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工学部/工学系研究科 トピックス

【第17回 インタビュー】電気系工学専攻 佐藤正寛 先生


聞き手:鈴木 雄二教授(副研究科長)

計算科学で新たな役立つ材料を作る
―物性や分子構造から解き明かす絶縁材料―

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「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」が注目される中、電気というエネルギーを送る設備にもさまざまな新しい技術が求められています。東京大学工学系研究科の若手研究者がその成果と未来、発展について語る対談の第17回。鈴木雄二副研究科長が、電気系工学専攻の佐藤正寛准教授へ計算科学を用いて作る新たな材料についてお話を聞きます。

 

ゼロカーボンとグリーントランスフォーメーションになぜ計算科学が役立つのか?

 

鈴木佐藤先生は、計算科学による物性の研究をされていて、物質の動作原理を理解して背後にある物理を読み解き、エネルギーに係る材料の設計に取り組まれています。電気系工学いうご専門は、「直流送電」や「グリーントランスフォーメーション(GX)」といったキーワードと共に最近注目されている分野です。どのようなチャレンジをされているのでしょうか?

 

佐藤:私は、経験的な知識を一切使わず、物質の性質を明らかにする「第一原理計算」という手法を用いて次世代のグリッド(送電網)に資するような絶縁材料の開発を目指しています。具体的には、ポリマーの絶縁材料や、環境に調和する材料の開発。そうしたことに取り組んでいます。ゼロカーボンというキーワードが追い風とな2050年まで電力システムの大変革が起きていて、電気にかかわる技術開発がさまざまなところで必要とされています。

 

鈴木:送電ケーブルの研究は中国で盛んと聞いたことがありますが、日本での状況はどうですか?

 

佐藤中国だけが強いかというと必ずしもそうではなく、欧州が強みを持っています。直流送電というのは電力を長距離で送ることができ、国境や洋上風力発電施設から海を越えて送電線を繋ぐといったことが可能になります。再生可能エネルギーがどんどん入ってきている欧州では送電ケーブルも必要とされるわけですから、欧州のメーカーが強いのです。日本も別の技術を持っていて、欧州に納めるような活動も初めていて奮闘中というところですね。

 

鈴木:すると、先生の競争相手は欧州になるんですか?

 

佐藤:誘電絶縁材料開発という観点からはおっしゃる通りです。ただ、一方で、機械学習などAIを用いた材料開発という、もっと広いくくりでは米国を中心として世界中の国と切磋琢磨しています。

 

鈴木なるほど、そこに計算科学はどのように関わってくるのでしょうか? またどんなきっかけで始められたのでしょうか? 最近では日本の学会でも研究会が開かれて活発になってきているわけですが、先生は先駆け的存在で、まだ取り組んでいる人が少ない分野だったときに始められたわけですから難しさやご苦労もあったのではないかなと思うのですが。

 

佐藤:学部生のときは、電力機器の絶縁に関する研究を行っていました。実験がメインで大きな装置を使う実験も多かったですね。ただ、一方で実験やその場しのぎのパラメータを用いる古典的なシミュレーションだけではわからないことが多く、その中で「量子化学計算(第一原理計算)」という言葉を恩師に聞いて、面白そうだと思ったのです。

はじめは計算のケの字も分からず、工学系のほぼ全ての学科の関連講義を受けて、情報をつかむところから始めました。どの分野にも素晴らしい専門性を持った先生方がいらっしゃるので、学生の特権と思ってたくさん質問をしました。怖いもの知らずでチャレンジングなことをしようとしていたので質問の答がすぐに得られるようなものではありませんでした。

 

鈴木:確かに、論文ではいかにも見てきたようなことが書いてあったとしても、本当は誰も見たことがない。最後は計算でなくては解き明かせないという分野がありますね。

 

佐藤:おかげさまで、計算が先行して、高電界現象下では分子・原子レベルでどういうことが起きているかを理解できるようになってきました。そこで、今は実験の方もそれに負けないように立ち上げているところです。

 

鈴木:また一方で、私の専門の流体の分野でも、本来は計算が先行して、計算で分かったことを実験で確かめることが望ましい場合があります。ですが実際には実験の方が早くて、計算は後追いになってしまうことがあると思うのですね。その中で佐藤先生がやってらっしゃることは、実験よりもその計算が進んでいるということなので、実はすごいインパクトがあるわけです。

