなると、人間には記憶する必要がなくなるかもしれませんね。『そのうち人間はコンピュータに追い越されてしまうのでは?』と考えるとちょっと怖い気もしますが、大切なのは使う側の私たちがコンピュータを使ってどんなことができるのか。つまり創造力を高めることが大事なのではないでしょうか」

研究室では、シリコンフォトニクスをコンピュータの情報処理能力や計算能力を高めるためだけに使うのではなく、医療分野への応用も視野に入れている。

「ある学生が、『人間の息のにおいを嗅いでガンを発見するガン探知犬のように、シリコンフォトニクスを使ってガンのにおいを感知するセンサーがつくれないか?』というアイデアを出しました。とてもユニークな発想ですよね。もしこのアイデアが実現すれば、早期にガンを見つけて予防できる道具が、体温計のような生活必需品になる日がくるかもしれませんね」

国際色豊かな研究室。会議では英語が必須

世界の最先端を走りながらも独自の研究が進められている和田教授の研究室では、どんな学生が求められているのだろうか?
「一歩でも研究を進めるぞという情熱を持って研究に取り組める人です。やる気があれば研究を理解しようとする力も自然と高まるものです。また、想像力を働かせて発見≠オ、なぜそういうことが起きるのかを理解≠キる。そして、発見したことを応用するためのデザイン≠して、実際にプロトタイプのものをつくる=B研究室ではこの4つのステップをできるだけ多く経験してほしいですね」

研究室のミーティングでは英語を話さなくてはいけないことも和田研究室の特徴の一つだ。
「技術的な専門の会話は半年あれば慣れます。研究室には中国やベトナムからの留学生もいて国際色豊かですし、日本の枠を超えて新しい空気を吸ってほしいので海外の学会にも積極的に参加してもらいます。ときにはMITの学生を招いて交流を深めてもらうこともあるんですよ」
和田教授はマイクロフォトニクス研究室から情熱あふれる若者がひとりでも多く世界に羽ばたいていくことを願っている。


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和田教授の研究 Keyword 4|シリコンフォトニクスの研究はこう進む!

  1. Keyword 1|電気を使ったシリコンチップの問題は発熱
    今のコンピュータには情報を処理するための小型チップが入っていて、電気でチップを動かしている。電気を通すとチップが発熱してしまい(赤が熱を持った部分)、コンピュータの速度が遅くなってしまうことが課題だった。
  2. Keyword 2|ミクロの世界に広がる光素子の通り道
    シリコンフォトニクスを使った新たなデバイス。そのサイズはわずか8ミクロン! 電子顕微鏡でしか見えないほどの小ささ。シリコンチップにリング状の光の通り道をつくり、さらに別の場所に光を電気に変える受光器を製作した。
  3. Keyword 3|光を分光するプリズムの原理図
    キーワード2の原理図。光はリング状の通り道の下方にある通り道(薄い白い線)から進入し、ある波長の光だけがリングに吸い込まれ、リングの上方にある光の通り道から出て行く。これにより光をプリズムのように分光することができる。
  4. Keyword 4|シリコンのひずみのシミュレーション結果
    シリコンフォトニクスにおいて電子素子の発熱による光の波長変化は一つの課題だった。そこでシリコンを曲げてひずみを入れることで、熱による波長変化を、ひずみによる波長変化で解消した。

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研究学生インタビュー

和田研究室|北 秀治さん|東京大学大学院 工学系研究科 マテリアル工学専攻 修士課程1年

研究の様子

材料の分野からパラダイムシフトを起こしたい

北さんがマテリアル工学科に進んだのは、ある思いがあったからだった。
「世のなかでは材料が変わる瞬間にパラダイムシフトが起きています。僕も材料系に進むことで、
そんな瞬間に立ち会いたいと思ったんです」
研究者としての夢をそう語る北さん。今、和田教授のもとで夢の実現に一歩一歩近づいている。

この研究室を選んだのは?
講義で和田教授の話術に引き込まれました。においセンサーや太陽電池の話に興味を持ったんです。シリコンフォトニクスの研究を始めて驚いたのは、自分の予想とは99%違う結果が出ること。ミーティングでみんなの意見を聞くうちに思わぬヒントをもらったり、新しい研究が立ち上がったり、毎日が発見の連続です。
英語ミーティングの感想は?
教授と一対一、2〜3人のチーム、全員でと週に3度のミーティングがあります。最初は発表用の資料も英語だし、みんなが何を言っているのかわかりませんでしたが、半年ぐらいで慣れました。ミーティングで英語を使っている研究室は学科のなかでもここだけでしょうね。
思い出の出来事は?
和田教授は「海外に飛び出せ!」がモットー。2011年の春に初めて国際学会で研究発表させてもらいました。積極的に国際学会に出ろなんていう研究室は他にはないと言われることが多いです。出発前に自宅で学会用の資料をつくっていたのですが、教授は深夜でもメールでの質問に返信してくれたので心強かったです。世界に出て行くことで最先端の研究をしている研究者や同じ研究をしている仲間とも知り合えて刺激になりました。発表する立場になると自分の研究への理解がより深まるんだなということも実感しました。
将来の目標は?
研究だけではなく社会に出て、シリコンフォトニクスの技術を使った、何かしらのプロジェクトを立ち上げる仕事をしたいです。コンピュータの分野では、これまでの材料で研究を進歩させることには限界がきています。「電気から光へ」今まさに、材料からコンピュータの世界を変えていくという変化が起こっており、いいタイミングで研究にかかわれたと思っています。

マテリアル工学科|「統合の工学が未来を切り拓く」すべての工学に通じるマテリアルを基盤に、様々な分野で新たな地平を拓いていく。

マテリアルを必要としない工学分野はないといっても過言ではないぐらい、社会の幅広い分野と接点があるマテリアル工学科。
学生が自分の将来をとらえやすいように3つのコースを採用する。人々の命と健康を守る人工臓器や再生医療などについて学ぶバイオマテリアル。鉄鋼材料を筆頭に、金属、セラミックス、半導体、有機材料などについて学ぶ環境・基盤マテリアル。情報化社会を支える、ナノスケールで制御した半導体デバイスなどについて学ぶナノマテリアル。いずれのコースも日本の重要な産業と密接にかかわっており、ハイレベルの研究が行われている。

3年生の時間割例[夏学期]

修士課程終了後の進路


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