津江光洋 教授|航空宇宙工学科 学科データを見る

津江教授のCHANGE THE WORLD|新しいエンジンで宇宙利用の新たな時代を実現する

Profile
航空宇宙工学専攻
航空宇宙工学科 工学博士
東京大学大学院でロケットエンジンの燃焼室に興味を持ち、そこから燃焼の研究を本格的に始める。2007年工学部航空宇宙工学科教授に就任。専門は高速推進機関における燃焼、燃焼装置の環境負荷低減、宇宙環境利用など。また自動車エンジンの研究も進めており、「電気自動車の普及にはまだ時間がかかる。いかに低燃費のエンジンをつくるのか。やるべきことは多い」。

宇宙時代実現までの3STEP

  1. STEP1|地球上を高速で飛行できる新エンジンを開発する
  2. STEP2|新エンジンを使って宇宙空間を行き来する
  3. STEP3|人間活動が宇宙空間で行われるようになる

次世代エンジンで社会のシステムを変えていく

性能を極めたエンジンには機能美がある。

「世のなかにはさまざまなエンジンがありますが、そのなかでも究極といえるのはやはりロケット。技術の粋を集めた芸術品です」

目を輝かせながら語り始める津江光洋教授は最先端エンジンに魅せられている。きっかけは単純だが、印象的だった。約30年前のある日、東大航空学科の学生だった津江青年は、運用が始まったばかりのスペースシャトルの打ち上げをテレビで目撃する。
津江青年は、子どものころからとりたてて機械が好きなわけでもなかったし、その当時は将来自分で何かをつくってやろうという気持ちもなかった。しかしスペースシャトルがエンジンから大きな煙と炎を吹き出しながら空に向かって飛んでいく姿に心が震えた。

「あの圧倒的な力の源はエンジンであり、燃焼させることだ。それがどうなっているか、知りたい!」
その想いを追求し続けてきた青年は、今では母校で教授となり、スペースシャトルの打ち上げに感動した当時の自分とほぼ同じ年齢の学生を指導している。エンジンの燃焼は今も研究しているが、もっと広い視野で航空宇宙開発を見ていく立場となった。
「現在の地球は世界中の人口をまかなえるキャパを超えつつあります。このまま文明を維持していくためには海底か、宇宙空間を利用していくしかない。そのために宇宙開発の分野で貢献していきたいと考えています。今ある人工衛星の改良につながる研究でもいいし、宇宙での工場建設や宇宙空間で発電させたエネルギーを地球に持ってくるといった、まだ見ぬ技術の追究でもいい。どんな形でもいいので、宇宙が今よりも人間にとって身近な空間になってほしい。それが私の究極の夢です」

本郷の風洞実験装置の前で語る津江教授。

スクラムジェットで新たな時代を切り拓く

しかし宇宙開発はなかなか進んでいないのが現実だ。最大のネックとなっているのが、ロケットの研究開発に莫大な費用がかかること。なかでも打ち上げにかかるコストが、大きな足かせになっている。今あるロケットでは、仮に1kgのものを人工衛星の軌道に乗せようとすると約100万円のコストがかかる。100kgだと1億円だ。

この課題を克服するために津江教授が今、JAXA(宇宙航空研究開発機構)と共同研究しているのが、スクラムジェットと呼ばれる次世代エンジンだ。今のロケットの中身は大部分が燃料とその燃料を燃やすための酸化剤だということをご存じだろうか。それを運びながら飛ばなければならないので、実は効率が悪い乗り物≠ネのだ。だったら大気圏内を飛んでいるときは空気中の酸素を使えばいい、というのが、スクラムジェットの発想なのである。

「スクラムジェットは大気中の酸素を利用しつつ機体を飛ばす技術です。ただし高速で飛ぶ機体のエンジンには当然ものすごい勢いで空気が入ってきます。流速は音速以上です。その状況で燃料を効率よく燃やすのはむずかしいし、課題もあります。でも大気圏内ではスクラムジェットを使い、宇宙に出れば別のロケットエンジンを使う。そうやって段階を分けてロケットを飛ばせば、コストをかなり抑えられます」

理想と現実の両立。それが工学の使命

こうした空気吸い込み式エンジンは、何も宇宙開発のためだけに利用されるものではない。私たちの社会や生活を大きく変える可能性も秘めている。予冷ターボジェットと呼ばれる次世代エンジンを搭載したマッハ5クラスの極超音速旅客機の研究も進んでおり、2025年ごろには、東京〜ロサンゼルス間を約2時間で移動できるようになるかもしれないのだ。

「どこまでも速く、どこまでも遠くに」といった夢だけを追い求めるのではない。現実と向き合い、よりよい社会を構築するという視点を持って研究しなければならない。「それが工学の使命です」と津江教授は力説する。
「地球温暖化などのニュースが頻繁に飛び交う昨今、物を燃やす≠ニいうだけでネガティブなイメージを持たれてしまいます。でも、だからこそ私たちは、なぜ今この研究が、ひいては工学が大事なのかと考え、社会に発信していかなければならないのです。だから私はよく学生たちに二重人格になれ≠ニ言っているのです(笑)。夢を追いかけたり、学術的なことを突き詰める一方で、社会との関係を考えることも忘れてはいけない。この2つを両立させる力を研究室で学んでほしいのです」

