化学生命工学科 Department of Chemistry & Biotechnology

有機化学と生命工学の融合による
「新物質・新機能の創造」を目指す

化学生命工学は、有機化学と生命工学を融合し誕生した新しい学問領域です。
“分子”をキーワードとして、化学からバイオテクノロジーまでの幅広い研究が行われています。
なぜ“分子”なのか――様々な生命現象や高機能材料も最終的には分子レベル、化学反応レベルで説明できるからです。
実際に活躍できるフィールドは、医療・創薬分野、環境・エネルギー関連分野などがあり、化学・生物・医療を対象とした工学的研究に携わることができます。

化学生命工学科の研究テーマ例

「分子」を共通のキーワードとして化学からバイオテクノロジーまでの幅広いスペクトルの研究と教育を行う。

修士課程修了後の進路

大学院への進学率は9割を超える。博士課程への進学を希望するのは約3割強というのが例年の傾向。就職先の約半数は化学系、バイオ・医療・食品系、エネルギー系で占めている。

修理過程修了後の進路のグラフ

主な勤務先:富士フイルム、住友化学、三菱化学、花王、三井化学、東レ、中外製薬、資生堂、味の素、旭硝子、JXTGエネルギー、サントリーホールディングス、武田製薬工業、アステラス製薬ほか

3年生の時間割例「S1S2」
※S1とS2を通しで実施

時間割の図

化学生命工学科のカリキュラムの特色は、有機化学や高分子化学などの化学系と生命科学や分子細胞生物学などの生命系の2つの学問領域を基礎、実験、演習から学ぶことができる点にある。3年生になると、午前中は講義で、午後からは実験中心のカリキュラムになる。

化学とバイオ、両方に興味を持つ学生をじっくり育てる

 化学生命工学科の究極の目標は、有機化学と生命工学の融合による新物質・新機能の創造と応用です。
 例えば、化学生命工学の「化学」の領域では、高効率・高選択的な新しい有機合成・高分子合成の方法論を開拓し、それを基に、自然を凌駕する優れた機能を有する超分子・超材料の創造を目指しています。化学生命工学の「生命」の領域では、化学を有力な武器として生命現象を分子レベルで解明し、テクノロジーとして応用していくことにより、新たな生命分子・生命システムの創造と応用を目指しています。
 こうした目標に近づくために、化学生命工学科では有機化学、高分子化学などの化学系と、生命化学や分子細胞生物学、バイオテクノロジーといった生命系の2つの学問領域を本格的に学びます。このダブルメジャーの教育は、化学と生命の融合に立脚した研究に欠かせません。また、将来様々な分野で活躍し、研究者もしくは企業人として新しい価値を生み出すための土台となります。
 カリキュラムの特徴は、大まかにいえば午前に専門科目を学び、午後からは実験と演習で培った知識を実践するように組まれています。
 卒業後の進路は様々ですが、多くの卒業生は学部・大学院での研究内容を生かした進路を選択しています。学部卒業生の多くは大学院に進学し、博士課程には約3割が進学する傾向にあります。

山東信介教授

実験室のNMR(核磁気共鳴)装置の前に立つ山東信介教授

分子レベルで生命現象を解明して
医療や創薬などで社会に還元

有機化学と生命工学を融合することで新物質・新機能の創造を目指す化学生命工学科。
山東研究室では、人工細胞増殖因子、人工ペプチドなど、生命現象の理解や制御に応用できる「機能性分子」を開発している。
今までにない化学ツールをつくり出し、医療や医薬品開発の課題解決に挑む。

[山東研究室] 山東信介教授

分子の集合体である生物が、どのようにして生命を維持しているのか――。
分子をデザインすることで化学ツールをつくり出し、生命現象を解明しています。
再生医療や医薬品開発などに応用可能な革命的分子技術を創成するのが目標です。

http://park.itc.u-tokyo.ac.jp/sandolab/

 地球上に存在する物質は、分子により構成されている。人間も例外ではない。タンパク質や脂質などの分子により細胞がつくられ、それぞれに機能を果たしている。
 化学生命工学では、化学と生命をつなぐものとして「分子」に着目。分子の働きから生命現象を解明し、分子をコントロールすることで新しい機能を持たせていく。

