石坂香子 准教授|物理工学科 学科データを見る

石坂准教授のCHANGE THE WORLD|光と電子で次世代新材料をつくり出す

Profile
物理工学専攻 物理工学科
博士(物理工学)
1999年、東京大学工学部物理工学科卒。2004年、東京大学大学院工学系研究科(物理工学専攻)博士号取得。東京大学物性研究所助手などを経て、’10年1月から現職。「この学科初の女性教員かもしれません」。高校生のころから物理が大好き。今、研究の話をすると止まらなくなる。

次世代新材料実現までの3STEP

  1. STEP1|光電子分光で物質の性質を調べ上げる
  2. STEP2|「ものづくり」と「分析技術」の戦略を相互に探る
  3. STEP3|新原理に基づく次世代電子材料の実現へ

光で拓く物質科学の世界で新しいものづくりの境地を生み出す

電子の振る舞いに学問的楽しさが。

電子が摩擦ゼロで動き回れる超伝導物質は、石坂香子准教授が追い求めている夢の新材料の一つだ。
「この物質でケーブルをつくれば、今の銅ケーブルとは異なり、送電中に電気が熱に変わるロスがなくなります。もしかしたら砂漠や海の上で大量に発電した太陽電池の電気を、世界中に配れるかもしれません」

超伝導物質は、国内外でますます深刻化するエネルギー問題を解決する可能性を秘める。しかし、これまでに発見された超伝導物質は、マイナス150℃程度でないと、その現象が生じない。現在その応用は、医療用MRIや試験用リニアモーターカーなど限定的な範囲。今、世界中の研究者が常温の超伝導物質を見つけ出そうとしている。
「むずかしいのは、複数の元素をいろいろな構造で組み合わせるので、ほぼ無限に存在する物質のなかからほしい性質を見つけないとならないこと。この研究室では、光を使って電子の振る舞いを調べる方法で超伝導が起こるメカニズムを解明しようとしています。調べていくと、例えばこの物質でこの元素を換えれば超伝導実現温度が上がるはずだとか、そんなことが見えてきます」

物質の振る舞いを分析する技術と新しい物質をつくる技術を結びつけることが重要だと、石坂准教授は強調する。
「私は学生のとき、この学科で物質をつくる研究室に所属していたんです。大学院を出るころから、つくったものを分析したいと強く思うようになり、光電子分光法という分析が得意な研究所に入って修業をしました。新しい物性の発見には、ものづくりも分析も両方大事なんですね。分析技術が高まれば物性の仕組みがよくわかり、その知見が物質をつくる技術を高めます。どちらの技術も新しい原理が交互に必要。私たちの研究室は物質を分析するだけでなく、物質をつくる研究者の方々にフィードバックしています。積極的に協力し合って、新しくつくった物質を研鑽した分析技術で計測したいと思っています」
以前に、物理と化学が結びついて物性物理という一大分野が誕生したように、物質を光と電子で分析する分野と物質をつくり出す分野が融合して、新たなフィールドが生まれるかもしれない。

実験装置は’11年2月より建設開始。
6月についにファーストデータを観測。

スピントロニクスにもこの分析方法で迫る

石坂研究室は2010年1月に立ち上がったばかり。’11年秋、ようやく東大内に、念願の分析装置「光電子分光装置」を学生たちと組み立てた。

「アインシュタインが説明づけた光電効果を利用した装置です。光を物質に当てると電子が飛び出てくるのですが、その飛び出た電子の数や運動エネルギーの状態を装置内で測定するんですね。電子が決める物性のほぼすべてが、直接的にわかります。百聞は一見にしかずでとてもパワフルな分析方法です」
物質を照射する光の質も上げると、測定能力がさらに高まるという。学内のレーザー研究の先生と協同し、この装置の光源に高品質のレーザーを組み込む予定。光電子分光装置にレーザーを使っている研究室は、世界的にもあまりない。石坂研究室は、この新しい装置で、科学の最前線に参戦していく。

この研究室では、超伝導物質のほかに、実用化の機運が高まっているスピントロニクスの機能材料についても研究を進めている。スピンする電子の向きをコントロールして、電気信号「0」「1」をつくり出す技術だ。
「高性能で電力を消費しないコンピュータをつくれるかもしれません。ただ、少ない電気でスピンの向きをコントロールできる相互作用の大きい物質は、まだ見つかっていません」
石坂准教授は、’11年6月、従来の材料より1000倍以上の相互作用を持つ物質を計測した。「Nature Materials」のオンライン速報版に発表して、日本の新聞にも取り上げられた。

この学科の学生には濃密な時間を提供します

女子学生は、工学部を敬遠しがちだといわれるが、実際にはどうなのか。
「男性が多いことは、私はまったく気になりませんでしたね。差別も優遇もされたことはありません」

大学入学時には物理をやろうと決めていたという石坂准教授。進学振り分けのときは、理学部の物理学科とちょっと迷ったけれど「社会を意識する工学部のほうが机上の空論になりにくいかな、と思うところもあって、こっちを選びました」とのこと。

