東京大学工学部

ENGINEERING POWER 東京大学工学部ガイド[エンジニアリングパワー] - 東京大学工学部

最先端の研究現場には魅力がいっぱい!

工学部といえば男性ばかりで、研究室にこもって実験や論文に追われて・・・・・・。 そんなイメージはひと昔前の話。 東京大学工学部では、女子学生が楽しみながら研究を続け、存在感を増してきています!
実際に3人の工学女子に登場いただき、工学部の研究生活について語ってもらいました。

ナノの世界から都市づくりまで工学の幅広いフィールドでそれぞれが夢に向かって邁進

今回登場してくれたのは、マテリアル工学専攻・修士課程1年の江上真理子さん、建築学専攻・修士課程年の柳井麻愛さん、電気系工学専攻・博士課程年の平田郁恵さん。ナノやミクロの世界から都市づくりまで、工学の幅広いフィールドで夢を追いかける3人の女子学生が、工学部での研究生活の面白さや、やりがいを語ってくれました。

――みなさんが今研究している内容 について、簡単に教えてください。

江上私はマテリアル工学専攻で「マグネシウム合金」という金属の構造解析をしています。簡単にいうと、マグネシウム合金とは非常に軽くて非常に強い金属です。この素材が社会で広く実用されるまでには、もう年、年待たないといけないかもしれませんが、ゆくゆくはその軽量でありながら強度が高いという特徴から、身近なものではデジカメのボディ、そして飛行機や自動車などに使われていくのではないかと考えられています。

柳井私は建築の意匠設計分野で「シェア」をテーマに研究しています。ルムシェア、シェアオフィスなどの、あのシェアです。公共空間に現れるプライベート性に着目していて、具体的に挙げると、例えば、地下鉄の駅の通路。通常はただ通り過ぎるだけの空間に、人がとどまることで新しい公共空間ができていきますよね。どうしたら人がとどまりたくなるのか?道における公私の境界線の認識とは?といった研究をしながら、都市づくりにまで視点を広げて考えています。

平田私の研究は「有機トランジスタ(有機半導体)」です。時折ニュースでも話題になる、電子ペーパーなどに活かされている技術で、フレキシブル(曲げられる)電子回路、というとわかりやすいでしょうか。近い将来、ロラー状に巻けるテレビや、ポスターのようにビルの壁面に貼れるディスプレイなどが登場すると思います。また、立体物に巻き付けられるので、ロボットの体にセンサーを巻き付けたり、臓器に巻き付けて使うような医療分野で活用されたり......。そんな未来にもつながっています。

――研究内容をとてもわかりやすく語ってくださり、助かります(笑)。一般に難しいと思われる工学分野をこうして嚙み砕いて説明するのは、女性のほうが上手だったりするので しょうか?

江上単に男女の違いというものでは ないと思います。個人の資質の問題で しょうね。そもそも、工学系では女性 が少ないので、語る女子が目立つのか もしれません。

平田男女に関係なく「アウトリーチ活動」は広がっていると思いますよ。私も学生アウトリーチ団体に所属しています。アウトリーチとは「手を伸ばす」という意味ですが、専門的な知識を広く社会一般の人たちと分かち合うための活動のことで、例えば、工学を身近に感じてもらう「研究室見学」や、小中学生と一緒に最先端の研究を楽しく学ぶ「東大テクノサイエンスカフェ」といった活動です。この学生団体は4〜5年前に発足したと聞いていますが、それ以前も、難しいことをわかりやすく話せる人はたくさんいたのだと思います。でも、こうして団体ができたりイベントが開催されたりすることで、研究者たちも表に出やすくなり、それに伴って女性が工学を語るシーンも多くなったのは確かでしょうね。

――では、みなさんの研究につい て、もう少し専門的なことまで教えてもらえますか?

