応用化学科 Department of Applied Chemistry

化学をベースに物質を自在にデザインし、
導き出した新しい機能を社会に還元する

応用化学科が目指すのは、物質を様々にデザインし社会に役立つ新しい機能を導き出すことです。
無機、有機、バイオ、従来の分野ではくくり切れない多彩な、そして最先端の研究を日々行っています。
新しい機能があればいいのではなく、「独創性」を大切にしています。
そのオリジナリティーを生み出す土壌となるのが、基礎研究(応用化学の木でいう「根」の部分)です。
カリキュラムは、連携した「講義」と「実験」で構成され、化学の基礎的なセンスを磨く教育をベースに、社会を知る工場見学なども実施しています。
4年生になると最先端研究(卒業論文)へと進み、実践的な能力を養っていきます。

応用化学の木

応用化学の木

修士課程修了後の進路

修士課程への進学率は9割を超える。そのうち約2割は博士課程に進学する。製造業への就職が人気となっているが、材料、薬品など化学系メーカーへの就職が半数を超えている。

修理過程修了後の進路のグラフ

主な勤務先:旭硝子、三菱化学、昭和電工、トヨタ自動車、三菱重工業、JX日鉱日石エネルギーほか

3年生の時間割例「S1S2」
※S1とS2を通しで実施

時間割の図

応用化学科のカリキュラムの特色は、自然科学の基礎から専門領域までを階層的に学べるようになっていること。有機・無機・物性的な化学だけでなく、最先端の内容を扱うフロンティア化学にも触れることができる。

自然科学の基礎から専門まで階層的に学び成長を促す

 応用化学科が対象とする研究分野は多岐にわたります。そのため、まずどの分野に進んでも必要になる自然科学の基礎を学びます。これが2年生の基礎科目(化学生命系共通)の学びであり、「化学の木」では「根」に当たります。
 3年生では基礎科目に加え、専門科目と学生実験を通じて専門性の高い知識や基本的な実験スキルを身につけます。これが「幹」となります。
 2~3年生の講義・実験は、化学系と生命系の3学科の教員が協力して行うのが特徴の一つ。異なる学科の教員によって様々な視点から研究対象を見るきっかけになります。
 このほか、産・官より第一線で活躍している方を講師として招き、企業での研究開発の最前線や科学政策などに関する講義(フロンティア化学など)を開催しています。工場見学を通じて社会を知る機会を設けたり、他学科・他学部の講義を履修することができます。
 4年生になると築き上げてきた「根」や「幹」をベースに、最先端研究(卒業論文)を進めながら、実践的な「実」のある研究に進んでいきます。 卒業後の進路は、例年9割以上が大学院に進学します。博士課程に進むのは約2割。就職先としては、化学生命系に進むのが約半数で、電気系、機械系、素材系、情報系と続き、企業内で研究開発に携わることが増えます。

宮山勝教授

「物質の機能を探り、社会の発展につながる新たな機能を創造したい」と語る宮山勝教授

化学の視点で新しい機能を見つけ
社会の発展につながるものを生み出す

あらゆる領域に研究対象が広がる応用化学科。
宮山研究室では「無機化学」「物質の電気的な性質」を主軸にして、プロトン(H+)を使った全固体プロトン電池、エネルギー変換・情報変換に有用な強誘電体などを研究している。 物質の機能の根源を探り、その深い理解のもとに社会の発展につながる新たな機能を創製することを目指す。

[宮山研究室] 宮山勝教授

化学エネルギーを高効率で取り出す手法を開発し、電気化学キャパシターや全固体プロトン電池への応用を目指しています。
不揮発性メモリーなどに利用できる、情報・エネルギーを低損失で変換する強誘電体の開発にも挑んでいます。

http://www.fmat.t.u-tokyo.ac.jp/

 私たちの暮らしは多様な形態のエネルギーに囲まれている。例えば火力発電所では、化石燃料で蒸気を発生させてタービンを回し、電気をつくる。これは熱エネルギーを、運動エネルギー、さらには電気エネルギーに変換していることになる。
 その中でも電気エネルギーは使い勝手がよく、熱エネルギー(給湯など)や光エネルギー(照明など)、運動エネルギー(電気自動車など)に変換して使える。ただし貯めるのが難しく、貯蔵には蓄電池が必要だ。

