山田淳夫 教授|化学システム工学科 学科データを見る

山田教授のCHANGE THE WORLD|リチウムイオン電池を進化させ、次世代電気自動車をつくる

Profile
化学システム工学専攻
化学システム工学科 工学博士
1990年から10年間、ソニー中央研究所研究員をつとめた後、ソニーフロンティアサイエンス研究所研究室長に。2002年に東京工業大学准教授、’05年にボルドー第一大学招聘教授を経て、’09年より東京大学工学系研究科教授に就任。リチウムイオン電池材料開発の第一人者で、座右の銘は、「和而不同」、「成功は失敗のもと」。

次世代電気自動車実現までの3STEP

  1. STEP1|原子レベルの材料設計。電池の蓄電能力を伸ばす
  2. STEP2|低コストで安全なリチウムイオン電池の開発
  3. STEP3|一度の充電で500qの走行が可能な次世代電気自動車の実現

機能性と安全性。リチウムイオン電池の課題と可能性

リチウムイオン電池を試作し実験。

携帯電話やノートパソコン、デジタルカメラ、携帯用音楽プレーヤーなど、電子機器の小型・軽量化が進み、それらを当たり前のように持ち歩いている2000年代からの私たちの暮らしは、リチウムイオン電池技術の進歩を抜きにしてはあり得ないだろう。非常に高密度のエネルギーを蓄え、発することのできるリチウムイオン電池の可能性は計り知れず、ガソリン車に代わる次世代型電気自動車への搭載など、大型用途への採用が期待されている。だがその際、大きなハードルになっているのが「コストや安全性の問題」だと山田淳夫教授は説明する。

「これまでのリチウムイオン電池は、プラス極側に使用される材料にレアメタルであるコバルトを大量に含んでいます。コバルトは非常に高価で市場価格の変動も大きいだけでなく、酸化力も強いために発火事故などをたびたび引き起こしてきました。そもそも電池は限られた体積の中にエネルギーを蓄えるわけですから、きちんと制御しなければ爆弾と同様の危険性を持っていると言っても過言ではありません。従って、リチウムイオン電池の進化のためには、コバルトに代わる安全で安価な元素による材料を探す、原子・分子レベルの研究が必要なのです」

山田教授はその材料として、早い段階からオリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO4)の可能性に着目していた。これは、地球全体の構成要素として最も多い鉄(Fe)を利用することができ、なおかつ安定なリン酸骨格にすることによって、酸化による燃焼を大幅に抑制することができる。コストと安全性という問題を解決できる理想的な材料であると言える。

オリビン型リン酸鉄リチウムを用いたリチウムイオン電池は、電動工具や北京オリンピックで使われた電気自動車などに次々に採用されているほか、F1マシンのブレーキ回生・加速システムにも使用されている。また、東日本大震災後、家庭用蓄電池としても注目を集め、ソニーなどがすでに商品化している。
「実は、リチウムイオン電池はガソリンなどによる内燃機関と比較してもはるかに優れた出力特性が実証されているんです。また、自動車に搭載する電池は容量が大きいので、家庭に駐車しているときは、たとえば太陽光で発電した電力や安価な夜間電力の貯蔵、非常用電源として使うなど、幅広い活用が検討されています」

「アイデアの源はディスカッション。
コミュニケーションが大切」と山田教授。

電気自動車の一番の課題は「持久力」

「自動車というのは、数ある工業製品の中でもより高水準の性能が求められる製品。自ら移動するものであり、暑さや寒さなどあらゆる環境に対応しなければなりません。もちろん1〜2年で使えなくなってしまうようなものではダメ。自動車に搭載する電池の開発のむずかしさは、そこにあります。ただ、その困難をクリアする技術が生まれれば、他の製品への応用は容易です」

山田教授によれば、電気自動車の一番の課題は「持久力」だという。
「2010年にリチウムイオン電池を搭載した世界初の量産車としてi-MiEVとリーフが、三菱自動車と日産自動車から、それぞれ発売されました。しかし、現在の技術では一回の充電で180キロメートル程度しか走れません。この距離を500キロメートルまで延ばせないかということを考えています。そのためには、まったく新しい材料を検討する必要もあるでしょう。

凹形をした元素の周期表を思い浮かべてください。電子をためる性質を持つ元素は凹形のへこんだ中央部に分布していますが、軽量で扱いやすいものとなると、マンガンやコバルト、ニッケルなど、ごく限られた範囲の元素しか使えないことがわかります。鉄を基本としたオリビン型リン酸鉄リチウムも、その限られた選択肢のもと、地球が誕生して約46億年間のさまざまな自然環境下で生成されてきた多くの既存物質のなかから、機能のあるものを探すという作業により見いだされたものです。そこで発想をまったく変え、自然界には存在し得ないような物質を人工的につくる試みも行っています」

