化学システム工学科 Department of Chemical System Engineering

化学を基盤に、システム工学を強みに、
持続可能な社会を構築する

地球温暖化、エネルギー問題、高齢化や医療とコストの問題など、私たちは多くの困難な課題に直面しています。
例えば、CO2排出の抑制。化石燃料の使用中止や焼き畑農業の禁止など、一見、理想的な解決方法はすぐに示すことができます。
ところが多くの場合、利便性、コスト、人々の思いなどの様々な要因が絡み合っていて、実際に実行できる方法は容易には出せません。
このようなときに、化学システム工学のアプローチが大きな力を発揮します。

目指すのは「スペシャリストでジェネラリスト」

修士課程修了後の進路

卒業生の多くは、大学院に進学した後就職する。化学系企業はもちろん、エネルギー・機械・エンジニアリングを中心とした製造業、さらには情報関系やシンクタンクなどへの就職にも強い。博士課程修了後は、国内外の大学や研究機関、民間企業の研究開発職で活躍している。

修理過程修了後の進路のグラフ

主な勤務先:三菱ケミカル、住友化学、旭化成、日揮、帝人、ブリヂストン、富士フイルム、ライオン、塩野義製薬、JXTGエネルギー、東京ガス、新日鐵住金、キヤノン、日立製作所、三菱重工業、IHI、官公庁ほか

3年生の時間割例「S1S2」
※S1とS2を通しで実施

時間割の図

学部教育は、講義、演習、実験、卒論からなり、特に、輪講やグループ研究による学生参加型講義、学生の自主的な取り組みを促す卒論を重視している。カリキュラムの内容は、物理化学・量子化学・化学反応論などの基礎化学、化学工学、反応工学・プロセスシステム工学・環境システム工学・エネルギー工学などの化学システム工学基礎からなる。

方法論を身につけて社会課題の解決に挑む

 化学システム工学は、地球温暖化、エネルギー問題、高齢化、医療とコストのような問題に対して、化学を基盤にシステマチックにアプローチする学問です。国連の「持続可能な開発目標(SGDs)」が時代のキーワードになる中で、化学を中心とする様々な要素知識をシステム的に活用することで、複雑な社会課題に対する永続的なビジョンを示すことができます。
 化学システム工学科の特徴は、分子や物質、材料やデバイス、それらの製造プロセスを研究する際に、「求められる目的や機能は何か」を常に念頭に置いているという点です。このような目的志向で幅広い視野を持てる人材は、化学産業も含む多くの「ものづくり」の産業で求められており、就職も極めて好調です。
 化学システム工学科の学生は、基礎としての「化学」に加え、物質・エネルギーの変化や移動を定量的に理解し、化学製品を実スケールで製造するための「化学工学」を学びます。原子・分子から地球環境までのレベルで起きる様々な現象を取り扱うための方法論を習得するのです。
 卒業する頃には、専門知識と周辺知識をバランスよく兼ね備え、分子から地球までを見わたせる「スペシャリストにしてジェネラリスト」に成長できます。このような人材こそが、持続可能社会の実現に向けた課題に対して、強固な学術基盤を持った上で、挑戦できると考えています。

杉山弘和准教授

内部進学生はもちろん留学生も多く、活発な議論が交わされている

高齢化で拡大する医薬品市場
製薬プロセス最適化を目指して

プロセスシステム工学とライフサイクル工学を扱う平尾・杉山研究室。 未来のものづくりや実社会を意識した化学システム工学科ならではの研究をしている。対象の一つが医薬品。 数百の分子量を持つ有効成分はいくつものステップを経て合成され、さらに複雑な工程を経て錠剤やカプセルなどの「薬」になる。 工業製品としての薬を上手につくり、使っていくためのプロセスを組み上げるためには、何を考えればよいのか。