従来の課題を克服する安全な全固体プロトン電池

 パソコンやスマートフォンに使われるリチウムイオン電池はエネルギー密度が高いが、高活性電極や有機電解液を使用するため、安全性に不安が残る。しかも構造的に薄膜化は難しい。そこで注目されるのが全固体電池だ。宮山勝教授は電極の間を動くイオンにプロトン(H+)を使った全固体プロトン電池を研究する。
 「プロトンはリチウムイオンよりも小さいので、高速充放電が可能です。エネルギー密度はリチウムイオン電池に比べるとやや低いですが、電解質が有機物ではなく、かつ固体なので、安全性が高いという特性を持っています。我々はさらなる特性向上のために、無機ナノシートを積層した薄膜を電極などに用いた全固体プロトン電池を研究しています」
 宮山教授らが開発した手法は、実にシンプルだ。
 電池の正極にはプロトン遷移金属(ニッケル、コバルト、マンガン)複合酸化物を、負極には酸化ルテニウムを、電解質には層状複水酸化物(LDH)を使う。基板上に正極と負極のコロイド水溶液をそれぞれ少し離して滴下し、乾燥させた後に、両電極を覆うようにLDH水溶液を重ねて乾燥させれば、完成である。
 「電極物質は層状結晶構造になっており、層の間にはイオンが入っています。この層間イオンをややサイズの大きいイオンと交換すると、電極層が数ナノメートルの大きさに剥離し、ナノシートのコロイド溶液が出来上がります。これを乾燥、再積層させると、極めて薄いナノシートが重なった構造になることから、柔らかなポリマー基板の上に積層膜をつくるとフレキシブルな電池がつくれます」

全固体プロトン電池の特徴は安全性としなやかで柔軟なことにある

しなやかで柔軟ウェアラブルにも応用可能

 ナノシートの電池では、基盤を曲げても導電率が変わらないことが確認できた。積層したナノシートは接点を維持しながら、柔軟に変形していると見られる。
 「フレキシブルな薄膜の全固体プロトン電池の特性は、有機液体を使わないがゆえの安全性であり、しなやかで柔軟なこと。情報端末の形状に合わせて貼り付けたり、メガネ型ウェアラブル端末のツルに巻き付けたりするなどの用途が考えられます」
 将来的な発展に期待がかかるが、万能ではない。例えば、自動車用の大型電池をつくることは難しい。しかし、応答性が早く高速充放電ができるので、エネルギー回生ブレーキのように、特性を生かした使い方もありそうだ。

全固体プロトン電池の作製
全固体プロトン電池の作製

鉛を使わない強誘電体で環境に優しいサイエンス

 宮山教授は東京大学の応用化学科の出身で、セラミックスを扱う研究室に所属していた。当時はセラミックスに対して強度や形状が要求されたが、恩師が電気的な性質に着目しており、宮山教授も関心を寄せていた。
 「無機化学と物質の電気エネルギーを二大テーマとして掲げるようになったのは15年ほど前。学生には電池を含めて、エネルギーに関わる材料を研究したいという人が多いです」
 研究室では全固体プロトン電池のほか、エネルギー変換・情報変換に有用な強誘電体の研究も進めている。
 強誘電体とは、格子状の酸化物結晶の中にあるイオンが本来の位置よりもシフト(分極)していて、外部からの電圧で指向性を変えられる物質をいう。コンデンサー、圧電アクチュエーターのほか、指向性を変える電圧がかかるまでは一定の状態を維持するため、メモリーとしても活用されている。
 結晶には鉛を含む金属酸化物が使われるが、鉛は人体に有害であることから、多方面で使用が規制されている。強誘電体の場合は鉛並みの性能を発揮する代替物質が見つかってないため、例外的に規制対象外になっているにすぎない。
 「結晶に欠陥が多いと、電圧をかけても中のイオンの動き方が変わり、強誘電体としての性能の低下や向上が生じます。特に酸素の欠陥は、多くの場合、特性を低下させます。研究室では酸素欠陥を除く有効な手法をいくつか見出し、機能の制御に取り組んでいます」
 有効な手法とは、結晶をつくる際に酸素が豊富な状態で行うこと、酸化物を添加するなどがある。酸素が抜けていても、添加物からの酸素が入り酸素欠陥が減ると考えられる。酸素が抜けないように格子の目を細かくするなど組成を変える手法もある。