化学と生物をつなぎ分子を自在にデザイン

 「近年注目されている再生医療も、細胞の中の分子が行っていること。狙った通りに分子の働き方を制御する分子技術を開発し、新たな治療法や医薬品などに役立てたい」
 そう話すのは、化学生命工学科の山東信介教授。工学という言葉からは機械や電気などをイメージしがちだが、分子の機能をデザインする化学の工学的価値は高いと説明する。
 「再生医療の最先端研究を社会に応用しようとした場合、問題となるのはコストです。iPS細胞による治療をするには数千万円かかります。最新のがん免疫療法でも年間で3000万円以上かかるといわれています。このような状況では、素晴らしい治療法が誕生したとしても、実際の応用にはつながりません。しかし、従来の治療法で使っている生体由来の分子と同じ機能を持つ分子を人工的にデザインし、化学合成できれば、医薬品のコストを劇的に下げられるはずです」
 分子を設計して、合成するまでは有機合成化学の領域だが、山東研究室では、分子レベルで生命現象を「観る」「操る」をポイントにさらに発展的な生物学研究を進めている。出口としては、医療領域が考えられる。
 その一つとして、生体内の分子の働きを観る技術を研究している。既存の技術では、分子プローブと呼ばれる目印を付けてがん細胞を見つけるPETなど、放射線を使って見る方法が一般的だ。しかし、特定の分子を見つけられるが、“そこで何が起こっているか”は観測できない。
 「生体の中で起きているさらに高次な現象を知るために、核磁気共鳴(MRI)を用いて体の中の分子を見る方法をとっています。私たちは動的核編極という造影剤の感度を理論上数万倍から数十万倍高めることができる技術を用い、腫瘍の増殖に関連する酵素やタンパク質の活性など生体内の代謝をリアルタイムで見ようとしています。それが実現すれば、病気の早期診断はもとより、分子でできる生命の根源に近づくことになるはずです」

研究室では細胞の培養が行われている

分子をデザインして人工細胞増殖因子をつくる

 分子を操る研究では、大きく分けて2つのテーマに取り組んでいる。その1つが、人工細胞増殖因子の開発だ。細胞膜受容体に作用し、分化や増殖を引き起こす物質である細胞増殖因子は、病気の発生や予防、治療にも関わる存在として、医療分野で重視されている。
 しかし、タンパク質からなる細胞増殖因子は調整が難しく、加熱や乾燥にも耐えられずストックができない。実際に医療に使おうとすると、やはり莫大なコストが問題となる。
 そこで山東教授は、狙った分子に対して特異的に結合する機能性分子を利用して、人工細胞増殖因子のデザインに取り組む。
 「DNA(デオキシリボ核酸)は遺伝子として有名ですが、実はDNAを機能性分子としても利用できます。試験管内分子進化法という手法を用い、特定の受容体に作用するDNA配列を探索することが可能です。このDNA分子は化学的に合成可能であり、また細胞増殖因子と同様に細胞に働きかけ、分化や増殖を誘導できます。また、この方法でつくった機能性分子は熱や乾燥に強く、安価に大量生産することが可能です。分子に変異を入れることでさらに強い作用を持たせることも可能になるでしょう。医療応用に向けた展開を進めています」。

