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奈良高明 准教授 | 工学系研究科 計数工学科

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Profile
情報理工学系研究科 システム情報学専攻 博士(工学)
情報理工学系研究科システム情報学専攻准教授。専門は、逆問題の解法と応用に関する研究。国立情報学研究所などを経て、2003年より本学講師、’07年より電気通信大学知能工学科准教授、’13年より現職。脳磁図(MEG)逆問題、漏洩磁束探傷逆問題、RFIDタグの位置推定など実用的な研究を幅広く行う。

磁場で原因を探る〝逆問題〟を研究!目指すは、美しい解

コイルを張り巡らせた3次元の磁場実験室。

コイルを張り巡らせた3次元の磁場実験室。

みなさんは「順問題」と「逆問題」を知っているだろうか? 奈良高明准教授の研究テーマは「磁場の逆問題」だというが、一体なにが「逆」なのだろう?

「原因から結果を導き出すのが〝順問題〟。結果から原因を導き出すのが〝逆問題〟です。磁場の場合、電流が流れる(原因)→磁場が発生する(結果)という因果関係があります。さまざまな装置や生体内部に電流が流れたとき周囲にどんな磁場ができるかを計算するのが順問題のアプローチになりますが、私は、磁場を観測してその発生源を突き止めるという研究をしています。この逆問題の解法というのが、実はいろんなシーンで応用が利く非常に面白い研究なのです」

具体的な応用の実例をみていこう。まずは、医療分野だ。

「てんかん、という病気があります。これは、頭の中に強い電流が流れてしまう病気で、治療の最終手段としては、頭蓋骨を開いて病巣の脳を取り除く外科手術になります。この手術に臨む前に、脳のどこをどれくらいの範囲で取り除けばいいか、正確に把握する必要があります。それを導き出すために、頭の中で電流が流れた際に頭の外に出てくるごく微弱な磁場を計測して、その病巣を突き止めます」

こうして結果だけ聞くと、まるであたり前の話のように聞こえるが、実は逆問題は順問題よりもずっと難しいのだ。これまでの医療現場では、まず「仮にここに病巣があったとしたらと仮説を立て、そのとき理論的に発生する磁場と実際に患者の頭のまわりで観測される磁場データとを照らし合わせて、不一致ができるだけ小さくなるよう仮説を繰り返し修正する「最適化」という方法で病巣を探してきた。しかし、最初の仮定が病巣と遠い地点からスタートしてしまうと、実際の病巣ではないところが答えだと判定されてしまうことがあった。

「間違ってしまっては大変なことです。今ここに電流が流れている!ここが病巣だ!ということが一度の計算でわかる厳密な理論をつくりあげたいと思いました」

また、医療現場からの要望により「RFIDタグの位置推定法」も開発した。これは、コイルとICチップが内蔵された、(suicaのような)非接触IDタグで薬品を識別し、さらに、薬品が棚の上のどこに置かれているか、どう移動したかという位置情報までをわかるようにしたものだ。ほかにも、最近では雪崩や土砂崩れに巻き込まれた人の位置を特定する「雪崩ビーコン」の研究も進む。医療現場、人命救助の現場で、奈良先生の研究が大いに応用されているのだ。

「異なる分野では、発電所の配管の保守点検にも応用できます。いわゆる〝非破壊検査〞です。東日本大震災により原子力発電所が停止し、火力発電所の稼働率が高まりました。年数の経っている配管に損傷がないかを素早く確実に、しかも安価に調べることはとても重要なことです。そこで逆問題が応用できるのです。ただし脳とは違い、配管の傷は自分から電流を発しません。損傷箇所を見つけるには、こちらから何かを当てる必要がありました。これを〝能動逆問題〞といいます」

仕組みはこうだ。配管の周りにコイルを配置して電流を流し、配管に磁場を通す。傷の部分から漏れてくる磁場を検出し、損傷箇所を発見する。このとき多数(例えば24個)の磁場センサをアレイ状に配置して検査するのが通常だが、奈良先生の研究チームは、2個の超高性能な小型センサだけで検査する方法を発明した。ただ解決するだけでなく、最もスマートに実用化できるための解を導き出していくのだ。

チカラ技じゃない美しい解は工学的にも最適な解

「奈良先生は本当に数学に強い!丁寧に指導してくれます」と樋口くん。

「奈良先生は本当に数学に強い!丁寧に指導してくれます」と樋口くん。

「正しくて美しい方法を目指したいんです。計算機パワーやセンサ数を増やしてチカラ技でやる前に、美しい解を求めたい。そこから工学的にも最適な解が必ず導けると確信しています」

駒場生だったころの若き奈良青年は、理学部数学科と工学部計数工学科、どちらに進むか迷った。悩んだ末、社会とのつながりを求めて計数工学に進むことを選択。そして、卒論で人間の耳の蝸牛(かぎゅう)の構造を研究した。「蝸牛の構造を数学的に考えると双対の構造が4種類あることがわかりました。では、その中でなぜ人間の耳はこの構造なのか?果たしてこの構造であることが最適なのか?と疑問をもったんです」

研究は最終的に評価関数が正になるか負になるか、という計算になった。「この計算にかかっている!もしかしたら神様も気づかなかった最適なカタチを見つけてしまうかもしれない!!と思いました。あのワクワク感は忘れられません。本当に面白かったです」

