計数工学科 Department of Mathematical Engineering and Information Physics

科学技術の基幹となる
「普遍的な原理・方法論」を目指して

計数工学科の目指すところは、次世代の科学技術の創出に向けた「普遍的な原理・方法論」の構築です。特に情報の概念や情報技術をベースとして、個別分野に依存しない科学技術の根幹となる普遍的な概念や原理の提案および系統的な方法論の提供を志しています。
計数工学科では、数理的なアプローチで、ロボット・脳科学・ナノ・バイオなど先端科学技術はもとより医用工学や金融工学など幅広い学問分野への展開に関して、世界トップレベルの研究が行われています。

コースの説明図

修士課程修了後の進路

大学や研究機関のほか、企業への就職が約8割を占めている。コースによって就職先は多少異なるが、情報通信系をはじめ、鉄鋼、化学、機械、建設など、多岐にわたる。

修理過程修了後の進路のグラフ

主な勤務先:ソニー、ニコン、日本IBM、サントリーホールディングス、NTTデータ、サイバーエージェント、ナビタイムジャパン、第一生命保険、大和証券、野村證券、日本銀行ほか

3年生の時間割例「S1S2」
※破線の上がS1、下がS2

時間割の図

基礎を深く、視野を広く

 計数工学科では数理と物理のしっかりした基礎の上にあらゆる工学システムの解析と構成を高いレベルで行うことのできる人材を養成しています。学科には「数理情報工学コース」と「システム情報工学コース」という互いに相補的な関係にある2つのコースが用意されています。
 数理情報工学コースは、人間や環境を含むあらゆる物理システムや社会システムを対象として、それらに現れる諸問題を数理的アプローチで解決する方法論の構築を目指します。卒業生の進路としては、計測機器、制御システム、計算機のハードウェアとソフトウェア、ロボット、医用診断システム、音声・文字認識システムなど多岐にわたり、大規模工場の生産自動化システムや生産情報管理システムの分野でも中心的な役割を果たしています。
 一方、システム情報工学コースは、実世界を強く意識し、物理世界と情報世界とをつなぐ「認識と行動」に関する研究を行っています。卒業後の進路としては、情報通信系における計算機システムの開発および運用、鉄鋼、化学、機械、建設工事などにおける生産システムの設計と管理、諸産業、銀行、行政官庁などにおけるオペレーションズ・リサーチや情報システムの設計・管理などが多くなっています。

平井広志准教授

「専門家以外にも分かりやすく伝えることが重要」と平井広志准教授

時代が変わっても変わらない
普遍的な理論を追い求める学問

現象の本質をモデル化し、問題解決手法をつくり出すのが数理情報工学コース。平井広志准教授が属する数理情報第2研究室(離散情報学研究室)では「個性を伸ばして世界を目指す」ことをモットーに、最適化理論や離散構造論などに取り組んでいる。こうした研究から導かれた理論はアルゴリズムを書く上での前提となるのだという。

[数理情報第2研究室(定兼・平井研究室)] 平井広志准教授

数理的構造を重視し、組み合せ最適化・アルゴリズム論・離散数学の工学的応用などを研究しています。世の中の事象は数多の条件が複雑に絡み合いますが、これを数学的にモデル化し、最適解を導く際の一助となることを目指しています。