[平尾・杉山研究室] 杉山弘和准教授

持続可能社会の実現に向けたプロセスシステム工学とライフサイクル工学を研究しています。
杉山准教授は、工業製品としての医薬品を上手につくり、使っていくためのツールや方法論の研究に挑戦しています。

http://www.pse.t.u-tokyo.ac.jp/

現場を見ることで実際に役立つ研究にする

 機械を操作するときや何かを組み立てるときに「なぜこの手順なのか」「これを先にするほうが効率的なのに」と思ったことはないだろうか。
 杉山弘和准教授は、以前勤務していた製薬会社の製造工程に対して「あのプロセスを変えれば、もっと収率が上がるはず。なぜそうなっていないのだろう?」と思うことがあったという。収率が上がれば、ロスを削減できる。製品価格を下げられる可能性もあり、社会的意義も大きい。
 しかし、そこには様々な事情があった。医薬品は生命に関わるものだけに、企業の独断で製法を変えられない。日本なら医薬品医療機器総合機構という行政機関に新しい製法として認可を得る必要があり、それには相応の時間と労力を要する。
 「新薬開発には多額の投資が必要ですが、化合物の特許は20年から25年で切れてしまいます。基礎研究の成果が製品化されるまでには概ね10年以上かかり、投資の回収期間は長くありません。企業としては、一日でも早く販売を開始するために、スピードを重視して研究開発する。本来なら多数の選択肢を吟味して最適なものを選びたいところですが、実際はそれが難しくなってしまうのです」
 これまでは、産業には十分なノウハウを持ったエキスパートがいて、彼らが限られた情報と時間の中でなんとか良いプロセスを組み上げてきた。しかし、経験に頼ったプロセス設計では対応できない場面が増えると杉山准教授は警鐘を鳴らす。
 「昨今はバイオ医薬品のシェア拡大や再生医療製品の市場化、ジェネリック医薬品の推進など、大きな変化が起きています。製造技術も新しいものが次々と実用化されている。『持続可能な開発目標(SDGs)』には医薬品に関わる項目も含まれている。考えなければいけないことが劇的に増える中で、エキスパートに頼ってばかりいては、将来にわたって良いプロセスを生み出し続けられる保証はありません」

一気に高齢化が進む日本の社会課題解決に貢献

 杉山准教授らは、モデル化やシミュレーションの技術を駆使し、最適なプロセスにシステマチックにたどり着くためのツールや方法論を研究する。
 例えば錠剤。原料の粉体を混合し、顆粒をつくって、型に入れて成形したものをコーティングして仕上げられる。混ぜ方や顆粒のつくり方などにはいくつもの選択肢がある。もしすべての選択肢をモデル、つまり数式で表現できれば、それらを組み合わせたプロセス全体も数式で表現できる。シミュレーションや最適化が可能になるというわけだ。
 「そんなツールができたらプロセス設計にイノベーションを起こせます。新しい設計の方法論を書いてみたいんです」
 杉山准教授が医薬品に注目する背景には高齢化の問題がある。国立社会保障・人口問題研究所によれば、65歳以上の老年人口の割合は2010年に23.0%だったものが、2060年には39.9%に増加するという。さらに、15歳から64歳までの生産年齢人口は63.8%から50.9%に低下すると予測。高齢化で医薬品や関連サービスの需要が増えても、医療保険制度を支える世代は着実に減っていくのだ。
 「今は医薬品の価格が高くても制度を維持できていますが、このままでは持ちません。今こそ流れを大きく変えるとき。国際的にも同じような問題意識を持った研究者が増えています。東大工学部、そしてこの化学システム工学科からムーブメントを起こしていかねばと考えています」

分子模型
分子模型を使ってトレードオフの概念を見える化し、思考を重ねる
杉山弘和准教授
杉山弘和准教授

製薬プロセスの最適化は社会にとって有益

 化学プロセス設計に関する研究は、化学工学の一分野である「プロセスシステム工学」として40年以上前から行われてきた。当初は工場内の最適化を目指していたが、環境への配慮から、今ではライフサイクル全体を考慮した研究に発展している。杉山准教授らはこの「ライフサイクル工学」も取り入れた研究を行っている。
 「最近ではシングルユースという、1回限りの使い捨てプラントが注目を集めています。簡単に言えば、樹脂製の容器で反応などの操作をし、終わったら廃棄するというもの。従来はステンレス製容器を毎回洗浄していましたが、その手間を省く技術です。使い捨ては一見もったいないように感じますが、容器洗浄の大量の水が不要になるメリットもあります。どちらの技術が環境に良いのかは、ライフサイクルを考えて初めて分かることです」
 研究室では、国内外の大学や製薬関連企業と共同研究等も行っているほか、産業界の有志と月1回の研究会を開いている。学生はこれら学外との交流にも参加し、実際のプラントを見学することもある。この経験は貴重で、シミュレーションでも、データ解析でも、現場を知るからこその視点があるという。