柳井私が学ぶ建築意匠の分野は、工学の中ではちょっと異質だと思います。特に「これ!」というものづくりではないので、説明が難しいのですが......。社会が、人々の生活の積み重ねでできているように、椅子ひとつから大きな建造物まで、すべてが関係して都市ができています。その中で「シェア」というキーワードを切り口に、家具をつくったり、東日本大震災で被災された東北の復興住宅を考えたり、いろんなコンペに参加したり、論文をまとめたりしています。近ごろ、興味深いと思っているのは「ゆるやかなシェア」。同じ行為をしなくても同じ場所にいるという、何となく人とのつながりを感じるシェアが、最近は求められていることです。カフェなどで、みんなが本を読んだり勉強したりしている、あの空間がまさにそれです。シェアしているという意識はないかもしれませんが、「公共空間に現れるプライベート性」という私のテーマそのものです。

平田トランジスタの研究は、携帯電話やスマートフォン、タブレット端末、パソコンなどが需要の主役なので「小さくて速い」を追求し続けるのが主流です。でも、私が研究する有機トランジスタは「大きくてフレキシブル」を追求しています。このフレキシブルという点がすごく魅力です。有機トランジスタは3年もすると性能が不安定になる劣化が大きな課題ですが、人工化合物のシリコンではなしえない世界が広がっています。曲がる有機物のセンサーをロボットに巻き付ければ、人工皮膚も実現できます。私は、今のものをよりよくする研究よりも、こうした新しい概念で取り組む研究に面白みを感じます。

江上私が扱うマグネシウムは、レアアースよりは多いけれど、鉄よりは少ない。それなりに豊富で、それなりに強く、それなりに軽いという存在です。地球上に局在していないという点も、マグネシウムの大きな特徴で、どこでも入手できるから、資源として国際的な大きな摩擦を生みません。そういう素材を元に、アルミのような軽さと鉄のような強さを併せ持った、耐圧、耐熱性の高い素材をつくり出すための研究です。もともと私は、他の人が使うツールを生み出す研究をしたかったので、こうした素材研究ができて満足しています。

――三者三様ですね。顕微鏡をのぞき込むような小さな金属素材の研究から、大きな地図を広げるような都市づくりまで、3人のお話を聞くだけでも工学分野の幅広さを感じます。

江上そうですね。私は原子単位での基礎研究ですし、3人それぞれ、スケール感の違いみたいなものはありますよね。

平田同じ工学でも、こうして違う分野の話を聞けると面白いです。

柳井違う分野とはいえ、ひとつの社会の中でつながっているということなんですよね。

――それぞれ授業内容もずいぶん違うと思いますが、何か印象的なカリキュラムなどはありますか?

柳井建築学科では研究対象になる建築物のサンプルを集めることも大切で、写真の授業もあります。その中の課題で「100枚写真を撮ってくる」というものがありました。大変でしたが、面白かったです。ひたすら椅子の写真を撮り集めたこともありました。おかげですっかり写真が趣味になり、いつでもカメラを持ち歩いています(笑)。

江上私の学科では「顕微鏡写真のコンテスト」があります。ミクロの世界を日々のぞいている中で、思いがけず人の顔に見えたり、急に森みたいに見えたりする画像が現れることがあって。そういう面白い写真を持ち寄るコンテストです(笑)。顕微鏡メーカーの人が音頭をとって開催されるものもあって、面白い画像を狙って顕微鏡をのぞく人もいたりします。私はまだ出品したことはないですが。

平田私たちの学科では「ビックリドッキリメカ」という課題発表会があり、毎年1月ごろにツイッター上でも公開されています。「電子工作で何かをつくってこい!」というのが課題で、私の同期では「黒板消し落としマシーン」をつくった人がいました。教室の戸に黒板消しを挟む代わりに赤外線レーザーを使用したものです。あの昔ながらのいたずらを、真面目に工学的に工作したというものです(笑)。

――ユニークなものがいろいろありますね(笑)。学生生活もとても楽しそうです。最後に工学部の魅力や将来の夢などを教えてください。

江上工学は需要に応えるという一面がありますが、研究する者として「やりたいものを突き詰めていたら、結果、需要に応えることになっていた」というのが理想だと思います。

柳井私の夢は、都市づくりです。フィンランドのヘルシンキのような、コンパクトな街でありながらメインストリートにはたっぷり緑地があり、通りにはみんながゆるやかにシェアできるテラス席が並んでいる、そんな素敵な街をつくりたいです。

平田私は、「工学は実社会の役に立ってこそ!」だと思っています。自分のつくったものが活用されている世の中を早く見たいですね。