http://www.misojiro.t.u-tokyo.ac.jp

膨大な選択肢を計算可能な数にする条件を考える

 例えば、n個の都市を持つ地域で送電網を敷くとする。1カ所の発電所から、すべての都市に送電したい。ただし発電所と都市を直接つなぐ必要はない。都市Aを経由して、都市Bに送電してもよい。コストは最小化しなければならない。コストは電線の使用量に比例して増えるものとする。
 以上の条件を満たす送電網を設計するには、どうしたらよいだろうか。
 まず行うべきは事象をモデル化すること。この場合は発電所と、n個の都市をプロットしてグラフをつくる。そして、発電所を起点に、n個の頂点を線でつなぎ、線の長さの総和を最小にするつなぎ方を探す。
 「すべての都市に送電できればよく、都市間で電力を融通するような仕組みは必要ありませんから、このグラフにはサイクルはできません。このようにサイクルがないグラフのことを『木』、頂点をつなぐ線を『枝』と呼び、枝の総和を最小化する問題を『最小木問題』と言います。最小木問題を解く場合、nが少なければパターンを列挙して最適解を探せばよいのですが、nが増えると選択肢も指数関数的に増えて計算が困難になります。nの2乗は計算できても、2のn乗は膨大な数になりますよね。そこで、計算が成立するように、nが指数(2のn乗)ではなく、nが底で指数が簡単な数字(nの2乗や3乗)のステップで計算できる手順、すなわち多項式時間アルゴリズムを考えようというわけです」

数理情報を学ぶ上で欠かせない有名な問題

 最小木問題は数ある数理的な問題の一つに過ぎないが、このように現象の本質をモデル化して考えるのが数理情報工学の特徴だと平井広志准教授は説明する。
 研究室のメインテーマの一つが最適化理論、特に組み合せ最適化理論である。例えば、宅配便の配送ルートを決める際には燃料代や移動時間、ドライバーの勤務シフトなどの要素が影響するが、最適解は全条件がベストバランスで満たされるルートである。そのルートをいかに見いだすかを追究するのが最適化理論だ。
 「事象には離散と連続があります。離散は『点』で、連続は『面』です。つまり、離散とは何人、何本と数えられるものを指し、連続とは何リットルや何秒のような連続するものを指します。連続に対しては微分を適用できますが、配送先(点)を回るルートの最適化のような離散の事象には微分が使えない。それが組み合せ最適化の難しさだと言えます」
 組み合せ最適化問題で有名なのが『巡回セールスマン問題』だ。営業担当者は地元の空港を起点に、n個の都市をすべて1回ずつ訪問し、起点に戻らなければならない。2地点間の距離は分かっていて、旅費は距離に比例するものとする。営業担当者が最も経費をかけずに巡回するルートは、どのようにして導けばよいだろうか。
 これは点をたどることを考える問題だが、点と点の間の線(枝)に注目する問題もある。『中国人郵便配達問題』だ。村の通りには家が面していて、配達員は村のすべての通りを通る必要がある。ただし、移動の無駄を省くため、どの通りも1回しか通らない。それは果たして可能かどうか。可能とする条件は何か。不可能ならば無駄を最小にするにはどうしたらよいかなどを考えていく。

研究テーマは学生の意思を尊重。想定外の発見や気づきもあるという

この図はひと筆書きできるか解を早く導くアルゴリズム

 この問題はひと筆書きに置き換えて考えることができる。村の通りが漢字の「田」のように格子状に通っているとしたら、条件を満たす配達ルートはあるだろうか。答えは否。通りに三差路があると、そこがボトルネックになってひと筆書きはできない。数学的に言えば、奇数の次数がある場合はひと筆書きができないということになる。
 現実的に実行可能なアルゴリズム、すなわち多項式時間アルゴリズムは、このような数学的な解析により設計される。多項式とは乗数からなる単項式の和で、多項式時間とは大まかに言うと、2のn乗のような膨大な時間ではなく、nの2乗のような計算可能なスケールの時間のことだ。
 「多項式時間アルゴリズムがある問題のクラスを『P』と呼びます。それに対して、何かしらの証拠が与えられれば、多項式時間で正しさをチェックでき、誰もが納得できる問題のクラスを『NP』と呼びます。構造的にはNPの中にPが含まれます。『NPはnot Pの意味』と誤解されることが多いのですが、そうではありません。NPにはNP完全という、さらに難しい問題があり、多項式時間アルゴリズムが存在しないのではと予想されています。これが有名な『P≠NP問題』でこの分野の大きな未解決問題です。私はPとNPの境界あたりを狙って、研究を進めています」
 気になるのは研究の手法だ。平井准教授によれば、情報系の研究のようにパソコンに向かうわけでもなく、ホワイトボードなどを使うわけでもないという。
 「大学では授業や事務仕事もありますし、机に座って考えてもアイデアが浮かぶとは限りません。でも、常に頭の中にテーマがありますから、歩きながら考えていたら、ふと良いアイデアが浮かんで、急いでカフェに入ってノートに書きつけるということもあります」
 基本的には1人で考えるが、同じテーマに取り組む研究者との情報交換は行っているという。そうやって導かれた理論は論文として世に送り出される。

