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山下 淳 准教授 | 工学系研究科 精密工学科

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Profile
工学系研究科 精密工学専攻 博士(工学)
2001年3月東京大学大学院 工学系研究科 精密機械工学専攻 博士課程修了。’06年カリフォルニア工科大学客員研究員、’07年静岡大学工学部機械工学科助教。同大学准教授を経て、’11年より東京大学大学院准教授に。同年、山下研究室を発足。人間の目の働きをコンピュータで実現する技術やセンサ情報処理技術開発を中心に取り組んでいる。

人に役立つ技術を 一番に考えるのが 精密工学の使命

工事現場の建機に応用できるロボット技術も開発。

工事現場の建機に応用できるロボット技術も開発。

1887年の学科創設以来、精密工学は常に社会課題の解決に貢献してきた。そのDNAは山下淳准教授にもしっかりと受け継がれている。

「私の研究室では、社会の役に立つロボティクスを研究するという大きな命題を常に掲げています」と、山下准教授は胸を張ってそう語り出した。

「ロボットと言っても、みなさんが想像する二足歩行型のロボットばかりを指すわけではありません。実際は工場の中で繰り返し溶接をしたり、塗装をしたりする機械が大半です。そうしたロボットたちに画像を結びつけて新しい機能を生み出せないかと考えているのが、私の研究内容です」

その主たるものは、〝見えない情報を見る技術〟の開発。言葉だけを聞くと、なんだかSFめいた感じがするが、「決して突拍子もないことを言っているわけではありませんよ」と笑う。「人間には見えているけれど、コンピュータやロボットには識別できないものがたくさんあるんです。つまり、私たちが目指しているのは、人間の目の働きと同じことをコンピュータでもやってしまおうという画像処理技術の研究です。例えば、雨の日に窓越しに外を撮影すると、水滴で奥の景色が見えづらくなっていますよね。この画像を処理し、水滴のない綺麗な画像を自動的につくり出すことができます」

原理はいたってシンプルだ。人間の目が2つの視点が合わさって物事を捉えているように、複数のカメラを使って同時に撮影したものの中からいいとこ取りをして合成すれば、水滴のない画像を得ることができる。

研究室では他にも、ロボットの四方向にカメラを取り付け、前後左右から得られる画像情報を合成し、真俯瞰から見た映像をつくり出す研究も行っている。これにより、たとえ迷路のような場所でも遠隔地からロボットを操作することが可能となる。さらに暗闇の中でレーザー光を照射し、目の前にある障害物との距離を計測したり、光によって映し出される物体を3D画像化したりと、研究内容は多岐にわたる。

人が踏み入れられない汚染水漏れの現場で活躍

「山下研究室は学生からの質問や相談がしやすい開かれた環境!」と学生は語る。

「山下研究室は学生からの質問や相談がしやすい開かれた環境!」と学生は語る。

きっかけは1995年に起きた阪神・淡路大震災だった。震災後にロボットの研究者が集結し、災害対応用のロボット開発プロジェクトが発足。山下准教授もそこに参画した。

「当時の被害状況を踏まえて、多くの研究者は、障害物を取り除いたり、そこを回避して移動できるロボットの開発に取り組んでいました。そこで、私は画像を使って人に有益な情報を与えるロボットをつくろうと思いました」

そして2011年、またもや大規模な地震(東日本大震災)が起きた。しかも今回は、福島第一原子力発電所の放射能漏れという未曽有の事故も併発。「場所によっては放射能レベルが高く、人間が足を踏み入れることのできないところもあります。カメラ付きのロボットを導入しても、水蒸気でレンズが曇ったり、汚れたりすることもある。そんなときに画像処理技術で視野を確保することが必要になるのです」

人間の目であれば、水滴の付いたレンズ越しに風景を見ても、その先に何があるのか、おおよその見当をつけることができる。しかし同じ風景でも、コンピュータは水滴のノイズを拾い上げ、正常な解析ができない。〝人間は見えて、コンピュータが見えない情報を見る技術〞は、こうした面で大いに役立つのだ。そして今、福島原発の放射能汚染水漏れ問題など早急な対策が求められる国家的なプロジェクトに、このロボットの導入が決定した。

「人が簡単に立ち入ることのできない場所での活動、どんな障害物があるかわからない水中で行われる遠隔操作、そして問題解決に有益となる鮮明な画像の収集。これらすべてを同時に行えるセンシングロボットの開発に、さまざまな企業とともに力を注いでいます」

山下准教授の研究室では、〝コンピュータが見えない情報を見る技術〞だけでなく〝人間が見えない情報を見る技術〞の研究も行っている。それが福祉用のビジョンシステムだ。

「世の中を見渡すとタッチパネルが増えてきていますよね。でも、これは〝パネルを目で見ること〞が前提となっていて、視覚障害のある方にとっては非常に使いづらいものです。スマートフォンやタブレットならば利用しなければいいだけの話ですが、駅の券売機やATMなどではそうもいかない。そうした方々のためのインターフェイスとして開発しているのがビジョンシステムです。体にカメラとヘッドホン、マイクを付け、押したいボタンを音声認識させ、希望するボタンに音で誘導していく。これもコンピュータによる画像処理技術を応用したものです」

最後に山下准教授に研究をする上で大事にしていることを聞いてみた。すると、学問において知的興味を持つことは重要だが、それ以上に大切なものがある、と胸の内を語ってくれた。「社会に貢献できる技術開発を強く意識すること。それが研究でもっとも大事にしていることです」