この物理工学科に入った学部生は、4年生の段階で研究室に配属。世界トップレベルの研究に加わる。そのために3年生の段階で、物理の基礎を身につけるべく、ハードな講義と演習を短期間で積み重ね、4年生の前半までに世界最先端のレベルまで駆け上がる。
「3年生のときは、確かに大変だと思います。でも、4年生になって実験をするようになると、その苦労が報われて、高揚感を覚える毎日です。実験をしながら、『そうかわかった、あの面倒な計算はこのためにあったのか!』という感動の連続です。その感覚を私たち教員は学生たちに知ってほしい。だから、必死に教えて、落ちこぼれそうな学生がいれば手厚く導きます。私はこの学科に入って『やっと大学に来た』と実感しました。物理が好きなら、必ず『始まった!!』と思うでしょう。物理の世界に没頭したい人なら、この学科は間違いないと思います」。


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石坂准教授の研究 Keyword 4|光と電子を使いこなして物質のメカニズムを明らかにする

  1. Keyword 1|光電子分光法で電子を測定
    光電子分光の仕組み。光を試料に当てると、電子が飛び出してきて、その数や状態を電子分析器で測定。そのデータを見ることで、物性を探る。電子で決まる物性はほぼすべて直接的に特定できるという。
  2. Keyword 2|世界最高級の石坂研・光電子分光装置
    組み立てたばかりの光電子分光装置の表面温度をチェック。電子を集める半球部分は、世界最高レベルの大きさだとか。装置は、取り付ける部品の性能を確認しながら、石坂准教授と学生でコツコツと一から組み上げた。
  3. Keyword 3|スピントロニクス材料の貴重な試料
    測定する試料。試料は1×1o程度の大きさになることも。左は、少ない電気で電子のスピンの向きを制御できる物質。従来のものと違って、表面だけでなく結晶全体で極性を持つことを石坂准教授たちが明らかに。
  4. Keyword 4|実験の成功を左右する試料準備
    大切な試料を保管するケース。左は、内部の空気を抜いて試料の変質を防止する「真空デシケータ」。中央と右は、湿気から試料を守る「ドライデシケータ」。試料準備が実験の成功を大きく左右するという。

先生のHPへ


研究学生インタビュー

石坂研究室|坂野 昌人さん|東京大学大学院 工学系研究科 物理工学専攻 修士課程1年

研究の様子

研究室の立ち上げにかかわり盛り上がっていく毎日を楽しむ

学部4年生のときから石坂研究室に所属しているということですが、この研究室を選んだ理由は?
僕は、いろいろな物質を見てみたいという思いが強くありました。光電子分光法は、さまざまな試料を測定できるので、興味を惹かれました。それと、石坂先生のバイタリティ。物理を語るときの目の輝きが印象的で、ここで学びたいと思いました。
できたばかりの研究室に入ってみての感想は?
不便さは感じませんでした。自分たちで実験装置を組み立てたので、装置の細部まで把握できています。将来、この経験が役立つと思います。
この学科の印象と一番感動したことは?
印象は思ったよりも工学部らしくなかったことでしょうか。入ると物理の毎日です。感動したのは、4年生のときに光電子分光装置で金を測定したら、電子のフェルミ・ディラック分布が見られたこと。教科書で勉強した量子力学が、自分が手にした物質のなかにちゃんとある。「これがあれか!」と感動しました。物性物理をやってよかったと思いましたね。
この学科に入ると、いきなりハードな勉強が待っている?
確かに3年生は大変です。レポートが毎週3本も4本も出るので。でも、どこに行っても、いつかは必死に勉強するんですよ。学部で遊べても、大学院できっと勉強する。それなら最初に勉強したほうが、充実した研究の時間が長くなる。練られたカリキュラムのおかげで、勉強が苦手な僕もついていけました。
この学科のいいところは?
世界トップレベルの先生が多くいて、その研究室で卒論を書けることです。僕は、スピントロニクスの機能材料に応用できる物質について光電子分光法で測定し、その結果をまとめました。その成果を日本物理学会で発表しました。こんな経験が学部生や修士1年生のときにできます。物理の研究を思い切りやりたい人には、おすすめの学科です。それと、大学院に進学して修士課程を終えたとき、博士課程と就職、その両方の道がともに広く開けているのもこの学科の特徴。進路が多様なので安心です。

物理工学科|科学の源流から工学の奔流へ志と夢を持つ人々が集う 21世紀のサイエンスフロンティア

理論はわかっていたが、実験は不可能と思われていた量子テレポーテーション……。
この実験に世界で初めて成功したのが、物理工学科の研究室だ。理論物理学と実験物理学の双方を研究し、量子情報科学のような最新物理学の分野では世界トップクラス。物性物理の研究が盛んなのも特徴だ。この学科では毎日、最先端の物理が生まれている。物理の基礎を自由な発想で応用し、新しい学問と産業を生み出す一大拠点となっているのだ。

3年生の時間割例[夏学期]

修士課程終了後の進路


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