水面に浮かんでいるナノシートをガラス基板の上に転写する
強誘電性BaTiO3結晶の自発分極 P sと光起電力

なぜ、そうなるのか? 機能の探究が新発見を生む

 強誘電体は非鉛化が課題ではあるが、まったく新しい可能性も秘めていると、宮山教授は言う。
 「強誘電体には大きな光起電力があります。シリコン型太陽電池は光を当てると半導体内の接合界面に電位差が生じて電流が流れます。強誘電体は結晶にひずみがあり、電子が進みやすい方向と進みにくい方向があって、半導体の接合界面のような役割を果たすので起電力が生じるのです。流れる電流はわずかなので、太陽電池とするのは難しいでしょうが、起電力はたいへん大きい。光センサーや光メモリー、電圧で可変する光スイッチング素子などに応用できると考えています」
 このように今までにない物性を探求できるのも、研究の醍醐味と言えるだろう。研究室では、研究の企画・開発から、実験、考察、社会への発表まで、すべてができる人材の育成を目指す。宮山教授は「自らの研究で、将来の社会を変える意欲を持ってほしい」と熱いメッセージを送る。

冨士田 崚さん写真

研究活動を通して、これからの人生に
役立つ自立性が身についたと思います!

大学院工学系研究科 応用化学専攻 修士課程2年
宮山研究室 冨士田 崚さん

応用化学科を選んだ理由を教えてください。

もともと化学が好きで、将来は日常生活に役立つものを生み出したいと思っていたので、応用化学科のある工学部を選びました。
工学部には他にも化学系の学科がありますが、炭素を中心とした有機化学よりも多様な物質を扱う無機化学のほうが面白そうだと感じましたし、バッテリーにも興味があったのです。それだけに、応用科学科が自分に合っているかなと思っています。

研究室の雰囲気はいかがでしょうか?

工学部の化学系の学科では秋から春にかけて研究室対抗のスポーツ大会があり、4年生以上が参加します。僕はこれまでにソフトボールやサッカー、バドミントンなどに参加して、いくつかのトロフィーもいただきました。研究室は普段から先輩や先生に相談しやすい雰囲気です。年3回は合宿があり、そこでは研究以外のことも話します。

研究テーマを教えてください。

学部時代は、バッテリーに使うイオン液体を研究しました。リチウムイオン電池などに使われる有機電解液は安全面に課題がありますが、イオン液体には燃えにくいものがあります。応用研究の事例も少ないので、難燃性の観点から研究を進めました。修士課程では、極薄膜電池を研究しています。膜の厚みは1ナノメートル程度。ティッシュペーパーの10万分の1くらいです。世界で最薄の電池を目指せるレベルですから、今までにない用途で様々な分野に活用できると思います。しかも薄膜は粉体とは異なる特異な特性を示すので、電池としての特性を向上させる可能性があります。

それだけ薄いと、実験は難しくありませんか?

ナノサイズの酸化ルテニウムが分散した水溶液を専用の容器に入れて、界面に生じる膜を引き上げて生成するのですが、最初の半年間は薄膜づくりに奮闘しました。最近ようやく1ナノメートル程度の膜で特性を測れるようになりました。論文執筆までには薄膜ならではの特性が出る原因を明らかにしたいです。現在は電極をつくっているだけなので、電池全体を設計できたらと思っています。
学部での研究は1年間ですが、修士課程では2年間研究を深めることができます。学部とは異なり大変さもありますが、これからの人生に役立つスキルが身についたと思っています。

大学院修士課程で極薄膜電池をテーマに薄膜の特性を研究
学内ではアカペラのサークルに所属。ライブハウスに出演
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