企業のプラントを見学。実際の製造現場から得るものは大きい
関連研究の全体像を把握。視座は高く、世界を見据えている

今までにない方法論を学生とともに生み出したい

 これから専門を磨く学生に向けて、杉山准教授はこう助言する。
 「これまで一生懸命に勉強してきた学生にこそ、実社会で起きている課題を扱う学科で学んでほしい。理論上は正しくても、生産スケールでは思わぬトラブルが起こることは多々あります。問題の構成要素は何かを論理的に考えられる能力は、卒業してからの人生で必ず生かせます」
 杉山准教授は、化学システム工学科で学んだ後、スイスの大学で博士号を取得。その後、現地の製薬企業に勤務したユニークな経歴を持つ。研究室は国際色豊かな環境で、博士課程生の中にはスイス出身の学生も含まれる。言葉や文化の壁を越えて研究に取り組んでいる。学生同士の議論は活発で、杉山准教授自身、学生から多くの気づきを得ているという。
 「否定的な意見は研究に必要なものです。ですが研究と人格は別物。相互にリスペクトしているからこそ有益な議論に発展するのです。私はこの研究室を“梁山泊”のようにしたい。それぞれが一家言を持った専門家集団であり、友達とも家族とも違うユニークな信頼関係で成り立っている場という意味です。メンバーと共に、新しい方法論を生み出していきたいと考えています」

国際シンポジウムで登壇する杉山准教授。学生にもこういった挑戦の場がある
松並研作さん

進路を考える上で大切にしたのは
「どのように社会に貢献するか」でした

大学院工学系研究科 化学システム工学専攻 修士課程2年
平尾・杉山研究室 松並研作さん

化学システム工学の魅力はどんなところでしょう?

化学というと化合物をつくるイメージが強いかもしれませんが、それとは少し違って、身近な現象をモデル化して数値で説明することを学びました。例えば、冷蔵庫にスイカを入れると、どのくらいで冷えるのか。そんな日常の出来事も熱の伝わり方として捉えればモデル化でき、定量的に語ることができます。この学科に進んでから、身近な現象を計算できることに面白さを感じて研究を続けています。

今取り組んでいる研究内容を教えてください。

錠剤の製造プロセスを研究しています。錠剤は複数の化合物の粉体を均一に混ぜて成形するので、粉体を適切に制御する必要があります。一般的には、粉体の物性を制御するため、流動性の良い顆粒をつくる造粒という操作を加えます。しかしこの操作は多くのツールを使うため、加工用容器に粉体が付着してロスが生じます。創薬の世界では新薬をいち早く製品化することが重視されますが、製造の際のロス低減や環境配慮も重要なテーマです。シミュレーションを通じて、より良い製造プロセスを追求したいと考えています。将来は、医薬品の製造プロセスの効率化を実現して社会に貢献できればとてもうれしく思います。

将来の進路は決めていますか?

博士課程に進学し、現在の研究を続ける予定です。博士課程を意識し始めたのは研究室に配属された頃から。研究が楽しいので、修士で終わらせるのではなく、博士課程も含めた6年間で研究成果を出したくなりました。もちろん、就職に不安を感じなかったわけではありません。博士課程に進んだ先輩たちにも相談しました。でも、大切なのは就職することではなく、どのように社会に貢献できるかです。私は研究を通して社会に貢献しようと考えるようになりました。

研究室の様子を教えてください。

杉山先生をはじめコーヒー好きなメンバーが多いので、朝はコーヒーを淹れるのが研究室の日課です。研究はそれぞれのデスクで行いますが、気分転換したいときや相談事があるときはテーブルのある部屋へ行き、皆とコミュニケーションを取ります。立場や学年の垣根を超えて研究や趣味の話などをしています。夏の合宿では久しぶりにスイカ割りをして楽しい思い出が増えました。

医薬品製造プロセスの研究を通して社会に貢献したいという松並さん
化合物の粉体から錠剤をつくる過程では粉体の物性コントロールがカギ
ページトップに戻る