プレスリリース

「知恵の輪」構造で固い素材を柔らかくCO2吸着量を光で制御する新材料

 

京都大学 高等研究院 物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)の北川進(きたがわ・すすむ)拠点長(兼 高等研究院 副院長)と東京大学 工学系研究科化学生命工学専攻の佐藤弘志(さとう・ひろし)講師らの研究グループは、二酸化炭素(CO2)の吸着を光によって制御することができる多孔性材料の開発に成功しました。

 多孔性材料とは、小さな穴が無数に空いた構造を持つ材料です。特に近年、多孔性金属錯体(PCP)というジャングルジムのような構造の多孔性材料の穴にガス分子を吸着させる技術は、CO2などの分離・貯蔵に有用であるとして、開発が進められてきました。しかし、多孔性材料の結晶は柔軟性がなく、ガス吸着量を変化させることが困難でした。

 今回研究チームは、光刺激によってPCPの穴の大きさを調整し、CO2吸着量を調整できる多孔性材料を新たに開発しました。

 「ジアリールエテン」という有機分子は、紫外光の照射で閉環反応(閉じてリングを構成するような動き)を、可視光の照射で開環反応(リングを開くような動き)を示すことで知られています。研究チームはこのジアリールエテンをPCPのナノ細孔の表面に導入することで、照射する光の種類によって穴の形と大きさが可逆的に変化する構造を作ることを考えました。

 しかし、分子が密に詰まったPCPの固い結晶中では、ジアリールエテンが反応を示すために必要な空間的ゆとりがありません。実際、従来の可動性のないPCPでは、ジアリールエテンの光反応は固体の表面で進行するのみで、細孔の構造を効率よく変化させることができませんでした。

 そこで研究チームは、ジアリールエテン誘導体(DAE:ジアリールエテンとほぼ同じ構造で同じような光反応を示す)を導入したPCPを、知恵の輪の要領で組み合わせることで、フレームワーク同士の相対的な位置が変化できるようにしました。このことにより、PCPに構造的な柔らかさが生まれ、DAEが光反応を示すための構造的余裕が生まれました。

 このPCP結晶では、ほんの数分間の紫外光照射でほぼ全て(95%以上)のDAE部位が閉環反応を示しました。構造的な柔らかさのないPCPでは、何時間光照射を続けても10〜20%の光反応率であったことと比べると、劇的な上昇です。このことにより、細孔容量が変化し、CO2の取り込み量も30%以上減少しました。また、可視光の照射で、紫外光照射前と同じ構造に戻り、CO2を取り込む能力も回復しました。このような高効率な光反応に基づく吸着現象の可逆的制御は、過去に例がなく、今回のPCPが非常に特別なものであることを示しています。

 従来の多孔性材料では温度や圧力を変えることで吸着現象を制御していましたが、本研究で開発した多孔性材料は、光によって可逆的に吸着現象を制御できるという画期的な成果です。これにより、これまでより簡単に、任意のタイミングでCO2の分離・回収を行い、さらに取り出すことによる再利用も可能になります。また、光エネルギーを効率良く化学反応へと変換するための結晶性プラットフォームとしての可能性も示す成果です。

本成果は英国時間2017年7月24日午前10時(日本時間24日午後6時)に英国科学誌「Nature Communications」にて公開されました。

 

 

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Nature Communications : https://www.nature.com/articles/s41467-017-00122-5