プレスリリース

機械学習により熱流を制御するナノ構造物質の最適設計に成功

 

 東京大学大学院工学系研究科の塩見淳一郎准教授(物質・材料研究機構(NIMS) 情報統合型物質・材料研究拠点兼任)、ジュ シェンホン特任研究員、志賀拓麿助教、フウ ライ博士課程学生、東京大学大学院新領域創成科学研究科の津田宏治教授(NIMS情報統合型物質・材料研究拠点兼任)、NIMSのホウ ジョウフェン研究員からなる研究チームは、熱抵抗を最大または最小にする最適なナノ構造を、従来の数パーセントの計算量で特定する計算手法を開発し、非直感的な新規ナノ構造を設計することに成功しました。 

 近年、熱マネージメントなどの応用を念頭に、材料の内部にナノスケールの構造を作製して、熱輸送を制御する技術が注目されています。ナノスケールではフォノンが弾道的に振舞うため、超格子構造やナノ多結晶体のようにナノスケールの間隔で界面を設けることによって熱抵抗を大幅に増大できるなど、熱輸送の制御性が向上しています。これらの進展には熱輸送の計算科学の発展が大きく寄与してきましたが、最適な構造を設計するような試みはこれまでありませんでした。

 今回、ナノ構造の熱輸送を計算する手法とベイズ最適化手法を組み合わせることによって、ナノ構造を最適化する新しい手法を開発しました。本手法では、2元系の結晶材料を対象に、ナノ構造内のそれぞれの原子の組成そのものを記述子として、候補となる多くの構造の中から最適なものを同定します。シリコンとゲルマニウムから構成される材料に適用したところ、全候補数の数%の数の構造を計算するだけで最適構造を同定できることを示しました。得られた構造の中でも、熱抵抗が最大になる最適構造は、これまで考えられてきた周期的な超格子構造ではなく、非周期的な層構造であることが明らかになり、さらにその機構がフォノンの粒子性と波動性の組み合わせによって理解できることがわかりました。

 今回の成果は、材料科学と機械学習を融合したマテリアルズ・インフォマティクスが熱機能ナノ材料の開発に有用であることを示すものです。さまざまな新しいナノ構造の作製が可能になる中で、このように熱抵抗を最大・最小化する構造を同定できる技術は、今後、材料設計を通じて、光や電子デバイスなどの放熱、熱遮蔽による機器保護、熱電変換素子の効率向上に寄与することが期待されます。

 本研究は、国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)のイノベーションハブ構築支援事業「情報統合型物質・材料開発イニシアティブ」、科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業(CREST)「メカノ・サーマル機能化による 多機能汎用熱電デバイスの開発」、科学研究費補助金・基盤研究B「フォノンスペクトル・エンジニアリングによる高度な熱輸送制御」の支援を受けて行われました。

 

 本研究成果は、Physical Review X誌にて近日中にオンライン掲載されます。

 

プレスリリース本文:PDF ファイル

Physical Review X: https://journals.aps.org/prx/abstract/10.1103/PhysRevX.7.021024

科学技術振興機構(JST) : http://www.jst.go.jp/pr/announce/20170418-3/

国立研究開発法人 物質・材料研究機構 : http://www.nims.go.jp/news/press/2017/04/201704180.html