2013年度(平成25年度)工学部 Best Teaching Award

工学部では講義FD(Faculty Development)の一環として、卓越した指導力で教育効果の高い授業を実践した者、教育方法の工夫又は改善に取り組み顕著な教育効果を実践した者を対象に、各学科からの推薦に基づき、Best Teaching Awardにふさわしいと認められる教員及び講義科目の審査を行ってきました。工学部表彰委員会の審査において、工学部学生による全科目の「工学部共通授業評価アンケート」の評点に基づいた講義水準評価結果を下敷きに、過去3年間の評点経年変化による講義方法の具体的な改善効果や、シラバスの内容などについても議論を重ねた結果、以下の表に示す教員と講義科目について、東京大学工学部Best Teaching Awardを授与することを決定しました。

 

工学部では教育水準向上に向けて、講義FDの継続的な取り組みを進めていくことにしています。(工学系研究科 企画委員会)

 

 

2013年度(平成25年度)受賞者   職名は受賞当時のもの

社会基盤学科 知花 武佳 准教授 河川流域の環境とその再生

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本講義は、日本全国の河川および流域の風景を紹介しつつ、日本の国土に見られる各地域固有の自然環境にどのような特徴があり、それがどのようなメカニズムで形成されるのかを紹介するものである。はじめに、スケールの階層構造を学び、地質学的な時空間スケールから、中地形スケール、セグメントスケール、ハビタットスケールへと落とし込んでいくという構図で、教員自らわが国の109河川を巡りで、関連する写真をパワーポイント500枚に集約し、板書用メモ80ページを半々に用いながら、現場感覚を織り交ぜながら解説していることが、学生の知識の体系化に貢献している。学生からは「日本一素晴らしい講義」との評も届いている。

建築学科 前 真之 准教授 建築空気環境・水環境

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前真之准教授は、担当科目の建築空気環境・水環境において、健康かつ快適に活動できる建築環境を少ない環境負荷で実現するための方法についての講義を行っている。学生の関心を高めるために、教科書のみに頼らず、学生の目線にたち、日々の研究やフィールド調査、さらには日々の生活の中から、興味深いテーマの発掘、物理現象や応用の分かりやすい説明手法、具体的な建築の例を取り上げ、その結果、学生の興味を喚起し高い理解度をもたらして、高いアンケート評点を獲得しているものと考えられ、 Best Teaching Award の受賞者として選出したものである。

都市工学科 羽藤 英二 教授 都市生活行動論

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充実したシラバスの配布などを通じて、都市生活行動論の講義目的や都市計画やアーバンデザインの実務・研究に向けて習得すべき能力を明確にするだけでなく、その教育手順において講義の中に空間計画の事例紹介と空間分析やモビリティデザインの課題を適宜組み合わせることで、当該科目の教育内容の水準を高く設定しながら、学生の学習理解や勉学意欲を向上させるよう工夫している。それは、授業評価アンケートで、授業の魅力、学生の理解の向上、勉学意欲を増進に関わる項目(5)、(7)-(12)において平均4.3という高得点を得ていることでも示されている。とりわけ設問(7)の評価が高く、熱意をもって講義していることが明らかである。また、最終講義前に試験を実施してそのテストの返却と内容解説をすることや講義ごとの質問や意見・感想に対してメール等で返信するなど、双方向教育に努力している。

機械工学科 塩見 淳一郎 准教授 創造設計演習

「塩見淳一郎氏は機械工学科の創造設計演習において、Peer Instruction(PI)という手法を導入して機械工学の専門英語の講義を行った。PIとは,選択肢問題を出題し、学生数人のグループ(Peer)で議論を行い、解答をリスポンスシステムによりリアルタイムで確認しながら講義を進める手法である。同氏は講義に先だって、KTHからPIで実績のある講師を招聘して手法を学び、そこで培った経験や課題をもとに、Peer間で問題を出し合うなどの新しい要素を加え、学部学生向けに手法をアレンジした。その結果、Peer内での活発な議論が行われるとともに、問題や解答に一喜一憂するアクティブな講義となり、高い教育効果が得られた。」なお、これは機械創造設計演習のうち、熱力学の専門英語および 流体力学の専門英語を教えたもので、シラバスはありません。