そんな想いを共有できる学生たちを山下准教授は待っている。

あらゆる分野で画像処理技術を応用

人との共存を目指す知能ロボットの開発

山下准教授がこれまでに携わってきたロボットの一例。自律移動ロボットによる環境センシングや複数センサ情報の融合による知的センシングなど、研究内容は多岐にわたり、学生たちにとっても選択の幅が広がっている。

水中で画像収集などの作業ができるセンシング

企業と共同で開発をしているセンシングロボット。画像情報の処理能力に長け、また自らを俯瞰で写すカメラが装備されているため、未開の地でも遠隔操作ができる。放射能汚染水漏れの問題解明のため、福島県で活躍する予定。

全方位を一度で撮影し、3次元マップを作成

市販のカメラに傘のような鏡を取り付け、一回の撮影で360度の景色を撮ることが可能に。海中など、初めて調査するような場所でも、このロボットで撮影した画像を利用すれば、3次元マップを作成することができる。

視覚障害でもタッチパネルの操作が可能に!

目の不自由な人のためのタッチパネル操作支援技術。マイクで押したいボタンを伝えると、ボタンと指先の位置関係をカメラが計算。この二つが近くなるようにヘッドホンから強弱のある音が鳴り、指の動きを誘導してくれる。

研究室学生インタビュー

体の仕組みを学びつつ高齢者介護に役立つ研究をしていきたい!

淺間・山下研究室 安 琪さん AN Qi 東京大学大学院 工学系研究科 精密工学専攻 博士課程3年

大学1年生のときに「人の役に立ちたい!」と思い始めたという安さん。その後、福祉機器に興味を抱き、この淺間・山下研究室を選んだそうだ。

現在はどんな研究をしているの?

高齢者介護を目的とした立ち上がり動作の研究をしています。起立動作は日常生活で基本かつ重要な動作ですが、一方で大きな危険性もはらんでいます。特に年配の方の場合、転倒の仕方によっては寝たきりになる可能性もありますので、それを未然に防ぐ動き方や、身体機能が衰えないようにするための動作などを調べています。

どういった点に研究の面白さを感じていますか?

人間の体にはまだまだ解明されていない部分がたくさんあります。そこを突き詰めて研究できるのが一番の面白さです。例えば、筋トレをすれば誰もがボールを遠くに投げられるわけではないですよね。大切なのは、そのスポーツに合った鍛え方や体の動かし方なんです。ちょっとしたコツを見つけることで、寝たきりの方が自力で立てるようになるかもしれない。そうした可能性を秘めた分野だという点も非常に興味深いです。

山下研究室のいいところは?

ほぼひとりで1つのテーマを任される点です。重い責任を感じますが、自由に取り組めるというよさがあります。また、国際学会などに参加する機械や海外留学の制度が充実しているのも、学生にとってはうれしいですね。僕も1年間ほどワシントン大学に留学して、そこで神経系のロボット技術を使ったリハビリの研究に参加し、貴重な体験をすることができました。

今後の目標を教えてください!

もうすぐ卒業なのですが、勉強したり、知らないことをとことん追究したりするのが好きなので、このまま大学に残りたいと思っています。また、現在も東大病院の医師と医工連携で患者さんのリハビリに参加させていただき、現場の生の声を聞けるという恵まれた環境にいますので、今後もその貴重なデータを自身の研究に活かし、社会に貢献していきたいと考えています。

立ち上がるとき、
膝関節にかかる負担を研究

安さんは8台の特殊なカメラを使って、人の体がどのように動くかをモーションキャプチャーで解析。特に立ち上がり動作で負担のかかる、膝関節の研究している。

自分の知らないことを
学べるのが楽しい!

後輩たちに協力をしてもらって実験。「一人で黙々と実験をするほうが多いかな (笑)」と安さん。「地味で根気のいる研究ですが、昔から勉強が大好きなので苦にならないです!」

実験では自分の体を
使って研究することも

かなり高価な実験装置ということで、「作業にはいつも細心の注意を払っています」とのこと。頭や腕についているシルバーのポッチは体の動きを3次元計測するためのマーカー。

机にはサプリがたくさん。
研究には体力も重要

安さんの机をよく見ると、栄養ドリンクやサプリもいっぱい。ジムで体を動かして体力づくりや気分転換をしたり、締め切り間近は研究室で徹夜をすることもあるそう。

研究室で飲みながら
語り合うことも

山下先生や研究室の仲間との飲み会。こうした定期的な飲み会に限らず、深夜に研究室に残っているメンバーで、夜な夜な語り合いながら飲むことも多いそうだ。

学会を通して多くの国の
学生と意見交換を

「国内外を問わず、学会で発表する機会が多いのも、山下研究室のよさの一つだと思います」と安さん。「いろんな知識の情報交換ができるので、学会は大好きですね」

精密工学科

精密工学は、社会のニーズに基づき、未踏領域のものづくりを行うための横断型工学領域である。精密情報機器・ロボティクス・生産技術といった先端テクノロジーを基盤とし、人間と機械との融合・共生を目指した学問を、産業界と連携しながら構築している。医用工学・健康科学といったバイオメディカル分野や、サービス工学のような 社会科学技術分野まで、人と人工物(機械)の未来をデザインする創造的な研究を幅広く進めている。