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ENGINEERING POWER 東京大学工学部ガイド[エンジニアリングパワー] - 東京大学工学部

鈴木雄二 教授 | 工学系研究科 機械工学科

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Profile
工学系研究科 機械工学専攻 博士(工学)
東京大学工学部助手、名古屋工業大学工学部講師などを経て、1999年より東京大学大学院工学系研究科助教授(准教授)。 2001〜’02年にカリフォルニア工科大学客員研究員、’10年より現職。マイクロエネルギー変換、環境発電、熱流体工学、MEMSなどを専門とする。

目指しているのは 付加価値の高いエネルギーの創出

指微小な揺れで電気をつくるエレクトレット発電器。

微小な揺れで電気をつくるエレクトレット発電器。

私たちが使うエネルギーにも〝付加価値〟という考えを当てはめることができる。鈴木雄二教授が説明する。

「1キロワットの電力の機器を1時間使うと電気代は20円ほど。一方、同じ電力の乾電池を買おうとすると6万円ほど。だからといって『乾電池は買わない』と言う人はいません。コンセントにつなげる必要がなく、いつでもどこでも使えるという高い付加価値があるからです」

電池には電解液や重金属が必要なことが多く、環境に負荷がかかる。そこで「どこでもエネルギー」を別の方法で創出できれば、私たちの生活に密着した「グリーンエネルギー社会」に貢献できるはず。その実現に向け鈴木教授はさまざまな取り組みを進めている。

2013年7月、「東京大学と企業が、世界最小クラスのエレクトレット振動発電器の普及に向け、共同で『エレクトレット環境発電アライアンス』を設立」とのニュースが飛び込んできた。鈴木教授はこのプロジェクトの中心に立っている。微小な動く部品を作ることのできるマイクロマシン技術(MEMS)を用い、環境に広く存在している振動から静電気を使って発電するデバイスの実用化開発を行っているという。

「エレクトレットとは1920年代に日本の研究者が世界に先駆けて開発した、絶縁体に電荷を打ち込んだ材料のことです。エレクトレットと電極を相対運動させることにより、小さな発電器では一般に用いられる電磁誘導よりも高発電出力を得ることができます」

普段はあまり意識することがないが、橋脚、線路、航空機、歩行など、私たちの日常は〝揺れ〞であふれている。環境振動発電は、そうした揺れから微弱な電力を得て、例えばビッグデタの取得に貢献しうる「モノとモノとの無線通信」に役立てようというものだ。

「最近の半導体技術や無線技術の発展によって、無線通信にはマイクロワットレベルの電力で十分」と鈴木教授は言う。エネルギーとしては小さくても、それによって様々な付加価値が得られる。橋やトンネルなどの監視用センサでは長期間電池交換なしに動作を持続させることができる。鉄道や航空機向けのデバイスなどでは、自力で発電するため、コストがかかり重いケーブルから解放される。農業向けなどに使われる「ばらまき型」のセンサに使えば、大量に廃棄される電池による環境負荷が軽減される。利点は多いのだ。

構想の中で、実用化に向け動き出しているものの一つが、車のタイヤの中に付けて空気圧を測るセンサだ。タイヤが破裂して車が横転する事故が相次いだアメリカでは、いますべての自動車にタイヤの空気圧を監視するシステムを付けることが義務付けられている。現在は電池が内蔵されているが、振動発電はそれに代わるエネルギー源として大きな注目を集めている。

「また、タイヤの温度などを測ることで積雪や路面凍結の状態もわかり、その情報をカーナビを介してネットワークで共有すれば、後続の車がどの道がっているかを知ることもできます」

将来的に、人の歩行などからも発電できれば、補聴器などに取り入れることもできる。「われわれが日常的に使うものや、身につけるものの中に組み込める発電器をいかに実現するか。そのために、いかに小さく、高性能な発電器を開発していくか。そこがいまの課題ですね」と、鈴木教授は離す。

消炎効果の研究も現在、新たに着手

燃焼計測を行うための紫外線レーザーを調整する鈴木教授と万さん。

燃焼計測を行うための紫外線レーザーを調整する鈴木教授と万さん。

基礎的な視点からの研究も進めている。炎が固体の壁に近づくことで消える、消炎効果の研究に取り組んでいる。 〝火が消える〞現象には、大きく分けて二つの理由があると考えられている。

一つは「熱的消炎」。壁が炎に近づくと、炎の熱が壁に吸われてしまい、炎の温度が下がり、燃焼反応の速度が遅くなって、火が消えてしまう。火に水をかけて消すという、昔からよく知られている方法と同じ原理だ。

しかし、最近ではもう一つの「化学的消炎」が脚光を浴びてきている。

「理科の授業で水素と酸素が結びつくと水になると習ったと思います。でも、実際は、水素と酸素がすぐに水になるのでなく、途中でさまざまな中間生成物質が発生しています。これをラジカルというのですが、炎の中にもこのラジカルがたくさんあるんですね。これらは反応性が高いため、壁が近くにあると壁の材料と反応してしまい、燃焼反応の連鎖反応が途切れて炎が消えてしまいます。消炎現象は、例えば小さな燃焼器をつくるには考慮すべき重要な現象ですが、まだまだ解明されていない部分が多いんですね。ですので、そこをもっと掘り下げていきたいと考えています」