再生医療に向けた人工増殖細胞因子

中分子医薬に役立つ人工ペプチドも研究

 もう1つの研究テーマは、がんやアルツハイマー病などの難治疾患の治療薬として期待されるペプチド創薬だ。アミノ酸がつながってできたペプチドは中分子医薬品と位置づけられ、化学合成がしやすく、疾患関連タンパクに結合しやすい。ただし薬としての効果を発揮するには細胞膜内に入り込む必要があるが、細胞膜透過性が低いという課題がある。
 「天然のペプチドを超えた機能を持つ、人工ペプチド医薬品の開発を進めています。従来のように、一つひとつつくって試すのではなく、10億種類以上の多様な人工ペプチドを一度に作成する最先端技術を用い、その中から特定の標的タンパク質に結合し、その働きを阻害する人工ペプチドを効率的に探索しようと試みています。細胞膜を透過し、がん治療に応用できる次世代人工ペプチド医薬品の開発を目指しています」

「研究の原動力は生命現象を知ること」と語る山東教授
医薬品への応用を見据えた人工ペプチドのデザイン

動的な生命の営みを工学的に解明する

 山東教授の研究の原動力は「生命現象を知る」こと。そのためには、刻々と変化する生命の営みを分子レベルで見て、理解する必要がある。
 「今分かっているのは、静的な分子同士の関係性だけ。でも実際は、動的な変化の中で生命は成り立っています。動的な生命機能を分子レベルで理解し、制御することは、化学と生命を扱う化学生命工学の醍醐味の一つです」
 研究室の学生たちは自分で分子をデザイン・合成する一方で、細胞を使った評価を行うなど、化学と生物学両方にまたがる最先端の研究を日々行っている。
 生命と化学を結びつけるのにとどまらず、工学という視点を持つことの重要性も山東教授は強調する。「医療に関わる研究が工学部でできることが十分に知られていません。人工細胞増殖因子やペプチド医薬品をつくったり、ドラックデリバリーに向けたポリマー材料を開発するなど、医療や医薬品開発での工学的発想が不可欠です」

熱田早紀さん、古畑隆史さん

分子をコントロールすることで
生命現象を深く理解したい

大学院工学系研究科 化学生命工学専攻 
修士課程2年 熱田早紀さん
同・博士課程1年 古畑隆史さん(共に山東研究室)

専攻・研究室を選んだ理由を教えてください。

熱田)もともと生物が好きなので、進学振分けでは理学部進学も考えましたが、社会で役立つ分野を学びたかったので工学部を選びました。研究室は先輩たちの楽しそうな様子で決めました。
古畑)私も生物が好きなので理学部、農学部で悩みましたが、特に生命を支えている化学反応に興味があって、この専攻に決めました。その中でも分子をコントロールして生命現象を理解する研究がとても魅力的で、山東研究室を選びました。

現在取り組んでいる研究テーマは何ですか?

熱田)人工的につくった核酸分子を使って細胞膜上の受容体をコントロールし、iPS細胞の分化を制御しようとしています。
古畑)1分子DNAシーケンサーは次世代の遺伝子解析技術として注目されています。この読み取り精度を高めるために、有機化学と分子生物学的手法を組み合わせた新しい方法を開拓しています

研究のやりがいや醍醐味を教えてください。

熱田)以前は生物や生命というものを概念的に理解していましたが、研究を通して、分子同士の相互作用など生命現象をよりクリアに感じられるようになりました。
古畑)同じ細胞を扱っていても個性があり、常に同じ実験結果が得られるとは限りません。でも、その個性こそが生命を維持する上で大事なのだと思います。生命は動的なものだと知り、生きていることは本当にすごいと単純に感じています。

将来どのような道に進みたいですか?

熱田)化学と生物に関する幅広い領域について学ぶことができるため、課題に関して様々な視点から考える姿勢が身につきます。大学院修了後は研究職としてメーカーで働く予定ですが、化生で学んだ知識や考え方を生かして企業での課題解決に取り組んでいきたいと思います。
古畑)研究がとても面白いので、博士課程に進学して研究を続けたいと思いました。卒業後は海外でも研究を行い、世界で活躍できるような研究者を目指したいと考えています。

分子デザイン、合成から細胞での実証実験まで、幅広い研究を進める
研究室ではメンバーの誕生会を開催するのが恒例行事となっている
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