トピックス

2019.03.22

【若手研究者紹介:020】技術経営戦略学専攻 西野研究室 西野成昭准教授

 

経歴
2004年 東京大学大学院工学系研究科精密機械工学専攻 博士課程修了 博士(工学)
2004年 東京大学人工物工学研究センター 博士研究員
2006年 東京大学人工物工学研究センター共創工学研究部門 助手
2007年 東京大学人工物工学研究センター共創工学研究部門 助教
2009年 東京大学大学院工学系研究科技術経営戦略学専攻 准教授
2017年 Cranfield University, Visiting researcher
2018年 Coventry University, Visiting researcher


<研究について>
西野研究室では、社会システムを対象とし、ゲーム理論、経済実験、マルチエージェントシミュレーションの方法論を統合的に用いて、共創的に価値を創出できるメカニズムの構築を目指した研究活動を行なっています。共創とは、複数の行動主体の相互作用を通じて、単一の行動主体では得られないような行動解を創発的に生み出すことを言います。一般に、社会システムは自律的に意思決定する行動主体から構成されており、それらがどのように相互に関係しながら社会が構築されるかという観点で研究を進めています。

現在、情報通信技術の発展に伴って社会は複雑化し、人々のライフスタイルや価値観は多様化しています。昔は物の所有に価値を感じた人が多く、今は所有よりも経験に価値を求める傾向にあり、シェアリングなどのビジネスモデルが注目を浴びています。さらに、人工知能の技術が飛躍的進化し、すでに社会にも浸透し始め、我々の社会は大きな変革期を迎えようとしています。このような状況において、社会システムのより良い構造を科学的に明らかにしてくことが求められます。

そのような複雑化する社会に対し、研究室では3つの切り口から問題を捉えようとしています。1つ目は「技術」です。新しい技術はこれまでにない機能性を実現でき、社会の諸問題を解決したり、時には新たなビジネスモデルを生み出し、我々の社会を豊かにしてくれます。すなわち、社会で新たな価値を生み出します。技術がどのように価値を生み出しているかを解明しなければなりません。2つ目は「サービス」という視点です。所有から経験へという人々の価値観の変化に応えるものがサービスです。純粋なサービス産業としてではなく、上位の一般概念としてサービスを捉えます。例えば、製品の場合でも、利用することで何らかの機能が発現します。これもサービスの一側面です。利用におけるサービスの構造を考えることが重要です。3つ目は「環境」です。できるだけ環境資源の消費を少なくし、可能な限り大きな価値創出を目指さなければなりません。循環を通じて新しい価値を持続的に生み出す仕組みを実現する経済活動が必須です。そのためには、技術とサービスは必須要件となってきます。これらを総合的に考えることが重要です。

また、本研究室ではシンセシスという観点を強く意識した研究を行なっています。複雑な事象を理解する(アナリシス)ことが科学の大きな使命の1つですが、対照的に、製品などの人工物を創出する行為は、一般にシンセシスと言うことができます。その観点で言えば、工学の諸分野は少なからずシンセシスを担っています。社会システムに対しても同様な発想でアプローチしようとしています。しかし、人の手によって作られる人工物と異なって、社会は自律的に振る舞う行動主体によって構成されており、社会自体を直接的に作り出すことは出来ません。代わりに、社会制度などの仕組み(メカニズム)を作り出すことになります。それには、経済学の応用分野であるメカニズムデザインの考え方が有効であり、本研究室でも採用しています。

メカニズムデザインはゲーム理論のフレームワークを使って定式化されています。各プレイヤが表明するメッセージを集約しゲームの帰結を与えるという形式で、社会システムにおける相互依存的な意思決定の構造として理論が構築されています。合理性を前提とした個々のプレイヤが、社会的に望ましいゴールを達成できるようなメカニズムを明らかにすることに主眼が置かれています。一方で、理論的に優れたメカニズムが実際に機能するか、実験を通じて検証しなければなりません。そのために、実験室に統制された仮想的な経済環境を構築し、実際の人間を被験者とした経済実験の手法を用いています。加えて、マルチエージェントシミュレーションを利用し、実験できない部分についてはコンピュータ上でシミュレートするなど、補完的に用いています。このように、文理融合の領域横断的なアプローチを採用して研究を進めています。

これまでに行なった具体的な研究テーマとしては、例えば、代替燃料車の技術開発と導入意思決定に関する研究があります。電気自動車には充電ステーションなどのインフラが必要です。インフラの整備、電気自動車の技術開発、消費者の新技術の受容、といった問題は相互依存的で複雑を極めます。経済実験を通じて、社会的余剰を高めるための導入シナリオなどを理論的な観点から明らかにしています。また、別のテーマとして、サービス産業に着目した研究も行なっています。サービスは同じ業種でもその仕組みは様々で、業種を越えて一般的なモデルとして記述することは通常難しい問題です。それに対して、一般化されたサービスモデルの理論フレームワークを構築し、そこでのサービスの仕組みをメカニズムデザインの発想で理解し、さらに新たな仕組みを提案するといった研究も進めています。研究室で用いている方法論は、ゲーム理論、経済実験、マルチエージェントシミュレーションが主であり、それは共通していますが、対象としている社会システムにおける事例は広く、図のように様々なテーマを扱っています。


<今後の抱負>
本研究室の成果の多くは社会システムのメカニズムに関するものであり、特に、社会をより豊かにするより良い仕組み(社会制度や技術、ビジネスモデルも含む)の構築を目指して取り組んでいます。それらが実社会へ応用され、社会に貢献できればと願っています。

西野研究室 http://www.css.t.u-tokyo.ac.jp

日経新聞「やさしい経済学」にコラム掲載 全8回
https://r.nikkei.com/article/DGXMZO40954190W9A200C1SHE000?s=3