そもそもこの研究は「狭い場所でも炎が消えることなく安定して燃え続けるにはどうしたらよいか」というところからスタートしたという。

「振動発電と消炎効果。研究の視点は異なりますが、目指す先は同じ。高付加価値のエネルギーを生み出すことです。この目標は今後も追い求めていきたいと思います」

応用も基礎も、多面的に研究を推進

MEMS技術を使い、エネルギーデバイス開発

半導体プロセスで機械部品と電子回路を一つの基盤に集積したデバイスをMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)という。MEMS技術を基盤に、付加価値の高いマイクロエネルギーシステムの開発に取り組んでいる。

環境振動を用いた百円玉大の発電器

低周波数帯の環境振動から電気的エネルギーを取り出すエレクトレットを用いた静電誘導発電デバイス。振動発電で得られる電力量は数マイクロワットのレベル。1分に一度程度送信する無線センサを十分駆動することができる。

超薄型のセラミック燃焼器

電池よりもエネルギー密度の高い燃料の化学エネルギーを、熱や電力に変換するデバイスとして超薄型の燃焼器を開発している。その試作品(写真)ではすでに高い燃焼密度を得ることに成功している。

レーザー計測により燃焼現象を解明

燃焼現象に対して固体の壁が与える影響についてレーザー計測を行っている。二つの壁の間に火炎を形成し、壁の温度や壁を構成する物質が火炎に与える熱的・化学的な影響について調べている。

研究室学生インタビュー

燃費向上の可能性を秘めた消炎効果の研究に大きなやりがいを感じています!

熱流体工学研究室 万 遂さん Wan Sui 東京大学大学院 工学系研究科 機械工学専攻 修士課程1年 MEM 特別コース

生まれ故郷・中国から東大で勉強をしたくて留学してきたという万さん。その熱い想いと、日本での学校生活について話をうかがった。

どうしてこの研究室を選んだのですか?

もともと中国の大学に通っていたのですが、日本のナンバーワン大学である東大で修士号を取得したくて、留学しました。中国で勉強していたのは自然エネルギーを使ったパワープラントの研究。一方でマイクロ燃焼にも以前から興味がありましたので、この研究室に入ろうと思ったんです。

燃焼に興味をもった きっかけは?

燃焼を使ってエネルギーを生み出すという研究は昔から行われていますが、歴史が長いわりには未解明のことが多いんですね。そこに惹かれました。それに、燃焼は効率よくほかのものにもアプリケーションとして利用できる。そうしたところも魅力的でした。

現在はどのような研究をされているのでしょう?

マイクロ領域で火炎が消える「消炎効果」の研究をしています。数ミリを隔てた2枚の薄い板の間で、どのような消炎効果があるかを調べています。壁の素材や温度の違いによって消炎のメカニズムが変わってくるのですが、それがどのような効果をもたらすかを研究するのが主な内容ですね。あまりほかでは行われていない内容ですので難しさがありますが、その反面、やりがいも強く感じています。このメカニズムが解明されれば、車などのエンジンの燃費向上にもつながるかもしれませんので、非常に注目を集めている分野でもあります。作業自体はちょっと地味ですが(笑)、いつか世の役に立てるように頑張っていきたいですね。

この研究室のセールスポイントを教えてください!

留学生がとても多いです! 大学院生の半分は中国や韓国などから来ている人たちです。いろんな国の文化に触れられるし、研究している内容についても解釈や考え方がそれぞれ異なり、多くの視点から捉えることができるという利点があります。みんなとっても気さくなので、和気あいあいと研究生活ができますよ!

研究室の仲間とは
プライベートでも仲良し

研究室のメンバーたちです。留学生が多いのがこの研究室の特徴。それだけに、研究内容のことだけでな く、日々の生活についても相談し合ったりと絆も深いです。

友達と食べるランチは
リラックスできるひととき

ランチは大学のカフェテリアで友達と。研究はときに長丁場になることもあるため、しっかりと食べて体力 づくりも欠かせません。午後の研究に向けエネルギーをチャージ。

クリーンルームで
定期的に実験を

最先端の設備がそろうクリーンルームで実験をしています。繊細な機械が多いため、扱うときは真剣そのもの。密閉された空間ですので、つい時間を忘れちゃいますね。

今の夢は中国に戻っても
研究を続けること!

現在、修士課程1年。マスターを取ったあとはドクターも取得し、いずれは中国に戻って、この大学で学んだテクノロジーを活かしながら、本国の大学などで実験と研究を続けていけたらなと思ってます。

時々ガールズトークが
止まらなくなることも......

実験に疲れたら、友達とガールズトークに花を咲かせます。いつも仲良しで、気がつくとずーっとしゃべっ てることが多いです(笑)。でも、これも大事な息抜きのひとつ!

自然の中に身をおいて
気持ちをリフレッシュ

趣味のひとつは旅行。なかなか時間はないけれど、暇を見つけて友達と観光旅行へ。自然を肌で感じることも研究につながっているのかも......。

機械工学科

機械工学は、設計・生産技術全般、つまり〝ものづくり〞の土台を支えている学問といえる。1874年に創設された東大機械工学科では、材料力学、熱工学、流体力学、機械力学という4つの基礎力学を中心に、ナノテクノロジーや生体工学、環境工学、医療工学などを融合して、産業システム全体への貢献を追求してきた。ロボット、車、燃料電池、医療機器......と、扱うテーマは非常に幅広い。〝ものづくり〞の基礎を徹底的に学び、ぜひ、その自由な発想で「社会のための科学技術(Science for Society)」を実現してほしい。