機械情報工学科 原田 達也 教授 パターン情報学

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主体と環境とのインタラクションの中で人間を含めた実環境からのパターン情報を要約し利用することが知能システム構築の鍵となる。本講義では、確率統計的手法や多変量解析手法などの情報数理的な立場から、パターン情報処理の原理、手法、応用までを体系的に教授している。担当教員は、講義の進め方、ノートとして残る板書のあり方、講義と演習とのリンクなどの工夫を年々と重ねるなど、抽象的になりがちな体系的講義の教育効果を高めるため、教育方法の工夫と改善に精力的に取り組んできた。本講義は機械情報工学科において、受講する学生たちから最も支持される講義の一つとなっており、東京大学工学部Best Teaching Awardにふさわしい。

航空宇宙工学科 姫野 武洋 准教授 振動力学

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姫野准教授は、航空宇宙工学科推進コース3年生を主対象とした講義「振動力学」を担当している。本講義では、機械に発生する振動現象一般に関するモデリングと解析法を説明するのに加え、受講生の関心が高いジェットやロケットエンジン等の回転機械で発生する現実の振動現象にも力点を置いた内容となっている。講義で配布される講義ノート風の自作プリントは、図表部分を敢えて空欄としておき、板書を受講生に書き取らせることで、理解がより深められるよう工夫されている。また講義では、線型代数、微分方程式、材料力学など、受講生が前期課程等で履修済の内容も復習しやすいよう配慮されている。以上のように、工夫された講義と姫野准教授自身の熱意に対する受講生の評価は、工学部授業評価における非常に高い評点に表れており、同教員はBest Teaching Awardの受賞に相応しい教員である。

精密工学科 山本 晃生 准教授 精密工学応用プロジェクト

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精密工学科では3年生を対象に「精密工学応用プロジェクト」という少人数グループ演習を実施しており、山本晃生准教授は、この中でメカトロニクス分野のプロジェクトを担当している。このプロジェクトでは、倒立振子という具体的な題材を用いて、それまでの講義で学んだメカトロニクスの主要知識を網羅的に復習するとともに、与えられた演習素材を用いて知識の実践活用を行う。演習素材には、全体構成を容易に把握できるよう配慮された独自の演習キットを用いており、センサ・電子回路・制御などのメカトロニクス関連知識を俯瞰的・実践的な観点から理解できるよう工夫されている。受講した学生からの評価も高く、優れた教育効果が認められる。

電子情報工学科・電気電子工学科 三田 吉郎 准教授 電子情報機器学

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三田吉郎氏は、担当講義「03-403030電子情報機器学(冬学期金2限、2001年度〜)」において、大学に入学し学修段階を進むにつれて、1.「学習(Leaning=教師の頭の中にある《正解》にいち早く辿りつくこと)から、創造(Creation=教師の頭の中に《正解が存在しないもの》を創造できること)への昇華」が起きること、2.基礎となる「方法論(メソッド)」に意識して学びつつ、具体例で実践してみることで両者の橋渡しが可能であることを伝えるため、創意工夫をこらして講義を行なっている。座学講義では電子・情報機器の働きを単に理解し て正しく理解し設計ができるだけでなく、背後にある設計思想とその学びかたを修得せよというメッセージを発信し、最終課題として、講義で学習した内容を活かした製作課題を課し、製作内容を発表させている。

物理工学科 求 幸年 准教授 固体物理第三

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求准教授は固体物理第三の講義を担当している。この講義は総じて学生からの評価が高く、特にH24年度の固体物理第三は本学科で最高の評価であった。求准教授の講義は、声のトーンや大きさが聞きやすく、字がきれいで分かりやすいとの評価を受けている。さらに、「板書に集中して無言になりがちな難解な式が出てくるときにも、途切れることなくその意味や内容を学生に向けて語ってくれる。」という学生の声に代表されるように、求准教授は学生目線からの講義を行っており、学科内の学生からの高い評価が定まっている。深い学問的背景をよりどころとする、求准教授の高い教育能力が、Best Teaching Awardに値するものとして評価された。

計数工学科 室田 一雄 教授 基礎数理

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室田教授は2年生冬学期に開講される「基礎数理」の講義において、計数工学科および物理工学科で必要とされる数理的な手法の概観を与えているが、授業評価アンケートからもわかるように、その講義の丁寧さとわかりすさには定評があり、多くの学生の勉学意欲を高めている。この講義を通じて両学科で必要とされる数理的な基礎を十分に身に着けさせることで、3年生以降の講義の理解度を格段に向上させることにも成功している。また、室田教授は、工学教程の教科書シリーズの数学部分をとりまとめ、工学部で必要とされる数学の体系を示すとともに、他の著者のお手本ともいえる著書「線形代数II」を杉原正顯教授と共著で刊行している。以上、室田教授はその高い講義指導力と工学部教育への多大な貢献により、Best Teaching Awardを受賞するにふさわしい。

