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2020.07.30

【若手研究者紹介:033】物理工学専攻 香取・牛島研究室 牛島一朗 講師



【経歴】
2009年: 東京大学理学部 物理学科 卒業
2011年: 東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 修士課程修了
2014年: 東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 博士課程修了
2014年: 理化学研究所 香取量子計測研究室 特別研究員
2016年: 理化学研究所 光量子工学研究領域 特別研究員
2017年: 東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 助教
2020年: 東京大学大学院工学系研究科 物理工学専攻 講師(現在)

【研究について】
時計は、GPSをはじめとするGNSS(全地球航法衛星システム)や近年5Gで注目を浴びている高速データ通信の同期、精密機器の校正など社会インフラの重要基盤として大きく関わっています。物理工学専攻の香取・牛島研究室では、2001年に香取教授により提案された新たな原子時計手法「光格子時計」の研究を行っています。現在の時間の定義となっているセシウム原子時計は3000万年に1秒の精度に対し、我々の光格子時計は、宇宙の年齢およそ138憶年で1秒も狂わない精度に達しました。
普通に暮らしている限りでは、このような精度を必要とすることはないかと思いますが、このような超高精度な光格子時計を用いると身の回りで実際は微小に変化している量を測ることができ、時計の実用化が可能になります。例えば、アインシュタインの相対性理論によると、高い所にある時計は低い所にある時計に比べて時間が早く進みます。光格子時計を使えば、わずか1㎝の高さの違いによる時間のずれを観測することができるようになります。これは相対論的測地とよばれ、重力ポテンシャルの差を時間の進みの差として測ることができます。
実際に、東京大学と理化学研究所のそれぞれに光格子時計を開発し、高低差約15mから生じる2つの時計の時間差を計測する相対論的測地の実証実験を行いました。2019年には、2つの時計を東京スカイツリーの450m展望台と地上0mに設置し、相対論的測地から求めた標高差と従来の方法で測定した標高差を比べることで、高精度に相対性理論の検証を行うことができました。
光格子時計を精密な重力ポテンシャル計として用いることで様々な応用が考えら、例えば、地震の前兆である大陸プレートの沈み込みや火山の噴火、津波の到来などが観測できるのではないかと期待されています。光格子時計はただ高精度な時計というものではとどまらず、新たな生活形態を生み出すことができる可能性に秘めた非常に興味深い時計と言え、日々研究を続けています。


図: 2台の光格子時計

 [参考文献]
(1) M. Takamoto, I. Ushijima, N. Ohmae, T. Yahagi, K. Kokado, H. Shinkai and H. Katori, Nature Photonics 14, 411-415 (2020).
(2) I. Ushijima, M. Takamoto and H. Katori, Phys. Rev. Lett. 121, 263202 (2018).
(3) T. Takano, M. Takamoto, I. Ushijima, N. Ohmae, T. Akatsuka, A. Yamaguchi, Y. Kuroishi, H. Munekane, B. Miyahara and H. Katori, Nature Photonics 10, 662-666 (2016).
(4) I. Ushijima, M. Takamoto, M. Das, T. Ohkubo and H. Katori, Nature Photonics 9, 185-189 (2015).

【今後の抱負】
原子時計の高精度化は工学的な応用だけでなく、基礎物理学に対しても大きく貢献するであろうと考えられています。例えば、高精度な原子時計を用いてダークマターを検出することができるのではないかといった理論的研究が近年、数々と発表されています。原子時計や時計から学んだ原子分光技術を用いて、このような物理学の進展に貢献できるような新しい研究に、学生や共同研究者と共に挑戦したいと思います。

【WEB】
研究室:http://www.amo.t.u-tokyo.ac.jp/

【プレスリリース】
https://www.t.u-tokyo.ac.jp/soe/press/setnws_202004071401382830455235.html
http://www.t.u-tokyo.ac.jp/soe/press/setnws_201901181046531458158186.html
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20160816/index.html
https://www.jst.go.jp/pr/announce/20150210-2/index.html