プレスリリース

2019.02.12

フラストレーションで融解した量子電子液体の発見 - 巨大な電荷揺らぎを伴う異常金属相 -:物理工学専攻 佐藤拓朗(博士課程:研究当時)、北井賢吾(学部4年生:研究当時)、宮川和也助教、鹿野田一司教授ら

 動き回る原子や分子から成る液体は、通常、冷やすことで、秩序を持った固体(結晶)へと変化します。この液体から固体への転移は極めて普遍的な現象で、水が凍るなど馴染み深い現象です。実は、この現象は、物質中の電子集団にも起こり得ます。電子は負の電荷をもつため、物質の中で互いに強く反発していますが、低温ではその運動が凍結し、物質ごとに個性を持った秩序構造(電子結晶、注5)を作ることがあります。しかし電子は、古典的な原子や分子とは異なり、量子性、すなわち波動性を兼ね備えた粒子です。そのため、電子結晶として凍結するはずの電子系が、量子揺らぎの効果によって融解するという不思議な現象が理論的に度々指摘されてきました。原子や分子では決して起こりえない真に量子力学的な現象であるため古くから大きな注目を集めてきたトピックです。しかし、実際に電子結晶が量子融解したという報告例はこれまで無く、その実験的な検証が待ち望まれていました。

 今回、東京大学工学系研究科の佐藤拓朗大学院生(現:理化学研究所 特別研究員)、宮川和也助教、鹿野田一司教授らを中心とする研究チームは、量子電子液体を探索するうえで、幾何学的フラストレーションと呼ばれる、電子結晶の周期性と背景にある結晶格子の周期性が相いれず、電子の整列に迷いを生む効果に着目しました。彼らは、幾何学的フラストレーション効果を有する分子性導体について電子と結晶格子の2種類の揺らぎを測定した結果、結晶格子はほとんど凍結しているにも関わらず、フラストレーション効果によって巨大な電子揺らぎが発現し、金属状態が維持されていることを見出しました。観測された電子揺らぎは、他の電子結晶形成物質中に見られる揺らぎとは質的にも異なり、量子効果の存在を裏付けています。量子電子液体形成の証拠を実験的に示した極めて重要な事例です。

 今回の研究成果によって、電子系におけるフラストレーションという切り口で、量子電子液体探索の新たな指針が提示され、新奇物性の開拓へと発展することが期待されます。本研究は、2019年2月12日(日本時間)に英国科学誌「Nature Materials」のオンライン版で公開されました。

 

 

 

 

プレスリリース本文:/shared/press/data/setnws_201902121302043366991769_311388.pdf

Nature Materials : https://www.nature.com/articles/s41563-019-0284-9

日本経済新聞:https://www.nikkei.com/article/DGXLRSP502294_Y9A200C1000000/