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工学部/工学系研究科 プレスリリース

網羅的なトポロジカル超伝導物質探索へ向けた新データベースの構築


1.発表者:
小野 清志郎(東京大学 大学院工学系研究科物理工学専攻 博士課程)
渡邉  悠樹(東京大学 大学院工学系研究科物理工学専攻 准教授)

2.発表のポイント:
◆トポロジカル超伝導体(注1)は、理論・実験の両面から世界中で活発に研究されているが、その探索手法は確立されておらず、実験的な検証も困難なため、これまでに確立された具体的な物質例は極めて少ない。
◆今回はデータベース上の2万7千を超える物質に対して網羅的な計算を行い、それぞれの物質の超伝導相のトポロジカルな性質をまとめた新データベースを構築した。また、簡便に超伝導相のトポロジカルな性質を判定できる新サービスの提供を開始した。
◆これらを利用してトポロジカル超伝導体の物質例が新たに見つかれば、今後の量子コンピュータの実用化を後押しすることが期待される。

3.発表概要:
東京大学大学院工学系研究科物理工学専攻の小野清志郎大学院生と渡邉悠樹准教授は、中国・南京大学の唐峰(Feng Tang)博士研究員と万贤纲(Xiangang Wan)教授と共同で、無機結晶構造データベースICSDに記載されている物質の超伝導相のトポロジカルな性質をまとめた新データベースDatabase of Topological and Nodal Superconductors(https://tnsc.nju.edu.cn)を構築し、公開しました。また、データベース上にない物質や新しい条件下におかれた物質のトポロジカルな性質も簡便に判定できるよう、Topological Supercon(http://toposupercon.t.u-tokyo.ac.jp/tms)という無料サービスの提供を開始しました。
これらの新データベース、新サービスを利用して実際にトポロジカル超伝導体の物質例が新たに見つかれば、トポロジカル超伝導体の表面に現れるマヨラナ粒子(注2)を利用した量子コンピュータへの応用が期待されます。
本研究成果は、2022年7月6日(米国東部夏時間)に米国物理物理学会誌「Physical Review Letters」のオンライン版に掲載されました。またEditors’ suggestionsとして雑誌編集者の推薦記事にも選ばれています。
本研究は、日本学術振興会 科学研究費助成事業 (JP20J21692, JP20H01825, JP21H01789)と科学技術振興機構(JST)さきがけ・トポロジカル材料科学と革新的機能創出 「対称性の表現に基づくトポロジカル材料の探索(課題番号JPMJPR18LA)」の支援により実施されました。

4.発表内容:
近年、物質のトポロジカルな性質が世界中で注目を集め、活発に研究されています。トポロジカル相の例である「トポロジカル超伝導体」は、その表面や端にマヨラナ粒子が現れるという、通常の超伝導体とは異なる性質を示します。マヨラナ粒子の検出と制御による次世代の量子コンピュータを実現するために、トポロジカル超伝導体の探索が進められていますが、実際にトポロジカル超伝導性を示すと確認されている物質はほとんど無いのが現状です。
各々の物質の持つトポロジーを直接計算したり実験的に判定したりすることはとても困難です。しかしその物質の持つ結晶の対称性の表現に着目することで、その物質のトポロジーを容易に判定する「対称性指標」(注3)と呼ばれる手法が近年確立されました。この手法は最近になってトポロジカル超伝導体の探索に用いられるように拡張されました(「8.参考リンク」参照)。
今回、本研究グループは、無機結晶構造データベースICSDに記載されている物質の中から2万7千を超える物質を選出し、データベースから取得した「物質の情報」と、仮定した「超伝導ギャップ」(注4)の性質を入力データとして用い、「対称性指標」の方法に基づいて、超伝導相のトポロジカルな性質を推定しました(7.添付資料の図)。そして、この結果をまとめた新データベースDatabase of Topological and Nodal Superconductors(https://tnsc.nju.edu.cn)を構築し、公開しました。また、データベース上にない物質や新しい条件下におかれた物質のトポロジカルな性質も簡便に判定できるよう、Topological Supercon(http://toposupercon.t.u-tokyo.ac.jp/tms)という無料サービスの提供を開始しました。
これらの新データベース、新サービスを利用して実際にトポロジカル超伝導体の物質例が新たに見つかれば、マヨラナ表面状態を利用した量子コンピュータへの応用が期待されます。

5.発表雑誌:
雑誌名:「Physical Review Letters」(オンライン版:7月6日)
論文タイトル:High-throughput investigations of topological and nodal superconductors
著者:Feng Tang†, Seishiro Ono†, Xiangang Wan*, and Haruki Watanabe* (†:共同筆頭著者、* : 責任著者)
DOI番号:10.1103/PhysRevLett.129.027001

6.用語解説:
(注1)トポロジカル超伝導体:超伝導体は低温で電気抵抗が0となる性質を持つ。このうち、非自明なトポロジーを持つものをトポロジカル超伝導体という。表面にマヨラナ粒子が現れるものが多い。
(注2)マヨラナ粒子:反粒子と粒子が同一という通常の粒子とは異なる性質を持ち、トポロジカル量子コンピュータへ応用できると期待されている。
(注3)対称性指標:結晶の持つ対称性(左右を入れ替える・回転させるなどの操作を施しても、もとと同じ)に基づいて、物質のトポロジカルな性質を判定する手法。
(注4)超伝導ギャップ:超伝導内では2つの電子がペアを組むことが知られている。超伝導ギャップはそのペアの性質を特徴づける。

7.添付資料

fig1
データベース上から取得した「物質のデータ」と、仮定した「超伝導ギャップの性質」に基づいて、その物質の超伝導相の「トポロジカルな性質」を推定し、その結果を新データベースにまとめた。

8.参考リンク
「対称性に基づいた超伝導体のトポロジーの判定法の確立―トポロジカル超伝導体の候補物質探索における指針として期待―」
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/press/foe/press/setnws_202005020612173257065463.html


プレスリリース本文:PDFファイル
Physical Review Letters:https://journals.aps.org/prl/abstract/10.1103/PhysRevLett.129.027001