物理工学科 Department of Applied Physics

科学の源流を深く学び
得た知識を用いて社会に還元していく

科学者のたった一つの知恵や発見が世界を塗り替えた歴史を私たちは何度も経験してきました。
物理工学は、その物理学の源流を探り、科学の真理を究めると同時に、21世紀を支える新たなテクノロジーを生み出す学問領域といえます。
例えば、量子力学の発見、半導体科学の進展、エレクトロニクスの隆盛などはこの領域の成果です。
そんな中、物理工学科では未来の科学技術を支える人材を育成することを目指しています。
欠かせないのは数学と物理学の基礎。物理学を広く深く学びながら、それを工学へ応用したい、そして社会に役立てたいという志を持つ学生を歓迎しています。

カリキュラムの6本の柱

カリキュラムの説明図

物理学を究めたい、応用を積極的に目指したいなど、多様な学生が等しく歓迎されるカリキュラム。卒業後のあらゆる場面で応用できる基礎力を身につけるための6つの柱があり、基礎と応用の融合をサポートする。

修士課程修了後の進路

毎年のように、約98%の学生が修士課程に進むのが特徴。そのうち約30%が博士課程に進学する。高い進学率は、学科の手厚い就職サポートによって支えられている。70社以上が参加する企業説明会のほか、見学会や先輩面接などがある。

修理過程修了後の進路のグラフ

主な勤務先:日立製作所、三菱電機、キヤノン、新日鐡住金、富士フイルム、ニコン、古河電工、トヨタ自動車、 パナソニックほか

3年生の時間割例「S1S2」
※S1とS2を通しで実施

時間割の図

物理工学科のカリキュラムの特色は、2年後期と3年の1年半をかけて数学と物理をみっちり学ぶこと。ここで学んだことが、大学院や社会に出てからの基礎知識となる。プロジェクト方式の実験もあり、具体的な問題を解決する力を身につけることができる。

数学と物理学の基礎を磨き社会で役立つ応用力を

 物理工学科では、数学と物理学の基礎を十分に学ぶことが重要だと考えています。それは卒業後のあらゆる場面で応用できる基礎力をつけるためです。そのために6本の柱からなるカリキュラムを用意しています。「基礎数学」「基礎物理学・先端物理学」「数学及物理学演習」「応用物理学・応用数理学」「輪講」そして「実験・研究」です。
 基礎を学んだ後は、最先端の実験物理学、理論・計算物理学の手法を学びます。これにより、創造性に富み、柔軟思考を持った人材を育てるのが本学科の教育の狙いです。
 体系的に学べる環境があるからこそ、物理学そのものを究めたい人も、積極的に応用にトライしたい人も等しく歓迎しています。異なる視点を持つ者同士が物理学を通じて出会い、カリキュラムを介して相互作用することを狙っているからです。
 実社会に目を向けると、このような物理と工学の本質的なクロスオーバーは、現代科学技術のいたるところで見られます。そして物理工学科は、そのような研究の最前線の拠点になっています。
 学部卒業生の9割以上が大学院に進学し、一人ひとりが興味を持った研究テーマを深堀りしていきます。その背景にあるのは就職率の高さです。様々な業種、企業、研究機関などで卒業生が活躍しているのは、本学科出身者の基礎力の高さが求められているからと見ることもできます。

沙川准教授

情報と自由エネルギーを対等に扱うことでマクスウェルのデーモンと熱力学第ニ法則の整合性を証明した沙川准教授

情報理論と熱力学の融合で
ナノスケール情報処理の実現を目指す

科学の真理を探究すると同時に、革新的な技術へと発展させることを目指した物理工学。
実験物理学、計算物理学、そして理論物理学の三位一体で基礎と応用の融合を目指す。
沙川研究室は、情報量と熱力学のエントロピーやエネルギーを対等に扱うことで、情報理論と熱力学を融合させた新たな物理理論「情報熱力学」で、世界中から注目されている。

