水野哲孝 教授|応用化学科 学科データを見る

水野教授のCHANGE THE WORLD|最先端の固体触媒で21世紀社会の基礎を構築する

Profile
応用化学専攻 応用化学科 工学博士
1957年静岡県生まれ。1985年、東京大学大学院工学系研究科合成化学専攻博士課程修了。その後、東京大学と北海道大学で化学分野の研究を重ね、2001年より現職。浜松市の自然豊かな環境の中で育つ。趣味は渓流釣りで、奥秩父の山奥まで出かけることも。

21世紀社会の基礎構築実現までの3STEP

  1. STEP1|固体触媒の構造と機能の関係を解明
  2. STEP2|実際の利用を想定し材料を設計
  3. STEP3|社会の基礎となる固体触媒・蓄電材料を開発

化学の力で工業の世界に新風を起こす

未来を変える技術が入っている。

プラスチックや医薬品、化学繊維など、私たちの身の回りにある多くの製品には「固体触媒」が使われている。固体触媒はいわば化学産業の影の立て役者≠セ。最近では、環境・エネルギー問題の解決への切り札として、ますます注目が集まっている。水野哲孝教授は、固体触媒を原子・分子レベルで設計し、究極の固体材料の開発に取り組んでいる。

触媒とは、「自らは変化せずに化学反応を促進する物質」のこと。生物の体内にも「酵素」という触媒作用をもつ物質が多く存在し、生命活動を維持するための反応を手助けしている。

触媒には溶液のものもあるが、反応生成物と混ざり合ってしまい、触媒を取り除くために余分なエネルギーとコストがかかる。そのため工業的に使われるのは多くの場合、固体の触媒だ。

「原子1個から固体触媒をつくれたら、世のなかを変えることにつながる」と水野教授。「固体触媒を原子・分子レベルでつくりだすのは極めてむずかしいことですが、それができれば、究極の自動車用排ガス触媒や、これまでにない高性能な蓄電池が実現します」。

計測という作業は実験に付きもの。

化学のおもしろさとものづくりの大切さと

「固体触媒を原子1個からつくる」とはどういうことだろうか。例えば、自動車用排ガス触媒は、自動車が排出する有害な一酸化炭素や炭化水素などを、無害な二酸化炭素や水に変換して、外部に排出してくれる。現在この反応の担い手は、触媒の表面に存在する白金やパラジウム、ロジウムなどの、いわゆる「レアメタル」だ。そのため、触媒の市場では、自動車用触媒が金額的にもっとも大きな割合を占めている。もし、自動車用触媒に使われる白金などの貴金属を、鉄などの安価な金属に置き換えることができたら、産業界へのインパクトは大きい。

「白金と置き換える金属として、鉄とニッケルなど、さまざまな組み合わせが考えられますし、分子の並べ方にもいろいろあります。自分でつくってみると、意外な機能がわかってきます」

既存の固体触媒の構造を解析し、部分的に別の原子や分子に置き換えることで、より有用な固体触媒を開発する。これが「固体触媒を原子1個からつくる」ということだ。
「実は、固体触媒がどんな構造を持つとどんな機能を発揮するかということは、ほとんどわかっていません。私たちはまず、構造と機能の相関を原子レベルで明らかにすることを目標にしています。5年や10年で実現できるかわかりませんが、次の世代の人たちがそれをベースにして、目的とする機能を持った触媒を合成できるようになるのではないかと思います」

固体触媒の構造と機能の相関を調べるだけでも大変そうだが、水野教授はそこに魅力があるという。
「もっと性能を上げたいと思ったら、周期表のなかから別の原子を選んで置き換える。すると、本当に高性能なものができたり、予想外のものができたりする。新しい反応や新しい現象が見つかることが化学のおもしろさです」

密度の高い電池の開発にチャレンジ

現在、水野教授はトヨタ自動車などと組み、電気自動車に使う夢の蓄電池≠フ開発に力を入れている。
「電池も、基本的には固体触媒と同じ。固体触媒の表面で反応が起こるように、電池の正極材料、電解質、負極材料の表面でも分子の相互作用が起きます。これを原子・分子レベルで理解し、材料をデザインすることで、蓄電デバイスの性能を高めることができます」

現在の電気自動車用電池の主流は、携帯電話やノートパソコンなどの小型機器に使われているリチウムイオン電池。しかし、自動車のような大型機器を動かすには、エネルギー密度も出力も十分ではない。一回の充電で、ガソリン車に匹敵する航続距離を持つ電気自動車を実現するには、電池の新たな材料開発が必要になる。
「今、目指しているのは、エネルギー密度を上げること。エネルギー密度が上がれば容量が大きくなり、電池自体は小さくなります。効率よく電池を電気自動車に積めるようになります」

先に述べたような自動車用排ガス触媒も、電気自動車に搭載する蓄電池も、環境への負担を考慮したものだ。
「原子をムダにしないような反応をつくることも大切。何段階もの反応を経る化学プロセスでは、多くの副生成物が出て、原子がムダになります。なかには有害なものも出る。反応の段階を少なくし、副生成物を減らせる触媒は環境調和型触媒≠ニいえます」