 

佐藤:その点は私も意識しているところです。第一原理計算が実験結果を説明するために使うだけでは、第一原理の良さが十分に発揮されていないと感じます。第一原理計算というからには、実験の前に予想できるものにしたいと考えております。誘電絶縁材料や高電界現象も、複雑で計算やモデル化が難しいので、第一原理計算がなかなか入ってこなかったのではないかと思います。

 

鈴木:実際に近い系を摸擬する第一原理計算が可能になると、機械学習などの情報科学を活用してこれまでにない材料を開発する「マテリアルズ・インフォマティクス」がどんどん進んでいきますね。

 

佐藤:はい。博士課程のころに機械学習を用いた研究も行っていたのですが、最近では関連するマテリアルズ・インフォマティクスに関する研究にも本腰を入れ始めておりまして、優れた物性をもった材料の分子構造なども予想できるようになってきています。

現在は計算機の上で創成した分子の合成に関する検討を始めており、とてもワクワクしています。

 

マテリアルズ・インフォマティクスとエネルギー

 

鈴木:電気の分野でのマテリアルズ・インフォマティクスというと、どのような素材を実現するのでしょうか。ポリマーが関係する分野だと、送電線の絶縁皮膜などですか?

 

佐藤:ケーブルや変圧器、遮断器などほとんどすべての電力機器の絶縁に用いられるポリマーも最終目標にはありますが、ポリマーは複雑な構造を持つことから、比較的構成原子数の小さい気体分子の設計にも取り組んでいます。「SF6(六フッ化硫黄ガス)」 というガスが地球温暖化を加速してしまう性質を持つため問題になっていて、その代替ガスの探索を行っています。

 

鈴木SF6私も実験使うことがありますが、地球温暖化係数(GWP)が非常に大きくて代替材料を求めている人は多いですね

 

佐藤SF6は「環境中に漏れない」という前提で使っているわけですが、事故やミスによって漏洩する可能性があるので使用を制限すべきだという声が大きくなってきております。

また、固体材料ではそもそも廃棄を想定していないものあり、これらは回収や処分ができるようにしなければならない。液体材料、例えば、油にしても海洋中へと流出防止や難燃性の向上、バイオ材料化などさまざまな課題があって、さまざまな意味で持続可能な材料、環境調和性のある材料が求められていますね。

 

鈴木SF6の代替材料の開発は現在どこまで進んでいますか?

 

佐藤:いくつか新しいガスが開発されつつあるのですが、まだ性能がよろしくありません。使用したい圧力では液体になり使い物にならない、ライフサイクルコストが非常に高い、GWPも実はあまりよろしくない、毒性がある、周辺の材料を腐食するなど、種々の問題が山積しており、長い目で見て使えるガスというのはまだ出てきていないのです。

 

鈴木:そうした性質は、計算科学でどこまで追求できるのでしょうか? 腐食性や安定性は、どこまで計算科学で予測ができて、どこからは合成して実験しないと分からないのでしょうか?

 

佐藤:材料の腐食性や安定性、GWPならばある程度まで計算で追えるとは思います。ただ、毒性となるとあまりにも多岐に及んでいて、しかも既存のガスの毒性さえ詳細が分かってなかったりする部分があります。

 

鈴木:確かに食塩でも多量に摂取すれば毒となるように、毒性がないものというのはないですからね。

 

佐藤: 量と入ってくる経路によりますからね。これは人間を計算できないのと同様に、まだ難しい領域ですね。

 

新しい材料を計算科学が実現するには

 

鈴木:電気に関係する材料を研究するにあたって、先生が大事にしていることはなんですか?