[沙川研究室] 沙川貴大准教授

情報理論と熱力学を融合させた「情報熱力学」を研究しています。
物理学に立脚して、高効率な熱機関の設計原理の理解や、これまでにない情報処理技術の創出に貢献するのが目標です。

http://noneq.c.u-tokyo.ac.jp/

 2017年9月、物理学のニュースが関係者を驚かせた。ミクロな世界の基本法則である「量子力学」から、マクロな世界の基本法則である「熱力学第二法則」を導き出したとの発表があったからだ。発表したのは、沙川貴大准教授たちの研究グループである。
 それに先立ち2010年頃から、沙川准教授は物理学者たちを悩ませ続けてきた「マクスウェルのデーモン」の実験に成功するなどの功績を上げてきた。その実力が認められ、13年に准教授に就任。16年には先端研究領域で活躍する研究者を表彰する第4回リサーチフロントアワード(米トムソン・ロイター主催)を受賞している。

情報熱力学の全体像
情報熱力学の全体像

情報を自由エネルギーに変換する情報熱力学を研究

 「私の研究を一言でいえば、情報熱力学です。情報理論と熱力学を融合させた新たな物理理論で、現在では世界的に活発に研究されています」と沙川准教授は語る。
 情報熱力学は、19世紀の物理学者マクスウェルが考えた「マクスウェルのデーモン」という物理学の問題と密接に関係している。ここでデーモンとは、分子一つひとつを観測し、その観測結果の情報を使って分子を操作する存在のことだ。
 マクロな世界の基本法則である熱力学第二法則では、熱機関によって使えるエネルギーには上限があるとされる。それに対し、1867年にマクスウェルが「このようなデーモンが存在すれば、第二法則は破られてしまうのではないか」と指摘したのだ。
 当初、デーモンは理論上の仮説にすぎないと思われたが、1929年に物理学者のレオ・シラードが思考実験により情報をエネルギーに変換できることを発見。それを行っているのが、デーモンだと考えた。約80年後の2010年、実験で実現してみせたのが、東北大学の鳥谷部祥一准教授と沙川准教授たちのグループだったのだ。
 「情報と自由エネルギーを対等に扱うことで、デーモンと第二法則は帳尻が合うことを示したのです」と沙川准教授。
 ここで情報とは、膨大な数の分子1個1個に関する位置や移動する方向をいう。第二法則で扱われる熱力学のエントロピーと情報量を対等に扱うことが情報熱力学の考え方だ。

シラードエンジン
マクスウェルのデーモンの代表的なモデルであるシラードエンジンのイメージ

大腸菌が熱ゆらぎを活用

 近年、情報熱力学は生体情報処理にも盛んに応用されている。
 沙川准教授は2015年6月、北海道大学の伊藤創祐助教と共同で、大腸菌に潜む「マクスウェルのデーモン」の働きを解明した。
 生物は変動する外界の情報を生体内に取り込んで、生体システムを維持している。大腸菌には、餌となる物質の濃度の高い方向に進む性質がある。これは走化性と呼ばれる。餌が大腸菌の受容体に結合し化学反応を起こすことで、べん毛モーターが回転して餌の方向に進むという仕組みだ。
 走化性は外部からの情報に基づき行動を制御する。餌から得られた情報は、受容体に記録され、情報を基に化学反応が起こる。この受容体がデーモンの働きをすると考えられている。
 沙川准教授が注目するのが、熱ゆらぎだ。大腸菌は情報処理に熱ゆらぎを活用しているという。生体のように、むしろ熱ゆらぎを活用するようなコンピューターができれば、高いエネルギー効率で稼働させられる可能性がある。

マクスウェルのデーモン
生体に潜むマクスウェルのデーモンのイメージ
最近は、タブレットに数式などを書き込みながら検討することが多くなった

量子系の制御と熱力学

 そしてもう一つ、沙川准教授が重要な研究テーマとして取り組んでいるのが、量子力学と熱力学を融合させた「量子熱力学」だ。冒頭で触れた量子力学からの熱力学第二法則の導出もその研究の一環である。
 マクロな世界の基本法則である熱力学第二法則はエントロピー増大則であり、不可逆な変化に関する法則だ。不可逆とは、逆向きの変化は自発的には起きないということ。例えば、熱いコーヒーを室温に置いておくと冷めるが、これがひとりでに熱くなることはない。この不可逆性は、「時間の矢」とも呼ばれる。
 一方、量子力学はミクロな世界の基本法則だ。マクロな物質は、ミクロな原子や分子などで構成されている。量子力学の世界では、時間の向きを反転させても成り立つという性質を持っている。つまり、可逆性があるのだ。
 これは、不可逆性を表す熱力学第二法則と矛盾する。そのため、19世紀以降、どうすればミクロとマクロがつながるかが、物理学の世界では大きな難問とされてきた。