子どものころから自然のなかで遊ぶのが好きだったという水野教授。
「自然界から学び取ることはたくさんあります。生物の体内には、触媒作用を持つ酵素がたくさん存在します。例えば、鉄を含む酵素は多くありますが、それは自然界に鉄がたくさんあるから。自然界の知見をうまく使って、化学で新しい触媒をデザインできるのも、この研究のおもしろいところです」


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水野教授の研究 Keyword 4|固体触媒を原子1個からつくる

  1. Keyword 1|原子・分子レベルで制御した固体触媒の構築
    金属1原子ずつを集積させたポリオキソメタレートという固体触媒の合成を主に扱っている。もとの物質を原子レベルで制御し溶液中で反応させると、多様な用途を持つポリオキソメタレートに。吸着材料などにも応用できる。
  2. Keyword 2|環境に優しい固体触媒
    ポリオキソメタレートには複数の金属が存在する(図のM)。それを別の金属に替え、有害物質のみを選択的に変換する、環境に優しく新しい触媒の開発を目指す。特定物質に固定化した固体触媒の開発も行う。
  3. Keyword 3|高機能な吸着・分離材料の開発
    自己組織化させた3次元ナノ構造体を用いて、炭素原子1つの違いを識別できる吸着能や分離能を持つ、優れた「インテリジェント固体材料」の開発を目指している。環境浄化や、工業的に利用される分離技術として役立てる。
  4. Keyword 4|新しい電池システム・材料がつくる未来
    電気機器のみならず、自動車でも自然エネルギーを効率的に利用する上で蓄電池は重要。リチウムイオン電池の正極に使われているリチウム金属酸化物のさまざまな性質を利用した、新しい動作方式の電池の開発を目指している。

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研究学生インタビュー

水野研究室|須河 碧さん 東京大学大学院 工学系研究科 応用化学専攻 修士課程1年|平野 智久さん 東京大学大学院 工学系研究科 応用化学専攻 博士課程2年

研究の様子

「1人1テーマ」で化学の研究に取り組む

社会のなかで役立つ固体触媒の開発を目指して、日々、研究に打ち込んでいる平野さんと須河さん。

どうしてこの分野に?
平野もともと環境に携わる研究をしたいと思っていました。物質を変換できる化学なら、ダイレクトに環境にアプローチできると思ってこの分野を選びました。僕は、化学は手段だと思っています。「化学をやりたい」というより「化学を身につけたい」という気持ちが強いですね。
須河高校のとき、化学はわりと暗記科目という印象が強かったのです。でも、教養学部で授業を受けて「あ、そういうことだったのか」とわかったことがあって、それがおもしろかった。もっと化学を学びたいなと思って選ぶことにしました。
学部と院での生活の違いは?
須河4年生までは、助教や先輩を通して先生とお話しすることが多かったのですが、大学院に入ってからは先生と直接ディスカッションする機会が多くなりました。緊張感は比べものにならないです。
日々、どのような研究を?
平野水野研究室がメインにしているポリオキソメタレートという触媒を使った環境に優しい触媒反応を開発しています。この触媒を原子・分子レベルで制御して、例えば、化学原料から得られた化合物を、より有用な化合物に変換できるような未知の触媒反応を探っています。
日々、朝の9時半くらいに研究室に来て、夜12時を越えてから帰る生活です。先生とディスカッションする機会が多く、しかも要求されるレベルも高いので大変ですが、その大変さについていくことで力が身についていると思っています。
研究の魅力を教えて?
須河「1人1テーマ」で取り組めるところです。化学の研究では合成か反応かどちらかを主にやることが多いのですが、この研究室では、自分で触媒を合成して、どんな反応になるかを見て、それがどう使えるかというところまで一人でやります。
平野今までなかったものを自分でつくったり見つけたりできることにやりがいを感じます。うまくいかないことも多いけれど、いい成果が出たときは本当にうれしいですね。

応用化学科|「21世紀は新しい応用化学の時代」応用化学科では、「講義」と「実験」の有機的連携から化学の基礎的なセンスを磨く教育を行い、また化学をベースとした広範囲かつ最先端の研究テーマに取り組んでいる。

応用化学科が目指しているのは、物質をデザインすることで、人の役に立つ新機能を導き出すこと。
無機、有機、バイオといった従来の分野を超えた多彩な最先端の研究を日々推進している。最先端の研究を行うには、まず、これまでに蓄積された知識を吸収する必要がある。そして、技術・材料・デバイスを開発するには基礎的な研究の積み重ねも欠かせない。
これらの成果の先には、エネルギー変換、貯蔵、環境浄化、医療、情報処理などの分野での貢献がある。多岐に広がる知識の「枝」の先に、豊かな「実」を結ぶことが、この学科の究極の目標である。

3年生の時間割例[夏学期]

修士課程終了後の進路


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