まずは問題をモデリングして条件を整理し、解決の糸口を探る

AIなど注目分野多数進路は引く手あまた

 最近は異なる分野の研究者や学外に向けてセミナーを行うことがあるという。出席者は何かしら数学的な分野に通じているが、専門分野はそれぞれに異なるので、必ずしも全員に同じように通じるわけではない。
 「数学理論の追究はもちろん重要ですが、自分の研究テーマを専門以外の人にも理解できるように伝える能力も身につける必要があります。そのため学生にはプレゼンテーションの方法やスライドのつくり方なども指導しています」
 計数工学科の場合、研究室への配属は4年次の9月で、卒論は半年間で仕上げる。自分でテーマを決めて、じっくり研究に臨めるのは修士課程に入ってからだ。
 「優秀な学生には修士だけでなく博士課程まで進学してほしい。数学系の専攻ではオーバードクターを心配する声が多いですが、今この分野はAIの進展で非常に注目されており、産業界はその資質を持つ人材を求めています。大学院でしっかり研究して、産業界で活躍してくれることを期待しています。

1950年代より続く学問領域で、研究内容は日々難問になっている
岩政勇仁さん

様々な学問の基礎となる数理を極めてみたいと考えました

工学部計数工学科卒 大学院情報理工学系研究科 
数理情報学専攻 博士課程2年 
数理情報第2研究室 岩政勇仁さん

どのような研究に取り組んでいるのですか?

離散最適化といって、離散的な構造上(例えば整数格子点上)に定義された目的関数を効率的に最小化、もしくは最大化するための方法論を考えています。特に、効率よく解ける問題の裏にひそんだ数理的な構造を解き明かし、その構造を利用した上手いアルゴリズムを構築することを目指しています。

深い専門的な知識が必要になりそうですね。

研究室に入るまでは私も詳しくは理解していませんでした。昔から数学は好きでしたが、現在のような研究テーマを選択するとは想像もしていませんでした。進学振分けのときも、自分が何をしたいのかさえ明確ではなかった。ただ、いろいろな学問の基礎が数理だと聞いていたので、そこに魅かれて計数工学科を選びました。基礎となる学問を学んでから分野を絞り込もうと考えたのです。今ではその選択は間違っていなかったと思っています。他分野に通じる数学的基礎を学ぶ講義が多く、最先端の研究の話も興味深いです。

研究以外の時間はどう過ごしていますか?

数理情報や計数工学の有志で「輪読」をしています。輪読はテーマとなる本を1冊選び、参加者が本の内容について議論します。毎週開催しており、1回あたり2時間程度です。学科や専攻が同じ学生同士でも、専門分野が異なれば、同じ本でも違う視点から意見が出て非常に有意義なのです。いろいろな本を読む好機でもあり、研究に行き詰ったときの気分転換にもなっています。

今後の進路について教えてください。

自分が納得できる研究を継続できるとうれしく思います。もちろん企業に勤める可能性もあります。数学と工学をつなげるのが数理工学であり、広がりのある学問分野なので、これからどのような道に進むのか、自分でも楽しみにしているほどです。実際に応用数理学会などに参加して、知見を広げています。海外留学も視野に入れています。それぞれ数週間ですが、これまでに英国や米国の大学の研究室に滞在した経験があります。欧米では博士課程に進学する学生が多く、国籍も多様で良い刺激を受けました。学部生の皆さんも、数学と英語は研究する上で基礎となる学問ですから、しっかり頑張ってください。

数学と工学をつなげるのが数理工学と聞き、興味を持った
応用数理学会でのプレゼンテーション風景
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