夢と現実を両立させることは簡単なことではない。しかし津江教授は学生たちの情熱と可能性を信じている。
「私は、航空宇宙工学に興味がある≠セけではなく、はっきりと好きだと言える人を求めます。あとは知識の豊富さよりも自分で考える力がある人が理想。研究をしていると答えのない問題をずっと解いているように感じることがあります。そんなときそれが正しいのかどうかを考える力がないと先に進めません。その点、今の研究室には優秀な学生がそろっています。実際、私が思いつかないような実験に取り組んでいる姿を見て、すごいなぁと感心することも多いですから(笑)」
特別な訓練をしていない人間が、スクラムジェットの技術を活用し、自由に地球と宇宙を行き来する。津江教授の夢が実現するのは100年先になるかもしれないが、エンジンの炎の先には宇宙の新たな時代が広がっている。


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津江教授の研究 Keyword 4|燃料や環境によって燃焼のカタチは千差万別!

  1. Keyword 1|無重力で燃焼実験。きれいな球状の炎が
    懸垂線と呼ばれる細い線の先端に付着させた液体燃料の燃焼写真。無重力で小さな液体の粒がどうやって燃えているかを示したもので、無重力状態で実験を行うと、球状の火炎(球対称1次元)が形成される。
  2. Keyword 2|重力のある地上では浮力で炎は伸びる!?
    右図と同様の燃焼を地上(通常重力下)で行ったときの様子。燃焼により高温のガスが発生するため、浮力(下から上へ向かう自然対流)が生じ、火炎が上方に引き伸ばされる。無重力との炎の形の違いに注目。
  3. Keyword 3|予冷ターボジェットのアフターバーナ燃焼実験
    柏キャンパス風洞での極超音速エンジン(予冷ターボジェットエンジン)のアフターバーナにおける水素燃焼実験。右から左に空気が流れ、燃焼器右端の噴射装置から水素を噴出させて燃焼させている。
  4. Keyword 4|高速空気中に保持される火炎の様子
    スクラムジェットエンジンの燃焼器内でのケロシン(軽油)の燃焼実験。左から右に音速を超えるマッハ2の空気が流れ、そのなかに矢印のところから燃料となるケロシンを噴射させて燃焼させている。

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研究学生インタビュー

津田研究室|西田 俊介さん|東京大学大学院 工学系研究科 航空宇宙工学専攻 博士課程 3年

研究の様子

社会のシステムを変えるような航空機のエンジンがつくりたい

子どものころから飛行機が大好きだった西田さんは、先進的な航空機エンジンの研究を求めて「津江研究室」を選択した。その心は昔も今も「新しいものを生み出したい」という野望に満ちあふれている。

ぜこの研究室を選んだの?
もともと僕は、いずれ社会のシステムを変えるような航空機のエンジンをつくりたいと思っていました。津江研究室は極超音速機をはじめとして先進的な航空機のエンジンを研究しています。航空宇宙工学の分野では、現状のジェットエンジンをインプルーブしていく研究もありますが、この研究室ではもっと先の未来を見据えています。
研究内容について教えて。
JAXAと共同でマッハ5クラスの極超音速旅客機を実現するための予冷ジェットエンジンの研究を行っています。こちらはアフターバーナ(推力増強装置)の性能向上と低環境負荷化が主なテーマです。大規模な実験が必要なので、年に何度か千葉県の柏キャンパスにある風洞実験室に出向き、その後、研究室のある本郷キャンパスに戻って実験結果を検証するということを繰り返しています。
津江研究室では自主性を重んじているとか。
はい。「どんな実験をするのか」「そのためには何が必要か」ということを学生が自分たちで考えます。そのため、しっかりと自分の目標やビジョンを持っている方が多いですね。でも、そうやって自由に研究できるのも、間違った方向に行きそうになったら、先生がしっかり後ろで見ていて、修正してくださるからです。
研究室の雰囲気は?
他の研究室の学生からうらやましがられるくらい、先生と学生の関係はフランクです(笑)。学生が先生に対して意見を言いやすい環境をつくってくださっていますし、本当に居心地がいいです。それに航空宇宙の研究をするフィールドとしては、日本ではダントツに恵まれている環境だとも思います。ですから、人気もあり進学のむずかしい学科ではありますが、航空宇宙に情熱を持っている人は、ぜひともチャレンジしてほしいですね!

航空宇宙工学科|未開拓技術の宝庫である航空宇宙工学。先端的技術・システム統合化技術の創成と教育研究に取り組んでいる。

日本の航空・宇宙産業を担う人材を輩出し、理系の学生にもっとも人気のある学科のひとつ。
航空機やロケット、人工衛星などの宇宙機の機体について学ぶ航空宇宙システムコースと、推進機器(エンジン)を学ぶ航空宇宙推進コースの2つがある。航空宇宙工学科では、流体、構造・材料、飛行・制御、推進など、さまざまな工学分野のバランスの取れた統合が要求される。研究者や技術者には、最先端技術を理解できる知性だけでなく、異なった学問分野の知見を統合して、新しい価値を創り出す能力が求められる。

3年生の時間割例[夏学期]

修士課程終了後の進路


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