鈴木勉 教授|化学生命工学科 学科データを見る

鈴木教授のCHANGE THE WORLD|RNAのはたらきで生命のからくりを解き明かす

Profile
化学生命工学専攻 化学生命工学科 博士(理学)
1968年千葉県生まれ。’96年、東京工業大学大学院生命理工学研究科博士課程修了。製薬会社での創薬研究を経て’97年7月より東大へ。2008年6月より現職。「誰にでも自分にしかできない何か≠ェあるはずです。学生さんには、ぜひ他人と違う発想や能力を伸ばしてほしいと思っています。それを一生の仕事にできたらすばらしいと思いませんか」

生命のからくり解明と応用の3STEP

  1. STEP1|特定の生命現象でRNAの働きを解明し体系化
  2. STEP2|RNAが関与する生命現象の基盤原理をつくる
  3. STEP3|基盤原理を応用した創薬研究を行う

小さなRNAの大きなはたらき

独自の研究手法開発も重要な仕事。

人はなぜ病気になるのか。この深遠なる問題に、RNAをキーワードとして取り組んでいるのが鈴木勉教授だ。

一般的にRNAといえば、DNAからRNA、タンパク質へと至る遺伝情報の流れのなかでは単なる伝令役として目立たない存在かもしれない。だが、現代の分子生物学の研究成果では、RNAこそが遺伝子の発現を含めたさまざまな生命現象をコントロールし、脇役どころか主役級の働きをしていることが次々に明らかになってきた。

「RNAにはDNAの遺伝情報が転写・翻訳されてタンパク質になるものだけじゃなく、RNAのままタンパク質にならずに、遺伝子発現のさまざまな過程で細かい制御をしたりするものがいっぱいある。それがノンコーディング(タンパク質にならない)RNA。行うのは本当に細かな制御なんですけど、それがおかしくなると病気になったりするんです」

RNAによる制御は、バクテリアのような同じ細胞のクローンが増殖するだけの単細胞生物には少なく、形と機能が時間的・空間的に多様に変化する高等多細胞生物に多く見られる生命現象だ。病気だけではなく、遺伝情報のなかでどの部分をタンパク質にしたら肝臓ができて、どの部分をタンパク質にしたら心臓になるか。そんな重要で緻密な制御にも、RNAはかかわっている。

「RNAの機能には、まだわからないところがたくさん隠れていて、世界中の研究者たちが、その一つ一つを読み解いているところなんです」

正確なデータを出すためには、
無菌状態や純水の使用など、厳密さが必要。

病気の治療そのものより根本的な原理が知りたい

鈴木教授は大学院修了後、製薬会社に勤務した経験を持つ。かかわったのは、バイオ医薬品で癌を治療していくプロジェクト。しかし1年半ほどが経ったころ、断片的な研究成果をもとに治療薬をつくっていくプロセスに限界を感じてしまう。

「例えばマウスを使った動物実験で、ある程度腫瘍を小さくすることができた。でも、同時にマウスも、体重が減ってどんどん弱っていく。データを見ると病気が治っているように見えるけど、個体が死ぬか癌がなくなるかってことになってしまった。根本的な解決のためには、どうして病気になるのか、そこを研究しないといけないんじゃないか、と思ったんです」

それは会社にいてはできない。舞い戻ったアカデミアの場で魅せられたのがRNAの世界だった。ただし今は、研究の動機と目的は、単純に病気を治すことだけではないと言う。

「病気の研究をしている人は糖尿病や癌など研究対象があると思いますが、僕らの目指しているものは、もっと根本的な原理、細胞の営みそのものを知ること。それができたら、いろんな種類の病因を理解することにつながるはず。もちろん会社にいたときは病気を治療したいっていう気持ちが強かったですけど、つきつめていくと、生命のからくりを知らないと、根本的な創薬はできないことに気がついたんです。まずは基盤原理を押さえ、それを応用した治療法や薬が生まれれば最高ですね」

実際、RNAのはたらきを利用した新たな抗生物質の開発や難病の原因究明など、鈴木研究室の成果を活用する事例も出始めている。

0を1にする仕事こそ大学がやるべき研究だ

その顕著な例が、細胞内のミトコンドリアの機能異常に端を発し、脳や筋肉に障害が出る難病、ミトコンドリア脳筋症だ。
鈴木研究室は、患者の細胞ではミトコンドリア内のRNAで本来起こるべきはずの制御(RNA修飾)が行われていないことを発見。この研究発表に注目した医師が、このRNA修飾に関与するタウリンを毎日患者に経口投与したところ、8年もの長期にわたって発作が起きていないという。
「RNAを調べていく過程で、その病気の分子レベルでのメカニズムがわかった。それを利用したいというお医者さんがいて、もしかしたら根本治療につながるデータが出たかもしれない」
このミトコンドリア脳筋症の例は、タンパク質の異常ではなく、RNA修飾の異常が特定の疾患を引き起こすことを実証した、世界で初めての例だった。