熱力学第二法則を量子力学から理論的に導出するために設定したシステムSと熱浴Bのイメージ

冷却原子気体で孤立量子系を実現

 この古い難問に対し、近年新しい光が当たっている。実験的には、真空中でレーザーで捕獲した原子集団をミリケルビン以下の極低温にまで冷却し、さらにその原子を一つずつ観測することも可能になってきた。この冷却原子気体と呼ばれる技術で、ノイズのない理想的な孤立量子系が実現されるようになった。
 このような冷却原子は、次世代の周波数標準といわれる「光格子時計」の舞台である(物理工学科の香取秀俊教授は、その開発者として世界的に大きな注目を集めている)。また冷却原子は、先述の「量子力学から熱力学がどのように創発するか」を研究する格好の舞台にもなっている。
 「私の研究は、現段階では物理学の基本原理を深く探求するものです。しかし中長期的に見ると、単なる理学的な問題にはとどまりません。物質が熱平衡状態に至るまでの緩和特性をどうやって自在に制御し、所望の物質を実現するか。どうやったら高効率な熱機関が実現できるか。さらに、どうやったらノイズのない量子情報処理を実現できるかといった、革新的な工学の研究につなげていきたいと考えています」と沙川准教授は意気込む。

測定とフィードバック
測定とフィードバックの模式図
吉沢 徹さん写真

物性を物理学の理論を使って理解したいと思い
物理工学を選びました

大学院工学系研究科 物理工学専攻 修士課程2年
沙川研究室 吉沢 徹さん

物理工学科を選んだ理由を聞かせてください。

高校時代から物理が好きで、大学では物理学を専攻しようと考えていました。私は物性物理学に興味があり、勉強したいテーマに合致していると思い、工学部物理工学科を選びました。
学部4年生では、グラフェンという炭素でできた物質の研究をしました。グラフェンは特殊な伝導特性を持ち、それを使った電子デバイスの研究を通して社会に役立つものづくりがしたいと思うようになりました。その点でも、物理工学科を選んでよかったと思っています。

現在の研究内容を教えてください。

大学院では、統計力学に関する研究をしています。物性物理学も統計力学も、物質のマクロな性質をミクロな観点から研究する物理学の分野ですが、統計力学では特に物理学の基本原理に近いところを探求しています。理論計算とコンピューター・シミュレーションを使って、ミクロな世界の基本法則である量子力学から、マクロな世界の基本法則である熱力学を導き出そうという試みです。現在所属している沙川研究室の中心テーマの一つでもあります。

研究の醍醐味を聞かせてください。

研究は、誰も知らないこと、分かっていないことを解き明かす試みです。未知の領域を切り拓くという点で苦しい側面もありますが、それ以上に強いやりがいを感じています。研究室では、テーマ別に2つの班に分かれて研究しています。煮詰まった際には、班に関係なく研究室の先輩や同期と自由に意見交換させてもらうことで、視野が広がり新たな糸口を見つけ出すことができます。たまに仲間とキャッチボールなどをしてリフレッシュしています。

大学院生活と今後の進路について教えてください。

私の研究は、紙と鉛筆、パソコンさえあればどこででもできますので、自宅で行う場合も少なくありません。学部時代に比べて研究活動の自由度は高いと思います。逆に、タイムマネジメントは自分の裁量に任されているので、自己管理が必要です。修士課程修了後はIT(情報技術)系の企業に就職します。コンピューター・シミュレーションに関する知識を生かしたソフトウェア開発を通して、社会に貢献していきたいと考えています。

研究室
研究室の先輩や同期と意見交換して、研究の新たな糸口を見つけ出す
本郷キャンパスのグラウンド
キャッチボールをして気分転換(本郷キャンパスのグラウンドで)
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