これまで地球が経験したことのない、しかし工業的には実現可能な環境を設定し作用させることで、人類が見たこともないような物質を生成することが可能で、それらが思いがけない高い機能を発揮することもあるのだとか。
「こうした研究は、化学の知識と経験、勘を総動員して成功率を高めることはできても、成功の保証はまったくありません。ひとつの成功は膨大な失敗から生まれます。ですから私たち研究者は、失敗をおそれず、失敗から多くを学びとる姿勢を大切にすべきです」

実は、山田教授の研究は新材料開発やその反応機構の解明だけにとどまらない。構成要素の組み合わせによるデバイス・システムとしての最適化も同時に行うとともに、研究対象の社会受容性を常に念頭において活動している。化学システム工学科では、このような実践的研究が多数行われている。


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山田教授の研究 Keyword 4|電気自動車用リチウムイオン電池の研究・開発

  1. Keyword 1|原子・分子レベルで物質を観察する
    リチウムイオン電池に用いる材料を検討するには、物質の性質を原子・分子レベルで知るところから始まる。鉄は電池に用いるのに扱いづらい物質だったが、リン酸塩にすることで高電圧と安全性を実現した。
  2. Keyword 2|厳戒状態で行われる電池の試作
    山田研究室では日々多くの電池が試作されているが、リチウム金属は空気中の水分と危険な反応を起こすので、密閉されたグローブボックスのなかで行われる。ボックス内の湿度は、極限まで除去されている。
  3. Keyword 3|次世代EVに向けた企業との共同開発
    社会連携講座として、三菱自動車工業と化学システム工学科の材料関連研究室全体で共同研究を行っている。リチウムイオン電池を用いた世界初の量産車「i-MiEV」をはるかに超える次世代車が、ここから生まれるかもしれない。
  4. Keyword 4|使い捨ての一次電池、充電可能な二次電池
    電池は、さまざまな材料を円筒形の筒に詰めて試作するが、このように市販の電池と見分けがつかないような電池をつくることも。使い捨ての乾電池などは一次電池というが、何度でも充電可能な電池は二次電池という。

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研究学生インタビュー

山田研究室|吉田 登さん|東京大学大学院 工学系研究科 化学システム工学専攻 反応プロセス工学講座 修士課程2年

研究の様子

実生活に直に役立つ研究だから、目的意識を持って取り組めます

吉田さんが山田研究室を選んだのは、リチウムイオン電池の可能性に興味をひかれたからだとか。

研究室では簡単に電池がつくれてしまうんですね。
物質の化学反応をプラスとマイナスの電極に伝えるだけなので、作業に慣れれば1時間もかからずにつくることができます。大変なのは、つくった電池のデータを分析する作業です。ひとつの電池を分析するのに、だいたい2週間ほどかかります。研究室で行う実験には、現在電池に使われている材料がなぜ優れているのか、あるいはなぜ劣っているのかを検証する実験と、もうひとつは、これまで使われることのなかった新しい材料を用いて電池をつくる実験があります。後者の実験はなかなか思うような結果が出ず、ほとんどが失敗の連続ですが、『ひとつの発見が大きな一歩となる』という、やりがいがあります。簡単に大発見が生まれるわけではないですが、人々の暮らしにかかわる研究なだけに、目的意識を持って取り組むことができます。
山田教授からは、どんなことを指導されますか?
実験をするとき、自分がそこからどんなデータを得ようとしているのか意識しながら臨むことを教わりました。その実験の目的と結果を明確にすることで、次の課題を自分なりに見つけて取り組むことができるようになったと思います。あと、山田先生は企業に勤めていた方なので、先輩たちから『プレゼンの達人』だと聞いていましたが、それは評判通りでした。学会で発表するときの資料をチェックしてもらうと、修正指示で真っ赤になって返ってくるんですが、その指摘はどれも適確で勉強になります。
学生が学会で研究成果を発表することもあるんですか?
はい。100人以上の人を前にして発表するときは本当に緊張しますが、山田先生には、そのような場に出てさまざまな人と交流することも大事だということを教わりました。交流の中から有意義な情報を引き出すには、自分自身も研究者として強み≠持たねばならないと。研究と実験とで培った知識を自分自身の強みにできるよう、日々努力をしているところです。

化学システム工学科|現実の課題に対して、化学を基盤に、システム的思考で考察することによって、課題解決へのビジョンを示すことができ、リアルタイムの社会貢献を目指すことができる学科である。

豊かな生活を実現するために、化学は不可欠な要素。しかし、まだ十分に化学の知識が問題解決に役立てられているとは言えない現実社会の問題も存在する。このような課題に取り組むときに、化学システム工学が大きな力を発揮する。化学システム工学を修得すれば、分子から地球に至るさまざまなスケールの課題に対し、問題解決のビジョンを示すことができるのだ。化学システム工学科では、化学に対する広範な知識をベースに、環境問題・エネルギー問題・安全性の問題に正面からシステマチックにアプローチし、化学と社会との密接な関係を築く研究を行うことができる。

3年生の時間割例[夏学期]

修士課程終了後の進路


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