「どこにもない、新たな概念を発見する。それが大学で研究する意味だと思うんです。この分野はまだまだ混沌としている。日々、新しい発見があって、5年前の教科書が使えなかったりします。もしかしたら卒業研究がとんでもなく大きな仕事になる可能性もある。だから、真似ごとじゃなく、世界に自慢できるオリジナルな研究をしたいという学生にきてほしいですね」

鈴木教授自身の夢も、混沌としたこの分野の知見を整理し、大きな生命のストーリーを描き上げること。
「いろんな部分は見えてくるけど、まだ全体像は見えてこない。いくらやってもわからないかも」と語るが、だからこそやりがいもある。はるか彼方の真理を目指して、鈴木教授は今日もRNAの振る舞いを追う。


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鈴木教授の研究 Keyword 4|ヒトの遺伝子2万6000の動きを、精密機器で追う

  1. Keyword 1|研究室で開発した、RNAの新たな解析法
    RNA分子を高感度で解析するために鈴木研究室は液体クロマトグラフィー質量分析法(LC/MS)を用いた方法を開発。試料のRNAをノズルから噴射してイオン化し質量を測る。RNAの内部構造を明らかにすることができる。
  2. Keyword 2|RNAがかかわっていた疾患の発症メカニズム
    ミトコンドリア脳筋症は、タウリン修飾というミトコンドリアtRNA(転移RNA)の質的な情報が欠落していることが原因と鈴木研究室が究明。倉敷市の病院がこの研究をもとに臨床試験を続けている。
  3. Keyword 3|世界中から新発見続々日進月歩のRNAの世界
    RNAが遺伝子の発現に積極的にかかわっていることが明らかにされたのはごく最近。今、もっともホットな分野に世界中の研究者が集まって成果を競っている。ただし、学会発表より論文発表が重視されるのがこの世界の常識。
  4. Keyword 4|生化学や遺伝子工学、さまざまな手法を使う
    培養細胞からRNAを抽出し、それをさまざまな方法で調べる。試料にはヒトの細胞のほか、酵母や大腸菌などの細胞を用途によって使い分ける。写真はシャーレのなかの細胞を植え替えているところ。研究室は総勢31名。

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研究学生インタビュー

鈴木研究室|和泉 百華さん|東京大学大学院 工学系研究科 化学生命工学専攻 修士1年

研究の様子

湯川秀樹の伝記に感動、研究者になりたいと思いました

和泉さんが、研究を志すようになったきっかけは、子どものころに読んだ湯川秀樹博士の伝記だった。「戦後すぐにノーベル賞を取って、日本を元気づけた。すごいなあ、と印象に残ってて、それから自分も研究者になりたいって、漠然と思うようになったんです」と和泉さん。

この研究室を選んだ理由は?
実は進学振分けのときに工学部と理学部で迷ったんです。だけどパンフレットを見ているうちにRNAが気になりだして。それに、こちらの研究室は化学生命学科のなかでも理学的なところもあるので選びました。
どんな雰囲気の研究室?
鈴木先生はわからないことを丁寧に教えてくださるし、ウチで扱う生物とはちょっと違う分野にも詳しくて、いろいろと提案していただいています。研究時間はとくに決まっていないんですけど、みんなやるときはやる。夜とかはお酒を飲みながら話をしたりして、フレンドリーな感じの研究室だと思います。
今はどんな研究を?
RNAのうちマイクロRNAを研究しています。受精卵のときはある種類のマイクロRNAがいっぱいあるのに、大人になったら種類が変わったりとか、病気になったらある特定のマイクロRNAが出てきたりとか。それらの現象を、細胞を分化させて分化前後でのマイクロRNAの種類と量の変化を見て研究します。
研究の魅力とむずかしさは?
薬の開発や、難病の人を救う可能性を見つけることにつながることでしょうか。むずかしいと感じるのは、マイクロRNAは今ホットなトピックなので、競争が激しいところです。でもすごく興味があるので、ずっと研究は続けたいと思います。
進学振分けのアドバイスを。
みなさんパンフレットを見たり、五月祭とかで先輩の研究紹介を見て決めたりすると思うんですけど、そのときは自分の研究テーマまでは思いつかない人がほとんどだと思います。でも、自分の興味ある分野だったら、コレというテーマがなくてもとにかく入ってみてください。研究手法を勉強するだけでも役に立ちますし、その知識があれば大学院に進むときにまた別のところを選ぶこともできます。

化学生命工学科|「化学」と「バイオテクノロジー」の融合が切り開く新たな領域 - 医療・環境・エネルギー関連分野へ革新をもたらす -

世のなかが大きく動いている21世紀に求められるのは、既存の分野に縛られず、柔軟で多角的な研究だ。
化学生命工学科では、有機化学から生命工学まで『分子』を共通キーワードに幅広い領域で研究・教育を行う。目指しているのは、化学と生命のハイブリッド化による『新物質・新機能を創造する科学』。独自に発展を遂げてきた化学と生命の研究領域を工学的センスの上に融合させ、生物をお手本にした優れた化学反応の創成やプロセスの構築、化学の力を借りた生命現象の解明、従来にはない高機能人工蛋白の創造など、次世代のサイエンス&テクノロジーを築き上げる。

3年生の時間割例[夏学期]

修士課程終了後の進路


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