 

佐藤:重きを置いているのはやはり計算科学、データ科学ですね。「4つのパラダイム」というのがありまして、「実験」「理論」「計算」「データ」です。ポリマーは非常に複雑な物質で、これまでは実験や理論を主として研究が進んできました。私はそうした、これまで計算科学やデータ科学にうまく落とし込めなかったような複雑な系の固体材料……ポリマーや、水素製造で言えば界面といった、ある種「汚い系」を美しく解くということを学術的な柱としています。

 

鈴木放電というのは、おそらく非常に非線形性が高い現象であって予測もとても難しいですよね。今まで非常に複雑で分からなかったことが計算を核として、だんだんわかっていくわけですね。

 

佐藤:私が研究をやる理由がまさにそこにあると思います。大学で研究をしている理由は「分かりたい」ということなんです。これまでアモルファスかつポリマー中の電荷輸送を第一原理的に扱おうと考える人はいなかったと思います。今はもう、現象論的な表式や経験的なパラメータを用いることなく、マクロな物性が予想できるようになっています。それがわかるということは、途中過程にある物理も全部明らかになる。そういう時代に入ったのだと思います。

 

電気系を選んだ理由

 

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鈴木
:佐藤先生が研究者の道を選んだきっかけについて教えてください。

 

佐藤:この専攻を選ぶときに機械と電気のどちらに行こうか迷ったことがあります。実は「就職できる」というところもあったのですよね。これは、電気出身の方が社会で活躍していることと関係していると思うのですが、電気というのは広くさまざまな分野を学べ、この世界をより良いところにするのに貢献できると考えました。

 

鈴木:さらに、高電圧を専門とする研究室に入られたきっかけは?

 

佐藤:人を幸せにするという意味で、ライフラインを支えるインフラ系で貢献したいという思いがありました。現在進めている研究は、どれもエネルギーやゼロカーボンと関係している、計算ベースに重きをおいた研究です。例えば、水素製造のコストが高いという課題に対しては、デバイス動作環境を模擬したシミュレーションを行うことでコスト削減方法を検討しております。また、最近はCO2回収に関係した材料に関する第一原理シミュレーションや、AIを用いた電力需要予測に関する検討も始めております。

 

鈴木:世の中の役に立つ絶縁材料や光触媒を実現するということが先生の目標にあるわけですね。

 

佐藤:恥ずかしいのであまり表立って言わないのですが、短期的には、計算機の上で予測しているSF6代替ガスが世界中で使われてほしいと思っています。そして、2050年には私が考えた技術や方法論がゼロカーボンの実現に貢献できていればとても嬉しいです。

もっと長期的な目標は、これまで計算機の上できちんと扱うことができなかった汚い系(複雑な系)のさまざまな物性が予想でき、そしてどうしてそのような物性が発現するのかが分かることです。さらに言えば分かった上で制御できることですね。実用材料の世界では、電気も熱も通す、あるいはその反対といったトレードオフがあって電気を通さないけれど熱を通すというのはなかなか難しい。トレードオフの中で使えるものを探していかないといけないわけです。計算ベースで全て分かる段階にくれば、トレードオフをどう打破すればよいかもわかります。材料を計算機の上で探して、本当に使える世に出せるものを作りたいと思っています。

 

鈴木:計算上の性能だけ、あるいは実験室レベルの非常に小さなサンプルの研究にももちろん価値はあると思いますが、実用となると実際には生産コストのように泥臭い部分がたくさんあります。そうしたトレードオフについても考えられるというのが佐藤先生の強みですね。先生は実験の経験もあるところが強いと感じました。実験と計算が頻繁にインタラクションしながら開発していくようなコラボレーションもあるのですか?

 

佐藤:現在も、学生たちと一緒に実験と計算を組み合わせた研究を行っていますが、材料開発の段階になるとより一層のコラボレーションが必要になると思います。私たちは合成までは手掛けていないので、他の研究室や他の専攻と一緒にチームをつくって取り組むことになると思います。実は、ちょうど、NEDOの助成に採択されまして企業を含めたチームで材料の合成まで行える目処がたったところで、とても楽しみにしております。

 

鈴木先生の研究室学生さんは、研究のモチベーションが高いですね。その秘訣はどんなところにあると思われますか?

 

佐藤研究室に入ってから楽しさに気づくようですね。秘訣といえるかどうかはわかりませんが、やはり私自身が楽しんでいることでしょうか。

 

鈴木それは素晴らしい一番素晴らしいことですね。本日は楽しいお話しを聞かせて頂いて、ありがとうございました。

 


Profile

佐藤正寛准教授
私立麻布高等学校(東京都)出身

聞き手 副研究科長 鈴木雄二教授
日野市立第4中学校(東京都)出身、東京都立国立高等学校(東京都)出身
※所属や職位の情報は全て取材時点での内容です。