工学的な難問を解決しようとするとき、そこに数学的な美しさを持ち込むと、思いもよらない考え方が現れて、解に到達することがあるという。

「卒論をきっかけに、現実のモノと数学との結びつきの面白さに魅了され、計数工学の虜になりました。そうして今に至っています(笑)」

〝逆問題〞で原因を突き止め、問題を解決

コイルは面白い!非破壊検査に大活躍

検査機器が自走できないほど細い配管でも損傷を調べられるように、奈良先生が開発した「漏洩磁束探傷のための荷重積分センサ」。「フーリエ係数」を使い、2つのセンサのみで傷を見つけ出す、スマートなマシン。

医療ワゴンの上で薬品を間違えないよう

過酷な看護師の仕事を少しでも手助けしたい!と、医療ワゴンの上で薬品の取り違えが起こらないように「位置情報を管理できるRFIDタグ」を開発。写真はワゴン側に敷くコイル面。たった3種類のコイルで位置の把握が可能に。

脳の活動源を「一撃で」求める

脳内の電流源位置を方程式の解として求める方法を開発。観測データから、繰り返し計算なく位置が特定できる。最適化の良い初期値として用いることができ、観測誤差のあるとき真の解がある範囲も示せるといった利点がある。

ノートと鉛筆で 美しい解を導き出す!

考えを進めるときにはパソコンではなく、ノートと鉛筆。いろんなアイデアを盛り込みながら、最適なアルゴリズムを導き出す。「美しい」「凄い、素晴らしい」などの走り書きの文字から、その瞬間の感動が伝わってくる。

研究室学生インタビュー

社会に応用される面白さと知的好奇心が満たされる充足感がサイコーです!

安藤奈良研究室 樋口祐介さん Yusuke Higuchi 東京大学大学院 情報理工学系研究科 システム情報学専攻  修士課程1年

ホワイトボードにお気に入りの数式をスラスラと書き、語ってくれた樋口さん。実は、バドミントンとジブリが大好きな22歳だ。

この研究室の魅力は何ですか?研究は楽しいですか?

実はあまり深く考えずにこの研究室に来たのですが、応用数学が好きな自分にとても合っていました。理学や物理よりも応用が利いて社会に近いのに、すごく知的欲求も満たされるのが魅力です。

研究テーマは「磁気双極子の定位」。このテーマは、数学的な考察が必要なので面白いです。「RFIDタグ」によるモノの管理や「雪崩ビーコン」に役立つ研究です。

ほかの研究では、「モーションキャプチャ」などもやっています。モーションキャプチャとは、人間の動きをデータ化するもので、例えば運動神経のいい人の動きをデータ化して、ゲームの3D映像に生かすような技術です。それを磁気で計測しています。

実際、どんな毎日ですか?最近印象に残ったことを教えてください。

毎週金曜日には、研究室で研究の「検討会」や、英語の本をみんなで順番に読み解き合う「輪読」をします。授業は週に3〜4コマくらいで、あとは、計数工学科3年生の実験のTA(Teaching Assistant)をしています。

8月末に、はじめて学会で発表をしました。緊張しましたよ(笑)。苦労してまとめあげたのですが、まだまだ内容に甘いところがあったなあと感じました。これから修正したりもっと詰めたりしなければいけません。

今後はどんなことをやりたいですか?卒業後は?

僕は、ひとつの分野にこだわっているわけではなくて、例えば、生物のセンシングなども本当に面白いと思います。人間の計測判断ってすごく優れていて、どこで音が鳴っているかを判断する音源定位も、機械にやらせようと思うとかなり難しい。知れば知るほど生物のすごさを感じます。

卒業後は、特許庁に入りたいんです!僕は自分で研究することも好きですが、ほかの人の研究の話を聞くのがすごく好き。だから特許庁の審査官になって、いろんなアイデアを聞ける立場になりたいと思っています。

研究室メンバーで
学会や合宿へ!

夏には信州で1泊の研究室合宿をしてきました。奈良先生の前所属、電気通信大学の研究室メンバーと合同での合宿です。

ずっと考えていたら
ひらめいた!

最近考えている「磁場が従う偏微分方程式」。ここに「アンペールの法則」を持ち込むというアイデアを喫茶店で思いついたときは、思わず声をあげてしまいました(笑)。

机の上はスッキリ派
引き出しの中には......

机のまわりは物も少なくすっきり。広々した大きな机のほうが集中できます。アイデアが浮かんだらすぐに書き留められるよう、引き出しを開けると裏紙が常備されています。

傍らにはいつでも
バドミントン♪

中学から大学の学部まで約10年間、ずっと部活でバドミントンをやっていました。今でも時々息抜きに、友人とバドミントンを楽しみます。試合の動画を見るのも好きです。

イチオシは『もののけ姫』
ヤックルが好き!

スタジオジブリのアニメが好きです。なかでも一番のお気に入りは『もののけ姫』。実は......ヤックルのぬいぐるみももっています(笑)。ジブリ美術館、楽しかった!

次は3次元で
位置特定できるタグを!

これは電通大修士2年の先輩、江上さんが行っている、RFIDタグの3次元位置を求める研究の実験ボックス。3方向にコイルが張り巡らされ、立体での位置特定を研究中です。

計数工学科

計数工学科の目指すところは、21世紀の科学技術の創出に向けた「普遍的な原理・方法論」の構築である。 特に、情報の概念や情報技術をベースとして、個別分野に依存しない科学技術の基幹となる普遍的な概念や原理の提案および系統的な方法論の提供を目指している。教育のモットーは「基礎を深く、視野を広く」であり、創造性に富み適応能力の高いチャレンジ精神を持った学生の育成に努めている。