マテリアル工学科 長汐 晃輔 准教授 マテリアル物理および演習

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マテリアル工学科4年生を対象とした「マテリアル物理および演習」はマテリアル工学科学部学生が専門課程で学ぶ物理系科目の基礎的事項の定着を目的として設けられた科目である。長汐晃輔准教授はこのうち,量子力学と材料物性の基礎の部分を担当している。長汐准教授の講義は熱意が感じられ,また大変明快であることで定評があり,過去3年分の工学部授業評価アンケートにおけるこの講義に対する評価は5点満点で3.79点と大変高かった(マテリアル工学科全講義科目の3年間の平均評点は3.39、標準偏差は0.24である)。長汐准教授は卓越した指導力で教育効果の高い授業を実践しており,工学部Best Teaching Award受賞にまことにふさわしい教員である。

応用化学科 野口 祐二 准教授 物性論I

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野口祐二氏は「物性論I」の講義において、固体の電子状態の基礎およびそれらが固体の物性とどのように関わるかを概説している。特筆すべきは、A4用紙94ページにわたる独自に作成した資料を活用している点である。本講義資料は穴埋め方式を採用し、学生が筆記して理解を促す工夫が随所に盛り込まれている。また学生との対話を重視し、固体の持つ様々な性質を徹底的に理解出来るよう努めている。さらに基礎的事項だけでなく講義内容と環境・エネルギー問題との関連性を解説し、学んでいる知識が身近な問題に直結している臨場感を感じ学習意欲が高まる構成になっている。本講義は学生の評価も高い。以上の点を鑑みBest Teaching Awardを授与することに決定した。

化学システム工学科 S. Ted Oyama 教授 反応工学Ⅰ/Ⅱ

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化学システム工学科Ted S. Oyama教授は、米国バージニア工科大学での経験を活かし、"Active Learning"という先進的な教育手法を導入している。英語で開講される反応工学Ⅰおよび同Ⅱは、学生自身が問題解決を行う演習や、学生が個人またはグループで相互に情報を提供しあう形で積極的に授業に参加し、対話的に進められている。講義前に配布するレクチャーノートは、「聞くことは忘れる。見ることは覚える。することは理解する。」という考えに基づいて重要な箇所は学生自身が記入するよう工夫されている。Oyama教授は、より良い授業をめざして努力を惜しまず、学生に自主的な学習習慣を身につけさせ、高度な学習への意欲を持たせることに貢献している。学生からの評価も高く、卓越した教育者として表彰する。

化学生命工学科 橋本 幸彦 准教授 有機・高分子演習

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化学生命工学科では有機化学と生命工学の融合による「新物質・新機能の創造」を目指した教育を進めている。橋本幸彦氏は、その中で有機・高分子演習を永年にわたって担当してきた。学部生が有機・高分子に関する講義を履修して学んだ知識を、演習を通じて深く理解させ、総合的な考察力を涵養することを目的として、基礎から応用にわたる系統的な精選された演習問題を作成し、平易な演習解説講義を行うことによって、卓越した指導力で教育効果の高い授業を実践しており、授業アンケートでも毎年高い評価点を得ている。以上の理由により、橋本幸彦氏は工学部Best Teaching Awardにふさわしい。

システム創成学科 徳永 朋祥 教授 地球科学

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候補者は、工学部システム創成学科Aコース(環境・エネルギーシステムコース)において、工学基礎としての「地球科学」の位置づけを念頭に置き、エネルギー・資源・環境に関わる観点や、自然災害の素因としての地球のダイナミックな挙動を教育することに成功している。また、地球をシステムとして捉えることについても、その基礎を教育し、学部後期課程での学生の理解の深化に貢献している。特に、工学部に進学が決定した時期の学生(学部2年後期)にこの講義を実践することにより、当学科の学生に幅広い観点から環境・エネルギー問題に対峙することの重要性をつたえていることが有意義であると評価される。このような立場からの教育に関しては、授業進行が速いというきらいがあるようであるが、学生授業評価アンケートでも非常に高く評価されており、その教育効果が高いことが見て取れる。

 

 

 

各年度の受賞者

 

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